本来は長水路の大会がほとんど行われず、強化に当てられることの多い12月に長水路の試合が開催された。場所は東京アクアティクスセンター。五輪で競泳が行われる予定の会場であり、今回が初めての大会。冬場としてはまずまずのタイムを各々記録する中で、五輪出場を狙う田中大寛(スポ1=大分・別府翔青)が一人、表彰台に上がり、確かな成果を残した。今大会は、今年4月に五輪代表選考会として行われるはずだった日本選手権が延期となって開催されたもの。新型コロナウイルス流行の影響で12月に延期となっていたが、準決勝やB決勝を行わない短縮された大会日程となった。
その中で大会2日目、男子200メートル自由形でルーキー田中大が登場した。10月に行われた日本学生選手権(インカレ)では同種目を制した田中大。「どれほど自分の実力が通用するかを試す」と意気込んで臨んだこのレースでも素晴らしい成績をたたき出した。
午前中の予選では1分49秒を出し、3位で通過。迎えた決勝では、出だしで遅れをとり、前半を8位で折り返す苦しい展開となる。だが、大学入学後の体力強化で磨きがかかった『後半の追い上げ』がここから発揮される。100メートルの折り返しから粘り強い泳ぎを見せると、ラスト50メートルで一気にスパートをかけ、横一線で展開されていた3位集団食い込む。その後は勢い失わぬままゴール。4位との差はわずかに0秒06という接戦をくぐり抜け、1分48秒97で3位という結果を残した。
松元克央(セントラルスポーツ)や小堀勇気(ミズノ)など、世界で戦う強者ひしめくレースで銅メダルを勝ち取った田中大。大学で覇者となった実力が、日本のトップ争いに食い込めることを証明して見せた。ただ、このレースでは課題も発見された。1つ目はインカレ時から挙げていたターン。2つ目は今大会で遅れをとった前半の泳ぎだ。「前半もっと上手く入れていれば順位をさらに上げることができた」(田中大)。レースの入りを改善できれば、田中大の武器である後半の追い上げをより生かすことができるだろう。見据えるはリレー種目での東京五輪代表入り。冬の強化期間を終え、日本を背負うスイマーに成長することができるか。4月に行われる五輪代表選考会での渾身の泳ぎに期待したい。
初の選手権表彰台に上がった田中大(右)
また、同じく東京五輪代表を目指す選手たちも、今大会では表彰台にこそ上がらなかったものの、雌伏の時を過ごしている。幌村尚(スポ4=兵庫・西脇工)は男子100・200メートルバタフライで決勝に進出。女子も、牧野紘子(教3=東京・東大付中教校)、佐藤千夏(スポ3=埼玉栄)、浅羽栞(スポ2=東京・八王子学園八王子)と決勝『常連』とも言える面々も順当に進出。牧野は昨年の日本選手権で優勝を果たした女子100メートルバタフライで表彰台落ちという悔しい結果となった。一方で女子200メートル自由形では、10月のインカレよりも速いタイムを記録している。浅羽は女子200メートル平泳ぎ決勝で2分27秒19をマーク。2分27秒00を記録したインカレと比べると、150メートルまでは1秒ほど遅れるラップタイムであったがスパートで巻き返した。理想のタイムには届かなかったが、秋に課題としていた終盤のスタミナ面について、収穫となっただろう。
さらに古畑海生(スポ3=兵庫・市川)が男子1500メートル自由形で初の決勝入りを決め、男子800メートル自由形で自己ベストを更新した。佐々木杏奈(スポ2=神奈川・日大藤沢)も自身3年ぶりの決勝に進出。大学でのベストを更新し、壁を一つ越えようとしている。異例のタイミングで行われた長水路の全国大会。選手たちは己の現在地を認識しただろう。本番である春に向けて、勝負の強化期間が始まっていく。
(記事 青柳香穂 小山亜美、写真 日本水泳連盟提供)
関連記事
目標達成! 男子メドレーリレーも制しリベンジを果たす/男子3・4日目/第96回日本学生選手権(10/5)
【連載】シーズン『超越』完結記念/インカレ事後特集第3回 竹内智哉×福岡清流×簑田圭太×田中大寛/第96回日本学生選手権(10/15)
結果
◇決勝・タイム決勝
男子200メートル自由形
田中大寛 1分48秒97【3位】
男子800メートル自由形
古畑海生 8分08秒74【7位】
男子1500メートル自由形
古畑海生 15分30秒39【7位】
男子100メートルバタフライ
幌村尚 52秒20【5位】
男子200メートルバタフライ
幌村尚 1分57秒28【4位】
女子200メートル自由形
牧野紘子 2分0秒47【7位】
女子400メートル自由形
佐藤千夏 4分15秒68【6位】
女子1500メートル自由形
佐藤千夏 16分40秒79【4位】
女子100メートル平泳ぎ
浅羽栞 1分9秒73【8位】
女子200メートル平泳ぎ
浅羽栞 2分27秒19【5位】
女子100メートルバタフライ
牧野紘子 59秒09【5位】
女子200メートル個人メドレー
牧野紘子 2分15秒52【7位】
女子400メートル個人メドレー
佐々木杏奈 4分53秒76【8位】
