9月末に行われるアジア競技大会の選考を兼ねて開催されたことしの日本選手権。終始雨粒が降り注ぐ悪天候の中、国内最高峰の選手たちが福島に集結した。早大からは九鬼巧主将(スポ4=和歌山北)を筆頭に8名の選手が出場。その中で、400メートルで4位に入った期待のルーキー加藤修也(スポ1=静岡・浜名)が見事アジア競技大会日本代表の座をつかんだ。
金丸の隣で走る加藤(左)。王者の強さに今回は歯が立たなかった
ここ9年間、日本のエース金丸祐三(大塚製薬)が覇権を握り続けている男子400メートル。その絶対王者に、1年生ながら関東大学対校選手権(関カレ)を制した新鋭が挑んだ。予選を難なく突破し、迎えた最終日の決勝。8レーンに位置する加藤は7レーンの金丸と隣り合わせでスタートを切った。後半の追い上げを得意とする加藤にとって、前半から飛ばされることで自分のペースを乱してしまうことは避けたい展開。しかし、スタート直後から金丸に先行を許すと、「想定済みではあったんですけど、後半の200メートル前付近でちょっと力んでしまった」と王者の圧力を感じていたようだ。それでも、「周りの選手が速いのはわかっていた」とラスト100メートルでは落ち着いて持ち味を発揮。第3コーナーを回ると後方から順位を押し上げ、4位で初めての日本選手権を終えた。
ことし一番の目標には7月の世界ジュニア選手権を挙げ、そこに照準を合わせると語っていた加藤。だが、今大会の結果により、さらに大きな国際舞台への挑戦権が与えられることとなる。レースの翌日、日本陸上競技連盟が発表したアジア競技大会日本代表のメンバーには加藤の名が。将来性を評価され、23歳以下の選手が選ばれるリオデジャネイロ五輪や東京五輪に向けた強化育成部推薦選手として代表入りを果たしたのだ。いまは結果を求めておらず、動きづくりの最中だというが、海外で場数を踏むことは今後への大きな糧となるだろう。入学直後から順調に結果を残しても「上半身と下半身の連動、腕の振りや前半の走りなど課題はいろいろあります」と向上心が尽きることはない。1年目の今季は飛躍への単なる序章。課題を克服しながら、この先4年間でどこまで成長していってくれるのか。期待を背に受けながらも着実に、大物ルーキーは目指す場所へ歩みを進めていく。
(記事 中澤佑輔、写真 管真依子)
★大舞台で決勝進出果たす
そうそうたる顔ぶれの中、入賞を果たした竹下
強豪ひしめく男子200メートルには、早大から竹下裕希(スポ4=福岡大大濠)が出場した。2週間前に行われた関カレの決勝で脚を痛めた影響が懸念されたが、それは全く持って杞憂(きゆう)に過ぎなかった。「前半から思い切って攻めていこう」と意気込んだ予選では完璧なスタートを決め、後半に流れをつなぐ走りを披露する。終盤には同種目で昨年の東アジア競技大会を制した日大のケンブリッジ飛鳥をかわし、3位でゴール。20秒82という自己ベストにも迫るタイムをたたき出し、決勝への切符を獲得した。迎えた決勝は後半に失速し7位となったものの、日本屈指の選手が集う中での入賞は輝かしい結果と言える。レース後、「まだ自分の走りをできていない」と全く満足した様子を見せなかった竹下。狙うは集大成となる日本学生対校選手権(全カレ)での表彰台のみ。さらなる躍進を誓う竹下の真価が問われるのは、これからだ。
(記事 細矢大帆、写真 加藤万理子)
★3度目の正直ならず
3年連続の2位となり、悔しさをあらわにした大迫
男子1万メートルに出場したのは、昨季までワセダの長距離を引っ張ってきた大迫傑(平26スポ卒=現日清食品)。これまで日本選手権で2年続けて負けているライバル佐藤悠基(日清食品)に果敢に挑んだ。序盤はスローペースの中、冷静に中盤でレースを進める。佐藤をマークし、集団の中から機会を伺う大迫が動いたのはラスト1000メートルを切った時。一気にペースを上げて、後続を引き離しにかかった。集団から離れ先頭に立つも、佐藤だけは大迫を逃がさない。優勝が2人に絞られたラスト1周、残り200メートルでレースが大きく動く。大迫の背後を守り続けた佐藤がスパート。大迫を突き放してホームストレートに駆け込んだ。何とか着いて行きたい大迫であったが、最後に振り切られまたもや2位。3年連続で佐藤に屈することとなり、リベンジを果たすことはできなかった。アメリカでトラックに磨きをかけ臨んだ日本選手権。大学卒業後初となる日本でのレースで3連覇中の佐藤に対し自ら仕掛けていくなど、アメリカでの成長は伺わせた。しかし、今回も王者のラストスパートに交わされライバル撃破はならず。日本の頂点は来年へ持ち越しとなった。
(記事 三井田雄一、写真 藤川友実子)
★初出場で見事6位入賞!
