【特集】鈴木孝幸パラ事後対談後編 パラスポーツの発展に向けて

競泳

 ここまでは東京パラリンピック大会とこれまでの人生を振り返ってきました。最終回では、パラスポーツはどうしたらより知られていくのか、パラ競技普及に向けた展望と今後の夢を伺いました!

※この取材は9月9日に行われたものです。

「障害者理解という意味でパラスポーツはきっかけに過ぎない」

――日本とイギリス両方で生活をされる中で、その違いがよくわかると思うのですが、現在日本がパラスポーツの点で抱えている問題は何だと考えていますか

 やはりパラスポーツのことを知らないというのが大きいかなと思っています。障害を持った人たちも社会進出しているのですが、そういうことに触れたことがない方も大勢いらっしゃるので、そういう意味でいうと障害者に対する理解もまだ低いと思います。

 ちょうど僕がイギリスに留学したのがロンドンパラリンピックの翌年だったので、ロンドンパラの影響を受けた人々を目の当たりにしました。僕も、例えば「ロンドンパラリンピック出ていたよ」と言うとオリンピック選手を見るような目で見てくれました。イギリスはロンドンパラに向けていろいろな整備段階で、例えば日本でいうインカレのような大会でもしっかりと障害者も出場できる枠組みができています。障害者はサポートを得るかもしれないけど、サポートすれば健常者と同じように活動できるし、社会に進出できるというのをイギリスの方がより理解しているのかなと思います。ただ、逆に言うとすごく厳しい側面もあって、「サポートしているんだからあなたはそれをできるでしょう」っていうように、もうあなたの責任ですよって突き放されるような場面もありますね。そこで厳しさも知りましたけど、とても障害者に対する理解があるとは感じています。

――ロンドンパラの成功はパラスポーツに大きな影響を与えたと思うのですが、今回の東京パラ開催でかなりパラスポーツに興味が出た方が多いと思います。体感として、その盛り上がりはいかがでしたか

 盛り上がりはとても感じました。まず報道の量が多かったのと、例えば私のSNSとかのフォロワーはものすごく増えましたし、応援してくださるポジティブなコメントもいただいたので、すごく見ていただいた方が多かったなと思います。あと嬉しかったのが、ベーシックなパラリンピックのクラス分けやそれぞれの競技の特徴とかをたくさん報道していただいたので、見てくださる方が基本的な知識を持った上で競技を見てくれたところです。

 知ってもらったがゆえに、また新たな面白みっていうのがわかったりして、そういうところも一般の人に発見してもらえたのがすごく嬉しいなと感じています。今までは、「障害を負って、一回どん底を味わったけどまたはいあがって頑張っています」というだけの話しか見てもらえなかったとしたら、(今回で)競技の特性も分かってもらえて、この人のパフォーマンスがすごいんだとか、そういったところまで見てもらえたのはすごく嬉しかったですね。

――基本的な情報が多い分、フラットな視点で見てくれた機会が多く感じられたということでしょうか

 そうですね。もっともっと、噛めば噛むほど味が出てくるのがパラスポーツだと思っているので、これからもっと知識を皆さんに深めていってもらいたいと思います。より興味を持ってくださった皆さんが、例えば野球やサッカーのファンがいるように、パラスポーツのファンとか、専ら水泳のファンとかそういった方が増えてくることも期待しています。

――今回の東京パラでかなりそれが入り口になってパラスポーツに興味を持たれた方は多いと思います。そういった方が今後パラスポーツにより理解を深めるためにはどうしたらいいでしょうか

 難しいですよね。どうしたらいいと思いますか。

――個人的には見たり知ったりする継続的な機会が少ないことが問題だと感じています。私としても今回の東京パラがパラスポーツを一番見た機会になりました。報道もそうですが、パラリンピック以降も知る機会や触れる機会が続くことが大事なように感じますが、実際鈴木選手はどのように考えられていますか

 僕もやっぱりそう思います。結局今回は東京パラだからいっぱい報道してもらえたとも思います。一昔前のなでしこジャパンのワールドカップの優勝時とか、あの時はすごく盛り上がって、その後の女子サッカーの試合の観戦者とかも一時的にすごく増えたと思います。ですが今はまた減ってきてしまっている。パラリンピックの方もそうならないようにしていかないといけないなと思っています。今までのパラ水泳とかも、リオでこそ金メダルなかったですが、世界選手権とかは結構活躍しているので、パラリンピックだけではなくて他の大会も見てもらえるようになったらいいなと思います。SNSとかそれなりにやっていますが、不十分だろうなとか。