◇予選
男子50メートル自由形
伊東隼汰 23秒10【18位】
村上雅弥 23秒11【19位】
男子100メートル自由形
伊東隼汰 50秒04【10位】
田中大寛 50秒23【14位】
男子200メートル自由形
田中大寛 1分49秒07【2位】
男子1500メートル自由形
古畑海生 8分10秒57【6位】
武井凜太郎 8分20秒02【14位】
男子200メートル平泳ぎ
白石崇大 2分13秒21【14位】
男子100メートルバタフライ
幌村尚 52秒49【8位】
男子200メートルバタフライ
幌村尚 1分58秒50【6位】
男子400メートル個人メドレー
田丸敬也 4分21秒98【9位】
髙野大祐 4分28秒27【17位】
女子50メートル自由形
今牧まりあ 26秒07【13位】
女子200メートル自由形
牧野紘子 2分0秒78【7位】
女子400メートル自由形
佐藤千夏 4分14秒98【5位】
女子100メートル平泳ぎ
浅羽栞 1分9秒23【8位】
女子200メートル平泳ぎ
浅羽栞 2分27秒25【3位】
女子100メートルバタフライ
牧野紘子 59秒22【5位】
女子200メートル個人メドレー
牧野紘子 2分15秒14【5位】
佐々木杏奈 2分17秒95【12位】
女子400メートル個人メドレー
佐々木杏奈 4分48秒54【7位】
コメント
田中大寛(スポ1=大分・別府翔青)
――まず、日本選手権を振り返っていかがですか
結果としては表彰台に上がれたので、来年にもつながる良い試合になったと思います。
――200メートル自由形の泳ぎの振り返りをお願いします
課題も多く見つかりましたが、やっと日本のトップ争いに加われるくらいになれたかなと思います。課題としては前半をもっと早く泳ぐとかあったのですが、大学で変わったと思います。
――大学で変わった点を具体的に教えてください
大学に入って体力がついたというのもあって、200メートルの後半が強化されて、それがこの前のインカレや今回のレースに繋がったと思います。
――インカレ後はターンを課題として挙げていましたが、今回はいかがでしたか
引き続きターンは改善できていない点もあったので、それに加えて前半の強化が4月に向けて改善できたらいいなと思います。ターンと前半の泳ぎという二つが主な課題かなと思います。
――予選、決勝とどのようなレースプランで臨みましたか
理想的なレースプランとしては、前半をもっと早くいって、武器の後半を生かしたいと思っていました。ただ、前半を上手く泳げずに、後半だけ(ペースを)上げるという形になって、ギリギリ勝てましたが、ベストタイムでもないので。前半を上手く泳げなかったところが反省かなと思います。
――ラスト50メートルで勝負をかけていたように見えましたが、何か意識されていましたか
そうですね。後半の勝負になるとは思っていたので、そこまでぎりぎりになるとは思っていなくて、前半をもっと上手く入れていれば、後半さらに上げて順位も挙げられたかなと思います。
――予選を終えて、決勝に向けて修正した点はありますか
コーチやスタッフと前半をもっと早く入るという話をしました。日本選手権では前半がカギになると思っていたので。前半の泳ぎの修正をいろいろしましたが、結果的に決勝で上手く泳げなかったかなと思います。
――今回表彰台に登る結果となりました。率直な気持ちを聞かせてください
本番は4月なので、今回は4位に入ることを目指そうと思っていました。今回の日本選手権ではどれだけ自分の実力が通用するかを試す試合でもあったので、ベストタイムではなくても3位に入って嬉しい気持ちの方が強かったです。
――タイムを振り返って、ご自身どのように捉えていますか
レースではベストを出す気持ちでいたので、ショックな部分はありました。ただ、冬の強化の時期というのもあって、このレース自体もその一環な部分もあるので、その中でも1分48秒台を安定して出せたのは大きいと思います。
――レースで良かった点を挙げてください
後半の強さがインカレや日本選手権で発揮できたかなと思います。
――世界で戦う選手たちが多く揃うレースでしたが、刺激はありましたか
世界で活躍している選手がいたので、インカレとは違った雰囲気で緊張もありましたが、その中で3位に食い込めたのは良かったです。
――来年の五輪選考会に向けてどのような練習に力を入れたいですか
今回の課題を改善するのも大前提ですし、スピードや自給とかいろいろありますが、冬の強化は前半をあげるというのを意識して練習しようと思います。
――リレーでの日本代表入りを目指すと話されていましたが、今も目標は変わりませんか
そうですね。まだ個人で覇権を切るのは厳しいと思うので、まずはリレーで代表入りするというのが一番の目標です。
――来年の選考会に向けて意気込みをお願いします
200メートル自由形は4位以内に入るために1分47秒台が必要だと思うので、ぼくとしては表彰台に登りたいと思いますし、100メートル自由形でも戦えるようになりたいと思います。