「アクションを起こしていくことが大切」
東京大会でパラ団長に就任した際の河合氏
――今回のパラリンピックでは水泳ももちろん、多くの選手が活躍された大会になったと思います。大会全体を振り返ってどのように感じられましたか
ちょうどオリンピックが終わったくらいからどんどんコロナの感染が増えたり、そもそも1年延期したり、前例のない中の大会になりました。なので、正直言って無事に終わってくれるといいなというのが一番でしたね。最初は大きなことがなく過ごすことができればそれ自体がもう金メダル級の快挙だと思っていました。でもそんな中、日本の選手たちが開催国としての利点を最大限活用しながら大活躍してくれたというのはとても大きな成果だったと思っています。
――今回は日本パラリンピック委員会の委員長として臨まれた大会ともなったと思います。それまでどのような活動に力を入れられましたか
委員長っていう立場もですけれど、就任した直後に団長も合わせてやらせていただいたので、どちらかといえば団長として大会に臨むという気持ちがありました。ただ、その前段階のところで委員長としてやっていたのは、教育に力を入れることですね。子どもたちに見てもらうことによって、社会をポジティブに変える原動力を、社会に種をまいておきたいという気持ちがすごくあって、力を注いで取り組んできていました。ただ、コロナの影響でなかなか学校に行けないとか、思うようにいかない部分も後半はあったなとは思います。
――学校と連携した感染プログラムに力を入れられていたとは思うんですが、やはり現場で感じる空気感や迫力からの教育的価値を考えてのことだったのでしょうか
同じ時間や空間を感じられたりとか、レース本番のシーンの見えているところってあると思うのですが、実はよそ見しながらも審判とかボランティアの子たちの動きを見ている子がいたり、その子なりの気づきがあるかもしれない。テレビにはカメラが向いた方向の編集されたつなぎ合わされたところでしか見えないけど、ここにこそポジティブな効果があると思います。自分の興味持ったり、応援したりしている選手のカメラにも映っていないようなシーンを眺めてまた気づくことができるというのは、声援が送れないまでも何かを感じてもらいたいというのがありました。
――やはり無観客試合というところは少し厳しいものがありましたか
毎日通勤している側として見ると、身近に人がいる中で普通にマスクしながら、消毒しながら働いているわけです。一方でプロ野球とか、そこに(観客が)入っているのを見ると、なんで(パラリンピックでは)ダメだったのかというのに対して、なかなか終わった後も含めて残念でならないなっていう気持ちはありました。
――観客を入れる試合が増えてきている中でのオリパラ開催でしたね
うん。だからやはり十分気をつけながら、できる範囲でやっていこうみたいな流れの中で、どこかでオリンピックやパラリンピックへの憎しみを持った人たちにすごくやられた感がありました。一部の人達からするとそういう声があったけれども、学校の子ども達や親御さんに見に来たいか聞くと、6~8割は行かせてあげたいし、見せてあげたい、見たいという声があったんです。もう何年でもリスクや格差をゼロにするというのは難しいわけで、その中で最大限準備をしたり注意を払ったり、見たいという気持ちの子どもたちの思いを実現する方法というのはもう少しなかったかな、というのはあります。
――様々な弊害がある中で、このような大会になってほしいという思いはありましたか
もちろん日本の選手が大活躍してほしいというのはもちろん、団長としては思っていました。ただ、やはり本当にこの大会を開催できたってことに対する感謝の気持ちも強かったし、新規の感染者と陽性者を出さないということを肝に銘じて、選手やスタッフと取り組んできましたから、それを成し遂げることができたことも大きな成果だったかなとは思います。
――自国開催ということで例年以上にパラリンピックを見た方が多かったと思います。体感として、パラスポーツの盛り上がりはどのように感じましたか
