ラストイヤーを迎え、いまやワセダのエースとなった岡村一成(スポ4=岡山操山)。練習を重ね、今季急成長を遂げた梶修登(政経3=東京・早実)。そしてこの1年主務を務め、選手たちの活躍を支えてきた有田慎平(教4=東京・早実)。それぞれ立場が違う中、全日本大学対抗王座決定試合(王座)に対しどのようなことを感じているのだろうか。
※この取材は10月15日に行われたものです。
「団体戦に出場。勝利、そして敗北」(梶修)
岡村(左)、梶修は今季、団体戦のダブルス出場を初めて経験した
――王座開幕まで1週間となりました。現在のチームの状況はいかがですか
岡村 王座が近付くにつれて活気が出てきて、みんなで最後頑張ろうというふうになっています。毎日、練習がすごくきついのですが、みんなの一体感が出てきたと思います。
梶修 王座はみんなで目指してきた最後の大会なので、それだけかける思いも強いです。練習もすごくハードで長いですし、全ての時間や体力を王座にかけています。また練習している選手だけでなく、試合に出ないメンバーもボールを拾ってくれたりコートサイドでアドバイスしてくださったり、総力戦で挑むということは全員の心の中にあると思います。
有田 最近あんまりコートに立っていないのでテニスのことは少ししか見られていないんですけれど、リーグ戦(関東大学リーグ)が終わってからみんなきつい中やってきています。疲労が蓄積しているはずなのですが、練習の最中や終わりはリーグ戦のときよりも『みんなで』という雰囲気があります。良い意味でまとまっている傾向にあるので、さらにまとまっていけるように。これから調整して、疲労が抜けたときの力に期待したいです。
――主務としての仕事が多いのでしょうか
有田 そうですね。もちろん主務も1サポートです。頼りがいのある主将副将が引っ張ってくれていて、女子の主務も主将と兼任なので、その分そちらもサポートしています。
――今シーズンの試合を振り返っていかがですか
岡村 ことしが最後なので、全部出し切って一番良い成績を残したいと思って臨みました。その結果それが続いた感じです。春関(関東学生トーナメント)ダブルス優勝などはうれしかったです。インカレ(全日本学生選手権)は両方決勝に進むことができて、両方準優勝で終わってしまいました。目標に届かなかったことは残念でしたけれど、出し切ることはできました。
――いままでよりも好成績を出せていると思いますが、その要因は何だと考えていますか
岡村 いままでやってきたことを出せて、気持ちの面で最初から優勝をつかみに必死にいった結果だと思います。つかむことはできませんでしたが、そこまで勝ち上がれたことにつながったと思います。
――梶修選手はいかがでしたか
梶修 ダブルスではすごく大きな舞台を経験させてもらって、団体戦にも出ることができました。初めて連続で試合に出場して、振り返ると1年前からは考えられなかった向上でした。シングルスはインカレで竹内選手(遥丞、法大)に勝てたことがすごく自信になりました。結果が出るまではうまくなっているか分からなかったのですが、いまはもっと戦えるという気持ちがあり、勝ちを通して得たものがありました。
――これまでに経験のない大舞台だったと思いますが、緊張はありましたか
梶修 決勝だけでなく、緊張する試合が多くて…。それを乗り越えられたときも自分の実力を発揮し切れなかったときもあったのですが、常に緊張しながら戦っていました。
――有田主務から見て、部員たちの戦いぶりはいかがでしたか
有田 春関とインカレは毎日会場に行って、インカレにおいては全員の試合を見ることができました。みんな油断せずに試合に臨めたというふうに思っています。いままでのように上位独占やタイトル総なめということはありませんでしたが、試合に全力で取り組んで、負けてしまったら課題を見つめ直す姿勢は全員が取り組めているのではないかなと思います。逆に取り組めていない人がいたら、周りが注意し合うという環境をつくり出せています。
――関東大学リーグ(リーグ戦)を振り返ってみていかがですか
