スーパールーキーが、この春ワセダの門をたたいた。高校から陸上を始めたという加藤修也(スポ1=静岡・浜名)は400メートルで昨年、高校総体・国体・日本ジュニア選手権の高校3冠を達成。3月には日本代表として世界の舞台を経験し、その秘めた才能はまだまだ計り知れない。そんな加藤に高校時代の話や、今後に向けての話を伺った。
※この取材は5月7日に行われたものです。
「ただ順調に練習が実を結んで伸びてきた」
笑顔で取材に応じる加藤
――大学生活には慣れましたか
まだまだですね。徐々に慣れてきてはいるので、これから競技の方もだんだん良くなっていくんじゃないかなとは思います。
――寮生活はいかがですか。当番などは大変ですか
そうですね、当番の日は4時起きなので。でも1年生のうちは当然のことだと思っているので、仕方ないです。
――学校の授業はいかがですか
いままでとは勝手が違うので、そっちも慣れていけたらいいなと思っています。
――友だちはたくさんできましたか
そこそこじゃないでしょうか(笑)。全くということもないです(笑)。
――まずは、陸上を始めたきっかけを教えてください
僕は高校から陸上を始めました。中学までサッカーをやっていて、サッカーをやる気はなかったんですけど、高校も運動部に入ろうか、文化部に入ろうかとか考えていて。運動部だったら陸上部かなというのはありました。その時に、良い先生が居ると聞いていたので、それが決め手ですかね。
――その高校時代の恩師についてのお話を聞かせてください
高橋和裕(平11人卒=奈良・添上)先生という方です。結構有名な先生で、陸上をやっている人だったら知っている人が多いと思うんですけど、高校の時にインターハイで4冠して、いまだに4冠以上の人は居ないらしいです。僕にとっては顧問の先生で、陸上を一から教えてくれた人なので、いまのところ一番感謝している師匠ですね。
――高橋先生は100・200メートルと4×100メートルリレーの元高校記録保持者であり、ワセダでも主将を務めた方ですが、どのようなことを学びましたか
人として、競技者として、その時は高校生として、とかではあったんですけど。陸上だけではなく、人間性とかそういったところを教えていただいたと思っています。
――陸上を始めた当初から種目は400メートルだったのですか
短距離ということで希望はしていました。陸上を始めて1カ月くらいで、突然先生に「お前は400メートルやるといい」みたいに言われて。まあ、異論もなく(笑)。まさか、当時はそれがばっちりはまるとは思わなかったんですけど、やっぱり先生はさすがだなと思います。
――インターハイで優勝できるかもしれないと思い始めたのはいつ頃からですか
しっかりとインターハイ優勝が見えてきたのは高校2年生の初めです。シーズンの初めに良いタイムが出たので、その時から意識し始めました。結局2年生のインターハイは3位だったんですけど。その時も全国で持ちタイムは1位だったのですが、愛敬さん(彰太郎、スポ2=三重・桑名)たちに負けてしまいました。
――地区予選から同じの油井快晴選手(順大)についてはいかがですか。加藤選手にとってライバルとも言える存在だと思います
本当に、ライバルだと僕は思っています。僕の方が少し良いタイムがたまたま出たんですけど、実力が離れているとは考えていませんし、僕の持っているタイムはただのラッキーだったと思っているので。快晴とは遠征も一緒に行ったりしているので、仲も良くて、一緒に居ると調子いいです。そんな存在ですかね。
――それでは油井選手と同じレースで戦うことが楽しみでもあるのでしょうか
もう、癖ですね。居ないと調子が悪いくらいです(笑)。
――高校3年生の1年間で大きく記録を伸ばした印象を受けますが、何か要因はあるのでしょうか
でも僕は陸上を始めてから、最初は55秒で、1年生の終わりに49秒で、3年生になる時に47秒前半で。そのままきょねんの終わりに45秒半ばを出したんですが、ただ順調に練習が実を結んで伸びてきたという感覚です。みなさん特別良いタイムだと言ってくれるんですけど、苦労したかどうかは分からないですが努力の結果だとは思っています。
――高校3年間で伸び悩んだり、挫折といった経験はなかったのでしょうか
