日本選手権 7月4~6日 東京・国立競技場
連日多くの陸上ファンで賑わった東京・国立競技場で、3日間にわたり日本選手権が開催された。日本のトップ選手らが9月に行われる世界選手権の代表内定や参加標準記録突破を狙い、より一層の盛り上がりを見せた今大会。男子1500メートルでは、山口智規駅伝主将(スポ4=福島・学法石川)が準優勝に輝き、自身の持つ早大記録を更新。男子3000メートル障害では佐々木哲(スポ1=長野・佐久長聖)、男子100メートルでは関口裕太(スポ3=新潟・東京学館新潟)が、ともに初めての日本選手権ながら3位に入り、早大から3名のメダリストが生まれた。
(記事 佐藤結)
★佐々木哲が3位入賞で鮮烈な日本選手権デビュー(男子3000メートル障害)

ハードルを越える佐々木哲
大会初日、男子3000メートル障害決勝には、佐々木哲(スポ1=長野・佐久長聖)が出場した。各選手が世界選手権日本代表の座を狙うハイレベルな戦いで、佐々木哲は自己記録に迫る8分30秒37の好タイムを記録。堂々の3位入賞で、鮮烈な日本選手権デビューを飾った。
スタート直後、先頭に立ったのは順大の村尾雄己。佐々木哲は、集団の中程に位置取った。村尾を先頭とする集団は1000メートルを2分51秒で通過。1000メートル付近では5・6番手につけていた佐々木哲だったが、1000メートル以降全体の順位が目まぐるしく変動していく。1600メートルでは11番手。1800メートルを前に、先頭集団は13名に絞られたが、佐々木哲はなかなかインコースに入れずポジション争いに苦戦する。しかし、佐々木哲がポイントとしていたのはラスト1000メートル。佐々木哲は残り1000メートルを目がけ、徐々にスピードを上げ、5回目の水濠を越えると5番手に浮上。序盤レースを引っ張っていた村尾を抜いたうえ、実業団選手の無念の転倒があり、先頭争いは青木涼真(Honda)、新家裕太郎(愛三工業)、佐々木哲の3人に絞られた。ラスト1周の鐘とともにスピードを上げる3人のなか、青木、新家に続き、佐々木哲は3番目でゴール。佐々木哲は「ラスト1周の鐘まではまだ少し余力はあったが、ラスト勝負までの体力は残っていなかった」という。「落ち着かないレース運びになってしまった」と振り返り、悔しさを口にしたが、見事な3位であった。
優勝を目指していただけに、レース後は悔しさをにじませた佐々木哲。それでも、「日本のトップの舞台でこのような(3位という)結果を残せた」と、充実の表情も見せた。常に上を目指し続けるルーキーは、駅伝シーズンでも、鮮烈な活躍を見せてくれることだろう。全国高校駅伝で存在感を放った佐々木哲は、大学駅伝でも己の実力を発揮するため、鍛錬の夏へと踏み出していく。
(記事 早崎静、佐藤結 写真 髙杉菜々子)
★鈴木琉がシニアの舞台で健闘の10位(男子5000メートル)

決勝のレースを走る鈴木琉
今大会の種目の中で唯一定員制限が撤廃された男子5000メートルには、参加標準記録を突破した86人もの選手が出場。早大からは山口竣平(スポ2=長野・佐久長聖)と鈴木琉胤(スポ1=千葉・八千代松陰)の2人がエントリーし、決勝に進んだ鈴木琉が10位でレースを終えた。
組6着以内でゴールすることが、決勝へ進出するための絶対条件であった今大会予選。予選1組に出場した山口竣は、形成された縦長の列の最後方あたりでレースを展開した。落ち着いてペースを刻み続け、スピードを落としてきた選手らを確実に捉えながら徐々に順位を上げていく。ロングスパートで粘り、いくつか順位を上げたものの、11着でゴールし、決勝進出とはならなかった。3組の鈴木琉はいつものように、スタート直後から先頭を走って積極的にレースを引っ張った。3000メートル過ぎには先頭の交代を許したものの、その後のペースアップにはきちんと対応し、最後の1周で再び先頭に立った。そのまま逃げ切ることはできなかったが、後ろから追い上げてくる選手らのスパートに食らいついて4着でフィニッシュ。初めてのシニアの日本選手権の場で、決勝に駒を進めた。

