【特集】2014ITTFパラ世界選手権事後特集――岩渕幸洋インタビュー

卓球ダブルス

 早大卓球部には将来のパラ五輪選手として活躍が期待される選手が居る。岩渕幸洋(教2=東京・早実)は、昨年度国際クラス別肢体不自由者選手権で準優勝、ジャパンオープン2連覇という輝かしい成績を残した。そして今回、9月6日から15日まで北京で開催された2014ITTFパラ世界選手権(パラ世界選手権)に出場。目標としていたベスト8には届かなかったものの、12位と奮闘した。初の大舞台を経験した岩渕に、パラ世界選手権の振り返り、障害者卓球の現状、そして2年後のリオデジャネイロパラ五輪(リオパラ五輪)に向けてのお話を伺った。

※この取材は9月26日に行われたものです。

「自分より重い障害の人が一生懸命卓球をする姿を見て、本当にすごいと思った」

笑顔でインタビューに応じる岩渕

――卓球を始めたきっかけを教えてください

中学の部活で何にしようかなという時に、たまたま卓球を選びました。小学校の時に公民館でやっていたくらいだったので、本格的に始めたのは中学1年生の時です。

――卓球の魅力は何ですか

結構頭を使うスポーツなので、体力的な面もそうですけど、技術とか戦術とかも大事になってきます。だから体格的に劣る人でも、頭次第で大きな選手にも勝つことができますし。そういうところが魅力だと思います。

――中学で卓球を始めてから、ターニングポイントとなることは何かありましたか

最初は障害者卓球のことも全然知りませんでしたが、中学3年生の時に初めて教えてもらって。初めて試合に出た時は本当にびっくりしました。自分よりももっと重い障害のある人や、日常生活も大変なのではないかというくらいの人も一生懸命卓球をする姿を見て、本当にすごいなと思いました。最初はその独特な卓球に全然何もすることができなかったんですけど。そこに最初に声をかけてもらって出場したということが一番大きかったかなと思います。

――中学から早稲田実業に通われていますが、元々早大への憧れはあったのですか

そうですね、中高一貫校を目指していて。たまたま親の意見に頷いていたら、気付いたらたら早実にいました(笑)。

――中高時代と、大学の卓球で違いはありますか

考えるようになりましたね。昔は、いま思えば全然考えてなかったなと最近気付きました。

――早大卓球部の雰囲気はいかがですか

スポーツ推薦で入ってきた人も居ますし、普通に勉強で入ってきた人も居ます。いろんな人が居て、それぞれに役割があって、すごくまとまってるなというふうに思います。実力的に差はありますが、各々の役割があってすごく仲良く、良い環境です。

――憧れの選手は居ますか

大島さん(祐哉、スポ3=京都・東山)です。

――大島選手のどのようなところに憧れますか

大島さんはすごく真面目なんです。見た感じは真面目そうには見えないかもしれないんですけど(笑)。卓球に対する姿勢がものすごく真面目なので、尊敬しています。

――大島選手のような強い選手と練習する上での大変さはありますか

いや、大変さとかは全くないですね。すごくレベルの高い人と、声を掛けたら(練習を)してくれるので、すごく良いです。

――特に仲の良い部員さんはいらっしゃいますか

同期だと工藤(佑哉、スポ2=群馬・前橋育英)とかですかね。うーん、みんなと仲良いです(笑)。

――学業との両立は大変ですか

試合で海外に行くと、1週間単位で(授業が)抜けてしまって大変なんですけど、なんとかやっています。両立できているかと言えば少し難しいですけど、頑張っています(笑)。

