【連載】『頂点へ』 第4回 浦野晃弘×牧野武

陸上競技

 ことしの関東学生対校選手権(関カレ)、4×400メートルリレー(マイル)で悲願の優勝を成し遂げた早大。中でも注目すべきはワセダのマイルを引っ張ってきた最上級生、浦野晃弘主将(スポ4=広島皆実)と牧野武(スポ4=愛知・時習館)である。レーススタイルから性格まで真逆なお二人に、差し迫る日本学生対校選手権(全カレ)への思いを語ってもらった。

※この取材は9月1日に行ったものです。

対照的な二人、それぞれの持ち味

質問に丁寧に答える浦野主将

――お互いの入学当初のイメージはいかがでしたか

浦野 最悪でした(笑)。1年生のときって自分の居場所を探したり大変で、みんなも大変だと思うんです。同じブロックで(牧野に)ライバル意識はありましたが、彼は受験勉強などの影響で練習についてこられないことが結構あったので、大丈夫かなコイツみたいに思ったのが最初の印象ですね。

牧野 正直初めは接しづらいなと思いました(笑)。浦野の言った通り練習も積めてなくて、ついていけなくて負い目もあったし、この部に慣れるのにも時間がかかったので、1人でいることが多かったですね。あまり接しようとはしませんでした。

――現在のお互いのイメージはどうですか

浦野 4年間一緒にいますが、牧野は3年生のときからずっと調子が上がってきています。ライバル意識もあり、試合でも勝ったり負けたりが多くなったことで見方が変わりました。3年生の中盤から短距離の、特に400メートルブロックの中でもブロック間を治めてくれるというか見てくれているのですごく助かります。入学当初とは見方も何もかも変わったかなと思いますね。

牧野 頼りになる主将です。2年生のときの冬季練習で先輩からの勧めもあってほとんど彼と一緒に練習をしていましたが、そこからいろいろ技術などを盗んだりして結果もついてきましたし、何度も彼に助けられました。

――その2年生の冬季ごろからお互いにコミュニケーションをとるようになったのですか

浦野 そうですね。本音かどうかはわからないですけど(笑)。

牧野 もう本当に好きです(笑)。

――普段はどのようにお互いのことを呼び合いますか

浦野 もう牧野、浦野って感じですね。僕がいろんな人を下の名前で呼ぶくらいです。牧野は牧野のままですね。

牧野 みんな苗字です。

――お互いのレーススタイルは対照的だと思いますが、ご自身のレーススタイルをどのように分析しますか

浦野 昔から最初から積極的にいくスタイルなんですけど、なんでそうしたかというと単純に見ていて一番かっこいいかな、と。最初から最後まで先頭っていうのが一番かっこいいと思っていて、変えろと言われてもずっと続けています。それが僕の中の良いところというよりは、400メートルはこれみたいに決めていて。後半出す牧野みたいなよくわからないレーススタイルは、最後ちょろ勝ちする感じが気に食わないので(笑)、最初から圧倒的に強いところを見せたいです。何があっても貫き通したいです。

牧野 僕はむしろ最後の直線で全員抜いて優勝するのが見ている方としても楽しいですし、やっている方としてもすごく気持ちいいです。もともと長距離をしていて、スピードもそこまでついてこなかったので、身体的にもそういう走りが自分に一番合っていると思います。このレーススタイルがはまったときは面白いように前を抜けて走っていて楽しいです。

――オフの日はどのように過ごされていますか

浦野 それも対照的ですね。簡単に言うとインドアかアウトドアかみたいな。僕はいろんなところに出かけたりします。多趣味なのですが、はまったことがあったらずっとやり続けちゃいますね。アニメだったら10時間越えてもずーっと観たりしています。オフの日に気をつけていることは、次の日にある練習が一番大事なので、そこに支障をきたさないようにすることです。ただ気分転換するために出かけたりはしています。

