【大学スポーツ×世界水泳】大会事前インタビュー⑤ 田中大寛/世界選手権2023福岡大会

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【大学スポーツ×世界水泳】大会事前インタビュー⑤ 田中大寛/世界選手権2023福岡大会

 

 世界最速決定戦に大学生スイマーが参戦だ。7月14日より開幕する世界選手権2023福岡大会(以下、世界水泳)。今大会は2001年以来22年ぶりの自国・福岡開催であり、日本では2年前の東京五輪以来の大規模大会となる。そんな世界水泳において注目されるのが、若い世代の台頭だ。今大会では競泳代表40人のうち現役の大学生選手が12人を占めるなど、数多くの大学生スイマーが日本代表に選出されており、その活躍に大きな期待がかかる。
今回、私たち7大学新聞は、世界水泳に合わせた合同企画【大学スポーツ×世界水泳】を実施。同年代の若きスイマーの事前インタビューを順次発信していく。今夏、世界を舞台に活躍する大学生スイマーに、あなたもぜひ注目してみてはいかがだろうか。
本記事は合同企画第5弾。早大から競泳・男子リレー代表に選出された田中大寛(スポ4=大分・別府翔青)の事前インタビューをお届けする。

※この取材は6月13日に行われたものです。

自分の中でワンステップ上がれた

――日本代表として世界水泳に挑むことの、率直な気持ちを教えてください

 一番上のカテゴリーの代表、A代表をずっと目標にしてきて、大学4年生にしてやっと代表に内定できたことは、本当に素直にうれしいです。緊張はそこまでしてないというか、チャレンジャー側なので何も考えず、日本代表の自覚と、早稲田大学代表という自覚をしっかり持って挑める試合だなと思います。

――代表が決まったときの周りの反応は

 家族や、指導者の方はもちろんですけど、中高の友人だったりとか、SNSなどでお祝いのメッセージをくれる方がすごく多かったので、そういったことも代表に入ったという実感につながりました。

――世界水泳は地元・九州での開催ですが、地元にいた時に関わりがあった方からのお祝いはありましたか

 そうですね。「チケット取って行くよ」というのが一番多かったので、地元・九州での世界大会をものにできたのは、本当に自分の中でも大きかったかなと思います。

――これまでもカテゴリー別での世界大会には何回も出場していますが、A代表の心持ちはやはり違いますか

 ユニバ(現世界ユニバーシティー大会)は2回(代表に)入ったんですが、全部延期というかたちになりました。大学2年生の時は東京オリンピックを目標にしていたのですが、うまく力が発揮できず、代表内定とはならなくて。ずっと悔しい思いがあったので、その中でつかめた世界水泳の代表というのは、自分の中でワンステップ上がれたのかなと思います。

――A代表を意識しだしたのはいつ頃からですか

 東京オリンピックが一番最初かなと思います。強豪校の早稲田に入って、まずは、東京オリンピックという一大イベントがあって、そこの代表を一番の目標にしていました。大学2年生の時、本気でA代表というものを意識し始めたかなと。

――早大に入って、周りからはどのような影響を受けましたか

 早稲田の練習環境は、渡辺一平さん(平30スポ卒=現トヨタ自動車)だったり、オリンピアンの方が早稲田で練習してる時に「自分もああいうふうになりたい」と、いい刺激ももらってました。僕は高校生までは同世代だったら、日本一を取っていたので、大学に入ったらA代表にしっかり入りたいという気持ちは、高校3年生ぐらいの時からありました。大学に入ると身近にそういう存在がいたので、より現実味を帯びた環境で、本当に(A代表に入りたいと)強く思うようになりました。

変えないと、殻は破れない

一つ一つの質問に対して、丁寧に答える姿が印象的な田中

――選考会となった日本選手権についてうかがいます。他の早大の選手と世界水泳の代表について話していましたか

 須田(悠介、スポ4=神奈川・湘工大付)とはお互いが代表を狙える位置だったので、「入りたいね」とか「何秒出せば入れるかな」という会話は結構していました。

――200メートル自由形について、「前半の100メートルが課題」だと話していましたが、それはどのような意識からですか

 まず正直高校生までだったら、多少前半を抑えても後半上げれば追いつけたり、大学でもインカレ(日本学生選手権)だと、前半の100をためて後半あげるというレースが通用します。ですが日本選手権となると、周りの大人の人たちも、日本のトップの選手たちなので。レースをする時に、高校までは前半を抑えて後半で追い上げるというレース展開だったので、そのレース展開を日本選手権でも大学1年生くらいまではやっていました。ただ、それが通用しないな、というのは実感していました。前半でものすごく置いていかれるし、後半あげても全然追いつかない。日本トップに立つにはもう通用しないレース展開なのかな、というのを感じていたので、大学2、3年生あたりから、前半から積極的にというレースを理想としようと思いました。それがちょうど、この前の日本選手権は一番理想的なレースだったと思います。