――試合前はいつも緊張しますか

そうですね。でも試合が始まったら緊張せずにできる方なんですけど、やはり今回の世界選手権は、最初の1、2試合はちょっと緊張したかなというのはありますね。

「(強い選手にも)工夫次第では勝てようがあると思う」

関東学生チームカップでの岩渕

――初めての世界選手権を振り返っていかがでしたか

日本人だと声を出したりするんですけど、普段ヨーロッパの人たちは淡々と静かに試合をするんですね。でも今回の世界選手権では、いつも紳士的というか、ひょうひょうと試合をするヨーロッパの選手たちも声を出していて。一本に対して食らい付いていく姿勢がいつもとは違いましたね。

――パラの大会と一般の大会ではどのような違いがあるのか教えてください

障害のクラスによって10個に分かれています。1から5が車いす、6から10が立位というふうに分かれているのですが、自分はクラス9で2番目に軽いクラスでやっています。障害によってできる、できないがはっきりしているので、その弱点をうまくつければいいと思うんですけど、相手も自分の体を分かっているので。ここからは動けないとか、ここを攻められたら弱いとか、相手も自分で分かっているので、いろいろな工夫が必要です。

――戦う相手によって工夫が必要なのですね

そうですね。やはり健常者とは全然卓球が違うので。すごく変なボールを出してきたりします。

――卓球が全然違うとおっしゃっていましたが、大会前に大学で調整するのは大変ですか

すごく大変ですね。こっちでもイメージして練習しているんですけど、いざ向こうに行ったら
おかしいとかありますね。

――部員に練習相手になってもらうのですか

はい。みんなにビデオを見せて、リクエストして、やってもらっています。

――今回の12位という結果に対してはどのように捉えていますか

目標がベスト8だったので、予選リーグを抜けられたことは良かったんですけど、決勝トーナメントでもう1回勝ちたかったというのはあります。あと団体戦でも0勝3敗だったんですけど、フルゲームの9とフルゲームのジュースの16本で負けたので、その2試合がポイント的には痛かったと思います。

――一番印象に残っている試合は何ですか

団体戦のウクライナ戦の1番ですね。この間のルーマニアオープンでは勝った選手なのですが、世界ランクがその時は2位でいまは4位なんですけど、今回も勝てたらポイント的にも大きく取れるのですごく意気込んでいました。でもフルゲームで負けてしまったので痛かったかなと思います。

――今大会での収穫や課題はありましたか

人数が少ないので当たる相手は限られてくると思うんですけど、その中で全員集まる大会というのはすごく珍しいことで、トップ同士の試合を見れたということは今後の研究材料として、これからもっと対策を練ることができるんじゃないかなということは収穫です。

――普段から海外遠征によく行かれていますが、やはり世界選手権は他の大会と違いますか

そうですね。大会の人数が多いですし、やはり独特の雰囲気があります。最初の予選リーグから、オープン(の大会)で言うと決勝レベルの試合が行われるので。

――これまでの海外経験を経て学んだことはありますか

現地に行ったら基本はコーチも付いていなくて選手だけで行くので、やはり自己管理をする力ですかね。試合のスケジュールとかもしっかり自分で見て、英語の監督会議にも出たりしているんです(笑)。

――英語の勉強はされているのですか

中学、高校の英語くらいですね。しゃべる分には難しい文法は必要ないので。とりあえずハイタッチしておけば友達になれると思っています(笑)。

――海外の選手の情報はどのようにして得ているのですか

情報は自分の目で見るくらいですかね。人に聞いても実際に見ないと本当に想像もつかないような戦略であったり、相手の障害の度合いによっても違うので。やはり自分の目で見てビデオを撮って持ち帰るというのが一番ですね。

――現在ジャパンオープンで2連覇中ということで、国内トップという位置づけになりますか

そうですね。でも11月にもクラス別の大会(国際クラス別肢体不自由者選手権)があるのですが、そこではまだ優勝したことがありません。どちらかというとそちらが全日本で重要なのですが、そこで勝ったことがないので、まだですね。