牧野 彼が言った通りインドア派なのでそんなに好きこのんでどこに行こうとかはないですね。でも競走部のみんなでワイワイやるときとかは彼が積極的に誘ってくれたりして。まあ有無を言わさず来いみたいな感じなんですけど(笑)。

――お二人で遊ぶことはあるのですか

浦野 一回あったな本屋に。

牧野 行くまでは一緒でそこからは別だったんですけど(笑)。

浦野 とりあえず目的地が一緒だったので駅まで一緒に行ったくらいです。

 

「全カレで勝つための練習」(浦野)

浦野主将にとって最後の全カレで自身の感覚を取り戻したい

――ことしの関東学生対校選手権(関カレ)についてお伺いしますが、4年目にしてマイルリレーで優勝されました。そのときのお気持ちはいかがでしたか

浦野 マイルに関してで言えばやっと勝てたなということと、僕らの代で勝てたことがすごくうれしかったです。でもできれば先輩たちがいたときや、先輩たち全員が見に来てくれたときに勝ちたかったというのはありますね。

牧野 全部言われてしまったんですけど(笑)、関カレのときは個人で悔しい思いをしたので、その分マイルは絶対に勝ちたいと思っていました。最後でしたし、うれしいというのは大きかったです。良い関カレだったなと思います。

――一方、個人の400メートルでは不本意な結果(浦野主将準決勝敗退、牧野決勝4位)だったと思いますが、その結果を受けて心境などに変化はありましたか

浦野 立ち直るのに苦労しました。春先からずっと調子が悪くて、何かここできっかけをつかんで調子を上げていきたいと思っていたところ準決勝で落ちたので、とりあえず最悪でしかなかったです。マイルに関しても切り替える切り替えないじゃなくて、もうやるしかなかったのでやるしかないとしか考えていなかったです。

牧野 監督からも今回はずば抜けて速い選手はいないから優勝狙えるぞと言われていました。表彰台の頂点を狙いたかったのですが、表彰台にすら乗れなくて。最後の粘りが足りなくて、いま思えばいけたんじゃないかと思うのですが…。心境の変化としては、もっと練習していかなきゃと思うようになりました。

――マイルリレーで牧野選手は第一走者を務めることが多いと思うのですが、その理由は何かありますか

牧野 ワセダのバトンパスはアンダーハンドパスなのですが、レースの展開が最後に上げる走りなので、スピードに乗ったまま渡せるという理由があります。そのスピードに乗って良い位置で第2走者に渡すことができることが理由だと思います。

――浦野主将は関カレのときこそ第3走者でしたが、普段は第4走者を務めることが多い印象を受けます

浦野 関カレのときは第三走者までで勝負をつけてアンカーの野澤(啓佑、スポ3=山梨・巨摩)が後半強いので大丈夫という作戦だったと思います。(普段第四走者を務めるのは)一番強いからじゃないですかね(笑)。

――下級生もマイルのメンバー入りすることが増えましたが、上級生として何か意識していることはありますか

浦野 もとよりメンバーを譲る気はなくて、それは牧野も一緒だと思います。自分が走るとしか思っていないです。下級生が出てきてくれることはすごくうれしいです。

牧野 実際、日本学生対校選手権(全カレ)の個人400メートルは自分の調子が上がりきらなくて1年生に任せるかたちになったのですが、僕も浦野と同じように下級生が出てきてくれることはうれしいです。もちろん自分の力が足りないことは理解しているので、マイルはきちんと4年生として意地を見せられたらと思います。

笑顔で取材に応じる牧野

――関カレ以後はどのような練習を積まれましたか

浦野 全カレで勝つための練習と言ったら手っ取り早いのですが、具体的な練習方法は変わらないですね。やはりスタイルは貫きたいというのがあるので。なのでそのスタイル専用の練習というか、いつも通りの練習をしてきました。