 ライブストリームとかで国内大会とかは配信されますが、理想を言えばAbemaTVのようなインターネットのメディアとコラボできたりして、そのような媒体を通して映像が見られるとかなったらいいなと。そうすると見てくださる方が増えるのかなと思います。僕は将棋が好きなのですが、将棋はニコ生とかと提携して対局を考察するようになっていて、すごく出てきたというのもあるので、そういうのも一つの手なのかなと思っています。

――ネットコンテンツもかなり普及してきた中で、持続性に普遍性とか盛り上がりが続いていくような取り組みができたらいいということなのでしょうか

 そうだと思います。

――今後具体的にパラスポーツがどのように発展していってほしいと感じられていますか

 個人的にはパラスポーツも他のスポーツと同じように、一般の方にも見てもらえるようになってほしいなと思います。あとはもうに一喜一憂するような感じで、良かったプレーは褒めて、悪かったら叱咤激励も含めて、そのような感じで観戦してほしいと思います。

障害者理解という意味で言うとパラスポーツとかパラ選手というのはきっかけに過ぎないと思います。そこで障害を持った人は努力すれば活躍できる、その人たちもある程度のサポートは必要かもしれないけれども、サポートがあればしっかりと社会に貢献できるんだっていうのを理解してもらえると思っています。世の中を見ていくと意外といろんな障害を持った方が今も社会に出てきていて、普通に生活していることを知ってほしいと思います。

「自分から積極的に動いていってほしい」

――ここまでパラスポーツについてたくさんお話させていただきましたが、ご自身は水泳に限らず、今後チャレンジしていきたいと思うことは何かありますか

 チャレンジしていきたいのはまず一つはPHTをしっかりやるというのと、将来何らかの形で国際的な組織に属していきたいと思っているので、その足がかりというかコミュニティを広げていきたいです。あと、イギリスは障害者のボランティア組織などがすごく多くありますし、国際的な組織もあるので、そういったところとコミュニケーションをとって、コミュニティを広げていきたいなと思います。

――パリのパラリンピックに向けた進退はまだ明言されてないと思いますが、パラリンピックに関わらず今後競技は続けていかれる予定ですか

 競技自体はこれで引退というのは考えていません。一応まだ競技は続けていこうと思っていますが、パリというのは全然想像できていません。やる気が起これば可能性はありますが、今の時点ではちょっと考えられない感じです。

――今後パラスポーツを始めるかもしれない、障害がある子どもたちに何か伝えるとしたらどのようなメッセージを送りたいですか

 何よりも、思い切って自主的に行動してみてくださいと言いたいかな。障害を持った人って、どうしても助けてもらうことが多くて受け身になりがちですが、スポーツ選手としては廃止しないよね。あとは世の中に出てからも苦労すると思うので、パラスポーツに取り組みたいなと思ってくれているのであれば、自分から積極的に動いていってほしいなと思います。

――最後になりますが、この記事を読む読者に向けてメッセージをお願いします

 まずは早稲田の関係の皆さんにも応援していただいたので、ありがとうございましたと最初にお伝えしたいです。僕は現役生の時から、早稲田大学はパラスポーツの選手にも手を差し伸べてくれた数少ない大学の1つでした。今後はもっと発展していくだろうと思うので、パラスポーツの方にも引き続きご支援いただけたら嬉しいなと思います。在学生とかご活躍できる人たちをサポートしてもらえたら嬉しいなと思います。

 在学生の皆さんにはパラスポーツはすごく面白いので見てもらいたいなと思います。もし興味があったら、例えばボランティアでもいいですし、何らかの形でパラスポーツに関わってもらえると非常に嬉しいです。

――ありがとうございました!

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【前編】東京パラリンピックを振り返って 「ここまでうまくいった大会は今までなかった」
【中編】これまでの歩みと行く末 「今後は国際的な組織に関わっていきたい」

(取材・編集 小山亜美)