岡村 いままでで一番プレッシャーのかかったリーグ戦でした。まずダブルスに関しては、第四戦までは自分たちのやるべきことをやれました。第五戦で思うようにいかないときに対応できず負けてしまって、そこは課題としてあるので、王座でリベンジしたいです。シングルスは負けもありましたが自分の精一杯は出し尽くせました。明大戦や法大戦の大事なところでしっかり勝てたことは、いままで団体戦を得意としていなかったので個人的にすごく大きかったです。ただ中大戦で負けていますし、まだ不安定なところもあります。課題が残ったリーグ戦ではあったのですが、全体としては不安定な状態で臨んだ中で勝てたことは大きいです。しかし次やったら勝てるという保証もない戦いだったので、そこは反省点としてあります。
梶修 リーグ戦デビューと、初めて団体戦での負けと、両方味わいました。リーグ戦は長期にわたる試合です。ダブルスにしか出ていなくても、徐々に相手が強くなっていく中で、常に次の試合、次の試合と考えて勝っていかなくてはいけません。その点はトーナメントとは違うところだと思いました。チームが明大、法大、慶大と競った試合をしていた中で、負けられない戦いで負けてしまいました。団体戦が好きなだけに、団体戦で負けるということがすごく悔しかったです。出ている以上は絶対に勝って、チームの勝ちに貢献することを強く思っているのですが、リーグ戦では1試合負けてしまいました。いまはその悔しさを忘れずにやっています。
――岡村選手、梶修選手ともに団体戦でのダブルス出場は初めてということで、意識に違いはありましたか
岡村 もう団体戦となると全く違いますね。特にダブルス1とダブルス3の状態もそこまで良くなかったですし、ダブルスでリードすることがチームとしても大きかったです。自分たちは絶対に取らなければいけないという思いがありました。4戦目まではそれが良い方向に向いて勝てたのですが、5戦目では悪い方向に向いてしまいました。
梶修 春の早慶戦(早慶対抗試合)やリーグ戦の前半ではスコアも結構離すことができて、良い精神状態で戦えていました。しかし、プレッシャーや、その他いろいろなものも背負ったときにそれをはねのける力がもっと必要だと感じました。個人戦ではなく団体戦で、大人数の仲間の気持ちや早稲田大学という王者の使命を背負ったときに、それだけ乗り越えなければいけないものも大きいと感じました。
――有田主務はリーグ戦に関して、どのような感想を持ちましたか
有田 2人も言ったんですけれど、気持ちを切らすことが一番してはいけないことで、それが非常に難しいです。みんなそんなに良い雰囲気で終われたとは言っていないはず。振り返ればそれぞれ自分の貫き通すものがなく、完成できていなかったから長期間のリーグ戦が厳しかったのだと思います。いろいろ話す中でそういう話がでたのですが、いまは逆にそれを生かして軸が決まってきて、少しずつではありますが良い方向に向かっています。これから1週間、試合になっても軸を貫き通すことをチームでやっていきたいです。
「できることをやる」(有田主務)
和やかに行われた岡村(左)、有田主務(中央)、梶修の取材
――岡村選手は卒業後プロになるということですが、それを決めたのはいつごろですか
岡村 完全に決めたのは昨年の筑波フューチャーズ(筑波大学国際トーナメント)の大会の後あたりです。進路を決めなくてはならず迷っていたのですが、そこで少し成績が出ました。個人的にもすごく努力していた時期で。自主練も有田と2人でやっていてそれが実になって結果が出たときに、今後もできるところまでチャレンジしたいと思うようになって決めました。
――決断後に意識の変化はありましたか
岡村 はっきり言うと成績が欲しいですし、これから続けていくうえで練習も適当にできないですし、試合も簡単に負けることは許されません。1日も無駄にできないので、だいぶ一生懸命生きるようになったと思います。
――岡村選手の妹さんはプロに転向されたということですが、刺激を受けることはありますか
岡村 妹が頑張っていたら、自分も負けないように頑張らなくてはというのはもちろんあります。でも実際には向こうが先にプロにいって、自分は大学でやっているだけで、負けているとは思っていません(笑)。
――有田選手との自主練はいつごろやっていたのですか
有田 2年生の終わりだね。
