日本選手権400メートル3位、日本学生対校選手権(全カレ)同種目2位など、記録、実績ともに急成長を見せた伊東利来也(スポ3=千葉・成田)。今年は『JAPAN』のユニホームを背負って、4月にはアジア選手権、5月には日本開催となったIAAF世界リレー2019横浜大会(世界リレー)に出場した。鍛錬の冬季練習を経て、二度の国際大会の経験を通じて伊東が感じたこととは。そこには、自身の理想の走りを模索し続ける姿があった。
※この取材は5月15日に行われたものです。
『早稲田の走り』を体現すべく臨んだ冬季練習
昨年の試合で印象に残ったレースとして挙げた全カレの予選。初めて45秒台に突入した
――昨年は急成長されたシーズンとなりました。今改めて振り返るといかがでしたか
3月の試合からどんどん上がり調子でした。そういった意味で昨シーズンを振り返ると失敗が少なかったと感じますね。
――躍進のきっかけは
やはり5月の木南記念(木南道孝記念大会)です。400メートルの予選で初めて46秒台を出して、決勝では46秒09も出せました。それがひとつ自信になったのかなと思います。
――昨年で最も印象に残っている試合はありますか
全カレ(日本学生対校選手権)の予選の走りですね。初めて45秒台(45秒96)で走れたので。それにプラスして、去年の前半シーズンは、序盤ではスピードを抑えてラストで勝負するという感じでしたが、夏合宿をきっかけに全カレで走った時には、前半から他の選手と同じようなスピードで走れたという点で完成度の高いレースだったので印象に残っています。全カレでは個人の試合は結構良かったのかなと思います。
――冬季練習はどの部分に重点を置いて練習しましたか
礒監督(礒繁雄監督、昭58教卒=栃木・大田原)と練習中に話していく中で、僕のレース展開の傾向としても、後半の強みがあるという『早稲田の走り』をやっていこうということになりました。ラスト100メートルはもちろんなんですけど、200〜300メートルを最も重要な区間として捉えて、そこでのスピード低下というのをできるだけ抑えようということでやってきました。
――200〜300メートルの区間でスピードが落ちてしまうというのは
僕の中では、200メートルを過ぎて直線からコーナーに入っていくときに、心理的に後半の不安というものがあって。それをなくすために距離を長く取るメニューを行っていました。
――消化具合はいかがでしたか
正直、練習で手応えがあるかというのは冬季練習中にはわからなかったんですけど…。3月から試合をやっていく中で、目標のスピード低下に届いたかというとまだまだですけど、去年に比べてその区間での走りは僕の中ではレベルアップしているのではないかと思います。
――昨年の12月と今年の2月には日本陸連の強化合宿にも参加していましたが、参加に至った経緯とは
今年は世界リレーが開催されたので、さらに東京五輪に向けて、マイルチームを練習の中からつくっていこうと。今まではレースをして、その中で速い人を選んで即席チームで走るという感じだったんですけど、それとは別に、合宿で選抜されたメンバーで練習をして、結束力であったり切磋琢磨してやっていこうというのが今回の日本陸連の合宿の理由だと聞きました。僕は早稲田での練習を大事にしていたので、その話を礒先生から聞いた時は、行くのが少し不安だったんですけど、礒先生にも許可を出していただいたこともあり、自分の中でも何か変わるきっかけがあるのかなと思って参加させていただくことになりました。
――シニアや他大学の選手と一緒に練習することで何か見えてくることはありましたか
日本のトップレベルの選手と走って、みんな特徴があることがひとつ思いました。前半が速い人や、スピードを持っている人、後半に強いだとか練習に強いだとか。大学だけで完結した練習だけでは得られない新たな気づきがありました。また、いつもはできないような練習ができたと思います。
――いつもできないような練習というのは
皆さん100メートルや200メートルのスピードが速いということもあって、例えば200メートルのメニューの時には、学校では走ることのなかったスピードで冬季でも走ることができました。
――量を重視したメニューも多かったと伺いましたが、きつかったメニューはありましたか
根性練というかたちで、300メートル×30本ですね。今まで走ったことのない距離だったので、それはきつかったですね。
――指導陣からはどのようなアドバイスをもらいましたか
礒先生から指導を受けている走りを尊重してくださって、僕の好きなようにやらせていただきました。
――2回の合宿を経て何か感じたことはありましたか
練習環境が変わったことでそのたびに僕の中で走りの感覚のズレといったものが毎回生じてしまっていました。ただ、その感覚のズレというのは自分の中でのいい走りの感覚に戻すためのプロセスとして、自分の望むような走りの再現性を高めるための経験になったと思います。
現状の位置を知ったアジア選手権
質問に答える伊東
――今年はオーストラリアのレース(Queensland Track Classic)でシーズンインとなりましたが、海外でシーズンインをした理由はありますか
