日本グランプリシリーズの第3大会目、第47回織田幹雄国際大会がことしもエディオンスタジアム広島で開催された。記録が出やすいと言われる本大会。今夏に行われるモスクワ世界陸上の代表選考をかねていたこともあり、多くの国内トップアスリートが募り好記録を叩き出した。一方、期待されたワセダの選手たちは記録が伸び悩んだ。競技コンディション、故障、疲労、その原因は様々だが、3週間後に控える 関東学生対校選手権(関カレ)、そして6月の日本選手権へ向けて、一刻も早く本調子に戻したいところだ。
★調子回復の糸口つかむ
後半は苦しい走りになるも回復の兆しをつかんだ山本
先週行われた兵庫リレーカーニバルではまさかの周回遅れを喫した山本修平(スポ3=愛知・時習館)。今大会では相変わらず本調子でないながらも、5000メートルを14分1ケタにまとめ、1週間でなんとか軌道を修正してきた。先週の走りで「このままではいけない」と危機感を覚えたという山本はこの日、2分46秒という入りの1000メートルのタイムを受け、1400メートルを過ぎて上がってきた外国人ランナーとともに前方へ。2000メートルを5分32秒のイーブンペースで通過すると、集団は縦に延び始める。そんななか、400メートルを約66秒の安定したペースで刻む先頭の動きに、山本は余裕がなくなりペースダウン。以降は足のバネも腕振りの力強さも鳴りを潜め、苦しい走りとなった。その中でも記録は14分台1ケタと、「次への兆し」をつかんだ山本。しかし勝負としては、先週に続きライバルである他大の選手に先着を許した。レース後、駒大・油布郁人や日体大・服部翔大らと談笑する様子も見られたが、そこで交わされた言葉はなんだったのか。ねぎらいの言葉とともに、『次は負けない』その想いが介在していてほしい。
(記事 深谷汐里、写真 目良夕貴)
★風に嫌われ、記録伸びず3位
調子は悪くなかったと語ったディーンだが、風に阻まれ記録は伸びなかった
ロンドン五輪で一躍有名になったディーン。出場選手の中で最後に紹介されると、片手を上げて大きな声援に応えた。村上幸史(スズキ浜松AC)が出場していることもあり、昨年の日本選手権で見せたような熱い投げ合いの再現が期待されたが、そう簡単にはいかなかった。1投目、いつも通りの豪快なフォームを見せたものの、記録は76メートル22にとどまる。ディーンは倒れこみながらやりを見送り、苦笑いを浮かべた。並行して行われていた三段跳の選手への手拍子が止むのを待ち、放った2投目。わずかに記録を伸ばし76メートル38をマークしたが、またも本人は納得いかないというように首を傾げた。一方の村上は3投目に、ディーンの持つ日本歴代2位の記録を塗り替える85メートル96の大投てきを見せる。なんとか追いつきたいところだったが、その後の試技でも助走をやり直すなど最後まで調子を合わせられない。結局2投目の記録を伸ばすことはできなかった。試合後、「運が悪かった」と語ったディーン。記録が伸び悩んだ原因は、試技中の強い横風だった。「今回のことは忘れて、次です」。もう一度世界の舞台で戦うため、ここで立ち止まるわけにはいかない。
(記事、写真 手塚悠)
★新入生の活躍光る
専門でない100メートルでの出場ながら、B決勝では好走を見せた橋元
男子100メートルでは日本のトップ選手が名を連ね、ワセダの選手にも期待がかかった。しかし、予選1組に登場したエース九鬼巧(スポ3=和歌山北)がケガの影響を引きずってか後半伸び悩み予選落ち。続く竹下裕希(スポ3=福岡大付大濠)、北村拓也(スポ2=広島皆実)もまったくレースについていけない。上級生が振るわない中、唯一橋元晃志(スポ1=鹿児島・川薩清修館)だけがB決勝に残った。迎えたB決勝では、良いスタートを切った橋元が勢いそのままに伸びを見せ、2着でゴール。追い風参考記録ではあるものの、自己ベストを上回る好記録を出した。「これをきっかけに関カレ、インカレ(日本学生対校選手権)でしっかり走りたい」(橋元)と大型ルーキーの活躍に期待がかかる一方、不調にあえぐ上級生の復調が待たれる。