ものすごく盛り上がっていたなと思います。実際に民放でも初めて生中継が一部されたりとか、NHKは540時間13日間で放送してくれたり、ロンドンの12倍もの放送時間を確保してくれたんです。それはやはり報道量の多さが比例して、さらにそれ以上に多くの皆さんに知ってもらうきっかけになったのは間違いないなと思います。開会式の視聴率は23ぐらいあったと記憶していますが、それぐらい観てくれたんだなと思うと、とても嬉しかったです。まあ本当に、そういう意味でもより良い大会を開いていただいたという感じがします。
――今大会では競技の基礎的なことに関する報道などが多かったようにも感じます。その点はいかがでしょうか
報道の仕方という部分では、だいぶ解説者とかアナウンサーさんが勉強していただいて良い報道していただいたというふうに思ってはいます。ただ、僕自身は選手村に入っていて、選手村の中っていわゆる地上波とか入らないんですよ。なので、NHKがどのぐらい、どういう人がコメントしていたというのは全然知らないまま、約3週間弱を過ごしました。
――ロンドン大会では障害者への意識を変えたという成功例としてかなり挙げられることが多い一方、今回のパラリンピックはパラスポーツを純粋なスポーツとして楽しんだ方が多いように感じました
それぞれのアナウンサーさんとかディレクターやプロデューサーも含めてそういった番組を意識してくれたってことで、皆さんのそういう感想につながっているんじゃないかなと思います。
――その大会前の対談で、「パラリンピックは人間の可能性をもう一度見つめ直すきっかけ」というお話をしてくださったと思います。今回大会を終えて、改めてパリンピックの意義や役割は何だと感じていますか
その準備をしたり、(大会期間の)13日間というのはあくまでごく一部で、報道されて皆さんに知ってもらうきっかけであるんですよね。よく言われる話ですが、レガシーは気づいたら残っているものではなくて、レガシーを残していこうと思ってみんなで取り組んだ結果残ったもの、築き上げたものがレガシーであるべきだと思うんですよ。だからその意味において8年かけて作ってきたものが、今やっと形が見えてきた。でもまだ仕上がっていないのなら、この勢いも借りて一気に仕上げていくというのが、ここ12年の大きな作業なんじゃないかなと思っています。
僕はそれこそ早稲田なので、なんで2004年のスポーツ科学部作った時にパラリンピックのことを講義とかにもっと入れたり、研究室を作ったりしなかったのか全く理解ができないです。進取の精神とか言いながら、全然進取じゃないじゃん、と。なかなか大学の講義以外でも、インカレなどの大会でも障害者が参加できるような枠組みというのがなかなかできてないです。そういう視点が弱い。だから、そういうところがそもそもやっぱりスポーツ界にダイバーシティがないんだって言われているところだし、だからそこを変えていくような人材がもっと中に入らないとダメなんだろうなと思いますね。
イギリスはやっぱりインカレのポイントに障害があるアスリートのポイントを入れてますからね。その改革はやっていると国もあるんですよ。オリンピックとパラリンピックの選考会をつなげてやっている国もあるわけです。オリンピックやパラリンピックの競技団体が統合されている国もたくさんあります。そういう中で本当に今の日本はこれから先のレガシーって何なのかなというところがまだまだ課題はあるなと思います。
学生のところだけで見てもかなり課題があるように感じるので、それぞれができるところからできる範囲でまずアクションを起こすことが大切で、何もできそうもないことを批評家のようなことを言っているのが学生のやるべきことではないと思うんですよ。まず行動を起こさないと意味がないって、うまくいくかいかないかわからないけど、動いたことで必ず何かが変わってくるから、それが大切なことだと思います。
「共通点を知っていくことがポイント」
――そのパラスポーツの話も今少し伺いましたが、そのJPCが掲げている『活力ある共生社会』の実現に向けて現時点でどのような段階にあるのでしょうか
今回の大会を経て、改めてみんな少し存在も含めて知ってもらって、ちょうど10月1日今週末からうちも日本障害者スポーツ協会の名前を日本パラスポーツ協会という名前に変えるんです。なので、そういう意味でも過渡期、大きな転換期になったと思っています。どうすれば活力ある共生社会実現すると実感しますかね。
――私としては男女や性別、国籍などに限らず、そもそも一人一人全員が違う存在であることを認識して初めて実現するのではないかと感じていました。河合さんはいかがでしょうか
