霜降の侯とは思えぬ日差しが照りつけた11月2日、順天堂大学さくらキャンパスにて第3回順天堂大学長距離競技会が開催された。一見なんの変哲もない記録会のように思われるが、西久保達也主将(スポ4=埼玉・聖望学園)にとって特別な一戦となった。早大の選手として、そして一競技者として、最後のレースだったのである。
西久保の引退試合を飾るために、豪華メンバーが名を連ねた男子800メートル第1組。早大の次期主将で400メートル学生チャンピオンの伊東利来也(スポ3=千葉・成田)が400メートルまで、そして600メートルまでを今年の国民体育大会覇者の林貴裕(順天堂大)がペースメーカーを担当。さらに川島滉平(スポ3=茨城)、東陸央(社1=東京・早実)も同組に出走し、会場を盛り上げた。
伊東(右)、林(中央)のペースメーカーの後ろでレースを進めた西久保
アナウンスでも西久保の引退試合と放送され、競技場中の視線を一点に集める中で始まったレース。プラン通りに伊東がスタートから先頭に立ち、400メートルまでを50秒8でけん引する。西久保は厳しい表情を見せながらもトップに食らいつき、その後は林に追随した。しかし、学業などでなかなか練習を積めていなかった影響もあり、残り200メートルで大きくスピードダウン。最後はもがくようなかたちとなったが一番でフィニッシュラインを駆け抜けた。ゴール後には応援に駆けつけた4年生らに祝福を受け、花束を受け取った西久保。そして集合写真を撮るなど、終始和やかな雰囲気で最後のレースは幕を閉じた。
「たつやー!」「にしくぼー!」――。レース中絶えることのない声援が西久保を後押しした。「皆が来てくれているのを見たら、笑いというかニヤニヤしてしまって。うれしいような、楽しいような、そんな気持ちで走れたので、すごくありがたかったです」。1分50秒間のラストレースを噛み締めた。
西久保はゴール後にはトラックに仰向けになった
これでスパイクを脱ぐ西久保。800メートルに関しては「当分はいいですかね。ちょっと休憩が欲しいです」と笑って話した。競技者として第一線からは退くが、今後も陸上競技に関わりたい気持ちを持っているという。
早大での4年間を、「いろいろな経験をさせてもらった」と振り返った西久保。早大入学以降は学生中距離界のトップレベルに君臨し続け、関東学生対校選手権に3回の優勝、日本選手権でも2度表彰台に登った。ただ、結果を出すことだけでなく、他大学とのつながりを持てた点でも、自身の成長を実感したそうだ。「早稲田に来てよかったという純粋な気持ちでいっぱいです」。そう語る西久保の表情には競技生活を終えた安堵感と充実感がにじみ出ていた。
徳永翼(人4=岡山操山、後列左から2人目)ら競走部員も西久保の応援に駆けつけた。最後は出走した選手も含めて
(記事、写真 岡部稜)
結果
▽男子800メートル
西久保達也主将(スポ4=埼玉・聖望学園)1分51秒11(1組1着)
川島滉平(スポ3=茨城)1分54秒56(1組4着)
東陸央(社1=東京・早実)2分01秒86(1組6着)
伊東利来也(スポ3=千葉・成田)途中棄権
コメント
西久保達也主将(スポ4=埼玉・聖望学園)
――きょうの目標はありましたか
目標は出るときまでは、早稲田新記録を出したいと思って臨んでいたんですけど……、キツかったです(笑)。
――実際走って、感覚などはいかがでしたか
やはり(練習を)やってないものは出ないなと。国体が終わってからは卒論などもあってそれを言い訳にして練習を流してしまったところはあります。でも、最後を『W』で終わりたいと思っていて、それができてよかったです。良いコンディションで、すごいメンバーで走れたのがよかったですね。
――また800メートルを走りたいですか
当分はいいですかね(笑)。ちょっと休憩が欲しいです。でも、陸上が嫌になって引退するとか、そういう理由ではなくて、今後もちょっとでも(陸上競技に)関われたらと思います。でも、第一線でがんばるのはお休みしたいという感じです。
――4年生の方や他校の選手も西久保選手を応援していました。どう後押しされましたか
本当にうれしかったです。ここまで来てくれるだけでもありがたいですし、皆が来てくれているのを見たら、笑いというかニヤニヤしてしまって。うれしいような、楽しいような、そんな気持ちで走れたので、すごくありがたかったです。
――早大での4年間を振り返るといかがでしたか
いろいろな経験をさせてもらいましたし、大学に入ってからは世界が広がったというか、すごい人と走る機会に恵まれました。それだけではなく、同じ大学だけでなく違う大学ともつながりを持てました。言葉にしにくいんですけど、陸上競技だけをしてきてここまでいろいろなつながりを持てたのはうれしいです。そういう意味でこの4年間を早大で過ごしてすごく成長を実感できたし、他の大学や陸上をやってなかったらこの経験はできなかったので。
振り返ると悩んだ時期もあったし、「こんなにすごいところでやっていけるのかな」と感じていて、周りもインターハイで優勝している人ばかりで世界大会に出ている人もいて、「大丈夫かな」とも思っていました。でもここで4年間できたことがすごく自信になっています。早稲田に来てよかったという純粋な気持ちでいっぱいですね。