岡村 3年生になると雑用もなくて、4年生みたいにチームの仕事を請け負うこともなくて、時間ができます。そのときに少し頑張ろうと。僕からなんですけれど、なかなか乗ってくれる人がいなかったので(笑)。慎平ならやってくれるだろうと思っていました。僕は実家に住んでいたのですが、同じ寮に住まいを変えました。
有田 実はいま、同じフロアに有田、今井(慎太郎、スポ3=神奈川・湘南工大付)、小倉(孝介、スポ1=神奈川・湘南工大付)、岡村と並んでいます。
岡村 それでランニングだったり練習だったり、慎平の就職活動までは毎日時間を見つけてやっていました。
――有田主務は率先して練習相手を引き受けたのですね
有田 でも1年のときから、いまはしなくなった大城(光主将、スポ4=埼玉・秀明英光)と3人でよくやっていました。自主練はする人としない人がはっきり分かれていて、同期の中では大城、岡村、有田は比較的よくやっていたのでその名残で練習していました。
岡村 そうだね。僕の練習台とかでは全然なくて、お互いに成績を上げるために好きな練習をしていました。
――有田主務はいつ寮に入ったのですか
有田 最初は埼玉の実家から通っていたのですが、片道1時間半かかります。大したことないかなと思ったら、往復の3時間は結構大きくて。無理だなと思って、1年の夏に一人暮らしを始め、ご飯がないのはきついと思って2年の初めから寮に入りました。(コートが)10時まで使えるので、どちらかが帰ってくるのを待って夜に自主練ができました。体重激減したけど(笑)。
岡村 そうなの(笑)。
――ところで有田選手と梶修選手は同じ高校の出身ですが、高校時代から印象は変わりましたか
有田 変わっていないですね。梶とは1回ダブルスを組みました。でもこのペアは使ってもらえず、悔しい思いもしました。
梶修 僕から頼みましたね。
有田 そのときにダブルス1だったペアに勝ってベスト4に入ったのですが、あまり評価されなくて(笑)。俺は捨て駒で団体戦を戦いました。
――そのときのことは覚えていますか
梶修 はい。2人ともサーブで点を取って、ワンブレークで勝っていました(笑)。
有田 自分がボレーに出られず、リターンも全然入らなかったので、梶のリターンが入ったときに僕が必死に取って1回ブレークして。あとはファースト(サーブ)頼みという感じでした。そのときから(梶修は)自分のワールドを持っていました。良い意味でのワールドです。ワセダのレギュラーともなると変わってきそうですけれど、それでも変わらないのがこいつの良いところだと思います。この後の王座でも、来季4年生になっても、そこは変えてほしくないなと。
梶修 自分でワールドと思ってないので…。
有田 そこがワールドなんだよ(笑)。
――梶修選手から見た有田選手の印象は変わりましたか
梶修 高校のときは、ライバルではないですけれど、だいたい有田さんの成績の方が上だったので、同じチームの中でもレギュラー争いをしていて、その印象が強いです。大学では仕事をしていたり後輩の面倒見がすごく良かったりという姿を見ていますが、一番は底知れないキャパシティーがあると思っています。高校のときは気付きませんでした。
有田 高校のときは何も言わない先輩だったしね。
――自身でも変化を実感していますか
有田 高校では自分のことを好きな人が多く、口出しする必要がなかったということがあります。あと自分自身も選手で、団体戦で全然勝てていなかったので、勝ちたいなという方向に気持ちがいっていました。でも大学に入ったら戦力になれるわけではないので、できることをやっていこうと思ったときに自然とそうなりました。
「ワセダのナンバーワンとしての自覚」(岡村)
岡村はインカレで単複ともに決勝進出。エースとして王座を迎える
――徐々に話を戻していきたいのですが、王座を直前に控えたいまの率直な気持ちはどのようなものですか
岡村 僕の場合当たる相手が強いということは決まっています。その中でも今回は1敗も許されないので、単複で必ず2勝しなければいけません。プレッシャーがすごくある中、毎日一生懸命に練習しています。近くなってきたから緊張するということではなく、試合が来ることは決まっているのでやらなければという気持ちです。
