【特集】『世界選手権事後インタビュー』渡辺一平

競泳

 1月に世界新記録を樹立し、金メダル最有力候補として重圧のかかる中臨んだ世界選手権。世界選手権へ向けて取り組んできたこと、初の世界選手権で初めてのメダル。そして、全日本学生選手権(インカレ)やこれからの目標。渡辺一平(スポ3=大分・佐伯鶴城)が現在の心境を語ってくれた。

※この取材は8月26日に行われたものです。

「自分の泳ぎと感覚を一致させる」

対談に応じる渡辺

 

――ハンガリーから帰ってきてインカレへ向けての合宿もありましたが、休みは取れてますか

 

 それなりにはとれたんですけど、ずっと早稲田で練習している中で、僕はインカレとか早慶戦に出場できていないので、ワセダのために泳ぐっていうのはあまりなかったので頑張りたいと思ってます。夏合宿を茨城で行ったんですけど、夏合宿に初めての参加だったので、初めての経験もあり、インカレに向けて強化をしてきていました。

 

――オフはどんなことをされていましたか

 

 帰ってきて3日、4日くらいだったんですけど、メダリストとしてスポンサー回りとかもあったので、拘束される時間は長かったんですけど、ご飯食べたりお酒飲んだりしました。

 

――世界選手権に向けて取り組んできたことはどんなことがありましたか

 

 きょねんのリオオリンピックの時に準決勝のタイムを決勝で出していれば優勝できていたという事実があって、悔しい思いをして、決勝の舞台で自分の泳ぎをするっていう目標を立てて、冬からトレーニングをしてきて、世界新記録も出しました。世界新記録を出した頃から前半から積極的にいくレース展開に変えたんですね。その方が自分の泳ぎに集中できるというか、後半あげていくレース展開は、隣に誰もいなかったら、ついていく人がいないので、難しいレース展開になってしまう。前半から勢いよくいくというレース展開に取り組んでいって、決勝の舞台で自己ベストの更新を目標にトレーニングをやってきました。

 

――高地合宿の場所にスペインを選んだ理由はなんですか

 

 時差ですね。スペインはハンガリーとの時差がないので、きょねんはリオに入りやすいという理由でメキシコに行ってたんですけど、今回も同様で時差の影響があまりないようにということでスペインを選びました。

 

――合宿で奥野景介(昭63教卒、広島・瀬戸内)監督からどんなアドバイスを受けましたか

 

 ゴールデンウィーク頃に長距離泳ぐ練習をかなりやっていたときに、膝を痛めてしまって、平泳ぎを泳げない時期もあったんですけど、自由形でも痛くて、上半身だけのトレーニングをしていた。まだ時間はあるから落ち着いて取り組むようにと言われました。また、高地に行って2日目で風邪をひいてしまって、39度くらいの熱が出ました。3日、4日くらいで治ったんですけど、最初の1週間は順応の期間で、あまり練習もしないですし、あまり支障はなかったんですけど、そういう不安の中でも落ち着いて練習をしろと声をかけてもらいました。

 

――今はもう膝は完治していますか

 

 そうですね。自分は谷岡先生のゼミなんですけど、谷岡先生に膝を見てもらって、膝の滑りをよくする円滑油のようなものを膝にさしてもらって、膝が痛みにくくなるようなドライトレーニングを取り入れたおかげで、今は完治しました。

 

――世界選手権の舞台となったブダペストの会場の雰囲気はどうでしたか

 

 ハンガリーは水球大国で、国全体で水球を応援しようっていう雰囲気になっていて、その影響で水球が盛り上がるのはもちろんなんですけど、競泳の試合もすごく盛り上がっていました。今まで僕が経験したことがないくらい歓声の中で泳ぐことができましたし、会場がすごく広くて、歓声が上から降ってくるようなイメージで泳いだので、東京オリンピックのときも、こういう雰囲気の中でレースができれば、日本勢はいい泳ぎができるんじゃないかと思いましたし、いま日本がそういう雰囲気になれないと思うので、日本も競泳大国としてもっと力を入れて、結果を出せるから応援に行こうという雰囲気になれるように、これからの2、3年で競技全体で強化していきたいと思います。

 

――現地での食事はどうでしたか

 

 いいホテルだったので、食事には困らなかったですし、味の素さんがついてくれていて、朝からお米を炊いてくれたりとかスープとかふりかけとか食に困らない工夫をしてくれていたので、特に苦労なくという感じでした。

 

――ホテルのルームメートはどなたでしたか

 

 瀬戸大也さん(平29スポ卒=現ANA)とでした。レース前は金メダル部屋を作ろうって話をしていました。僕の2ブレ(男子200メートル平泳ぎ)の前に瀬戸さんの男子200メートルバタフライがあって、銅メダルを取ってくれたので、僕こそが金を取って瀬戸さんも男子400メートル個人メドレーで金を取ってくれるんじゃないかと思って、金を取りたいって気持ちがあったんですけど、僕が銅メダルで瀬戸さんも銅で、今回の日本水泳界の銅は全部僕と大也さんしか取ってないので、銅メダル部屋だなとは言ってました。

 

「決勝の舞台で自分の泳ぎをする」

 

 

インカレでの躍進に2人の活躍が欠かせません

 