――泳ぎを変えようと思ったきっかけはありますか

 自分の中では、東京オリンピックの選考会が一番印象が強いです。あの時は、前半抑えるというレース展開だったんですが、自分のレースをした結果、それが通用しませんでした。「もうこれじゃ無理なんだろうな」と、自分の中で限界を感じていたので、何かちょっと変えないと、殻は破れないのかなと思いました。

――しばらく自己ベスト出してなかった中での日本選手権でしたが、自己ベスト更新や代表権獲得への自信はどのくらいありましたか

 正直、ベストが出る気しかありませんでした。須田と一緒で、僕も4月の日本選手権は初めて代表に入る(ことへ)現実味が帯びた試合だったので、その気持ちもあってモチベーションが高く、練習から1カ月間ずっと調子が良かったので、間違いなくベストが出る状態で、それを出すだけだと思っていたので自信がありました。

――気持ち的にはポジティブに臨んでいたのでしょうか

 そうですね。自信はあったのでポジティブではあったんですけども、それに伴って不安も大きかったかなと。朝起きて、もう朝ごはんを食べる時から緊張して、平常心はそこまで保てていなかったんじゃないかなと思います。緊張もずっとしていましたし、レースのことしか考えられなかったので、リラックスはできてませんでした。ですがその中で100%の結果を出したというのは、ものすごく成長を実感できました。

――以前全国大会になると緊張するという話をしていましたが、緊張はまだしますか

 基本緊張しいなので、別に全国大会ではない記録会でも、記録を狙いに行くというだけで緊張はします。確かに、全国大会はすごく弱かったんですけど、今は自分の実力が上がって心に余裕はできているので、緊張はしますが、困ったり弱気になることはもうないかなと。

――世界水泳の代表権が懸かった日本選手権までの中で、自分の泳ぎの成長につながるポイントはありましたか

 大学3年生のインカレが終わってから初めて、ウエートトレーニングを始めて。今まで、ウエートトレーニングに触れていなかったので、(当時は)週1で数は少ないですけど、そういった今までやってなかったことを始めた選択は、間違っていなかったのかなと思います。

――ウエートトレーニングをすることによって、どのような効果がありましたか

 水中で与えられない負荷を与えられるし、自重ではなく重りを持つことで、自分の体重以上の重りでパワーを出せます。インカレが終わってから、筋力強化をもう少し重点的にしていこうと思ったので、それをうまくできて、結果に繋がっているのかなと思います。

いい意味で失うものはない

世界でどのような泳ぎを見せるか期待がかかる

――代表合宿などが始まっている中、大会に向けて今取り組んでいることはありますか

 4月の日本選手権までに強化していたこととは、特に変わらずにやっています。もちろん世界になると、スピード感は日本よりはるかにレベルの高い、前半のスピードや次元の違う後半の強さがあると思うので、シンプルに泳力強化をしています。また、続けてきているウエートトレーニングは重りを増やして、今まで以上に負荷をかけたり。あとターンなどの細かい技術は課題になるので、改善しています。

――代表合宿で得たものや、他の選手から受けた影響はありますか

 日本選手権後代表で合宿があったんですが、正直その合宿は、ほぼ泳いでなくて。派遣の手続きだったり、講習会を受けたりといったことがメインでした。全員が集まるのが世界水泳の直前合宿しかないので、感銘を受けたことはまだないです。

――全員が集まらないとなると、リレーの練習はどのようにやっているのですか

 5月末から1週間ほど、3人しかそろっていなかったのですが、リレーメンバーの合宿がありました。少し引き継ぎ練習をしたりとかですね。でも、どちらにしろ世界水泳前に、直前合宿が1週間以上あるので、そこで雰囲気を作れるかなと思います。今は各自が結果を出すために練習をしていると思います。できればどこかで連絡を取り合って一緒に練習する機会を作りたいなと思っているのですが、僕が就活の時期ということもあって、少し難しいかもしれないです。今できることを精一杯やろうという感じです。

――リレーについて、個人との違いをどのように感じていますか

 リレーはやっぱり安心感があります。一人じゃないし、心強いなと。僕、ちょっとリレーが得意なんです。リレーだと気分も上がるし、「こんな力持っていたんだ」というくらいのタイムで引き継いだ時もあります。リレーは個人種目よりリラックスして強い気持ちになれるかなと。個人種目は、本当に個人の問題なので、練習が積めていないところがあったり、不安があったりして気持ちが弱いまま望むと結果が出ないということがあるので、気持ちの影響がリレーと個人では結構違うのかなと思います。