予選のレースを走る山口竣
迎えた決勝はいつも以上に緊張感のあるレースとなったが、ここでも鈴木琉がレースをつくる。スタート後すぐに先頭に位置づけると、3500メートル付近まで1位集団をけん引した。しかし、残り3周を切ったあたりでレースが動く。多くの選手がペースを上げる中で鈴木琉はついていくことができず、順位を落とした。日本のトップ選手たちのロングスパートに食い込むことはできなかったが、結果は学生トップの10位。初めてのシニアの日本選手権でも堂々とした走りを見せ、今後の成長への期待が高まる一戦となった。
2人での決勝進出とはならなかったものの、シニアの舞台で自身の全力を出し切り、現状を確認したことによって得られた収穫は、駅伝シーズンに向かう2人を後押ししていくに違いない。夏を越え、さらに磨きのかかった走りで、ロードの舞台に姿を見せてくれるであろう2人に、大いなる期待を寄せ続けよう。
(記事 髙杉菜々子、写真 佐藤結、髙杉菜々子)
★見せた駅伝主将の意地!山口智が早大記録を更新し準優勝!(男子1500メートル)

決勝にて笑顔でゴールする山口智
男子1500メートルには山口智規駅伝主将(スポ4=福島・学法石川)が出場。予選を全体トップのタイムで通過すると、決勝も自ら先頭を引っ張る積極的なレースを展開。飯澤千翔(住友電工)に敗れたものの、日本選手権では、初出場となった1500メートルで2位を勝ち取った。
2日目に行われた予選。スタート直後は集団中位に位置していたが、集団のペースが少し落ち着いた700メートル手前で山口智が一気にスパート。そのまま先頭を譲らずに残り2周を駆け抜け、最後は周りを見る余裕も見せながら組1着でゴール。3分41秒58の全体トップタイムで決勝に駒を進めた。

予選のレースを走る山口智
最終日に迎えた決勝。実業団の強豪選手たちがそろう中、山口智は「終盤のスパート勝負にも対応できるよう意識した」と語るように、序盤から先頭に立ちつつも、落ち着いてレースを進めた。すぐ後ろには荒井七海(Honda)と飯澤が控え、前に出る機会を伺う。700メートル付近、荒井が前に出ると、それに続く3選手に抜かれ5位に転落。このまま順位を落とすかと思われたが、このままで終わらないのが臙脂(えんじ)のエースだ。1000メートル手前で一気にペースを上げ、ラスト1周時点で首位の座を奪い返す。そのまま逃げ切りを狙ったが、残り300メートル付近で力を溜めていた飯澤に抜かれる。「ラスト120メートルのスパートは、分かっていても敵わなかった」と振り返る通り、飯澤には水をあけられたものの、最後は森田佳祐(SUBARU)との激しい競り合いを制して2着でゴール。タイムは3分38秒16で、日本学生対校選手権(日本インカレ)で樹立した自己記録と早稲田記録をさらに更新する快走だった。惜しくも優勝こそ逃したが、山口智の表情は晴れやかだった。「自分のやりたいことができた。負けはしたが、楽しかったと思えたレースだった」と振り返り、充実感に満ちた笑顔を見せていたのが印象的だった。
二冠を達成した日本インカレの勢いそのままに、今大会も攻めの走りを貫いた山口智。長距離ブロック全体を見渡すと、3000メートル障害で好走を見せた佐々木哲や、5000メートルで10位に食い込んだ鈴木琉など、将来を期待される下級生も頭角を現しつつある。東京箱根間往復大学駅伝(箱根)総合優勝を掲げる今季、駅伝主将・山口智を筆頭にチームは着実に成長の歩みを進めている。臙脂(えんじ)の戦士たちが箱根路で輝きを放つーーそんな駅伝シーズンを予感させる日本選手権だった。
(記事 植村皓大、写真 會川実佑、植村皓大)
★渕上、大舞台で今後につながる7位入賞!(男子400メートル障害)