――日本のトップを目指すようになったのはいつですか

(国際クラス別肢体不自由者選手権に)初めて出たのが高校1年生の時でした。その時は第1シードの下に入ったのですが、その第1シードに勝ってしまって。1位上がりしたんですけど反対側の第2シードの人が2位上がりで僕の下に来て、その人に負けてしまって上には行けなかったんですけど、その時ですね。結局自分に勝った人が優勝したんですけど、それで自分も上を目指せるんじゃないかと思って頑張ろうと思いました。

――卓球をしてきて良かったなと思うのはどんな時ですか

やはり試合に勝つことですね。

――今回世界選手権に出場してみて、さらに上を目指せると思いましたか

はい、思いました。一般の試合だともう相手に勝てそうにないというのがあるのですが、障害者の試合だとどこかしらみんな悪いので、もっと工夫次第では勝てようがあるのではないかというのはすごく思います。あとは相性があるので。プレースタイルによって相性の差というのがすごく出るので。ウクライナの選手はランキングが結構高いんですけど、自分は相性が良いと思っていて。そういうふうにして、ランキング上位の強い選手も食っていけるのではないかなと思います。

競技の認知度向上や環境整備、そしてリオパラ五輪に向けて

――2年後にはリオデジャネイロパラ五輪がありますが、それに向けての思いを聞かせてください

ヨーロッパなど海外の選手はプロでやっている選手が多くて、若い時からも試合に出ているのですが、一方で日本はそういうのが遅れていて、競技の認知度や環境の違いがすごく大きいと思います。自分みたいに障害者卓球を知らなかった人も多いと思うので、自分がしっかり結果を出してアピールして、注目をされることで、もっと環境が良くなったり層が厚くなったりすればいいなと思います。まずは、らいげつにアジア大会があるので、そこで良い成績を出せるように頑張りたいと思います。あとは日本の障害者の卓球協会って、普通の卓球協会と資金面でもすごく差があるんです。他の国だったらコーチが何人も居るのですが、日本はいま監督不在というかたちなので。あとは基本参加が自費なので、競技はできても仕事との兼ね合いでやめざるを得なかったりとか、出る大会が限られてしまったりとか、苦労している人が多いです。大きな試合は(資金が)出るのですが、その大きな試合に出るためにはオープン(の大会)に行かなければならないので。自分もいま部費から出していただいたりOB会から出していただいたりして、なんとか続けていられる状況なので、少しでもそういうところが変わればいいなと、もっと強くなるんじゃないかなと思います。

――大学でのご自身の目標を教えてください

大学4年生の時にリオパラ五輪があるので、ことしとらいねんがリオパラ五輪に出るための選考の年になります。ことしはもうアジアパラ五輪だけになってしまったのですが、少しずつ世界ランクも上がってはいるので、らいねんの大会でも一つでも勝っていきたいです。

――世界ランクはいま何位ですか

一番低い時が24位でしたが、いまは少しずつ上がって9月時点で21位です。

――リオ五輪での具体的な目標はありますか

今回の世界選手権は18人が出場できるのですが、リオ五輪になると16人になってしまうので、まずはランキングをことしとらいねんでトップ10に入れるようにして出場権を獲得することです。リオ五輪ではメダルを取ることを目標にしています。

――最後に読者へのメッセージをお願いします

実際に見ないと分からないんですけど、やはり上のクラスになると左足がなくて、両手もなくて、ラケットも残った腕にくくり付けて卓球する人も居たりして。そういう人のプレーを見ているとすごく感動します。そういうのを知っていただきたいなという思いがあります。

――ありがとうございました!

(取材・編集 石川諒、稲満美也、加藤万理子、三井田雄一、写真 加藤万理子、尾澤琴美)

色紙には大きく『世界一』と書いてくれました!

◆岩渕幸洋(いわぶち・こうよう)

1994年12月14日生まれ。162センチ、56キロ。東京・早実高出身。教育学部2年。右シェーク裏・表。海外遠征には必ずマジックライスを持っていくという岩渕選手。海外に行くと、やっぱり白米が食べたくなるそうです。