(記事 川嶋悠里、写真 目良夕貴)
★感覚と走り、うまくかみ合わず決勝逃す
前半の加速は成功したかに見えたが、後半伸びきれずに終わった早川
男子110メートル障害B決勝には早川恭平主将(スポ4=長野吉田)が出場した。予選は苦手とするスタートで出遅れ、4着でゴール。タイムでA決勝に残ることができずB決勝に回った。B決勝ではスタートをうまく決め、中盤は横一線に。しかし後半粘り切れず4位でフィニッシュした。先週、海外レースを経験した早川主将。学んだことを体現したいところだったが、うまくかみ合わず悔しい結果となった。関東学生対校選手権まで約3週間。それまでに調整し、チームの士気を高めるような走りを見せてほしい。
(記事 目良夕貴、写真 手塚悠)
★故障明けならがもまずまずの走り
レース後「楽しく走れた」と笑顔も浮かべた紫村。ここから日本選手権に向けて調子を上げていくつもりだ
今春ワセダを卒業し、いまは地元・佐賀で教鞭をとる傍ら陸上競技を続ける紫村仁美(平25スポ卒=佐賀陸協)。ケガによる冬期練習の不足に加え、春からの環境変化も重なるなど、万全な状態ではないながらも100メートル障害に出場した。決勝では、スタートで出遅れ焦りが生じたのか1台目が若干浮いたほか、後半ののびやかな加速も陰を潜め、2位。会心の走りとはならなかったが、まだシーズン初戦だ。本人はあくまで、「日本選手権にピークを持っていこうと思っている」(紫村)。日本選手権で狙うは12秒台。日本記録、モスクワ世界陸上A標準記録をともに破る意欲を見せる。 自ら顧問を務める陸上部の部員とともに練習することもあるという彼女。二足のわらじを履く生活は決して楽ではないだろう。それでも飽くなき向上心で、彼女は高みを目指し続ける。
(記事 深谷汐里、写真 目良夕貴)
◆結果
1日目
▽ユニバーシアード選考男子5000メートル
山本修平 14分08秒77(17位)
2日目
▽男子やり投げ
ディーン元気 76メートル38(3位)
▽女子100メートル障害
予選
紫村仁美 13秒52(2組1着)
決勝
紫村仁美 13秒28(2着)
▽男子110メートル障害
予選
早川恭平 14秒14(2組4着)
B決勝
早川恭平 14秒11(4着)
▽男子100メートル
予選
九鬼巧 10秒54(1組5着)
江里口匡史(OB)(平23スポ卒=大阪ガス) 10秒34(2組1着)
木村慎太郎(OB)(平22スポ卒=アシックス) 10秒39(2組2着)
竹下裕希 10秒53(2組7着)
橋元晃志 10秒45(3組6着)
北村拓也 10秒69(3組7着)
B決勝
橋元晃志 10秒36(2着)
A決勝
江里口匡史 10秒15(3着)
木村慎太郎 10秒63(8着)
◆コメント
早川恭平主将(スポ4=長野吉田)
――きょうのレースを振り返っていかがですか
コンディションは悪くはなかったのですが、試合の中でやろうと思っていたことが上手くできませんでした。このタイムがいまの自分の実力なのかなと思いました。
――やろうと思っていたことというのは
先週、アメリカに行く機会をいただいた際に間近で速い選手の動きを見たりだとか、自分がレースをする中で感じることというのが多くありました。その中でピックアップしながら体現したいなと思っていたことがあったのですが、うまくかみ合わなかったというかたちです。
――いまの調子はいかがですか
体のコンディション的には悪くないのですが、タイムが出ていないというところで自分のコンディションといまやりたいと思っているハードルの動きがかみ合っていないのかなという感じがしています。
――海外のレースでの疲れはありますか
ないと言えば嘘になります。しかし、疲れよりも自分が得た刺激のほうが多くありました。その刺激を今回の織田、そして関東インカレに向けてどうやって自分、そしてチームに還元していこうかと考えています。
――今年度主将に就任いたしましたが、どのように感じていますか
主将という立場ですし、4年という一番上の立場になります。学生としての陸上競技はことしで最後になりますし、また、ワセダ競走部という組織をまとめる一番上の存在ですので、そういった責任からは逃げないようにやっていこうと言うことは常に肝に銘じています。
