【連載】インカレ直前特集『結闘』第6回 池江毅隼×幌村尚×佐々木杏奈

競泳

 第6回に登場するのは、池江毅隼(スポ4=東京・日大豊山)、幌村尚(スポ3=兵庫・西脇工)、佐々木杏奈(スポ1=神奈川・日大藤沢)の3選手。幌村は8月のFINAワールドカップ東京大会(W杯)で今季の派遣標準記録を突破。今季を「一言で言うと『最高』」と話す池江も、早慶対抗大会(早慶戦)では男子100メートルバタフライで大学入学後のベストタイムを記録した。また、佐々木はルーキーながら日本学生選手権(インカレ)ではリレー全種目に出場予定で、大車輪の活躍が期待されている。今回はそんな3人に、インカレに向けての意気込みなどについて伺った。

※この取材は8月27日に行われたものです。

「次のステップへのきっかけとなるいい大会だったんじゃないかな」(幌村)

インカレに向けて調子を上げているという幌村

――今季を全体的に振り返っていかがですか

佐々木 今シーズンは自分が目標としているところまで全く届かなくて、自分の目標もぶれつつありましたが、今年の夏自体はインカレに向けて練習をしてきました。選手権(日本選手権)やジャパンオープン、W杯では、思うような結果は残せていないです。

幌村 僕は日本選手権で世界選手権の代表を狙っていましたが、それが達成できず思うようなタイムは出せませんでした。でも、ユニバーシアードでは目標としていたタイムではなくてもそれに近いタイムでは泳げて、一応銀メダルも取れましたし、その後のW杯では派遣記録も最低限切れて今のところいい感じでこれているので、インカレでは目標を達成したいと思います。

池江 僕は2人みたいにどの試合がどうだったというよりも、一言で言うと『最高』という感じですね。今まで大学にスポーツ推薦で入学させていただいたのに全然結果を残せないままここまできてしまって、正直目標を見失ったり、練習に気持ちが入らないことが3年生まではよくありましたが、そういったことを乗り越えていくうちにメンタルがどんどん強くなっていって、一つ一つの練習であったり、周りの選手とのコミュニケーションも今までよりたくさんとれるようになってきました。それに伴い競技成績も上がっていったり、練習も強くなっていったので、心身共に充実した競技生活を送れていると思います。

――今季で一番印象に残ったレースは何ですか

池江 僕は早慶戦の1バタ(男子100メートルバタフライ)が印象に残っています。大学に入って一回も54秒を切ることができていなかったので、やっと切れたという感じですね。

幌村 僕は日本選手権の2バタ(男子200メートルバタフライ)です。今までうまくいかなかったことがあまりなかったですが、その結果を受け止めてもっと頑張ろうと思えたので、それがすごく印象的です。

佐々木 私は早慶戦の8継(女子4×200メートルフリーリレー)です。私は4泳で、飛び込む前に大会新が狙えるかもしれないと思って飛び込みましたが、結果的に自分のタイムが遅くて大会新は出すことができなかったのでタッチした瞬間はがっかりしました。でも、(レース後)先輩の顔が見えたので、それがうれしかったなと思っています。

――佐々木選手に伺いますが、早大を志望された動機は何ですか

佐々木 学校練習の環境を探していたというのが一つの理由で、もう一つは香生子さん(渡部、平31スポ卒=現JSS)だったり、聖人さん(坂井、平30スポ卒=現セイコー)や一平さん(渡辺、平31スポ卒=現TOYOTA)、尚さんなど世界で戦う選手がたくさんいて、そういう人たちの泳ぎを間近で見られるのがすごくいいことだなと思って志望しました。

――大学生活には慣れましたか

佐々木 生活環境が全部変わったので最初は慣れませんでしたが、だんだんいろいろな人とコミュニケーションが取れるようになって慣れてきました。

――現在はどこに住んでいらっしゃるのですか

佐々木 今は小手指に住んでいます。

――一人暮らしですか

佐々木 いや、母親とです。

――男子選手と一緒に練習している環境はいかがですか

佐々木 女の子が少ないというのには寂しいと感じる部分もありますが、男子が多いからこその覇気や元気さ、力強さというのを吸収できる環境でもありますし、自分と競うことはできなくても追いかけることはできるので、必死に付いていこうという気持ちでやっています。男子が多いからといって困ることはあまりないかなと感じています。