梶修 岡村さんと似ていて、試合があることは分かっているので、いまはそれに向けて激しい練習をしています。一つ一つの練習を一生懸命やっているというところが強いですね。団体戦に出て勝ちも負けも経験して、そのときの悔しさを考えると、王座では絶対にこのチームで優勝するという気持ちを持つことと、いまできることを一生懸命やるということの2つを思って取り組んでいます。
有田 この仲間で戦えるのはあと1週間と少ししかないという思いがあります。なによりいままで先輩たちにいろんな経験させてもらってきていて、特にこの王座優勝は特別なものです。自分の立場としていろいろ考えると、後輩に、王座優勝、そして王座連覇というものを経験させてあげたいです。自分は戦力にはなりませんが、選手は絶対に緊張するので、ゆっくり背中を押してあげられるように頑張りたいです。
――いま有田主務の答えにはありましたが、岡村選手、梶修選手は、自身の役割は何だと考えていますか
岡村 ものすごく憧れていたワセダのシングルス1として出るのですが、ワセダのナンバーワンがどのような意味を持つのか自覚して戦わなくてはいけないと思っています。ただやりたいように試合をするのではなく、ワセダの看板として戦えるようにしたいです。もちろん4-4になったときは自分に懸かっているわけですし、柱となって戦いたいです。4年生としてもしっかり引っ張っていけたらなと思います。
梶修 もう一度初心に帰って、チームに勢いと元気とを与えることが、自分がいままでやってきた戦い方だと思います。それを今回の王座でも自分の役目だと思って、表現したいと思います。
――有田主務は、先ほどの答えは下級生に向けたものでしたが、他に何か考えていることはありますか
有田 (試合前の円陣で)かまないでオーダーを読み上げることです。
梶修 注目ですね(笑)。
有田 自分の中ではチームに活気を与えられる唯一の機会といいますか、結構重要で。そこでチームに活気を与えたいと思っています。普段としては、団体戦の中でもいろいろなことが起こるので、それに対処できるようにしたいです。ダブルスのベンチコーチにも入っていないですし、熱くなって全体が見えなくならないように。冷静になります。
――では最後に、王座に向けて意気込みをお願いします
岡村 本当に最後なので絶対に悔いのないように、勝って終わります。
梶修 自分は全勝してチームは王座優勝して、4年生を送り出したいと思います。
有田 元気よく自分たちらしくやって、良いかたちで送り出してもらいます(笑)。
――ありがとうございました!
(取材・編集 細川香衣、松下優、吉原もとこ)
王座において意識することを言葉にしていただきました!
◆有田慎平(ありた・しんぺい)(※写真中央)
1992(平4)年12月25日生まれ。172センチ、69キロ。東京・早実高出身。教育学部4年。以前書道を習っていたという有田主務。色紙に書く際にはサインペンを筆のように扱って、とてもきれいな字を書いてくださいました!
◆岡村一成(おかむら・いっせい)(※写真左)
1992(平4)年5月26日生まれ。172センチ、65キロ。岡山操山高出身。スポーツ科学部4年。今季の主な実績は関東学生トーナメント男子シングルスベスト8、男子ダブルス優勝、関東学生選手権男子シングルスベスト8、男子ダブルスベスト8、全日本学生選手権男子シングルス2位、男子ダブルス2位。全日本学生ランキング男子シングルス7位、男子ダブルス6位(2014年10月15日現在)。この日の練習は実に12時間に及んだという岡村選手。お忙しい時期に取材を受けてくださり、本当にありがとうございました!
◆梶修登(かじ・しゅうと)(※写真右)
1993(平5)年8月22日生まれ。180センチ、72キロ。東京・早実高出身。政治経済学部3年。今季の主な実績は関東学生トーナメント男子ダブルス優勝、関東学生選手権男子ダブルスベスト8、全日本学生選手権男子ダブルス2位。全日本学生ランキング男子シングルス35位、男子ダブルス7位(2014年10月15日現在)。東伏見のコートまでは、自宅から自転車で20分ほどという梶修選手。自由な時間を増やせれば、まだまだ伸び白がありそうです!