【連載】全カレ事前特集『臙脂を誇れ』伊東利来也主将×吉田匠駅伝主将

陸上競技

 新型コロナウイルスの影響で関東学生対抗選手権(関カレ)は延期、日本学生対抗選手権(全カレ)も無観客での開催が決まった。異例のシーズンを過ごすことになった今年のチームがどんな道のりをたどってきたか。全カレではどのような活躍が期待できるか。個人としてどのような結果を残したいのか。伊東利来也主将(スポ4=千葉・成田)、吉田匠駅伝主将(スポ4=京都・洛南)の2人にお話を伺った。

※この取材は9月1日にリモートで行われたものです。

いかにチームを率いるか

昨年の全カレ400メートル優勝の伊東(写真左)が今季主将を務める

――今年は新型コロナウイルスの影響で活動形態がイレギュラーとなりましたが、お二人が主将に就任してからどのように活動をしてきましたか

伊東 普通に動いていたのが2月まででした。3月から短距離も長距離も合宿を予定していたのですが、合宿は中止になりました。4月からは各自の判断に任せて、寮は解散しました。グラウンドの利用ができなくなったのもこの頃で、6月から徐々にグラウンドも使えるようになり、寮にも少しずつ(部員が)戻ってきました。7月頃に、普段と同じような状況にほとんど戻りました。7月からは競技会にいくつか出場できる機会があり、今に至りました。

吉田 基本的な流れは、伊東から今説明があった通りです。短距離も長距離も共通して、夏合宿が行われませんでした。長距離にとっては夏合宿が秋のシーズンに向かっていく上で大事になっていくのですが、それが所沢で(いつも通りの)練習という形になっています。それを言い訳にしてはいけないですが、例年に比べて辛い状況にあるのは確かだなと思います。

――主将・駅伝主将になった際は、どのような目標を掲げましたか

伊東 全体で掲げているのが全カレ総合優勝と、今年は関カレが開催されるか分からないですが関カレでのトラック優勝です。

吉田 長距離は3大駅伝3位以内、両インカレでは長距離ブロックから出場する種目は全種目入賞を目指しています。出雲駅伝の中止が決まったので、駅伝に関しては全日本(全日本大学駅伝対校選手権)と箱根(東京箱根間往復大学駅伝)の3位以内を目標に取り組んでいます。

――新入生はどのタイミングで部に合流したのですか

伊東 短距離のメンバーは3月から練習に参加するメンバーも何人かいました。4月の寮の解散で、一旦部から離れることになりました。その状況の中でも所沢に引っ越してきたメンバーがいて、寮の解散期間中も練習をしました。一斉に部員を集めるよりも、競技を志す者が少しずつ集まってくれた形です。

吉田 例年通りのタイミングで長距離は集まりました。活動できていない部分もあったのですが、参加はその(例年通りの)時期からでした。

――解散期間終了後は、新入生が入ってきたことによる変化を感じましたか

伊東 正直新入生が入ったことによる我々の変化よりも、コロナによって一度部が解散したことによる変化の方が大きかったです。新入生が入ってきたことによる変化は、自分はあまり感じなかったです。

吉田 僕らよりは新入生が部に入れて良かったと強く感じているのではないかと思います。大学生になったのになかなか大学生らしいことができず、まだ一回もキャンパスに行けていないですし、そういう面では大学生になったけど大学生になりきれてない部分も普段の生活から出ているのではないかと思います。僕らよりも新入生に対する影響が大きいかなと思います。

――一定期間主将を務めてきたことで、意識の変化はありますか

伊東 主将はチームをまとめる存在という認識が自分の中にあって、チームを引っ張る存在として皆の模範になる選手であることが自分には求められていると思いました。普段の生活はもちろんですし、練習から自分がチームを引っ張っていくこと、自分の練習の際の気持ち、競技のタイムが(周りに)影響していくことを意識して過ごす中で、自分の競技結果も付いてきたという意味で変化はあったと思います。

吉田 これまでは基本的に自分が競技でどれだけ活躍できるかを考えて(練習に)取り組んでいた部分が大きくて、3年生になってからは上級生として考えていくべきでしたが、あまり考えることができていなかったと思っています。主将になってからはチームに目を向けていくことが必要だと感じているので、そこは特に意識をして取り組んできたかなと思っています。コロナの影響で全員が集まれない中、どうやって少しでもチームとしての意識を全員に持たせるかという部分や、夏合宿が行われない中でどうやって雰囲気をつくっていくかという部分を考えていたので、そういった面で変わったかなと思います。