――あまりいい結果は残せていないかもしれませんが、今季自信を持てている泳法はどれですか

佐々木 今シーズンはこれ、というのはあまり思い浮かびませんが、自分の中ではバタフライとフリー(自由形)を得意種目としてやっているので、そこに対しての自信をなくさないようにやってきました。

――個人メドレーでは最初のバタフライで先行するレース展開が多いと思いますが

佐々木 400も200も自分のレースプランとしてはバッタ(バタフライ)から飛び出すというのはあるので、そこは強みに思っています。

――幌村選手に伺いますが、泳ぎを崩したのはいつ頃からですか

幌村 去年の選手権が終わって少したったぐらいに肩を痛めて、そこから少しずつ崩れていったかなと思います。

――先日のW杯のときはだいぶ元に戻ったとおっしゃっていましたが、取り組まれたことはありますか

幌村 練習のときにふと、昔のキックの打ち方だったり、腕のかき方をW杯の2日前ぐらいに思い出して、それを意識しながら泳いだらW杯はいいタイムが出ました。

――今の練習でもいい状態ですか

幌村 はい、結構いい練習ができてきています。

――先ほども少し話にありましたが、ユニバーシアードを振り返っていかがですか

幌村 一応金メダルと派遣記録を目標にしていましたが、結果的には2番で派遣記録にも0秒4ぐらい足りなかったです。でもその中でも今シーズンで一番速いタイムは出せたので、次のステップへのきっかけとなるいい大会だったんじゃないかなと思います。

――外国人選手から吸収したことはありますか

幌村 人のを見て吸収するとかはあまりないですかね。自分の昔の良かったときの泳ぎをできるだけ取り戻そうと、いろいろ練習の中で工夫して泳いだり、考えながら泳いでいました。

――池江選手は早慶戦でメドレーリレーも泳がれましたが、そこを振り返っていかがですか

池江 僕以外の3人が優秀で、僕は幌村の代わりに泳ぐというかたちだったので、そんなに遅いタイムで泳げないと思って。その日はアップからすごく集中して、ガチガチに緊張していましたが、自分のベストタイムを超える引き継ぎタイムで泳ぐことができたので、一安心という感じでした。

――最上級生になって意識するようになったことはありますか

池江 あまり自分の気持ちを満足させることに執着しないというのを、3年生の後半ぐらいから意識し始めて。今までは自分が楽しむためにはどうしたらいいんだろうというのが先にあって、それ以外はあまり見えていない部分がありましたが就活をしたり、いろいろなものを得て、自分よりもまずは人を楽しませようとか、人を満足させてあげたいという気持ちに重きを置く方が大事なんだなと気付きましたね。そういう考えになってからは常に自分の周りの人も自分も笑顔でいられることが増えました。そういう意味で今シーズンは『最高』の一言ですと言いましたが、いい方向に動いています。

「喜んでいるんだな」(佐々木)

昨年主将として、日大藤沢高を総合優勝に導いた佐々木

――少し話は変わりますが、何か夏らしいことはされましたか

池江 夏っぽいことした?

幌村 僕らの夏っぽいことって水泳じゃないですか(笑)?

池江 そうだよね(笑)。僕はウイルス性の胃腸炎にかかったことです(笑)。夏ってウイルスが繁殖しやすいから、それが夏らしいかなって(笑)。それで入院したことです。

――体調はいかがですか

池江 かなり今は元気ですが、ごはんがしっかり食べられないのと、おなかはまだ痛い…。あと10日以上あるので、しっかり前みたいな感覚で泳げるように準備していきたいと思います。

――幌村選手と佐々木選手はいかがですか

幌村 僕は早稲田のみんなでバーベキューをしたことです。4年生が準備してくださってすごく楽しかったですし、夏だなという感じがしました。

佐々木 かき氷を食べたとか?果物を削ったやつです。

池江 えー、めっちゃいいじゃん!

――マイブームはありますか

池江 『ライオン・キング』の歌にはまっています。実写版の映画を見に行きました。

幌村 最近テレビを買ったので、それでテレビを見るのにはまっていますね。基本Netflixをずっと見ています。

佐々木 シーズンオフの予定を立てている時にどこに行きたいかを考えて(その場所を)調べて、各地方の名所を調べ尽くすことにはまっています(笑)。取りあえず北海道に行くのですが、北海道のおいしいものを見ているとよだれが出そうになります(笑)。

