【特集】『世界選手権事後インタビュー』坂井聖人

競泳

先月ハンガリー・ブダペストで行われた世界選手権。坂井聖人(スポ4=福岡・柳川)は五輪メダリストとして、男子200メートルバタフライに出場した。 今回の対談では、世界選手権でのレースはもちろん、事前に実施した高地合宿、さらには今週行われる全日本学生選手権(インカレ)についても話を伺った。

※この取材は8月26日に行われたものです。

「スピードに対しての意識を変えるようにはしていた」

対談に応じる坂井

――世界選手権が終わり、水泳部での合宿などもありましたが、今はどのように過ごされていますか

あまり世界水泳がいい結果で終われなかったので、その悔しさを晴らすために今回インカレで世界ランク1位のタイムを出して、気持ちよく来年度を迎えられたらいいなと思っています。今はしっかりと練習を頑張っているところです。

――疲れなどはありますか

疲れは正直残っています。合宿の疲れっていうのもありますし、いろんな疲れが溜まっているので、一日一日リラックス方法とかを考えながら、疲労を抜いてインカレに臨みたいなと思います。

――それでは世界選手権前の高地合宿について伺います。期間はどのくらいだったのでしょうか

3週間行って、1週間前に下りたという感じです。今回の合宿では挑戦というテーマを持って臨みました。

――どうしてスペインを選ばれたのでしょうか

選んだ理由としては、時差の関係と、移動距離がそんなに無いところです。いつもメキシコでやっていたんですけど、メキシコでやると時差も違いますし、フライト時間もちょっと変わってしまうので、それもあってスペインを選びました。

――高地合宿のテーマは何でしたか

僕はあまりスピードがないので、まずスピードっていうのをテーマに持って、練習中に自分の頭の中で意識していました。

――ジャパンオープン後には、前半からスピードに乗れなかったという話がありましたが、スピード強化はそこから取り組んだのでしょうか

スピード強化はそれまでもやっていたんですけど、今までのスピードじゃ足りないなというのはありました。ウエイトレーニングでの重さを変えたり、練習中もチューブトレーニングなどをしたりして、スピードに対しての意識を変えるようにはしていました。

――去年のリオ五輪同様、渡辺選手(一平、スポ3=大分・佐伯鶴城)と2人で合宿を行いましたが、何か意味はあるのでしょうか

少人数の理由として、早大から2人しか代表がいなかったのもありますが、少人数で練習することでより集中できます。とにかくこの合宿は集中してやろうと考えていました。

――練習をする中で、渡辺選手からは刺激を受けましたか

やっぱり隣でずっと泳いでいるので、刺激は受けます。練習中から負けないっていうのはお互いたぶん意識しているので、そういった面でいい練習ができていたと思います。

――スペインでのオフは何をされましたか

宮殿とショッピングモールをちょっと回ったくらいです。そんなにオフっていうオフは過ごしていなくて、何回か日本食に行ったり、おいしいもの食べに行ったりしました。丸一日遊ぶってことはなかったです。

――合宿から試合までの間隔を1週間にしたのはなぜですか

 物理的に本当は1週間の方が良いみたいなんですよ。いつも3週間で下りていたので、今回は経験として1週間前に下りてやってみました。それが僕には合っていなかったと思うので、次からはまた考えながら調整期間にもっと集中して世界大会に合わせていきたいなと思います。

「悔いが残るレースになってしまった」

――つぎに世界選手権について伺いたいと思います。予選を泳いでの感触はいかがでしたか

 正直言うとあまり調子はよくなかったです。合宿から調子がよくなくて、不安が残ったまま予選に臨んで案の定あの結果でした。余裕で(準決勝に)残ってるんですけど全力で臨んであのタイムだったので、ちょっとショックも受けつつ準決勝、決勝で不安が残るなと思いながら過ごしていました。

――決勝に向けて予選・準決勝はどのようにイメージを作り上げていきましたか

 タイムになっちゃうんですけど、予選を(1分)55秒真ん中くらいでいって、準決勝を(1分)54秒真ん中くらいで行く予定でした。でも予選が(1分)55秒94で、準決勝が(1分)55秒57になっちゃったので、そこで感覚が狂っちゃいました。準決勝は予選よりもはるかにタイムを上回って上の順位で残ろうと思ってやってたんですけど、ちょっとなかなか調子もあがってこなくてずるずるといったっていう感じです。