牧野 僕は少しスピードを上げようと思いまして、短い距離の練習を取り入れていたのですが、あまりうまくいきませんでした。それで夏前までの試合で結果が出なくて、また自分の前のスタイルに戻って、全カレに向けて調子を持っていけるように練習しています。

――合宿はどちらに行かれましたか

浦野 菅平に行ってきました。

――どのような練習を積まれましたか

スパイクを履いて専門的な練習というよりは芝生を走り回ったり。

牧野 下り坂を下ったり。

浦野 痩せるような練習でしたよ(笑)。楽しかったです。

――どのような点を強化されましたか

浦野 そこではスピードですね。下りで勝手にスピードが出てしまうのでそれに対して礒先生(繁雄、昭58教卒=栃木・大田原)が体を持っていけと言うので、こけるくらいに走っていましたね。

牧野 同じくスピードですけど、自分自身ずっとアキレス腱を接地の問題で慢性的に痛めていて、なかなか走るのがきついときがあったのですが、合宿中は渡辺さん(渡辺高博中距離コーチ、平5人卒=愛媛・新居浜東)もいない中、なんとか自分でしっかり練習できたのでそういう点でも良かったと思います。

――現在の短距離ブロックの雰囲気はいかがですか

浦野 短距離ブロック全体の雰囲気はすごく良い雰囲気だと思います。後輩もすごく元気ありますし。九鬼巧(スポ2=和歌山北)がオリンピック決めたので100メートル、200メートルも追い付こうと頑張っていますし、400メートルは僕ら中心にはなりますけど、400メートル障害には野澤がいますし、そういった面ですごい元気あるなって気がしますね。春先よりいまの方が全然元気あるなと思いますね。

牧野 関カレで4×100メートルリレー(4継)、マイルでダブル優勝して、勢いに乗ってここまで来れていると思います。

――お二人とも400メートルをされていますが、練習でお互いを意識することはありますか

浦野 はい、しますね。たまに意地張り合って「絶対負けねえ」みたいなことを言い合いますし(笑)。

牧野 たいてい僕は勝てないんですけどね(笑)。

浦野 あとは話もいろいろしますよ。たまに試合前になると、「やべー緊張する」って牧野が言い出すんですよ。

――浦野主将は緊張されないのですか

浦野 いや、すごくしますよ。でも見せないですね。だって(牧野が)「うわー弱気だ」って調子乗ってくるので(笑)。

――先ほど短距離ブロックの雰囲気が良いとおっしゃっていましたが、どなたがムードメーカーのような存在なのでしょうか

浦野 ムードメーカーですか。みんな元気なので(笑)、多分外から見たらみんな勝手なことしゃべって盛り上がるだけなんですけど。内にいるとすごく面白いですよ。みんな勝手なことしゃべってるんですけど、勝手に盛り上がっているので、結局みんな盛り上がった感じになります。よく僕らが普通に喋っていて短長(ブロック)とかがちょっとおチャラけてけんかしているように見せていたら、その間に野澤がよくわからないこと言って入ってきて。結局何話したかわからないっていうオチになりますね(笑)。

――みんながみんな盛り上がっているという感じですか

浦野 そうですね。なんか本当にしゃべりづらいやつとかしゃべらないやつとか特にいないので。わーってなっちゃったら他のブロックもわーってなって。そこにいた短距離に限らず、そこにいた跳躍とかも僕らが短距離練している間に茶々を入れてくる感じで盛り上げてくるのがいいですね。

早稲田新記録で優勝を

野はマイル優勝のため全力をそそぐ

――4年生になってここが変わったなと思うところはありますか

――全カレに向けてお二人の現在の調子はいかがですか

浦野 そうですね。今シーズンは良くないので。調子自体が良くても結果が悪かったときもあるので正直わからないですけど、わからないということは逆に可能性があるのかなと自分の中でもわくわくしますね。