今回は日本に比べてオーストラリアの方が気温が高いというのもあって、試合をする上で短距離では気温が高い方が記録も出るので、日本ではできないようなパフォーマンスをしようという狙いがあったのかなと思います。
――結果は46秒66でしたが、初戦として感触はどうでしたか
日本で初戦を迎えた時のタイムが(自己記録から)大体1秒から1秒5上がる計算なんですけど、今回はコンディションが日本とは全然違ったので、記録の良し悪しというのは正直わかりませんでした。ただ、感覚として200〜300メートルでスピードを上げるという走りはうまくいったのかなと思います。それでも前半の入りなどはまだまだ自分の中で良い感覚を体現できなかったと思いましたね。
――次の週にはシンガポールオープンにも出場していましたが、海外の試合が続いて体調面はいかがでしたか
飛行機に数時間乗るとか、移動が多かったですね。ただ疲労は僕の中ではなかったかなと思います。想像していたよりは良い状態で迎えられたと思います。
――シーズン最初の二戦で46秒台で走ったことに関してはどのように捉えていましたか
今シーズンも自己ベストの更新を一つの最低ラインとして考えています。シンガポールオープンは記録が出るトラックだと聞いていたので、記録はもう少し欲しかったと思いました。
――アジア選手権では追加招集で選出されました。その時のお気持ちは
400メートルで試合することが一番僕の中ではうれしいことでした。なので、急きょ出られるようになってモチベーションが上がりましたし、とてもうれしかったです。
――目標や狙っていたものはありましたか
やはり出る以上は、決勝に残ることが目標でした。記録としては自己ベストが一つのラインでした。
――予選、準決勝とシーズンベストを更新して決勝に進出しましたが、状態は良かったですか
そうですね。感覚としては初戦のオーストラリアやシンガポールに比べると僕の中での走りの再現度、走りの感覚は良かったと思っていて、良い状態で迎えられたと思います。
――決勝の走りを振り返るといかがでしたか
線を踏んで失格になってしまったことは、あってはならないことであって、ものすごく反省していますが、それに目をつぶってレースを振り返ると、その時出せる力はある程度出せたのかなと思いました。前半の入りから僕の中で許容範囲のスピードで力感もなく走れて、200〜300メートルの区間で意識的に再加速するという走りが今までのレースの中では一番うまくいったレースだったのかなと思いました。
――ゴール時は46秒00のタイムが表示されていました
46秒0というのは、45秒79のベストを更新する今回の目標に対して、まだまだ自分が達していないとわかりましたし、現状の位置を知ることができて良かったというふうに思います。
――個人の400メートルの2日後には4×400メートルリレー(マイル)にも出場しました
3走を任されたのは今回が初めてでした。バトンをもらった位置が結構前で、ひとつ抜けた状態で一番でもらっていたので、僕が相手からの距離を使うことなく、むしろ離すことができればチームのためになるかなと思って臨みました。ただレースを振り返ると、前半スピードに乗り切れていなかったのかなと思います。
――チームの優勝という結果に関しては
優勝を目標にやっていたので、世界リレーに向けて弾みになった試合になったと思います。ただ、チームとしては良かったんですけど、僕自身の走りを振り返るとチームの足を引っ張ってしまった存在だと思っていて、まだまだ足りないところがあると思います。
――アジア選手権で見つかった課題とは
長期的な課題として、やはり200〜300メートルの走りです。今回、僕の中ではうまくいったと思っても、それは自分の中の話だけであって、海外選手と比べるとまだまだ遅いなということをレースを通じて思いました。今年、来年とやっていく中で、200〜300メートルのスピードをどこまで上げられるかということが、日本で戦う上であったり、アジアや世界で戦う上で必要だとものすごく感じました。
――アジア選手権では200〜300メートルの走りがうまくいったとおっしゃっていましたが、うまくいく時とうまくいかない時の動きの差というのは
僕の感覚では正直わからないのですが、次の試合の静岡国際ではうまく行かなかったんですよね。それを礒先生にその原因について話を聞くとフォームが崩れてしまったのが原因だとアドバイスをいただきました。その感覚が噛み合っていないというのが、うまくいくときとうまくいかない時の違いなのかなと思います。
――静岡国際で200〜300メートルの走りがうまくいかなかったというのはその区間の走りを意識してしまった部分もあったのでしょうか
そうですね。今回はユニバーシアードの出場権をかけての試合であったので、僕の中で焦りもあったのかなと思っています。それにプラスして、アジア選手権で200〜300メートルで自分のスピードが足りないという気付きがあって、それを鑑みてスピードを上げてみようと試してみた部分もありました。その「上げてみよう」という感覚が良くなかったと今振り返っていて、そのために走りが崩れて後半に持たない走りになってしまったと思います。
「世界で戦うために必要な力は何か確認できた」
世界リレーでは1走を務めた伊東。自身の走りには納得していない様子だ