――世界選手権で印象に残ったレースはありますか

池江 ドレッセル(米国)の1バタ。すごかったです。

幌村 僕2バタのミラーク(ハンガリー)です。

佐々木 一平さんの2ブレ(男子200メートル平泳ぎ)です。

――佐々木選手は母校の日大藤沢高が総体で女子が総合優勝しましたが、連絡はとられましたか

佐々木 とりました。今年の主将の大内紗雪(ダンロップSC)に連絡をしました。あとは総合優勝が決まる前に1日目の4継(女子4×100メートルフリーリレー)で女子が優勝して、顧問の先生にも連絡をしました。「おめでとうございます」というかたちで連絡をしたら、すごく興奮した内容でLINEが返ってきたので、喜んでいるんだなと思いました。

――男子は日大豊山高が優勝しましたが、池江選手は連絡をとられましたか

池江 (学年が)かぶっていないので…。僕が今の3年生と4つ差だから、知っている子もあまりいないですね。ただ母校なので(結果は)チェックしていて、すごいなと思っています。

――招集所ではどのように過ごされていますか

幌村 無言です。予選だとちょいちょい喋りますが、決勝や準決勝だとみんなピリピリしているので、無言で目をつむっています。

池江 僕も無言で深呼吸して、体を動かしています。

佐々木 私は割と喋っている方です。同い年の人がいると結構喋っています。

「『自分は100パーセントやり切ったからお疲れさま!』と自分に心から言えるような準備はしたい」(池江)

「人生最後のレース」に挑む池江

――ここからはインカレに向けての話になります。現在の調子はいかがですか

池江 今は(胃腸炎から練習に)復帰して2日目ですが泳ぎが思ったよりも崩れていなくて、泳ぎ自体はいい泳ぎです。ただ感覚があまり良くないのと、体力面で体重も落ちてしまっているので、100メートル(バタフライ)となると後半は少し心配だなというのはあります。

――調整はうまくできそうですか

池江 結構オフ後の立ち上がりは得意なので、そういう自分の強みを最大限生かしたいです。人生最後のレースになるので、結果が良かろうが悪かろうが、「自分は100パーセントやり切ったからお疲れさま!」と自分に心から言えるような準備はしたいと思います。

――他のお二人はいかがですか

幌村 先週ぐらいに和歌山の合宿に早稲田で行って、そこで今まで以上に自分を追い込めました。今調子も良くて、泳ぎも良くなってきているので、インカレで泳ぐのは楽しみです。

佐々木 私はずっと感覚も泳ぎもよく分からず、ただひたすら頑張ってきたということだけを自信にやってきていました。でも、合宿の時からタイムも「いいんじゃない?」と思ったり言われたりする機会が増えて、昨日の練習中に、急にベストで泳いでいた頃の感覚を思い出して、その感覚だけを頼りに泳いでいたらすごく楽に速く泳げたので、うまく調整できたら調子は上がっていくんじゃないかなと思っています。

――それぞれの具体的な目標はありますか

池江 ベストの更新ですね。ベストを出せれば今までのインカレの結果を見ていてもA決勝にはギリギリ食い込めると思うので、周りのことは気にせずに、自分の最高のパフォーマンスが予選からできるように信じていきたいです。

幌村 200(メートルバタフライ)は世水(世界選手権)の表彰台くらいのタイムを狙っていきたいかなと思います。あとは個人に加えてリレーも優勝したいなと思います。100は最近あまりいいタイムが出せていなくて心配なところもありますが、ここ最近は泳ぎも良くなってきているのでしっかり優勝を狙っていきたいと思っています。

佐々木 ベストの更新は厳しいかなと思いますが、200(メートル個人メドレー)も400もしっかりとA決勝に残ることと、個人的な最大の目標としては、400で紘子ちゃん(牧野、教2=東京・東大付中教校)と表彰台に上るのが目標です。

――幌村選手と佐々木選手は、優勝や表彰台を狙う上で意識している選手はいらっしゃいますか

幌村 周りを意識するというよりは、自分で精いっぱいという感じです。あまり周りは気にしていないです。

佐々木 私も周りを気にしている余裕はあまりないと思うので…。

池江 あるでしょ(笑)!