高校2年の時に2回けがをしました。でもその時に体を作り直せたということはプラスに考えています。マイナスに考えるのは好きではないので、いつもプラスに考えるようにしているんですけど。言うなれば、その時が勉強の期間であって、挫折の場所ではなかったかなと思います。
――性格はポジティブな方なんですか
ポジティブに考えようと努力はしていますね(笑)。
――高校3年生時に高橋先生が異動されたと伺いましたが、そういった面で最後の1年間に不安はありませんでしたか
やっぱり少し不安はあったんですけど、いままでやってきたことをそのままやるだけというのはありました。最後に先生からも僕らができると信じているとも言ってくれたので、不安はそこまでなかったですね。
「伸びるために、厳しい環境を選んだ」
――他の選手と見比べても、加藤選手の走りは後半のスパートがとても印象的ですが、最後疲れたりしないのですか
後半疲れていないのは、前半疲れないように走っているからかどうかは分からないんですけど。結局最後ゴールする時には(他の選手と)同じように疲れているので、出し切っているとは思います。
――乳酸が溜まったりはしないのですか
きているとは思うんですけど、そこは気合いと根性です(笑)。そういうメンタルの部分とか、練習の量や質も高い高校だったと思うので。それがラストの他の選手との差につながっているんじゃないかなと思います。
――身長が高くて手足が非常に長い加藤選手ですが、身長が高いのは昔からですか
そうですかね。中学の途中とか高校の初めくらいに伸びましたかね。180センチないくらいでしたけど。
――その長い手足が競技に生きていると思うことはありますか
どうなんでしょうかね。自分の走りを見る限り、ストライドも大きく見えるとは思うんですけど。でも今後伸ばすのはピッチではなくて、まだストライドが伸びるというのは感じています。なので、まだまだかなと思っています。
――次に、ワセダを選んだ理由を聞かせてください
ワセダは練習が厳しいというのは聞いていたので、自分の性に合っているというか、自分を厳しい環境に置かないと未来がないかなと思いました。自分が伸びるために厳しい環境を選んだという感じです。
――実際に入ってみていかがですか
厳しいは厳しいと思うんですけど、まだシーズン初めなので、各自の練習が多いです。寮生活とかに慣れるというのがことし1年の目標かなとは思っています。
――高橋先生がワセダ出身という影響はありましたか
なくはないと思いますけど、そこらへんはあまり考えたことはないですかね。ワセダを押してくれたというのはありましたけど、何も異論はなかったですし(笑)。むしろ行きたかったので、良かったです。
――先ほど寮生活に慣れるとおっしゃっていましたが、新しい環境になってから心がけていることは何かありますか
最近は、栄養ですね。寮のご飯はしっかりしてくれていると思うんですけど、それ以外の部分も当然あるので。特に昼食とか月曜日とかは出ないので、そういう時に疎かにしないようにと心がけてはいます。
――これからの大学4年間で、またこの1年で、成し遂げたいことは何ですか
チームとしてインカレ(関東学生対校選手権、日本学生対校選手権)に重点を置くというのと、毎年日本選手権があるので、そこを頭に置きつつその年ごとに目標を持ってやっていくだけだと思っています。とりあえずことしは第一に世界ジュニア選手権、第二に日本選手権を頭に置いてやっていきたいなと思っています。
――この1年での具体的な記録の目標はありますか
ないです。1回ベストを出せたらいいなとは思っているんですけど、ことしは環境に慣れるというのと、高いレベルでのラストタイムの安定が目標かなと思っています。
――ジュニア記録はあまり意識されていないということですか
そうですね。ジュニア記録よりかは未来の日本記録の方が興味があるので。
「その先に行くために、目の前のことをやっていきたい」
先日の静岡国際では自己3番目の記録で4位となった
――3月には世界室内陸上選手権でポーランドに行かれていましたが、振り返っていかがでしたか
とりあえず全員、室内自体が初めてという状態でした。あのベテランの金丸さん(祐三、大塚製薬)でさえ室内は初めてらしいので、いろいろと勝手が分からない部分もあったんですけど。結局山崎さん(謙吾、日大)のけがもあって、欲を言えば海外の選手と競りたいというのはありました。でも他の部分でもいろいろと経験を積めたと思うので、そこでどうこうではなくて経験が積めたということが良かったです。