ハードルを越える渕上
男子400メートル障害には盛岡優喜(スポ4=千葉・八千代松陰)と渕上翔太(スポ2=東福岡) が出場した。盛岡は予選敗退となったものの、渕上は決勝に進出し、7位入賞。6月の日本インカレでダブル表彰台を果たした二人だが、日本選手権の舞台ではそれぞれに悔しさの残る結果となった。
大会2日目に行われた予選。盛岡と渕上は、ともに1組目に登場した。パリ五輪代表で日本インカレ王者でもある小川大輝(東洋大)が序盤から積極的にレースを引っ張る中、盛岡と渕上は5台目のハードルまでに4番手・5番手あたりにつける。最終コーナーから渕上は懸命に先頭を追ったものの、持ち味のラストスパートを発揮しきれず3着でフィニッシュ。記録で拾われ、決勝進出を決めた。一方、盛岡は後半ペースを落とし6着でゴール。惜しくも予選敗退となった。

ハードルを越える盛岡
翌日、大会最終日の決勝。渕上は「できるだけ集団の射程圏内にいられるようにして、最後に勝負をかける」というレースプランで臨んだ。大きく深呼吸をしてスタートラインに立った渕上だが、序盤からリズムに乗れず苦しい展開となった。前半から周囲のペースに押され、バックストレートで先頭との差はじわじわと広がっていく。得意とする後半勝負に持ち込むことができないまま、レースは終盤を迎えた。粘りを見せたものの、上位に食い込むことはできず、結果は7位となった。今季は関東インカレや日本インカレでも安定して上位に入り、着実に力を伸ばしてきた渕上。しかし、実業団を含むトップ選手たちとの壁は厚く、力の差を痛感する結果となった。「正直、何もできなかった」と渕上は悔しさをにじませながらレースを振り返る。それでも「この舞台で走れたことは、自分にとって本当に大きな経験になった」と話すように、日本選手権という国内最高峰の決勝で得た収穫は決して小さくない。学生2位の実績を重ねてきた中で挑んだ今回の日本選手権は、まさに現時点での立ち位置を知る機会となった。
今月下旬にはユニバーシアード(ワールドユニバーシティゲームズ)に日本代表として出場を控える渕上。「大学代表としての責任を持って、まずは結果をきちんと出したい」と意気込みを語る。一方の盛岡も、大学陸上ラストスパートへ。早稲田のハードラーたちの躍進は、まだまだ続いていく。
(記事 関口愛、写真 髙杉菜々子、植村皓大)
★関口が3位入賞!井上は悔しい4位(男子100メートル)

決勝のレースを走る関口
男子100メートルには、早大から関口裕太(スポ3=新潟・東京学館新潟)、井上直紀主将(スポ4=群馬・高崎)の2名が出場。日本代表経験者がひしめく日本一をかけたハイレベルな争いの中、関口が10秒28で3位、井上が同じく10秒28で着差の4位とダブル入賞を果たした。
大会初日に行われた男子100メートル予選。オリンピアンであるサニブラウン・アブデル・ハキームが敗退、柳田大輝(東洋大)が失格となるなど波乱が起きるも、2組に登場した井上は10秒18で1着となり危なげなく準決勝進出を決めた。このタイムは予選全体トップだった。また、6組に登場した関口も10秒21という好タイムで1着。着順での準決勝進出となった。同日夜に行われた準決勝では、2組に井上、3組に関口が登場した。井上は普段通り驚異のストライドを生かして後半に追い上げ、トップに躍り出る。10秒22の1着で見事着順での決勝進出となった。また、関口は良いスタートを切り前半で前に出ると、そのまま良い位置でレースを展開し組3位でゴール。タイムは10秒24で、着順での決勝進出とはならなかったが、プラスで拾われこちらも見事決勝進出を決めた。