一同 (笑)。

池江 絶対あるよ(笑)。

佐々木 まずは自分の泳ぎをしたいですが、1年の中では1番になりたいです。

――佐々木選手はリレー3種目に出場される予定ですが、そこについてはいかがですか

佐々木 レース数が多くなるので、最終日最後のレースまで気を抜けないし疲労も溜まってくると思います。「相当きついよ」という話も聞いているので不安なところもありますが、そこを不安に感じないで1年目というのを強みに、インカレの全てのレースを楽しむことができればと思います。

――リレーでの目標は

佐々木 メドレーリレーで3番以内に入ることが目標です。多分フリー(自由形)勝負になってくる部分があるので、頑張ります。

――男子4×100メートルメドレーリレーは昨年優勝を逃し、今年覇権奪還を狙っているということですが、いかがですか

幌村 今年は去年の一平さんみたいな絶対的エースがいない中で、今年入ってきた平河楓(スポ1=福岡・筑陽学園)がすごくいいタイムを出してくれています。隼汰(伊東、社2=東京・早大学院)や丸山(優稀、法3=埼玉・大宮)もすごくいいタイムを持っていて、その中で僕はリレー3年目なので、僕が足を引っ張ることなくみんなをけん引していけたらいいかなと思います。優勝をしっかり狙っていけたらいいなと思います。

――和歌山合宿でそれぞれ強化してきたポイントは何ですか

池江 合宿だから特別こうというのはなくて、今まで通り全力で頑張るということですかね。

幌村 僕はそこの1週間だけは諦めずに頑張るという思いでやっていて、その中で特に持久力向上を目的としてずっとやっていました。だいぶ強化できたと思います。

佐々木 私も合宿だからここをやる、というのはありませんでしたが、学外の女の子もたくさんいたので。私普段母親とだけとの会話の時間が多いので、自分からいろいろな話をしたりすることはありませんが、同期も先輩も女の子がたくさんいたので、意識していたことではありませんが会話を楽しみながら元気良く練習していました。マイナスなことを言わないようにはしていました。

――自分以外の注目選手はいらっしゃいますか

池江 僕は同じチームの村上(雅弥、スポ2=香川・坂出)が結構くるんじゃないかなと思います。合宿中のすごくきついメインセットの後に100のダイブが1本あったんですよ。それで自分のベストタイムを更新してくるような泳ぎをしていたので、しっかりテーパーをして臨むインカレでは、100(メートル自由形)で1秒くらいベストを更新してもおかしくないんじゃないかなと期待はしています。それ以外の人たちもみんな調子がいいので、すごく楽しみですね。

幌村 僕は同期の丸山。日本選手権でもすごくいいタイムを出していて、8月はずっと一緒に練習していますが練習でも結構えげつないタイムで泳いでいるので、インカレは期待大だと思います。

佐々木 私も丸山さんです。一緒に練習する機会はそんなにありませんが、タイムを聞いていたり、タイムを言われたときの周りの反応を見ていて、相当速いタイムで泳いでいるんだなと感じているので、すごいんじゃないかなと思います。

――最後に改めて、インカレへの意気込みをお願いします

池江 頑張ります。

佐々木 パッとした結果を出していない中でも期待してくれている人だったり、私がこの学内に入ってきて優しく接してくれた4年生、特に真子さん(濱口、スポ4=石川・金沢錦丘)とは練習も一緒にしていてメドレーリレーも組むので、自分は置いておいて先輩たちにいい思いをさせられるように頑張りたいです。それと、自分を信じていてくださいというのを伝えたいです。

幌村 過去の自分を超える。

――ありがとうございました!

(取材・編集 宇根加菜葉)

今季の、そして競技人生の『集大成』を笑顔で終えます!

◆池江毅隼(いけえ・たけはや)(※写真左)

1997(平9)年4月13日生まれのO型。176センチ、76キロ。東京・日大豊山高出身。スポーツ科学部4年。専門種目はバタフライ。中学生以来、レース前はお辞儀をして「お願いします!」と大きい声を出すのを習慣とされているそうです。水泳人生最後のレースでも、礼儀正しく、『最高』の結果を出してくれることに期待です!

◆幌村尚(ほろむら・なお)(※写真右)

1999(平11)年1月31日生まれのO型。170センチ、68キロ。兵庫・西脇工高出身。スポーツ科学部3年。専門種目はバタフライ。高校時代以来、スタート台に上るときのルーティンがあるという幌村選手。「世水の表彰台くらいのタイムを狙っていきたい」と話すように、そのタイムにも注目です!

◆佐々木杏奈(ささき・あんな)(※写真中央)

2001(平13)年1月29日生まれ。165センチ。神奈川・日大藤沢高出身。スポーツ科学部1年。専門種目は個人メドレー。電光掲示板の自分の名前を見て緊張を和らげるという佐々木選手。女子部期待のマルチスイマーの、初インカレのレースに期待です!