【連載】『令和4年度卒業記念特集』第5回 石川琴実/庭球

庭球女子

 『学』。石川琴実(社=神奈川・白鵬女)は庭球部での4年間をこの一文字で表現した。1年時から団体戦に出場し、個人戦においてもダブルスで2度の日本一を経験するなど輝かしい結果を残した石川。チームとしては4年間を通じて全日本学生対抗王座決定試合(王座)奪還という高い壁に直面した。名門をけん引する主力選手として、そしてチームをまとめ上げる主将として、酸いも甘いも経験した石川が、庭球部で得た『学び』とはどのようなものだったのだろうか。

 テニスを始めたのは小学2年生の頃。「スポーツをしたくて、たまたま遊んだ友達のおじいちゃんがテニス教室をやっていたので体験に行ったこと」がきっかけだった。高校までは「テニスが好き」という純粋な思いで競技を続けた。高校時代については「新潟から出てきて、全寮制の高校に入ったのですが、関東との差を高校で色々感じました」と振り返る。早大受験を決意したのは高校2年時。関東大学リーグの一部校でのプレーを志望していた中で、高校1年時に団体で全国ベスト4に進出、受験資格を得たことがきっかけだった。

 早大入学当初、庭球部に対して「怖いイメージ」を持っていたというが、そのイメージはすぐに払拭される。テニスに対する考えの深さは感じながらも、オフコートでは仲良く接してくれる先輩に触れ、ギャップを感じたという。その中で1年時から全日本学生選手権(インカレ)などで経験を積み、初めての関東大学リーグ(リーグ)を迎える。石川は当時3年生の清水映里(令3スポ卒)とダブルスを組み出場。清水とのペアでは着実に白星を重ねたが、チームはこのリーグで17年ぶりに王座進出を逃すこととなる。この時については「自分たちが途絶えさせてしまったので。勝たないといけなかったところで負けてしまったのは申し訳なかったです」と話す。その後、重圧から解放された中出場した全日本学生室内選手権(インカレインドア)では清水とのペアで優勝。「リーグでの経験が生きた」。

 3、4年時は吉岡(右)とのペアでダブルスを戦った

 2年時は新型コロナウイルスの影響で部としての活動がままならない時期が続き、王座も中止になってしまった。「大好きだった」2学年上の先輩たちと目指してきた目標が閉ざされ、「モチベーションがなくなってしまった」。それでも、コートにはショックな姿を見せず、試合の予定も立っていない中で練習に参加する先輩らの姿があった。その姿を見て、最後の試合となる早慶対抗試合(早慶戦)では「先輩のために」腕を振り、ダブルスでは勝利を持ち帰った。3年時からは吉岡希紗(スポ4=三重・四日市商)とペアを組むことに。8月のインカレではこのペアで優勝を果たす。簡単な試合はなかったが、勝ち抜くにつれて自信をつけ、「試合を重ねるごとにやるべきことがやれるようになった結果だった」。続く秋の団体戦シーズン、チームは王座進出を果たしたが、結果は準優勝。決勝の慶大戦は「完敗だった」と振り返る。1年時に同期数人と観戦に行っていたが、「見ているのと、試合をするのではやはり違った」。ただ、この結果を受けて下を向くのではなく、「来年は絶対に王座を取りたい」という強い気持ちが芽生えた。

 そして迎えた最終学年。チームは2大会ぶりの『王座奪還』を至上命題とする中で、石川は主将に就任することとなった。主将という役職に対して「そこまで前向きではなかった」というが、「やるからにはしっかりとやろう」と決心した。チームとしては、団体戦での勝利のため、「選手、サポートメンバー問わず、全員で戦っていくことができる集団」を目指した。主将としては、常にチーム全体に目を配らなければならないことに苦労したという。そんな中迎えた8月のインカレ。女子部から多くの部員が上位に進出した。ダブルスの決勝では石川・吉岡組と神鳥舞(スポ3=東京・早実)斎藤優寧(スポ2=岡山学芸館)組の早大対決が実現。軍配は神鳥・斎藤組に上がり、悔しさや連覇の難しさを感じた一方で、決勝での早大対決が実現したことに嬉しさも感じた。

 言葉だけでなく、プレーやテニスに取り組む姿勢でチームを引っ張った

 女子部全体として、好成績を残したインカレを終え、ついに始まった運命のリーグ戦。実力が拮抗している中でも、「どこかいけるんじゃないかという期待があった」。その期待通り開幕から2連勝。試合ごとに出た課題もチーム全体でクリアしながら戦うことができていた。しかし3戦目の慶大戦で敗れたことで風向きが変わる。王座進出に向けて、崖っぷちの状況で迎えたアウェイでの筑波大戦。悪天候で2日間に渡ったこの1戦を勝ちきれず、王座への道が途絶えてしまった。「当時はいっぱいいっぱいだったけど、それまでの1年間でもっとやれることがあったのかなという後悔が今となってはあります」と振り返る。リーグ終了後には「1年間ついてきてくれてありがとう」と部員たちへの感謝の言葉を伝えたという。

 リーグ戦を終えて数ヶ月が経った昨年12月。石川も金子さら紗(スポ1=埼玉・浦和麗明)とペアを組み出場したインカレインドアでは早大女子が単複で1位、2位を独占。部内で高め合ってきた日々が実を結び始めている。卒部式では、後輩たちへ「王座を目指す機会があるのだから、一日一日を無駄にせず頑張ってほしい」と思いを託した。

 テニスに取り組む姿勢やプレーでチームをけん引してきた石川が、庭球部での4年間を振り返る一文字に選んだのは『学』。「組織として目標に向かっていく中で本質から逸れず、その時々の問題にも対処しながら、道を外さずに進んでいくための考え方を学んだ」という。卒業後はテニスから離れるという石川だが、社会人生活においてもこの『学び』を生かして歩んでいくことだろう。良きライバルとして、そして何より同じ目標に向かっていく仲間として、切磋琢磨(せっさたくま)してきた後輩たちが『王座奪還』の悲願を達成する日を信じて。

(記事 佐藤豪 写真 佐藤豪、山床啓太氏)