――決勝はどのような目標を持って挑みましたか

1番ですね。もちろん1番狙ってましたし、リオ(五輪)の時も予選、準決勝があまり良くなくて決勝でぼーんと上がったのでそれを信じて世界選手権もやってはみました。でも見事に6番で情けない結果で終わりましたし、悔いが残るレースになってしまったので次頑張りたいと思います。

――決勝を泳いでいる時に感じたことは

いつもは前半遅れるのはもう一緒なので、遅れても最悪しょうがないなというのは思っていました。でも、あまりにも隣の選手とかと差がつきすぎていたので、これはちょっとまずいなと思いながら泳いでいました。ラスト50メートルも僕の持ち味なので(ペースを)上げようと思ったんですけど、前半力んでいたのでそのままずるずるとバテていって、そのままでタッチしましたね。

――1レーンだったことは関係ありますか

いや正直関係ないですね。真ん中で残っても端っこで残っても残っていることに変わりはないのでそこはあまり考えずに臨むということだけは考えていました。

――観衆のハンガリー勢への声援がすごかったですが、難しい部分はありましたか

ちょっと気落ちした部分はありますね。ハンガリーの選手が2人も残っていて、その2人が結構強豪で、余裕でメダル候補だったので、すごい声援もありました。このアウェイ感の中で戦うのはすごく難しいものだなと実感しました。

――テレビで見ていてもシェー選手(ハンガリー)が出てくると大歓声というのが伝わってきたんですけど、国民の期待というのはすごかったですか

そうですね、あの舞台で一緒に泳いだんですけど、歓声はすごかったですね。リオの時もフェルプス選手(アメリカ)がいたので歓声はすごかったんですよ。だからあまり変わらないなとは思ったんですけど、2人も速い選手がハンガリーにいたのでちょっと気落ちしました。不安も残りつつ、できるかなという感じで臨んだからメダルにも食い込めず、情けない感じで終わってしまったのではないかなと感じます。

――今回の3本のレースからの収穫、改善点はありますか

まずは声援に負けてしまったのでメンタル強化ですね。また山を下りるタイミングも考える必要があります。ただ純粋に僕の力不足で決勝で上げれなかったというのも原因のひとつだと思うので、もうちょっと細かいところはインカレや国体が終わってからしっかり考えていって、新年度から再スタートしていきたいと思います。

――瀬戸さん(大也、平29スポ卒=現ANA)とはなにかお話はされましたか

特にはしてないです。プール上がってからおめでとうございますって言って、握手した程度です。帰った後は話したりしたんですけど、僕もちょっとショックを受けていたのでその場では話さず、そのまますぐ帰りました。

――五輪のメダリストとして挑んだ今回は、今までと違う気持ちはありましたか

特にはないですね。プレッシャーも僕感じないほうなんですけど、見えないプレッシャーみたいなものがあったんじゃないかとも思いますし、もしかしたらプレッシャーがあったのかもしれないです。それでこうなっちゃったのかもしれないですね。

――日本の選手とお話されている姿がテレビで結構映っていたのですが、日本選手団の雰囲気はいかがでしたか

雰囲気はすごいよかったと思います。レース中もすごいみんなで応援していましたし、まとまって動くことが多かったので、チームワークもすごかったです。団結力があったからああやってメダルの数も結構出て終われたんじゃないかなと思います。

――見ていて刺激を受けたレースは

僕の個人的な意見としては100メートルのバタフライですね。ドレッセル選手(アメリカ)っているんですけど、いきなり出てきてフェルプス選手の世界新くらいまで近づいていたのでそれが僕一番衝撃的でした。五輪の時よりも決勝タイムが明らかに速いですし、周りのレベルが上がっていました。世界のレベルが上がっていたので、日本はまだ動いていないですけど、世界はだんだん水泳に力を入れてきて動き始めているんじゃないかなとその時実感しました。

――食事や環境面についてはいかがでしたか

食事は味の素さんから提供していただいていたので全く問題なく快適に過ごせました。部屋で水漏れがするところがあったりして、ちょっと不便なところはあったりしたんですけど、すぐ直してもらって、ストレスとかもかからずやれていたので、そんなに不便もなく、すごい快適に過ごせたんじゃないかと思います。

