『箱根0区』ともうたわれる、大みそかの早大長距離競技会――通称『漢祭り』が31日に行われた。その日の1万メートルで学内最高タイムを記録した選手が、その年の『漢』の称号を手にする。2019年は、4年生の伊澤優人(社=千葉・東海大浦安)が29分53秒97という『漢祭り』史上初の30分切りを達成し、栄冠を手にした。
1万メートル2組には、早大から7人が出場した。スタートから前方でレースを展開したのは伊澤と向井悠介(スポ2=香川・小豆島中央)。1周72秒前後を保ち、進めていく。3000メートルを過ぎると伊澤が集団の先頭へ。そして5200メートルを過ぎた後、向井がすっと前に出て伊澤の後ろに付いた。
レースが大きく動いたのは、6200メートル。先頭集団のペースが少し落ち、伊澤だけが前に残された。「伊澤さんはすごく余裕そうだなと思っていたが、自分は結構きつかった」と、2番手に付けていた向井はここから後退。対照的に伊澤は後続との差を広げていった。「正直出されたなという感じでした。ですが、調子が良かったので、このままいけるかもしれないと思いました」(伊澤)。8000メートルからは少しペースが落ちたが、ラスト1周は約68秒でまとめ、空に拳を高く突き挙げながらこの組の1着でゴール。大勢の仲間たちから祝福を受けながら、胴上げされた。
1万メートル2組で積極的なレースを見せた向井(左)と伊澤
3組に出場したのは、5000メートルに14分09秒37のスピードを持ち、全日本大学駅伝対校選手権の予選会にも出場した小指卓也(スポ1=福島・学法石川)。今年の『漢』の最有力候補に挙げられていたが、3000メートル過ぎからペースを落とし先頭集団から脱落すると、その後浮上できず。4700メートルには後方の集団にも交わされる苦しい展開となる。30分43秒97に終わり、実力通りの走りを見せることはできなかった。
1万メートル3組に早大で唯一出場した小指。本領発揮とはならなかった
膝を痛め、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)にエントリーされなかった伊澤にとって、この日のレースが競技人生最後の戦いとなった。チームメートや両親をはじめとした、これまで支えてくれた多くの人たちの大きな声援を浴びながら、走り切った1万メートル。『漢祭り』では史上初の29分台という立派な記録をたたき出し、有終の美を飾った。「箱根を走りたかったという思いはもちろんありますし、後悔がないと言えばうそになります。ただ、今の自分がチームや応援してくれた人たちに対してできることを出して終わることができました」。結果を出し、悔いのない最終レースにした伊澤は、笑顔で競技人生に幕を下ろした。
勝負の箱根はもう2日後に迫っている。出走する選手たちも同様に悔いのない走りをできた時、『エンジの誇り』は取り戻されるだろう。
(記事 金澤麻由、写真 加藤千咲、望月優樹)
結果
▽男子5000メートル
1組
白井航平(文構1=愛知・豊橋東)15分26秒21(8着)自己新記録
遠藤凌佑(人1=山形南)15分45秒70(14着)
2組
井上開登(法1=東京・早実)14分58秒43自己新記録
植田航太(人1=東京・早実)15分08秒99
安田博登(スポ1=千葉・市船橋)15分43秒01
黒田賢(スポ3=東京・早実)15分59秒11
▽男子1万メートル
2組
伊澤優人(社4=千葉・東海大浦安)29分53秒97(1着)
向井悠介(スポ2=香川・小豆島中央)30分27秒39(5着)
室伏祐吾(商2=東京・早実)30分46秒53(11着)
茂木凜平(スポ2=東京・早実)30分48秒90(12着)自己新記録
河合陽平(スポ2=愛知・時習館)32分08秒23(23着)
黒田 途中棄権
安田 途中棄権
3組
小指卓也(スポ1=福島・学法石川)30分47秒97(19着)
コメント
コメント
伊澤優人(社4=千葉・東海大浦安)
――今年の『漢』になりましたが、心境はいかがですか
純粋にうれしいですね。
――『漢』としては史上初の29分台を記録しました。その点についてはいかがですか
自分で30分を切れるとは思っていなかったので、自分が一番びっくりしています。大会記録を出せたことは良かったです。