――活動自粛中は実家に帰省する選手も多かったですが、主将として選手個々と連絡を取ったりしましたか

伊東 長距離は吉田に任せているので、短距離・跳躍・投擲の選手に働きかけをするように務めました。僕の方から練習メニューの管理をアンケートでするようにしましたし、コーチの協力を得て、週に1回程の頻度でZoomを使い、競技の学を深めたり、競走部の歴史を振り返ったりすることで、競走部から離れていても自分が競走部の部員であることを意識させて、競技成果の追求ができるように、皆で雰囲気をつくっていきました。

吉田 長距離に関しては、自分自身が一人ずつに対しては連絡をしていないです。ただ4年生としてチームを動かしていく必要があると考えていたので、学年混合のグループミーティングをつくり、週に1度グループミーティングを行いました。どのグループにも4年生が入るようにして、4年生に指示をしてチーム全体に指示が行き渡るようにしました。自粛期間中は、練習メニューは自分自身で立てるものだったので、練習がその時の気分にならないように一週間のメニューをグループごとに立てて、どのような考えで練習をしているのか。一人一人発言する機会をつくることで、自分が競走部の一員である、競技者であるということを週に一回は考えることができるようにしていました。

――主将としてチームをまとめることで、今苦労していることはありますか

伊東 そうですね。正直苦労していることもあるのですが、今はいい形でインカレに向かっているのではないかと思います。各ブロックの4年生がチームを引っ張り、いい形に導けています。今は皆の協力のおかげで、苦労していることは少ないかなと思います。

吉田 利来也とかは競技結果も残していて、競走部のトップとして活躍しているのは僕たちにとっても力にもなります。自分に目を向けると、長距離だと中谷(雄飛、スポ3=長野・佐久長聖)や千明(龍之佑、スポ3=群馬・東農大二)などの3年生をはじめ、4年生以外のメンバーに実力がある部分があります。チームとして強い選手がいることはうれしいことですが、エースが4年生にいないことが苦労していることかなと思っています。強い選手に付いていきたい部分も大きいと思うので、どうしても競技の結果で引っ張れない部分が、実力がない中でどれだけ結果を残せるか、結果が出なくても下が付いてきてもらえるような選手になるにはどうすればいいかを考えさせながら、日々練習に取り組んでいます。

――今年の早稲田のチームカラーは

伊東 チームカラーとは少し違うかもしれないですが、今年は『臙脂を誇れ』とスローガンを掲げています。臙脂は早稲田大学のスクールカラーであり、我々競走部にとって臙脂のユニフォームは特別な意味を持っています。臙脂のユニフォームはどの試合でも着られる訳ではなく、全カレや駅伝など大学の代表として出る大会のみ着るのが許されています。だからこそ自分の着る臙脂のユニフォームを誇ろう、チームの代表を誇ろうという意味があります。これに加えて臙脂は競走部のカラーでもあり、競走部でやってきた練習を競技会の場でどう表現するか。その時には『誇り』が大事だ、自分たちがやってきたことを誇ろうという2面の意味が込められています。その下で頑張っているのが現状です。

吉田 若さと元気があるチームです。新入生も強い選手が入ってきていて、井川(龍人、スポ2=熊本・九州学院)や創士(鈴木、スポ2=静岡・浜松日体)などの実力がある選手がいて、下に強い選手がいる分、若さのある元気なチームです。去年も同じようなことを相楽(豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)さんが言っていたと思うのですが、昨年以上に今年の方が若さのあるチームです。

――冬季練習での個人として、チームとしての収穫を教えてください

伊東 今年はスピードやスタミナにフォーカスするのではなくて、どうやってより効率的に走るかなど走り方にフォーカスして取り組みました。結果的には冬季練習が4月、5月まで続くことになったのですが、その中で獲得できたのが200メートルなどのスピードでした。スピードが獲得できて、この前のセイコーゴールデングランプリでは自己ベストに近いタイムで優勝できましたし、今後の全カレや日本選手権では、個人として自己ベストを更新できる手応えがあります。チームとしては一度解散し、各々が自分の走りをフレッシュな状態から考えられたことが成長につながっています。200メートルの選手は自己ベストに近い記録や、自己ベストを出していますし、400メートル障害の関本(萌香、スポ3=秋田・大館鳳鳴)など、部全体として上の選手がいい流れで来ています。実際今季はイレギュラーで大変な部分はありましたが、見方を変えれば良い方向に進んできているのかなと思います。全カレでの評価が大切になってきますが、まだまだ強化できると思っています。

――吉田選手はご自身のけがの状態はいかがですか

吉田 冬季練習中にシンスプリントを発症し、痛くなったり治ったりを繰り返したせいで、継続したトレーニングができなくなり、5月くらいまではずっと(痛みが)続いていました。チームに合流した際には完全に治っていたので、そこから今は痛みもなく順調に来ています。

