【連載】『令和2年度卒業記念特集』第60回 小峯由香梨/競泳

競泳

エンジの誇りを胸に

 マネージャー兼女子主将。そんな難しい立場を務め上げたのは小峯由香梨(社=埼玉・早大本庄)だ。チームに直接得点を持ち帰られないマネージャーという立場の中で、どのようにチームを作り上げたのだろうか。

 小峯には早稲田に対する人並みならぬ思いがあった。小峯と早大水泳部との出会いは小学校6年生の時。父親に連れられて行った早慶戦だった。会場に広がる歓喜の波や観客も肩を組んで歌う紺碧の空、そして早大水泳部の圧倒的な強さ。まだ小学生だった小峯の目には、早大水泳部員たちの背中がかっこよく、とても輝いて映った。早大水泳部の魅力にとりつかれた小峯は、一つの目標を持った。「早稲田大学の水泳部に入りたい」。その夢を実現するための第一歩として、早大本庄高に進学。大学入学後は、マネージャーとして水泳部での日々をスタートさせた。

 入部後に小峯が目にしたのは、自分が憧れていた以上にシビアでレベルの高い環境であった。日本中から優秀な選手が集結している早大水泳部。練習に対する緊張感やタイムに対する意識は小峯の予想を越えていた。さらに、オリンピックへの出場を決めるなど、早大から世界へ羽ばたく選手たち。「私はすごい瞬間に立ち会っている」。これまでの環境では決して体験することのできない、世界トップレベルの環境に身を置いていることを肌で感じた。トップレベルの選手を相手に、真剣にマネージャーの仕事に取り組まないといけない。一生懸命泳ぎに向き合う選手の姿が、小峯の早大水泳部に対する思いをより強いものにした。

 高いレベルの中でマネージャーとしての仕事をスタートさせた小峯。だが、マネージャーという立場からは直接プレーに関係することができず、結果ではチームに貢献できない。「どんなに頑張っても、選手はマネージャーの仕事に気づいてくれないのではないか」。スポットライトが当たりにくいマネージャーという仕事に意味を見出せないこともあった。

だが、その思いを払しょくするできごとがあった。それは大学3年の春に同行したアメリカの高地合宿に同行したとき。選手たちは日本選手権に向けてより一層追い込み、練習を重ねていた。そんな中、多くの選手が「小峯が頑張っているから頑張れる」と声をかけてくれた。一生懸命努力をする選手たちに刺激をもらったと同時に、自分が仕事する姿をしっかり見てくれていたことに気づかされ、前を向けた瞬間だった。「マネージャーは選手を支えているのではなく、同時に選手に支えられている」。アメリカでの経験が小峯を人間としても大きく成長させた。

今年度主将を務めた今井(左)と小峯

 女子主将に就任して迎えたラストイヤー。小峯は俯瞰的にチームと向き合える自分だからこそできる主将の在り方として、「チームワークを大切にしたチーム作り」を目指した。この思いの背景には、高校時代の経験がある。通学時間などを考慮し、通っていたスイミングスクールの継続を断念した小峯。高校の中でも練習頻度の高いバスケットボール部への入部を決めた。これまで『個人スポーツ』とも言える水泳を続けてきた小峯にとって、初めてチームスポーツならではの魅力に触れた。個人のことを考える集団より、『チームのために』という思いを持てる集団は強い。「チームのために戦っている」という思いを持ってほしい。その気持ちこそが、小峯のチーム作りの神髄となったのだ。

 最後のインカレの早大女子の成績は6位。シード権死守というチームの目標は達成された。さらに、この大会では結果以上にチームの結束力が感じられた。「笑顔で終われる試合にしたい」、そんな思いで始まったインカレ。終わるころに選手は口々に「本当に楽しかった」と言ったそうだ。新型コロナウイルスにより不安が多い中で過ごした1年だったが、最後には目指していた「チームワークを大切にする」チーム作りが結実し、幕を閉じたのである。

 小峯は大学4年間、多種多様な選手それぞれの気持ちに寄り添い、どのようなアプローチが最善かを常に考えてきた。客観的な立場からチームを見て、自発的に選手とコミュニケーションをとる。頑張っていたり不安になったりする選手を誰よりも見ていた自分にしかできないことを考え、『プラス』に作用するマネジメントを意識し続けた。卒業後は社会人としての人生がスタートする小峯。「人のために働く」。この喜びを知っている小峯は社会人となっても輝きを放てるに違いない。

(記事 小山亜美、写真 早稲田大学水泳部提供)