――アジア選手権で帰国してから、世界リレーまでのその課題を克服する練習は行いましたか
負荷をかけて強化する練習はほとんどできなかったですね。やはり調整続きになってしまってそれで精一杯でした。
――世界リレーの代表に決まった時のお気持ちは
選ばれた身としては与えられた役割を果たして、しっかり走ることが必要だと思って、しっかり臨んでいこうと思いました。
――本番では、レース前に観客の声援に応えるシーンもありましたが、リラックスしていたのでしょうか
そうですね。日本の選手を応援してくれる観客であったり、そういったものの力が今までの試合で一番感じた試合でしたね。
――混合マイルの1走として与えられた役割とは
混合マイルでは、日本の戦力からすると男子の走りがとても重要なのかなと思って、僕が1走で走るということは、できるだけ早く、出来れば一番で持ってくるのを自分の中で課題としていました。レースを振り返ると、全体の2番で渡したということで、課題達成度の面では100パーセントではなかったと思います。
――自身の走りを振り返るといかがでしたか
アジア選手権や静岡国際と比べて、前半の入りがうまくいかなかったと思います。少し抑えすぎてしまったと思います。
――その原因としては
レースプランとしては僕の努力度の中ではうまくいったと思うんですけど、同じ努力度でももう少しスピードを出せる走りができたのかなというふうに思うので、感覚のズレがあったと思います。ただ、レースには集中して臨めました。
――日本最高記録で世界選手権の代表権も得ましたが日本チームの結果に関してはどう受け止めていますか
今回世界選手権の出場権を得られたというのは、非常に日本チームとしては良かったのかなと思います。
――競技後の日本陸連のインタビューでは「悔しさもある」と答えていました
世界選手権の出場権を得ることはできたんですけど、決勝に残ることができなかったので悔しさを感じました。
――日本での開催で、大会の雰囲気はどう感じていましたか
会場の日産スタジアムは、今まで日本選手権リレーや関カレ(関東学生対校選手権)で走ったこともあるトラックで試合もやりやすかったですし、それ以上に応援の方々の声援や日本チームを応援してくれるサポートが自分たちにとってもすごくありがたいと思いました。すごくやりやすくて楽しい試合になったと思います。
――二度の国際大会を通じて、ご自身の中で何か感じたことはありましたか
アジア選手権、世界リレーは僕の中で変に「国際大会だからこうしよう」という構え方はなかったと思っていて、そういった意味では落ち着いて試合できたと思います。試合に出て思ったのは、他の海外の選手のレース展開を直接体感して、日本でのレース展開との違いを痛感したことです。
――早大に入学する前と現在で、世界に対する目線は変わりましたか
そうですね。今まで世界で戦うことに対して正直あまりそこには視線を見据えていなかったんですけど、今回出場させていただいて、世界で戦うために必要な力は何なのかだったり、今の自分の立ち位置を確認することができたと思います。
――改めて、現在の走りの課題は
自分の中での走りが崩れてしまう感覚があります。ひとつ具体的な例を挙げると、体を左右に倒してしまうことです。これをうまく修正することが僕の中で100パーセントできないというのが早めに消化する必要のある課題であると思っていて、大きな課題としては、やはり200〜300メートルの区間で無理なく、より速く走ることが課題です。
――体を左右に倒してしまうというのはコーナーの走りにおいてなのでしょうか
コーナーに限らず、直線でもそういう走りになってしまう時はありますね。
――その原因としては
僕が考えているのは、よりストライドを出すためには、上半身と下半身の連動が大切だと思っているのですが、そこでより地面に力を加えようとすると上半身を使ってしまって、ストライドが上方向に行ってしまいます。そういったところが体を倒してしまう原因だと思います。
――迫った関カレの意気込みをお願いします
早稲田大学の身としては、関カレは重要な試合であるので、400メートルとマイルの両方で優勝することを達成すべき課題だと思っています。
――今シーズンの目標はありますか
今年は世界選手権があるので、一番は個人で出ることですが、マイルリレーでも出場するのが目標です。そのためには6月の日本選手権では必ず良い順位を取ることが必要だと思っているので、今は日本選手権で最低限でも表彰台に乗るというのが目標です。
――ありがとうございました!
(取材・編集 岡部稜)
まずは関カレ制覇へ、その活躍に期待したい
◆伊東利来也(いとう・りくや)
1998(平10)年11月10日生まれ。167センチ。千葉・成田高出身。スポーツ科学部3年。自己記録:400メートル45秒79。成田高時代から総体や国民体育大会など、全国大会の決勝常連の実力者だったが、早大ではさらに実績を伸ばし、昨年の日本選手権では初出場ながら400メートルで3位に入賞、9月の日本学生対校選手権では2位と飛躍。自己記録の45秒79は早大歴代3位で、渡邉高博(1992年)、加藤修也(2016年)がマークした45秒71の早大記録に0秒08に迫っている。