――3月末は新型コロナの影響で徐々に冬季練習の成果を示す実戦の場がなくなっていきましたが、対外試合がなくなることを当時はどのように捉えていましたか

伊東 試合がなくなったことに対してはそこまで悲観的ではなかったです。自分が楽観的すぎるだけなのかもしれないですが、試合がなくなったらなくなったでやるべきことをやるだけですし、練習を多く積むことになったら、その後の競技会で成果を出せるかなと感じていました。

吉田 自分の実力を発揮する場であり、チームがどれだけ他大学と対抗できるかを知るためには関カレや六大学(東京六大学対校大会)が行われた方が良かったのは間違いない部分です。個人としては2月にけがをしていた部分が引き延びていて、自粛中もけがでまともな練習ができない期間が続いていたので、正直試合に出たとしても自分の思うような走りができなかったと考えていました。試合はやった方が良かったですが、(自分にとっては試合が)なくてもけがを治すいい期間になったと捉えています。

――冬季練習を経て、長距離ブロックの収穫はありますか

吉田 正直に言ってしまうとそれを試す場がなかったので、あまり分からない部分もありました。練習を見て分かる部分もありましたが、六大学、関東インカレ、記録会にどうつながるかと思っていた時に全ての大会と記録会が中止になり、次に行われたのが7月頭でした。その時期だと冬季練習よりも自粛期間の練習の話になってくるので、冬季練習がどうだったかは自分自身も分からずに終わりました。

――記録会での長距離ブロックの結果をどのように捉えていますか

吉田 長距離全体として自己ベストが続出していて、5000メートルと短い距離ではありますが結果が出ているのではないかと感じています。夏もチームとして順調に取り組めているので、今後の秋シーズンに向けてどれだけ戦えるのか楽しみにしている反面、自分たちの学内競技会しかできていないので、自分たちは強いと勘違いをすることなく、おごることなく戦っていければと思っています。

――短距離ブロックは記録会の結果をどのように捉えていますか

伊東 先ほども言ったように200メートルのメンバーが全カレでも戦えるようなタイムで揃えてきているので、このメンバーがどれだけ得点するかが楽しみです。また自分や小久保(友裕、スポ4=愛知・桜丘)を含め、400メートルメンバーもインカレで戦うメンバーは十分な力が付いています。1年生の新上(健太、人1=東京・早実)、竹内(彰基、スポ1=愛知・瑞陵)が自己記録を更新したことは、チームの流れを変える大きな意味を持っていると思います。新入生や、意外なメンバーが、チームの流れを変える起爆剤になると思っているので、彼らが自己ベストを更新したことはチームにとっても追い風だと思います。あと個人的に驚いたのは関本が日本歴代10位に迫る好タイムを早稲田の競技場で出したことです、今後の日本選手権やシニアの大会で早稲田をアピールする意味でも楽しみだなと思います。自分も負けずに結果を残していかないといけないなと鼓舞されました。そう言った面では全カレに向けていい状態で仕上がりつつあると思っています。

――いい状態で仕上がっている要因としては、何が一番大きいと思いますか

伊東 正直いろいろな要因があって一番は自分の中で見つけられないのですが、競技会が制限されたことで自分の陸上をやりたい思いを爆発させる場が記録会であるという共通認識ができたこと、解散することによって陸上競技を見つめ直して、陸上競技に対する熱や想いに各自再確認できたこと、また組織から離れることで、自分の走りを冷静に見ることができたことなどが挙げられるかなと思います。これらの要素が重なった結果、いい状態につながっていると思っています。

目指すは優勝

駅伝主将の吉田。写真は、昨年の関カレ3000メートル障害決勝

――昨シーズンの成績、個人としての走りを振り返るといかがですか

伊東 昨シーズンはアジア選手権の出場、世界リレーの出場など、大きな経験をさせてもらいました。それに加えて全日本インカレ、日本選手権リレーで優勝を果たしたことは、ここまでタイトルを取ってきたことがなかったので、自分の中ではプラスかなと思っています。ただ陸上競技をやってきた中で初めて自己ベストを更新できなかった年だったので、記録が出ないことで走る自信をこれまでよりも持ちづらい中で競技していたという意味で、難しさのあった年だなと思っています。