たぶん遺伝子レベルで言ったら10%も変わらないんだよね、みんな。実は違いを認めるって言っていることの違いって、実は同じであるということを認めていない部分がまだみんな多いんだと、逆説的にいうとポイントだと思っています。ついつい違いのところを数えるから、そこが多いように思うけど、共通していることを数えたらもっと本当は多いところも一つあると思います。よく違いを知ると言いますが、共通点を知っていくことがポイントだと思います。やはり共通点があるだけで捉え方が違ったりするわけじゃないですか。誰とどの程度の共通点があるかという違いはあるけれども、もっとそういうようなことも含めてあって良いと思います。そうなった時に共生社会とか男女共同参画社会とかバリアフリーでもいいんだけど、そういう言葉がなくなっていかなきゃいけません。いらない言葉だと思っています。
どうやったら要らなくなってもいい状態になるかというのは3つのステップがあると思います。ファーストステップが今回のパラリンピックを見たりとか聞いたりとか記事を読んだりということで『知る』。違いを知るのか、共通していることを知るとか、いろいろなことに気づいていくということです。すると、次はこういうことしたらいいんじゃないかという思いが出てくる。いわゆる行動する、アクションを起こしていく段階があると思っています。小さなことですが、例えば点字ブロックに物が置いてあったらどかそうとか、その上に立ってしゃべるのやめようとか。パラリンピックのことを思ったより多くの人は知ってもらうために、SNSでそういう記事があったらシェアしようとか、小さなことでもアクションを起こすことが大事です。そうなっていくことによって、意識しなくてもその事が誰しも当たり前にできるような状態になっていく。その時に初めて共生社会とかが実現できたというフェーズなんじゃないかなと思います。最初に他を知るっていうのKnow、次がDoになって初めて完成するということですね。
――当たり前のことではあるんですが、行動というフェーズが本当に大事になってきますね
そうそう。だから、小さくてもいいから何かやってほしいなって思っています。例えば今回パラスポーツとかを見てやってみたいなって思う人たちの受け皿を早稲田スポーツと慶応スポーツで一緒に何かやってみようとか。もう昔から言ったら早慶戦にボッチャとかゴールボールがあったっていいんじゃないの、とか。六大学リーグ車いすバスケをやってみようという発想がなんでないんだろうとか。そういうところがもったいないなと、もっともっと面白いことできるし、そこにスポンサーをつけてやっていくという社会や経済を学ぶ現場も作れるかもしれない。そうすればそこを目指して入りたいって言いだす子たちが増えていくという。新たなまた学びが生まれると思うし、国際パラリンピック委員会がこの大会前に打ち出したキャンペーンに、with15という、地球上の15パーセントは何らかの障害がある方だと。要するに77億のうち約10億人もそういった人達がいるということです。この人たちも含めてすべての人たちが輝く、生き生きと生きられる社会を作ってこそ共生社会Inclusive SocietyなんだということをIPCチームが言っています。ついつい障害のあるトップの選手たちが活躍する場だけを見せるのがパラリンピックだと思われがちだけど、それはあくまでデフォルメされた、ある意味シンボリックなものです。本質的にはそういう様々な人達が、多様な皆さんが生きやすい、ハッピーを感じられるような社会を作っていこうというムーブメントにしていきたいと思います。そんなキャンペーンが2030年に向けてスタートしたところなんです。10億人もいるんですよ。それでも4年制大学に進学する人が多い中で、やっぱり障害のある方々が大学に進学する率というのは12%くらいのレベルです。
――同じものを持っている考えもちゃんと学んだ上で、行動しながら理解していくところが重要なのかなと聞いていて感じました
問題提起しながら、行動の部分に移せるようになっていったら良いと思います。頑張ってください。
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(取材・編集 小山亜美、写真 共同通信社提供)