――責任によるプレッシャーはありますか
プレッシャーは確かにあります。そういったものをプレッシャーと感じたり、自分の重荷と感じるよりもプラスにして自分自身チームにどう貢献していくかというのを考えながらやっているので、プレッシャーと思ってやってはいないですね。
――今後の意気込みを教えてください
5月に関東インカレでは、今個々の試合が続いているんですけど、そこでしっかりチームとしてやっていけたらと思っています。その中である程度チームとしての勢いが出てきているので、チームの士気を上げながらまず関東インカレで勝負していきたいなと思います。僕としてもチームとしてもというところです。
ディーン元気(スポ4=兵庫・市尼崎)
――きょうの投てきはいかがでしたか
だめでしたね。
――体の故障などは
いえ、きょうは故障ではなく、風が横向きだったので諦めて(試技を)やめました。来週も試合があるので、国立の雰囲気がいいところで投げられたらいいかなという風に考えています。風向きというのは運なので、来週投げられればいいかなという感じですね。
――調子自体は
悪くはなかったですし、むしろ良かったですね。本当に0、何秒で決まる種目なので、調子がよくても出ないときというのはありますし。きょうの悪いイメージから切り替えて、来週良い動きが取り戻せればと思います。
――きょうの手応えとしてはどれくらいいけそうだったのでしょうか
やってみないとわからないという感じだったのですが、やはり風を気にすることによって自分の動きに集中しきれなかったのかなと思います。一週間切り替えてうまくまとめます。
――きょうは風の影響が大きかった
ずっと(風向きが)横になったり縦になったりしていたので、すごく運がありました。やりが(風に)落とされていたので、特にきょうは風が強くて影響が大きい日だったのかなと思います。叩き落とされるような風が多かったですね。低く投げないときょうは飛ばない風でした。きょねん84メートルを投げたときもそうだったのですが、風が強いと、やはり強く低く投げなければいけません。悔しい気持ちもありますが、気を取り直して来週がんばります。
――6投目の試技をやめたのは
もう助走中からやりもろとも風に押されるので、5投目の前に、次助走している状態が悪かったらやめようと思っていました。イメージが悪かったらケガにもつながりかねませんし。
――村上幸史選手(スズキ浜松AC)の記録については
すごいです(笑)。きょねんはなんだかんだケガをしている状態でずっと戦っていたので、やはり体調を戻してきたら、自分より何枚も上手だなと、きょう感じることができました。きょう勝てなかったことが、ベストを出すきっかけにもなってくれるかなと思うので、次また(村上の記録を)抜かして、以降抜かし合いができればいいなと思います。それをしているうちに日本記録を超えられるかなというところですね。
――村上選手の投てきを見ての感想なり分析なりはありますか
ケガなく投げればあれくらい投げられる選手だということが身をもってわかりました。次にまた抜かすのが楽しみですね。動きはいつも通り良かったですし、やりが本当にきれいに出て行ったので、それが飛んだのではないかなと思います。風のコンディションもあったのかもしれませんが、良い投げであったというのは間違いありませんね。
――ここからの来週のゴールデングランプリ東京までどうやって持っていきますか
今回も調整という調整はしている状態ではなかったので、来週まで一週間ありますし、しっかり合わせていければなと考えています。
――ゴールデングランプリ東京の目標は
優勝ですね。優勝すれば記録もついてくると思います。最悪、日本選手権では絶対限標準を切って、合わせるシーズンにしたいと思います。
山本修平(スポ3=愛知・時習館)
――きょうの試合を振り返って