急成長を遂げる田中。日本選手権の舞台でも躍動した
大会2日目に行われた男子800メートル予選。集団の中間に位置し、ラストスパートで華麗に他選手を追い越す「理想のレースができた」と自信を持って振り返った田中言(スポ3=東京・早実)。組1着で決勝進出を決め、降りしきる雨の中、迎えた決勝。5月に日本記録を更新した川元奨(日大)ら有力選手が集まり、ハイペースなレース展開となった。田中はスタートでやや遅れを取り、苦しい表情を浮かべながら集団の後方へ。「ラストで焦ってしまって早めに仕掛けてしまった」という言葉通り、残り300メートル地点でギアチェンジを図ったが、トップとの差は埋まらない。必死に先頭を追いかけラスト200メートル地点でさらにスパートし、順位を合計で2つ上げる。「夢の舞台」と語っていた日本選手権で見事6位入賞を果たした。関カレの自己ベスト更新に引き続き、初出場にもかかわらず以前は遠い存在だった日本最高峰の大会で結果を残した田中。現役早大生が男子800メートルで入賞したのは実に6年振りだ。田中を筆頭に好調が続く早大中距離陣は中距離の強豪を目指し、今後も挑戦を続けていく。
(記事 八木瑛莉佳、写真 和泉智也)
★3位に入るも記録は伸びず
3位となったディーン。納得のいく投てきはできなかった
男子やり投げにはことしワセダを卒業したディーン元気(平26スポ卒=現ミズノ)が出場した。今季世界2位となる85メートル48の記録を持つ新井涼平(スズキ浜松AC)と村上幸史(スズキ浜松AC)の出場もあり、三つ巴の激戦が予想された今大会。ディーンは3位で表彰台に上ったものの、満足のいく投てきとはならなかった。
激しい雨の中の1投目。やりは80メートルラインには遠く、73メートル75で芝に突き刺さる。2投目は雨も止み好記録が期待されたが、やりに力が乗らない。72メートル81の記録にディーンは首を傾げる。3回目の試技では記録を伸ばし74メートル88をマーク。3位につけ決勝へ進んだものの、納得のいかない表情を見せた。雨が強まってきた決勝では4投目、5投目をパス。6投目は、男子5000メートルの選手の通過を待って行われた。ゆったりとした助走から最後のやりを投じたディーン。しかし、やりを見送り苦笑いを浮かべると、やりが芝に刺さるのを待たずに自らラインを超え、競技を終えた。一方、新井は81メートル97の投てきを見せ、初優勝。村上は記録が伸びず6位に沈んだ。
最終投てきの後には腰を押さえる場面も見受けられたディーン。不安定な天候や体調など、コンディションが整わない中での投てきとなった。次は万全の状態で、80メートルを超える大きなアーチを描いてほしい。
(記事 藤川友実子、写真 加藤万理子)
★実力発揮できず、悔しいレースに
8位という結果に厳しい表情を見せる九鬼主将
春から日本選手権に照準を合わせてきたという九鬼巧主将(スポ4=和歌山北)は、100メートルに出場。予選から流れに乗ることができなかった。大舞台でのレースに緊張していたという九鬼は、フライングで警告を与えられる。しきり直しとなるも、スタートがかみ合わず、前を追う展開に。中盤からの追い上げでトップでのゴールを果たしたが、不安を残して大会2日目を終えた。翌日の準決勝で3位に食い込み、迎えた決勝。日本選手権最終種目であり、今大会の目玉のレースでもあることから会場中から大きな注目が集まった。だが、九鬼は前日からの流れを断ち切れず、またもスタートで後れをとる。後半加速するも及ばず最下位に沈んだ。10秒38で8位という結果に「決勝に残っただけというかたちになってしまいました」と悔しさをにじませた。また主将としては、出場した短距離種目すべてで決勝進出を果たしたことを及第点としつつも、表彰台ゼロという結果に「もう少し上を目指していかなくてはいけません」と改革の必要性を語った。カギとなるのは、夏の鍛錬。チーム全体で走りと向き合うことが求められる。課題を克服し目指すのは、全カレでのトラック優勝だ。
(記事 副島美沙子、写真 松田萌花)
結果
▽男子100メートル
予選
須田隼人(スポ1=神奈川・市橘) 10秒67(+0.7)(2組7着)
九鬼巧 10秒33(+0.6)(3組1着)
竹下裕希 10秒39(+0.6)(3組4着)
準決勝
九鬼巧 10秒36(+0.8)(2組3着)
竹下裕希 10秒49(+0.8)(2組7着)
決勝
九鬼巧 10秒38(+0.6)(8位)
▽男子200メートル
予選
竹下裕希 20秒82(+1.9)(1組3着)
決勝
竹下裕希 21秒02(+0.9)(7位)
▽男子400メートル
予選
佐藤拓也(スポ3=埼玉・越谷西) 48秒41(1組6着)
加藤修也 46秒85(2組2着)
決勝
加藤修也 46秒49 (4位)
▽男子800メートル
予選
出口翔(スポ3=東京・開成) 1分52秒37(2組3着)