――牧野選手はアキレス腱が慢性的に痛いということですが、現在の調子はそれを含めていかがですか

牧野 痛いのはずっと続いていたのですが、8月18日の試合でちょっとダメな記録出してしまって。そこを最低と考えたら、それからは何本か400メートルを走ったんですけど、上がってきているということを自分でも自信持って言えるので。アキレス腱は痛めていますが走れているので、全カレではしっかり走れればいいなと思います。

――浦野主将は全カレでは久しぶりに200メートルにもエントリーされていますが

浦野 そうですね。大学1年で1回走って、大学4年で1回走ってそれだけです。

――200メートルはご自身ではどんな印象をお持ちですか

浦野 得意ではないですけど楽しいので。どうせスタートで置いて行かれるので別に守るものもないと思って。もうドカンですドカン(笑)。

――今回エントリーした経緯は

浦野 僕よりタイムが速い人はいたんですけど、先生とも話して全カレの何日目かで空気を変えたり雰囲気を変えたりするならお前が一番だろうということで、選考したのだと思います。

――マイルリレーは昨年の全カレで早稲田記録を出して、その後の日本選手権リレーでも再び早稲田記録を更新していますが、意識はしていますか

浦野 記録はもちろん意識していますけど、順位が2番続きなので、そろそろ…。

牧野 優勝したいですね。

――タイムより優勝ということでしょうか

牧野 そうですね。

――浦野主将は個人種目は200メートルと400メートルにエントリーされていますが、目標を教えてください

浦野 200メートルはどこまでいけるのかという気持ちと、あわよくば20秒台を出して決勝でいろんな人と勝負したいなという気持ちがあります。400メートルに関しては今シーズンの調子からすれば正直決勝は厳しいですし、準決勝いって勝負できるかなというくらいですけど、それでもワセダの競走部4年間の意地を見せていきたいですね。どこまで行けるのかは自分でもわからないですけど。

――マイルリレーの目標を教えてください

浦野 もちろん優勝したいですね。全カレではずっと勝っていないですし、先輩の代も2番という結果だったので、やはり一番を取りたいです。しかも国立なのでみんな多分見に来てくれると思うので、そういった面で返したいと思います。やはり早稲田新記録で優勝できたらそれはもう最高なので、そこは狙っていきます。メンバー的にも狙える位置だと思いますし。

牧野 僕以外のマイルメンバーは何かしら全カレで個人種目にエントリーしていて僕だけ元気な状態で走れるので、その分予選からしっかりリードを取って走りたいです。あと個人でまだ良い結果を出していないので、予選で結果出して決勝でも走って早稲田記録で優勝です。

――主将として部全体の目標を教えていただけますか

浦野 他種目優勝をどうしても取りたいですね。他種目優勝を取ってその点数で結果的に総合優勝できたらというのが理想なので、そこを目標にいきたいですね。総合2連覇がかかっていると言われるんですけど、去年より他種目優勝の優勝数を増やしてその優勝数の結果が総合優勝につながるというかたちが理想だと思うので、それに向けて部員一同頑張っていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 西脇敦史、野宮瑞希)

浦野主将(左)、牧野

◆浦野晃弘(うらの・あきひろ)

 1990年(平2)8月17日生まれ。177センチ、65キロ。広島皆実高出身。スポーツ科学部4年。自己記録:200メートル21秒31。400メートル46秒25。ヒョウ柄のファーに大きな爪の生えた珍しいスリッパで取材に応じてくれた浦野主将。足が寒かった冬に購入したそう。「お似合いですね」の一言に「複雑です(笑)」と笑顔で返してくれました。

◆牧野武(まきの・たけし)

1990年(平2)11月14日生まれ。178センチ、72キロ。愛知・時習館高出身。スポーツ科学部4年。自己記録400メートル47秒02。終始和やかな雰囲気で取材に応じてくださった牧野選手は時折浦野主将にツッコミを入れる姿が印象的でした。ちなみに履いていたドット柄のスリッパは寮の所有物なのだそう。