吉田 個人的な面でトラックでは3000メートル障害で大幅に自己ベストを更新して、関東インカレで表彰台に立ち、日本選手権も決勝に残ったことは良かったです。自分は3000メートル障害では戦えると自信になりました。ただ駅伝シーズンは、主要大会全てに出場したのですが、まだまだ他大学と戦えるレベルには達しておらず、箱根に関しても初出場できたものの、チームに貢献する走りをできなかった点で悔いが残ります。駅伝主将としてやっている以上、チームへの貢献が求められる立場だと思うので、今季は全カレで結果を残すことは最低限で、その先にある駅伝でどのような結果を残すかが最重要になってくると思います。昨シーズンはできなかったチームに貢献する走りをしていきたいと思います。

――お二人の今年の個人目標をお願いします

伊東 個人目標は400メートルで全カレ優勝と日本選手権優勝です。早稲田記録の更新をしたいと思っています。また、対象期間外にはなるのですが、五輪標準記録の44秒90を視野に入れてやっていこうと思っています。これに加えてマイルリレーでは、全日本インカレの優勝、日本選手権リレーの優勝を目指します。これも3分4秒62の早稲田記録の更新を、チームで目標に掲げています。

吉田 まずトラックに関して、3000メートル障害の早稲田記録にあと3秒と迫っているので、更新を狙っていきたいなと思います。駅伝に関しては、全日本・箱根の2つしかないですが、チームが3位以上を目指している以上区間3位以内の実力がないとチームに貢献できないと思うので、最低でもそれくらいの走りをしてチームに貢献できたらと考えています。

――無観客で出場選手が制限される中での全カレ開催、開催が決まった当初はどのように受け止めていましたか

伊東 観客が来られない中での開催は記録会もそうであることから予測をしていたので、そこまで大きな衝撃ではなかったです。ただ応援はインカレの風物詩でもあるので、それがなくなったことには少し寂しい気持ちがあります。また大学最後の年である今年は家族や親戚にも見に来てもらう予定だったので、個人的な意味で寂しい思いはあります。

吉田 同じ思いです。

――全日本インカレが近付いていますか、現在部内はどのような雰囲気ですか

伊東 短距離についてだと、全カレの決勝に残り、点数を取っていくであろうメンバーが例年になく多いというのが自分の見解です。これに加えて4継、マイルと早稲田の力を見せる種目に向かって各メンバーが良い状態になっていると思います。個人、チームのどちらもインカレに向けていい状態がつくられていると思います。

吉田 長距離に関しては出場選手が少ないので、全カレよりも駅伝シーズンに目がいっている選手が多いかなと感じています。出場選手は全カレに向かって調整していく中で、出場できない選手もその先を見据えてのトレーニングが必要だと思います。全カレに出場する選手はいい状態で仕上げていると思います。

――総合優勝を狙う中で鍵を握っている選手はいますか

伊東 出場する選手全員が得点に絡むことができる力を持っているので、各自が決勝でどのような順位を取るかが大事だと思います。誰が欠けても優勝は難しいので、全員が鍵を握っていると思います。

吉田 長距離も同じです。全員が鍵を握っていて、各自が得点を重ねることが必要だと感じています。

――最後に、全カレの意気込みをお願いします

伊東 チームの目標は総合優勝、個人の目標は400メートルとマイルリレーの優勝、それと早稲田記録です。

吉田 チームの目標は伊東がいった通りで、長距離としては全種目で入賞することを目標にしているので、出場する選手で目指していきます。個人としては持ちタイムで上位にいるので、最低限表彰台に立ちます。最大のライバルになるのが順大の三浦龍司なので、そこに食らい付けるようにしたいと思っています。自己ベストを更新すると早稲田記録も見えてくるので、自己ベストを狙いながら早稲田記録更新を狙っていけたらと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 大島悠希 写真 岡部稜、小林理沙子)

◆伊東利来也(いとう・りくや)

1998(平10)年11月10日生まれ。167センチ、63キロ。千葉・成田高出身。スポーツ科学部4年。106代競走部主将。自己記録:400メートル45秒79。昨年はアジア選手権、世界リレーに出場。日本学生対抗選手権では初優勝を果たした。今季もここまで好調を維持し、セイコーゴールデングランプリでは自己記録に迫るタイムで優勝した。

◆吉田匠(よしだ・たくみ)

1999(平11)年3月25日生まれ。172センチ。57キロ。京都・洛南高出身。スポーツ科学部4年。106代競走部駅伝主将。自己記録:5000メートル14分07秒40。1万メートル29分58秒90。ハーフマラソン1時間3分55秒。3000メートル障害8分41秒77。昨年は関東学生対抗選手権3位、日本選手権決勝進出と、トラックシーズンに実績を残した。また全日本大学駅伝対抗選手権、東京箱根間往復大学駅伝で主要区間を任されるなど、首脳陣から厚い信頼を寄せられている。