――同部屋はどなたでしたか

早大OBの中村克さん(平28スポ卒=現イトマン東進)ですね。

「4連覇がかかっているので、しっかりと優勝したい」

インカレでの活躍が期待される2人

――ではインカレに向けての話に移ります。現在チームの雰囲気はいかがでしょうか

まとまっているんじゃないですかね。僕個人の意見として、僕が2年生くらいの時が一番まとまっていたと思います。僕が一番上になって、まとめられているのかはちょっと分からないですけど、紺碧の空を歌ったり、いろんな行事に参加したりしているので、まとまっているとは思います。

――今はインカレに向けてどのような練習をしていますか

今は調整期で、ペースワーク中心になってくるんですけど、レースを意識した練習をしています。

――坂井選手自身のコンディションはいかがですか

正直今はあまり調子がよくないです。でもまだ一週間あって、どんどん調子は上がってくると思うので、それを信じてやるだけだと思います。

――具体的にどの種目に出場されますか

今の予定では、1日目が200メートルバタフライ、決勝でもしかしたら400メートルのフリーリレー。2日目が100メートルバタフライ、400メートルメドレーリレーです。僕は背泳ぎで出ます。そして3日目が800メートルフリーリレーです。

――インカレというとチームの応援も醍醐味だと思いますが、そういった面で楽しみな種目などはありますか

僕も4年生になりましたし、1年生の時みたいにほやほやとした感じでインカレには臨んでいないです。個人的には、200メートルバタフライの4連覇がかかっているので、しっかりと優勝したいです。後輩の幌村(尚、スポ1=兵庫・西脇工 )もいますが、負けずに4連覇を目指したいです。個人だけでなく、チームへの貢献というのもあるので、リレーもしっかり頑張って大学生活を締めくくりたいなと思います。

――先ほど話に出た幌村選手は、坂井選手から見てどこがすごいのでしょうか

大きな大会に強いですね。基本毎回の試合、速いタイムで泳ぎますけど、大きな大会へのコンディションの合わせ方があいつは特にうまいです。

――ここ一番で勝負強いということなんでしょうか

一言で言うと勝負強いですね。

――プライベートでの関わりはありますか

僕部屋っ子なんですよ。寮で同じ部屋なので、たまに飯に行ったりしています。帰ってきたら祝福してあげたいなと思います(笑)。

――瀬戸選手含め、早大が日本のバタフライを引っ張っている印象を受けるのですが、強さの秘訣などはありますか

秘訣としては、奥野さん(景介監督、昭63教卒、広島・瀬戸内)の指導が優れているということもありますが、僕は選手が速くなるのは選手と監督との信頼関係が大切だと思っていて、そういったところがしっかりできているからだと思います。特に他の選手がやっていないことをやっているわけではないので。

――奥野監督と他の指導者では何が違うのでしょうか

優しいですけど、時には厳しく、練習中もちゃんと指導してくれます。プライベートでも僕がほやほやしていると、しっかり注意してくれます。それを考えると、信頼関係がないとこういうスポーツはやっていけないんじゃないかなと思います。

――4年生で迎えるインカレということですが、やはり特別な気持ちですか

やっぱり全然違いますね。1、2、3年生の時は正直自分が勝てればいいやとか、リレーもチームの足を引っ張らなければいいやと思っていました。今年は4連覇という目標もありますし、お世話になった大学なので、その恩返しっていうのもあります。だからしっかりと全部優勝して、この大学に入ってよかったと思えるような結果を出したいです。

――インカレ後の目標を教えてください

インカレ後の国体が終わったら、リラックス期間になります。まあその時にいろいろ考えたいんですけど、今思っているのは、あくまでも2020年の東京五輪での金メダルが目標なので、そこに合わせて、2018年のパンパシフィック選手権とアジア選手権でまず優勝したいです。瀬戸さんにも勝って、2019年の世界水泳でも金メダルを取り、どんどん金メダルを増やしながら東京五輪に臨みたいです。そうすれば自信もついていると思いますし、今までとは違う状況で臨めると思います。そういったところで一年一年を大切にしながら頑張っていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 大島悠輔・糸賀日向子)

『奇跡』を起こして欲しいですね!

◆坂井聖人(さかい・まさと)

1995(平7)年6月6日生まれ。181センチ。福岡・柳川高出身。スポーツ科学部4年。隣でインタビューを受けていた渡辺一平選手との軽快なやりとりから、二人の仲の良さがうかがえました。最上級生として迎えるインカレでは、チームの中心選手として活躍を見せてくれるでしょう!