創部当初は織田幹雄氏や南部忠平氏など、世界の頂点に君臨する跳躍選手を輩出してきた早大競走部。しかし近年の跳躍ブロックは所属人数も少なく、思うような結果を残せない日々が続いていた。そんな中、今年度新たに、青栁柾希(スポ1=千葉・成田)が2016年日本ユース選手権優勝などの実績を引き下げ、跳躍ブロックへと仲間入りした。今回は陸上競技を始めたきっかけから、4年間にわたる早大での競技生活の目標まで詳しく語っていただいた。
※この取材は4月18日に行われたものです。
新たな環境でのスタート
質問に真剣に答える青栁
――大学生活には慣れましたでしょうか
僕の中では慣れてきたと思っているんですけど、まだ大学生にはなりきれていないかなという思いはあります。陸上競技に関しても授業に関しても、自分でどうやっていきたいのかを考えて選択していかなきゃいけないと思うんですけど、まだ自分の中で答えを導き出すところまでいけていないのかなと思うので。そこをこれからつかんでいきたいです。
――スポーツ科学部の授業はいかがですか
僕は将来教員になりたくて。その上で陸上競技を続けることを考えたときに、陸上競技からだけではなくてスポーツ全体を学んで競技力を上げたいなと思って。そして最終的には指導者になって教える側になりたいと思っているので、すごくとてもいい勉強ができていて充実しています。
――大学生活で特に大変だと感じていることはありますか
自分に責任を持つという点が大変だと思います。今までは先生に「こういう理由があるからこう練習しなさい」と言われていたのをただこなしていた部分が大きかったんですけど、大学では自分で考えて行動しなければならないので、責任が伴うなと感じています。
――早大の競走部に実際に入部して、雰囲気はどのように感じていますか
想像通りの部分と想像以上にすごいなあと感じる部分があって。早大は他の大学よりも規律と伝統を重んじている印象があったんですけど、思っていた以上に周りの選手がしっかり自分自身を正して、誰かが間違っていればそれを諭して、常に向上心を持って考え動いている姿がとても印象的でした。僕も早くそんな一員になりたいと思って頑張っています。
――部で特に仲良くなった人はいますか
跳躍の先輩方にとても優しくしてもらっていて。いろいろアドバイスも頂いていて、入って間もないですがすごくいい環境で練習させてもらえているなと思います。
――大学に入学してからは、具体的にどのような練習を行っていますか
基本的に走りのメニューを中心にやっています。入学してすぐは足をケガしてしまったので、その間は体づくりということで体幹を中心に補強をしていました。
――練習において、高校と大学で特に違いを感じる部分はありますか
質の高さです。高校の時は走り込みの距離が長くて、量をこなしていた部分がありました。大学は距離や本数は高校より少ないんですけど、1本1本のスピードや意識する部分、質の高さというのがぜんぜん違うなと思います。
――礒繁雄監督(昭58教卒=栃木・大田原)などの指導陣の指導を受け始めましたが
礒先生や指導者の方にいろいろとアドバイスを頂くんですけど、まだ僕の中でそれを理解しきれていないというか。僕の知識ではまだ先生の言っていることや意図していることがまだ完璧に理解できていないのかなというのが現状なので、4年間でしっかり勉強していきたいと思っています。
――オフの日は何をしていますか
体を休めることを意識しています。新しい環境に慣れていないので、テレビを見たりゲームをしたりなどゆとりを持ってリラックスできるように自分の時間を作っています。
――先ほどケガをしたとおっしゃっていましたが、現在の調子はいかがなのでしょうか
そんなに大きなケガではないので、徐々に練習には戻れています。目標を達成するには知識や筋力、体の使い方などがまだ身に付いていない状態なので、1年目でしっかり基盤を作っていきたいと思っていて、今は焦らずにやっていっています。
早大に進学するまで
――陸上競技を始めたきっかけを教えてください
父親が陸上競技を高校までやっていて、小さい頃一緒に公園で走って遊んでいました。それでかけっこが好きになって、小学生の頃から陸上の大会に出始めました。
――では走幅跳という競技を始めたきっかけとしては何があったのでしょうか
僕は元々ハードルをやっていました。陸上は1〜3年までの共通種目が多いんですけど、千葉県はなぜか「1年男子走幅跳」という種目があって。それに出てみようということになって出場したら意外と跳べて、今に至っています。
――走幅跳の魅力はずばりなんだと思いますか
短距離は足の速さ、長距離は持久力という風に陸上は何を競っているかが分かりやすい競技が多いと思うんですけど、走幅跳はただ足が速いとか筋力があるだけでは記録を残せなくて。それらが総合的にかみ合わないと跳べないというのが、僕の中での面白みであり一番難しいところなんじゃないかなと思っています。いかにそこをうまくかみ合わせていくかというのが大事で、少しでも欠けたら全然記録は出ないので、そこが魅力だと思います。
――これまでで一番印象に残っている試合を挙げてください
高校2年の県総体(千葉県総合体育大会)です。1年生の時に国体(国民体育大会)の少年B走幅跳で2位に入って、インターハイに出場して活躍するだろうという周囲からの注目があったんですけど、惨敗して。その時は何も考えられませんでした。その時同期で走幅跳に出場している女子がいたんですけど、その選手が2位になって。「ごめん、勝てなくて…」と言われた時に、すごく感動して感極まったというか。日本一になった時よりもそっちが印象に残っていますね。負けるのは悔しいですけど、負けがあるから次があるのかなと思えた瞬間でした。