――きょうは暖かかったですが、コンディションについてはどう感じられましたか
(レースで)走っていてもそうですし、アップしている時から走りやすいなと感じていました。
――16周目からは先頭を独走していましたが
そうですね。正直出されたなという感じでした。ですが、調子が良かったので、このまま行けるかもしれないと思いました。終わってみれば、最後まで独走といういいかたちでしたね。
――早大での四年間を振り返っていかがですか
2年生の時にけがをしたり、3年生の時にマネジャーをしたり。そして4年生の最後でもけがをし、(箱根)本戦にはエントリーされなかったのですが、(きょう)走っている時にはチームメートや友人、家族など本当にいろんな人が声援を送ってくれました。競技生活では結果が出たとはお世辞にも言えませんが、こんなに応援してもらえて、幸せな四年間を送らせてもらったなと思っています。
――箱根のエントリー発表後、きょうまでどのようなモチベーションで来ましたか
エントリーの段階ではまだ膝が痛かったので、早く治そうと思っていました。なので、正直ここ(きょう)にも待ち合うか微妙でした。ですが、治ってからは最後までやり切りたいという思いでやってきたので、そこについては気持ちを切らさずにやってきて良かったと思います。
――最後に陸上人生を振り返っていかがですか
競技者としてはこれで終わってしまいます。箱根を走りたかったという思いはもちろんありますし、後悔がないと言えばうそになります。ただ、今の自分がチームや応援してきてくれた人たちに対してできることを出して終わることができました。そこについてはいい競技者生活の最後だったと思います。
向井悠介(スポ2=香川・小豆島中央)
――レースを終えての心境はいかがですか
自分の中では納得のいくレースではなかったかなと思います。
――きょうの目標とレースプランはどのようなものでしたか
29分台で走るというのを目標としていて、そのためには先頭集団で走るということになると思うので、先頭集団でしっかり走って29分台を出すというのを目標にしていました。
――きょうのコンディションはいかがでしたか
天気に関してはコンディションが良かったと思うのですが、体調に関してはここ2週間くらいずっと調子が悪くて、目標達成はなかなか厳しいかなと思いながらも走っていました。
――序盤は予定通り前方でレースを進めましたが、走りを振り返っていかがですか
前半の方はしっかりといいリズムで走れたと思うのですが、きつくなったところで大きく崩れてしまうという以前からの課題がなかなか克服できなかったかなと思います。
――中盤はトップの伊澤優人選手(社4=千葉・東海大浦安)の後ろを2番手で走る場面もありましたが、どのような気持ちでしたか
伊澤さんがすごく余裕そうだなって思っていて、自分は結構きつかったので、頑張って付けるところまで付いていこうという気持ちでした。
――今年度は箱根のエントリーメンバーに入ることができませんでしたが、それが決まった時の心境はいかがでしたか
本当にすごく悔しくて、自分の中で目標というのを見失っていて、どうすればいいかと1週間くらい途方に暮れていたのですが、気持ちが落ち着いてからは漢祭りに向けて頑張っていこうという感じでやっていました。
――11月の1万メートル記録挑戦会の際は、練習での状態が悪くない中で力を発揮できなかったとおっしゃっていました。その原因は見えてきていますか
技術的な面ではきつくなった時に動きが変わってしまうところ(が原因)だと思うのですが、精神的にも自分と向き合えないというか、思っていることをしっかりまとめ切れていなかったというのが原因なのかなと思います。
――現在モチベーションに関してはいかがですか
少しずつ上がってきているかなと思います。1週間は少し荒れていたのですが、そこから自分と向き合うためにどうしたらいいかを考えて、練習日誌をもう一度しっかりつけてみようと。そういう基本的なところに戻ってやっていこうと考えて、少しずつ目標が見えてきたという感じです。
――最後にその目標についてお聞かせください
今回は箱根に出られなかったので、来シーズンは結果が求められるシーズンになると思います。練習だけでなく結果でしっかりチームに貢献できるようにしていきたいと思います。