決勝後、握手を交わす関口と井上
そして翌日、迎えた決勝。日本選手権の決勝は井上、関口ともに初めてであった。緊張した面持ちでトラックに入る2人。井上は7レーン、関口は9レーンからのスタートとなった。スタートを切ると、関口が少し出遅れ後方から追い上げるかたちとなった。井上も後方からのスタートとなったが、準決勝と同じくストライドを生かし追い上げる。関口、井上が前に追いつくも、桐生祥秀(日本生命)が残り30メートル付近から猛烈に後ろを突き放しにかかった。桐生はそのまま1着でゴール。そして2着以降はかなりの混戦でゴールした。電光掲示板に表示される結果を待つと、なんと2位から4位までが同タイム、着差ありでの決着となった。関口が10秒277で3位、井上が10秒280で4位と初の決勝の舞台を堂々と走り抜き、ダブル入賞を果たした。
初の決勝で高順位でのフィニッシュとなったものの、日本選手権優勝、そして世界選手権出場に全てをかけてきた井上は悔しげに落胆する姿を見せた。まだ、世界選手権への挑戦が終わったわけではない。井上は、諦めず前を向いて走り続けるだろう。また、関口は9レーンからメダリストになるという快挙を成し遂げた。日本で3番となったが、まだまだ成長は止まらないだろう。これからの走りにも期待したい。
(記事 會川実佑、写真 佐藤結、髙杉菜々子)
※選手コメントは別記事にて掲載いたします
男子結果
▽100メートル
予選(7組3着+3)
井上直紀主将(スポ4=群馬・高崎) 10秒18(2組1着)(+0・8) 準決勝進出
関口裕太(スポ3=新潟・東京学館新潟) 10秒21(6組1着)(+0・0) 準決勝進出
準決勝(3組2着+2)
井上直紀主将(スポ4=群馬・高崎) 10秒22(2組1着)(+0・0) 決勝進出
関口裕太(スポ3=新潟・東京学館新潟) 10秒24(3組3着)(-0・1) 決勝進出
決勝(+0・4)
関口裕太(スポ3=新潟・東京学館新潟) 10秒28(3着)
井上直紀主将(スポ4=群馬・高崎) 10秒28(4着)
▽200メートル
予備予選(3組0着+6)
髙須楓翔(スポ3=千葉・成田) 21秒06(3組4着)(+0・2)
水野琉之介(スポ2=北海道・立命館慶祥) 21秒62(4組6着)(+0・0)
予選(3組2着+2)
若菜敬(スポ1=栃木・佐野) 21秒32(3組7着)(+0・0)
▽400メートル
予備予選(3組0着+6)
松本悠斗(スポ1=佐賀北) 47秒74(1組8着)
権田浬(スポ2=千葉・佐倉) 46秒75(2組3着) 予選進出
予選(3組2着+2)
森田陽樹(創理3=埼玉・早大本庄) 46秒39(1組6着)
権田浬(スポ2=千葉・佐倉) 46秒87(3組7着)
▽1500メートル
予選(2組6着+0)
山口智規駅伝主将(スポ4=福島・学法石川) 3分41秒58(1組1着) 決勝進出
決勝
山口智規駅伝主将(スポ4=福島・学法石川) 3分38秒16(2着)
▽5000メートル
予選(3組6着+0)
山口竣平(スポ2=長野・佐久長聖) 13分55秒68(1組11着)
鈴木琉胤(スポ1=千葉・八千代松陰) 13分39秒71(3組4着) 決勝進出
決勝
鈴木琉胤(スポ1=千葉・八千代松陰) 13分46秒69(10着)
▽110メートル障害
予選(4組3着+4)
西徹朗(スポ4=愛知・名古屋) 13秒76(4組3着)(-1・0) 準決勝進出
準決勝(2組3着+2)
西徹朗(スポ4=愛知・名古屋) 13秒86(1組6着)(-0・3)
▽400メートル障害
予選(3組2着+2)
盛岡優喜(スポ4=千葉・八千代松陰) 50秒07(1組6着)
渕上翔太(スポ2=東福岡) 49秒50(1組3着) 決勝進出
決勝
渕上翔太(スポ2=東福岡) 49秒61(7着)
▽3000メートル障害
決勝
佐々木哲(スポ1=長野・佐久長聖) 8分30秒37(3着)
女子結果
▽400メートル
予選(3組2着+2)
上島周子(スポ3=東京・富士) 54秒22(1組4着)
▽100メートル障害
予選(4組3着+4)
松田晏奈(スポ1=長崎日大) 13秒67(2組5着)(+0・6)
林美希(スポ2=愛知・中京大中京) 14秒38(3組8着)(ー0・2)
▽400メートル障害
予選(3組2着+2)
大川寿美香(スポ4=東京・三田国際学園) 59秒21(1組6着)
矢島杏紀(スポ1=埼玉・所沢西) 1分04秒93(1組8着)
千葉史織(スポ2=宮城・仙台一) 58秒85(2組6着)
▽走高跳
決勝
矢野夏希(スポ3=愛知・時習館) 1メートル70(4位)