――リレーで周りに迷惑をかけたなとか、ネガティブな気持ちになることはないのですか

 1回ありました。大学2年生のインカレで、個人に連覇がかかってたレースで3位に終わってしまって、かなり落ち込んじゃって。僕はその日の最後にリレーに出なきゃいけなかったのですが、個人の専門種目も調子悪いし、リレーは専門外のバタフライだったので、かなり不安や弱い気持ちのまま挑んでしまいました。リレーで引き継いでも、個人のベストタイムより遅いタイムで引き継いでしまったのが、悪い印象のレースです。

――では、リレーで良い結果を出すためのカギはどこにあると思いますか

 一人一人が持っている100%の力を出すというのが、まず当然のことです。やっぱり4人のチーム力、雰囲気作り、信頼関係ですね。「この3人のために頑張りたい」というのは、リレーではすごく大事になるのかなと思います。インカレとかだと、寮生活で毎日同じ人と楽しく生活していて、そんな人たちとリレーに出ると、「一緒に結果を残したい」「この大学に、この人に勝ちたい」とか、信頼関係が大切になるんじゃないかなと思います。

――世界水泳で、田中選手自身はどのような泳ぎを見せたいですか

 体が小さいので、世界に行くと日本よりもっと大きい人たちに見た目で、「こいつには勝てそう」と思われるのではないかなと。リレーということもあり、自分は得意な気持ちで臨めるので、引き継ぎで1分46秒台を出すことを目標に、力を合わせてパリ(五輪)の出場権をもぎ取りに行きたいなと思います。

――体格の小ささがある中で、どういった強みを出していきたいですか

 みんなは小さいことが不利だと思っていることもあると思うのですが、僕自身は小さいことは不利だとは思っていなくて、逆に強みなんじゃないかなと思っています。大きい人は泳ぐと水の抵抗を僕よりも絶対に受けるので、大きい人達が持っていない部分を僕は持っているので。タッチ差になったら負けるかもしれないですが、泳ぎに関してはそんなに関係ないんじゃないかなと。実際に日本ランキング3位ですし、強みは逆に小ささなのかなと思います。

――最後に、世界水泳をどのような大会にしたいか、一言でまとめるならどのような言葉を選びますか

 「チャレンジャー」です。代表の中で、僕はまだ個人で金メダルを狙うような選手ではなく、いい意味で失うものはないので。「チャレンジャー精神」で、初めて代表に行って、日本のトップの人達と、世界で戦うということもめったにない機会なので。「チャレンジャー精神」をテーマに、世界水泳で自分の力を発揮できればいいなと思います。

――世界水泳を前にして、今はどのような気持ちが一番大きいですか

 やっぱり、楽しみです。正直、不安はあんまりなくて。テレビで見ていた、日本の憧れの選手とチームを組んで戦えることはものすごく光栄なことなので、楽しみ、ワクワク感が強いです。得るものがいっぱいありそうなので、緊張はしますが不安はなく、光栄だなと思います。

――見てくれるであろう、水泳をやっている子供たちに伝えたいメッセージはありますか

 やっぱり、身長は関係ないよって。やってきたことが結果に出るし、身長が小さいから何をしなきゃいけないのかというのを、僕は追求してきたので。まずは見てくださっている小柄な選手には、かっこいいことは言えないですけど、勇気や希望を与えられたらいいなと思っています。

――最後に、世界水泳に向けての意気込みをお願いします

 地元・九州の開催ということで、中高の友人、家族、今まで指導してくださったコーチ、もちろん、今の指導者、大学の水泳部、僕と関係してくれてるいろんな人が今までにないくらい見てくれるので、その期待に結果と泳いでいる姿でしっかりと応えたいです。「この小ささでも勝てますよ」と、水泳をしている人にいい影響を与えて、応援してくれている人に良い思いをさせてあげられたらなと思っています。

(取材 新井沙奈、編集 田島璃子、新井沙奈)

◆田中大寛(たなか・たいかん)

2001(平13)年4月25日生まれ。168センチ。大分・別府翔青高出身。スポーツ学部4年。水泳部競泳部門のブログにて、最近風鈴を買ったという報告がありました!

【大学スポーツ×世界水泳】

 今回の世界水泳開催に合わせて7大学新聞が合同で、現役大学生の日本代表選手に事前インタビューを実施しました。この機会に、ぜひ多くの大学生スイマーのインタビュー記事をご覧ください。
[参加大学新聞]
明大スポーツ新聞部、早稲田スポーツ新聞会、近大スポーツ編集部、日本大学新聞社、スポーツ法政新聞会、中大スポーツ新聞部、東洋大学スポーツ新聞編集部