【連載】『平成29年度卒業記念特集』第60回 山口真旺/競泳

競泳

チームで泳いだ4年間

 「部活ではチームでの行動や、主将として(集団を)どうまとめるかを経験できた」。1年間早大水泳部の女子主将を務めた山口真旺(スポ=兵庫・須磨学園)は、そう語った。高校生の時まではクラブでの活動が主だった山口。大学入学までチームで戦ったこと、チームで協力し合ったことがほとんどなかった。そんな山口がチームで過ごした4年間は、自身を大きく成長させるものだった。

 ワセダに入るきっかけとなったのはクラブでの合宿。当時、山口は進学先に悩んでいた。大学でも競泳を続けることは決めていたが、実践的なことを学ぶ体育学部ではなく、スポーツそのものを科学的に学べる学部に進みたいと考えていた。そんな時合宿で出会ったのが瀬戸大也(平29スポ卒=現ANA)だ。瀬戸と合宿で指導していたコーチにそのことを相談したところ、スポーツ科学部のある早大を勧められた。それまでワセダを意識したことはなかったが、この助言をきっかけに入学を決意。早大水泳部の門をたたいた。

初入賞した昨年の日本学生選手権で力泳する山口

 大学入学後、山口にとってターニングポイントとなった試合は日本学生選手権(インカレ)だ。1年時からリレーのメンバーに選ばれた山口。他のチームメンバーが全員上級生である上、表彰台を狙えるチームだったため、「足を引っ張るわけにはいかなかった」と語るように、緊張感の中でレースに臨んだ。結果は3位で、表彰台に上るという目標を達成。レース後、山口の胸には『楽しい』という感情が湧き上がった。仲間と協力し合うこと。高校時代まで個人種目以外にほとんど出場したことがなかった山口にとって、団体戦で味わった感覚は新鮮なものだった。その一方、個人種目ではなかなか結果が残せないでいた。先輩の期待に応えられず、つらいと感じることも。しかしそんなときは、自分の試合がない時間に他の選手のサポートや応援をした。「後輩たちに緊張せず試合を楽しんでほしい」。試合では力になれなくとも、山口の存在は他の選手の支えになったことだろう。

 そして最高学年になり、山口は女子主将に選ばれる。マイペースな性格で集団をまとめるポジションに就いたことがなく、最初は自分が主将としてやっていけるかどうか不安だった。しかし、部のみんなを引っ張っていくために、自らの行動を見直していく。これまでは自分を中心に考えて動くことが多かったが、後輩の練習にも配慮するようになった。女子部には学外を拠点にして活動している選手も多く、月に1度の合同練習などで会った時には、普段話さない選手にもできるだけ声を掛けるように努めた。こうした山口の心掛けもあってか、部員一人一人が自身の役割を認識できるようになってくる。そして迎えた最後のインカレ。団体戦は9位と、目標としていた『シード権死守』には届かなかった。しかし、部員数が少ない中でも後輩らは結束し、精一杯その時出せる力を出しきった。一方の山口は4年目にしてついに個人種目で7位と、入賞を果たす。この結果は、インカレでなかなか実力を発揮できなかった山口の成長の証しだといえるだろう。

 山口は自らの競泳人生にここでいったんピリオドを打つ。競技の中で培った忍耐力や、早大水泳部で学んだ集団の中での上下関係や規則、マナーは、社会人になっても必ず役に立つものだ。これまでの経験を武器に、山口は新たな舞台に向かって泳いでいく。

(記事 宇根加菜葉、写真 石田耕大氏)