――進学先を早大に決めた理由はなんですか。先ほど教員になりたいとおっしゃっていましたが、それも関係しているのでしょうか
そうですね。具体的には、スポーツ医科学コースで人体の構造やバイオメカニクスなどを学んで、陸上競技が強くなるための基礎的な体のことを知って、ゼミなどでコーチング系の先生のところに行って、体育教師になるための勉強をしたいと思っています。将来指導者になって大学で学んだ知識や陸上競技の経験を子どもたちに還元することを考えたときに、総合的に勉強できて、かつ陸上競技を頑張れるのが早大のスポーツ科学部と競走部だと思ったので、早大に進学しました。
――早大の競走部には成田高出身の選手が複数在籍していますが、面識はありますか。また、その先輩たちから影響を受けて早大への進学を決めたという側面はありますか
根岸勇太さん(スポ4=千葉・成田)は代が重なっていないので面識はなかったんですけど、それ以外の先輩とは面識があります。これまですごく優しくいろいろと教えてもらってきたいい先輩たちです。でも「先輩がいるから早大に行こう」という気持ちはそんなになくて、本当に自分がここで学びたいと思ったので、早大に入学しました。
世界で活躍できる選手に
――ライバルだと思っている選手はいらっしゃいますか
今年、慶大に入学した酒井由吾という同期の選手です。東京の選手で、中学から関東大会以上の大会で戦っているんですけど、6回ぐらい戦って1勝しかしていなくて。まだ向こうの方が実力も経験値も上だと思います。プライベートでも仲が良いんですけど、だからこそ勝ちたいというのがすごく自分の中であって。2人で競い合っていきたいなと思っています。
――では尊敬や憧れを抱いている選手はいますか
特定の選手に憧れているというよりは、僕が今まで教わってきた先生を尊敬しているという感じです。今まで先生に教わってきてすごく良かったなと思うので、僕も教員になりたいと思うようになって。まねしたいと思う選手は数多くいるんですけど、先生の方が尊敬の念が大きいです。
――走幅跳という競技を行う上で、自分の強みはなんだと考えていますか
伸びしろだと思います。まだ全然実力が伴っていなくて、弱い部分がたくさんあるなと大学に来て改めて実感しています。それでも自己ベスト7メートル52で、本当に上のレベルでは戦えませんが、そこそこの記録は出せていて。親のおかげで身長も高くて恵まれていると思うので、まだまだ伸びる要素はいっぱいあると思います。そこをしっかり4年間で力を付けていきたいです。跳躍自体の強みとしては、スピードをつぶさない点が強みだと思っています。スピードがあるのにわざわざ落として跳躍する選手がいるんですけど、僕はそういうタイプではなくて。足はそんなに速くないんですけど、10スピードがあったら10使って跳躍するタイプなので、そこが強みかなと思います。
――では現時点で特に課題だと思っている点はありますか
一番はスピードですね。踏み切りがあまりうまくいかなくても、スピードがあれば跳べてしまうのが走幅跳という競技で。踏み切りや体の使い方など課題点はいろいろあるんですけど、一番はやはりスピードです。早大はスプリントが有名な大学で、ここに来ればスプリントを磨けて自分の走幅跳に生かせるのではないかと思って入学を決めた部分もあるので、まずはスプリント力を付けていきたいと思います。
――試合前のルーティーンなどはありますか
毎日足をカベに付けて、跳躍の踏み切りのポーズをやっています。あとは「あしたはこういうことを心掛けてピットに立って、こういう跳躍をしよう」というようなイメージトレーニングをしています。試合直前は同じく踏み切りのポーズをして、軽く跳んで、気持ちをつくって走り始めています。
――次のレースの予定は決まっていますか
5月6日に日大で行われる記録会に出ます。大きな大会だと、関カレ(関東学生対校選手権)になります。そこで自分の力を発揮して、早大に貢献できるように頑張りたいと思います。
――これらのレースでの具体的な目標はありますか
ケガもして、記録が出るという自信があまりないんですけど、下位でもいいので入賞して、1点でも多く早大に貢献したいと思っています。入賞するには7メートル52センチのベストではダメなので、自己ベストを1センチでも更新することを目指して頑張っています。
――今年1年間の大きな目標を教えてください
対校戦で早大に貢献という風にはならないんですけど、10月の終わりのU20の日本選手権が今シーズン最後の試合になる予定で、そこで来年の日本選手権のA標準記録7メートル75センチを切りたいと思っています。75センチを跳べば優勝ラインに引っかかると思うので、それがこの1年間の目標です。
――では最後に、大学4年間の意気込みをお願いします
高校時代に日本一になりたいという目標は達成したんですけど、3年目が全然うまくいかなかった苦い思い出もあるので、4年生でしっかり結果を出したいです。また、世界大会で日の丸を背負って戦いたいというのが夢でもあります。3年時に開催される東京五輪や世界陸上(世界選手権)などで、世界のトップアスリートと戦いたいです。あとは教員になるために、陸上競技から人として大きく成長できるような人間にまず自分がなりたいと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 藤岡小雪)
伸びしろたっぷりの青栁選手の活躍が楽しみです!
◆青栁柾希(あおやぎ・まさき)
1999(平11)年7月11日生まれ。185センチ。77キロ。千葉・成田高出身。スポーツ科学部1年。色紙には「世界で戦う!」という、ご自身の強い意志を書いてくださいました。身長を活かした試技に注目です!