自信と悔しさをばねにさらなる高みへ 3年目は3000メートル障害で世界の舞台を/菖蒲敦司

陸上競技

 春のトラックシーズンから活躍を続けたこの男の姿は、給水担当として8区10キロ地点にあった。菖蒲敦司(スポ2=山口・西京)は11月下旬に大腿骨を痛めた影響もあり、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)への出走はかなわなかった。症状は軽く、その後練習を再開したが、7割から8割ほどの状態だったという。箱根を走ることはなかったが、今季チームの中で最も飛躍した選手の1人と言っていいだろう。


 今季、多くの試合後のインタビューで 「調子はいかがでしたか」と聞くと決まって「調子は良かったです」と答えが返ってくる。その充実ぶりは、結果が示していた。ターニングポイントに挙げたのは、4月の早大競技会で佐藤航希(スポ2=宮崎日大)と共に5000メートルで自身初の13分台を記録したことだ。「やってきたことが間違いじゃなかった」と自信を深めると、ここから快進撃が始まった。関東学生対校選手権の1500メートルで2位、3000メートル障害では優勝。3000メートル障害では、日本選手権の大舞台で早大記録も樹立した。駅伝シーズンでも、出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)で1区2位、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)4区5位とその勢いは衰えなかった。箱根の前には「シーズンを通して100点以上の結果」と評価していた。


全日本4区を走る菖蒲


 菖蒲の成長は、競技面に限らない。むしろ、筆者にとっては言動面での変化の方が印象的だった。これまでは、先輩についていくことで自身も強くなれるという意識を持っていた。2年生になり、出雲でチームが6位に終わった時から言葉に変化が出てくる。負けたことへの悔しさと同時に、「チームを引っ張って勝ちたい」、「自分がタイムを稼ぐ」と自らの手でチームを引っ張る気持ちが芽生えていた。
 チームのミーティングでもその姿勢は現れていた。全日本で6位に終わった後のミーティングでは、チーム内のルールを変えることなどが話し合われていた。だが、「あまり勝ちたい欲が見えない」と感じた菖蒲は、「4年生が勝ちたいという意思を示してほしい」と発言。筆者が先輩たちに強く発言をすることに抵抗はなかったのか聞くと、すぐに「僕は勝つならどうなってもいいと思った」と答えた。チームの勝利にこだわってきた姿勢はぶれなかった。


 来季は上級生として、ますますチームの中での役割も大きくなるだろう。箱根は予選会からの戦いになり、険しい道が待っている。「鈴木駅伝主将(創士、スポ3=静岡・浜松日体)から副主将くらいの動きをしてほしいと言われているので、どんどん意見を出していきたい」と結果だけでなく、言葉でもチームに貢献していくつもりだ。


昨年の日本選手権で3000メートル障害の早大記録を更新した菖蒲


 個人として見据えるのは3000メートル障害での世界の舞台。3000メートル障害への挑戦は昨年の日本選手権で終え、5000メートルや1万メートルなどで結果を求めるつもりだったが、「オリンピックで三浦(龍司、順大)の走りを見てやりたい欲が再発した」と再び走ることを決意。ワールドユニバーシティゲームズの日本代表を目標に設定した。そして、日本選手権で勝負するために、8分30秒切り、さらには世界選手権の参加標準記録の8分22秒00をも視野に入れる。


 来季の駅伝については「全日本、箱根はチームで勝ってみたい」と、トラックでは「上の世界を目指して」と語った。いずれもたやすい目標ではない。ただ、2年間番記者として取材してきた筆者はこう思う。高い目標であっても成し遂げるだろうと。


日本選手権のレースを終え、五輪代表内定選手の表彰を見つめる菖蒲


(記事 高橋優輔、写真 陸上競技社、朝岡里奈、及川知世)