調子はずっと悪かったのですが、先週の兵庫リレーカーニバルなどの結果を受けて、このままではいけないと思い、きょうは最初(積極的に)行ってみたのですが、だめでしたね。自分の力が足りていないのだと思います。
――1月に行われた丸亀ハーフマラソンでは自己ベストを更新されていましたが、調子はいつ頃から悪いのでしょうか
調子自体は12月、1月ころからずっと悪いです。丸亀ハーフは完全に箱根のためだけで走ってなんの準備もしていなかったので期待はしていなかったのですが、走れてしまったという感じですね。
――力が足りていないとおっしゃっていましたが、ほかに今後の改善点はありますか
『いい走り』にこだわりすぎてしまって、いままで失敗してきてしまいました。自分のベストに近い走りとどうしても比べてしまって、レースが始まって思うように動けないと、レース中に気持ちを切らしてしまいます。そこがなかなか修正できていないので、今後捉えかたを直していかなければ行いけないと感じています。
――その中で収穫はありましたか
調子が悪い中でも、最低限と思っていた14分台1ケタで走り終えることができたので、前回のレースなどとくらべてそこは良かったなと思います。次の試合に向けて良い兆しが少し見えてきたかなという感じです。
――3週間後には関東学生対校選手権が控えていますが
本来であれば最低限出場を勝ち取らなければいけなかったユニバーシアードの代表をこういう形で逃してしまったので、それは申し訳ない気持ちでいっぱいですし、後悔もしています。この借りはなんとしてでも関カレで返さなければいけないと感じていますし、頑張りたいと思います。
橋元晃志(スポ1=鹿児島・川薩清修館)
――今大会を振り返っていかがですか
B決勝でしたが、ここ最近では一番良いレースができたかなと思います。
――大学に入ってから何本かレースをこなしていますが、調子は上がってきているということでしょうか
これが3戦目くらいで、100メートルはあまり調子が良くなかったので、今回も予選が微妙で決勝はどうなるのかなと思っていました。ただしっかり後半も走れたので、大学に入って一番良いレースだったかなと思います。これをきっかけに関カレ、全カレでしっかり走りたいです。
――きょうのレースの位置付けというのは
織田記念はタイムが出やすい競技場なので、自分もタイムを狙っていこうかなと思っていました。
――先週はアメリカでのレースに出場されていました。感想をお願いします
やはり海外だと体調の調整が難しくて、失敗してしまったのですが、良い経験ができたと思います。
――大学生活には慣れましたか
微妙ですね、まだ(笑)。
――六大学でエンジデビューでした。初めてエンジを着て走った感想はいかがでしたか
いつもテレビで観ているエンジを自分が着ているなという変な気持ちでしたが、やはりワセダというエンジを背負って走っているので、高校以上に責任感というかプレッシャーというか…。気が引き締まる感じです。
――今季の目標をお願いします
大学1年目なので、慣れるということを第一にしながら、自分の競技を伸ばしていけたらと思います。
――次は静岡国際大会の200メートルにエントリーがあります
自分の得意なのは200メートルです。この織田記念で100メートルを10秒36で良い感じで走れたので、その勢いを静岡国際に持っていって、200メートルでも自分の納得できるレースができればと思います。
紫村仁美(平25スポ卒=佐賀陸協)
――きょうのレースの感想をお願いします
今シーズン初レースだったので、どうなるのか走ってみないとわからないというのがありましたが、楽しく走れたので良かったと思います。
――ご卒業して1ヶ月が経ちました。新たな環境には慣れましたか
最初の1、2週間は戸惑いがあったのですが、徐々に慣れてきたかなという感じです。
――現在の調子は
全然です。まだまだ上がっている途中という感じですね。日本選手権にピークを持っていこうと思っているので、それの前段階です。
――日本選手権に向けて一言お願いします
13秒を切って、12秒台。A標準を狙って、そこでモスクワ(世界選手権)を決めようと思っているので、頑張ります。