――具体的にはどういった経験でしたか
とりあえず遠征先での食事は困りましたね。口に合わないというか、気を利かせて出してくれているお米がパラパラ過ぎたり(笑)。
――そういったものも頑張って食べたんですか
うまく美味しいものだけを選んで、バランスも考えて食べました。サラダだけはオリーブオイルと塩をかけて無理やり食べました(笑)。
――他にも海外の選手を見ていて、強さを感じたところはありましたか
やっぱりアップ場も小さかったので、日本みたいに恵まれた環境ではないところでも力を発揮できるというのは海外の選手の強いところだと思いますね。
――先ほど名前も挙がっていましたが、日本選手権400メートル9連覇中の金丸選手は加藤選手にとってどんな存在ですか
憧れの存在というのはたまに言うんですけど正直、金丸さんが全盛期の時に僕はまだ陸上を始めてすらいなかったので…何て言うんでしょう。とてもすごい方ということはこの前の静岡国際大会でも思い知らされました。金丸さんの10連覇というのはあるんですけど、焦らずにいつか抜いてやろうかとは思っています(笑)。
――遠征先などで金丸選手からアドバイスを受けたりするのですか
そうですね、いろいろと親切にしてくれています。すごくいろいろ気にかけてくれる方だとは思います。
――走りの面ではどういったアドバイスを受けますか
でも、走りに関してはそんなにですね。タイプも違いますし。遠征の時のアドバイスとか、メンタル面とかはいろいろと言ってくれますね。
――「ことしは国際経験を積みたい」と以前おっしゃっていましたが、ことしは7月の世界ジュニア選手権と9月のアジア選手権ということになりそうですか
とりあえずは世界ジュニア選手権だけを考えています。国内で力をつけることも重要だと思うので、どちらも疎かにはしたくないんですけど、世界ジュニア選手権を大切にしたいという気持ちが大きいです。
――同世代で活躍される桐生祥秀選手(東洋大)との仲はいかがですか
この前オーストラリアに合宿で一緒に行ったので。桐生と僕と油井と山本凌雅(順大)、は連絡を取ったりしますね。
――そういった選手に刺激を受けたりしますか
そういう選手も居るというのが分かるというか。何ですかね、直接はそんなに気負ったりはしていないので、1つの目安としてですかね。
――まだ先のことですが大学3年時にはリオデジャネイロ五輪、2020年には東京五輪が控えています。意識している部分はありますか
当然少しは高い目標として持ってはいるんですけど、その先のことを見ていても仕方ないと思っています。その先に行くためにも、ことしはいまの課題、目の前のことをやっていきたいかなと思います。
――加藤選手自身の強み、アピールポイントは何だと思いますか
ウィークポイントなら出てくるんですけどね…(笑)。とりあえず、試合後のインタビューとかは注目しないでほしいです(笑)。頭も回らないですし声もそんなに出ないので、何を言っているのかちょっとよく分からないと思うので(笑)。まあ、レースの後半の強さというのは結構目立ってきているとは思います。そこにつなげるまでの前半が以前と比べてどれだけ変わったかというのがこれからの課題だと思います。
――最後に目前に控えた関カレ、6月の日本選手権、そして7月に最大の目標である世界ジュニア選手権に向けて意気込みをお願いします
もちろん出る大会で妥協する気はないので、どの大会でもベストな走りをして、チームに貢献できたらいいなと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 加藤万理子)
4年間で大切にしたいことを書いてくれました
◆加藤修也(かとう・のぶや)
1995年(平7)4月16日生まれのA型。185センチ、67キロ。静岡・浜名高出身。スポーツ科学部1年。自己記録:400メートル45秒69。取材当日の昼は、学食で期間限定メニューのペッパービーフ丼を食べて美味しかったという加藤選手。大学生活も徐々に慣れてきたようです。達筆な字で色紙に書いた言葉は『プラス思考』。何事にもプラス思考で世界に挑んでいく姿に、今後も目が離せません!