田中言 1分51秒20(3組1着)
決勝
田中言 1分50秒11 (6位)
▽男子1500メートル予選
池山謙太(スポ3=新潟・長岡大手) 4分01秒80(2組8着)
▽男子1万メートル決勝
大迫傑OB 28分33秒57 (2位)
▽男子やり投決勝
ディーン元気OB 74メートル88 (3位)
コメント
九鬼巧主将(スポ4=和歌山北)
――2日間雨の降りしきる日本選手権となりましたが、大会を振り返られていかがですか
尻上りにこの日本選手権に春からずっと合わせてきてこの福島に来たんですけど、全体的に予選から流れがよくありませんでした。反省すべきですね。予選ですごい緊張してしまって、変なフライングをしてしまったりですとか、ここでしっかり良い順位をとることを目指してやってきたのにも関わらず、どっしりと試合に臨めませんでした
――スタートが大会を通して良くなかったように見えたのですが、いかがですか
その通りですね。
――逆に後半の走りは良かったような印象を受けました
そうですね。全部が全部、100メートルのレースを通していいときはないと思うので、どっかが良くて、どっかが悪いときがほとんどです。それが、たまたま今回はスタートが悪くて、トップスピードから後半の部分ではいつもよりかは良かったかなという感じです。でも本来の形でいけばスタートで前に出て、トップスピードにつなげるというところが僕の持ち味ですし、タイムや順位を狙うにはそこをきっちりできないと上にはいけないですね。
――決勝は9レーンで混戦の中では不利だったように感じたのですが、そこはどう捉えられていますか
表彰台や優勝狙っている者が端のレーンにいるというのがおかしなことなので、やっぱりシードレーンに入ってしっかり勝負しないといけないですね。今回は決勝に残っただけというかたちになってしました。きょねんも2レーンだったんですけど、端っこだと状況が分からないので走りづらいです。
――3年連続で決勝に残られています。そこに関してはいかがですか
そこはあんまり意識してないです。きょねんもことしも納得いく走りができなかったですし、ピーキングとしてうまくそこに合わすことができなかったので、良くなかったです。
――これで大きな大会は終わりになりますが、後半のシーズンに向けてどのように夏を過ごしていきたいですか
6、7月は和歌山の方に教育実習に行くので、向こうでゆっくりします。そして国体の予選に出たら7月の終わりと8月に菅平の方で夏合宿にいく予定です。さくねんもそこで量も質もしっかりとした練習ができたので、後半戦は個人としてもチームとしても良い結果が出せました。なので個人としてもチームとしても夏の合宿がキーポイントになります。
――日本選手権は竹下裕希(スポ4=福岡大大濠)選手や田中言(スポ3=東京・早実)選手が嬉しい入賞となりました。チーム全体としてはどのような大会になりましたか
チームとしては僕の100(メートル)、竹下の200、400は加藤、800の言が決勝に残って、短距離種目全ててで決勝に進出できたんですけど、加藤の4位以外は下位入賞ですし、表彰台もいなかったので、もう少し上を目指していかなくてはいけません。満足はできませんね。
竹下裕希(スポ4=福岡大大濠)
――今大会の200メートルでの目標はどのようなものでしたか
自分のレースをした上で決勝に進出するということでした。
――その目標は達成されましたが、今大会の出来栄えは上々とみてよろしいですか
そうですね。でも運良く決勝に残れたというのもありますし、まだまだ自分のレースを確定できていないということは課題ですね。レース自体はいいレースとは言えなかったかなと思います。
――予選はスタートからいい流れをつかんだように見えましたが、振り返っていかがですか
自分の持ちタイム的に(決勝に)残れる状況ではなさそうだったので、前半から思い切って攻めていこうという考えを持っていました。100メートルまでをしっかり走って、いい位置で後半につなげていければなというレースプランだったので、だいたいプラン通りに走ることはできた気がします。
――予選のタイムは自己ベストに迫るものでした
自己ベストを出した時も今回もまだまだ出るなという感じがありますね。自分の走りはまだできていないので、もっと練習をして、日本学生対校選手権(全カレ)に向けて積み上げていかないといけないと思いますね。
――決勝のレースはいかがでしたか
決勝も予選と同じようにスタートから攻めて後半につなげるというプランでしたが、予選に比べると後半失速してしまった部分が大きかったですね。
――関東学生対校選手権(関カレ)の決勝で脚を痛めたような素振りが見られましたが、今大会への影響はありませんでしたか
万全な状態ではありませんでしたが、勝つことだけを考えて今大会でコンディションが良くなるように調整はしてきました。
――調子は徐々に上向いているとみてよろしいですか
そうですね、上がってきているとは思います。でもまだまだしっかり練習は積んでいかないといけないと思います。
――今後へ向けて抱負をお願いします
2週間後にも大会が控えていて、そこでは記録を狙っていきたいと考えています。まずはそこへ向けて調整をして、それが終わったら全カレへ向けて取り組んでいきたいです。次の大会も全カレへの弾みをつけるようないい結果を残したいと思います。
田中言(スポ3=東京・早実)
――決勝レースを振り返っていかがですか
予選とは打って変わって、課題の残るレースでした。
――課題とは具体的にどのようなものですか
1周目でなるべく中盤に待機するのが理想だったのですが、結果として一番後ろになってしまいました。そこから少しラストで焦って早めに仕掛けてしまったり、無駄な距離を走ってしまったので、予選と違って反省点かなと思います。
――1位通過を果たした予選を振り返っていかがですか
理想のレースが相当できていたので、あれを決勝で実現できていたら表彰台くらいは行けたかなと感じました。
――雨の影響はありましたか
特に自分は気にしないタイプなので、このような状況もそれはそれで楽しかったです。
――関カレから好調が続いています
自分の中では日本選手権も特に決勝など考えたわけではなかったので、とにかく楽しんで走ろうと思っていました。(決勝に残れたことは)もちろん嬉しいのですが、あまり実感が湧かないと言いますか、日々やってきたことの積み重ねができているのかなと思います。
――日本選手権に向けてどのように調整されましたか
頑張るところは頑張る、抜くところは抜くということが少しずつわかってきたので、関カレの後は少し疲れもあったのですが、その部分の調整がうまくできました。3日前の調整ではかなり動きも悪く、出口(翔、スポ3=東京・開成)に負けたこともありましたが、この2日ほどで疲労が抜けたりして、少しずつ自分のことがわかってきたのかなと思います。
――初の日本選手権で感じたことはありますか
すごく楽しかったということが一番の感想です。やはり日本の最高峰の試合ということで他の選手の方々は素晴らしいスパートや走り、展開をされていて、勉強になるところもありました。予選通過できたことは満足ですが、決勝の走りで腑に落ちない部分がありました。ですがここで表彰台に乗っていたら、もしかすると満足してしまって次のことを考えられなくなる気もするので、ここで満足してしまうよりは次に向けて少しずつ、次は表彰台を考えられたら良いなと思います。
――次のレース予定と意気込みをお願いします
レース予定は特になくて、日本学生個人選手権も自分は出ないので、これで前半シーズンが終わる予定です。一度体を作り直して全カレに向けてやっていきます。国体はきょうでだめになってしまったのですが、夏に何かあればという感じです。あまりレース予定が決まっていないのですが、練習を積んでいきたいと思います。
加藤修也(スポ1=静岡・浜名)
――初めての日本選手権を終えてどのような感想を持ちましたか
1位を狙っていなかったわけではないので、まだまだ自分の実力が足りないかなと感じました。
――雨の中のレースは難しさがあったでしょうか
やっぱりアップのしにくさだったりそういうのは感じましたが、条件はみんな同じなのでこれも勉強かなと思います。
――9連覇中の金丸祐三選手(大塚製薬)がすぐ内側のレーンということで、スタート早々に抜かれてしまいました。持ち味を発揮しづらい面もあったのではないですか
それは想定済みではあったんですけど、後半の200メートル前付近でちょっと力んでしまって。多少影響はあったかもしれませんね。
――周りを気にせずに走れればいいとおっしゃっていましたが、きょうはその走りをできましたか
少し気にした部分はあるんですけど、周りの選手が速いのはわかっていたのでわりとそういう走りはできたんじゃないかなと思います。
――いまは結果を求めるというより、動きづくりの段階なのでしょうか
そうですね。いましている最中です。
――どのような点を変えていこうと考えているのですか
上半身と下半身の連動です。腕の振りや前半の走りなど、課題はいろいろありますね。それはきょうできていなかったので世界ジュニア選手権に向けてこれからやっていきたいです。
――世界ジュニア選手権についてはどう捉えていますか
ことしの1番の目標に世界ジュニア選手権を置いているので、そこで勝負ができるように今度はもっとしっかり調整して臨みたいと思います。
――世界ジュニア選手権での具体的な目標を教えてください
タイムはあまり考えていないです。世界ジュニア選手権は勝負だと思っているので。国際レースということで海外の試合でタイムが望めるかはあやしいと思うので、今回は勝負に徹したいと思います。