――それではレースを振り返っていきます。100メートル平泳ぎはどうでしたか

 

 山を降りて3日、4日くらいだったので、身体にダルさはありました。血がドロドロの状態で身体が重かったのもありました。感覚的には身体の状態と一致してた。身体が重いなぁっていうのと朝の試合前のアップの感覚と試合の時の感覚、タッチした時の感覚が全部一致してたので、自己ベストが出なくて焦ったということもなくという感じでした。

 

――100メートル平泳ぎのレースを終えて200メートル平泳ぎに活かそうと思ったことはありましたか

 

 準決勝からすごくレベルが高かったので、予選からある程度のタイムで泳がなきゃいけないんだなと思っていました。

 

――200メートル平泳ぎのときの自身のコンディションはどうでしたか

 

200メートルの時は山を降りて8日目くらいだったので、身体のダルさはなくて、レースが楽しみでした。瀬戸さんが結果を出していたり、大橋悠依さん(東洋大)が初出場で銀メダルを取っていたりして、自分は応援していながら、早く泳ぎたいってうずうずしてました。

 

――その中で予選を泳いでみてどうでしたか

 

結果的に予選・準決勝・決勝と全部チュプコフ選手(ロシア)が隣のレーンにいて、レベルの高いレースになるんだろうなと思っていて、ラスト50メートルで(追い上げて)くるんだろうなとも思ってたんですけど、自分が目指してきたのは、決勝で自分自身の泳ぎをするってことなので、落ち着いて自分自身の泳ぎと感覚を一致させるっていうことを意識していました。

 

――準決勝も同様ですか

 

 準決勝もチュプコフが隣で、2組目だったので、大体(2分)8秒6くらいだなもと思ってたんですけど、感覚がよくてだいぶ余力があって、もっと頑張れば2分6秒くらいを出せたと思うんですけど、まぁそれは力みもなくて、準決勝の泳ぎやすさということだと思うんですけど、いい感覚だな、2分6秒くらい出るかなという感じで終わりました。

 

――そして、迎えた決勝はどうでしたか

 朝起きて、朝からプールに行ってしっかり身体を動かして、昨日の疲れがどんな感じなのかを確かめながら泳ぎましたし、レース前も自分の感覚とタイムを一致させることで、少しでも自分の不安要素をへらすというアップをしました。決勝のレースだと、小関さん(也朱篤、ミキハウス)とチュプコフの隣で、小関さんがやはりスタートがうまいので、前半から積極的にいくっていうのはわかってましたし、チュプコフはラスト50メートルが強いってのもわかってたので、僕がこの2人に勝てるのは全体的にタイムを刻むことだなと思ったんです。50メートル4本のラップをとったとして、僕が世界新記録を取ったときの1番遅いラップが32秒6なんですけど、1番遅いラップが32秒6っていうのは誰にも真似できないものだと思っていて、そこは僕の強みなんだと思っている。前半にいくレース展開でもなければ、後半に溜めるレースでもないので、刻むレース展開でいこうっていうのがあって、100メートルのターンを落ち着いてやれましたし、150メートルのターンでは、1位を取れているので、納得はできているんですけど、ラスト50メートルでチュプコフ選手がやはり強かったですし、小関さんにもラストでかわされているので、力不足を痛感することになった。でも、決勝の舞台で僕のよさを出すことができたと思います。メダルを狙いにいくとしたら前半で溜めて後半で一気にいくような極端なレースをしていたと思うんですけど、優勝を目指してラップを刻んで、優勝するぞというのもあのレース展開から見えるので、いいレースだったと思います。

 

――国際大会で初のメダル獲得となりましたが

 昨年のリオで小関さんと僕でメダルが取れなくて、今までずっとメダルを取ってきていた種目なだけに悔しい思いをしましたし、日本のお家芸とされている(男子)200メートル平泳ぎだったので、今までの先輩方に申し訳ないという気持ちがありました。そういうのもあって、今回てっぺんは取れなかったんですけど、2位と3位でW表彰台という形で日本の平泳ぎの強さを証明できたことはよかったと思ってますし、一番上を取れていないということは小関さんも僕自身もこれからの課題にできると思うので、来年のパンパシ(パンパシフィック選手権)や東京オリンピックでは今回成し得なかったワンツーフィニッシュを小関さんと一緒に目指していきたいと思います。

「ワセダに貢献したい」

――世界選手権を経て得たものはありましたか

 結果的に準決勝から決勝でタイムを落としてしまっているんですけど、昨年のリオオリンピックの決勝でタイムを落としてしまった自分とは全然違うレースができたんじゃないかと思っているので、決勝の舞台で自分のレースをするってことは達成できた思いますし、予選・準決勝・決勝と、予選で自分の泳ぎを確かめながら安定した泳ぎをするってのもそうですし、準決勝でいいコースどりもしつつ、余力も残しながらというレースもできたので、全体的にレース3つをまとめることができたのはよかったんじゃないかと思います。

――レースの後、チームメイトや監督さんと何かお話はされましたか?

 もちろんたぶんチームメイトみんなも監督も優勝するっていうのを目標にしてたと思うので、僕自身もやっぱり優勝するっていうのを目標にはしてたんですけど、やっぱりそういう悔しさももちろん他の人にはあったかもしれないですけど、僕自身悔しさももちろんありましたし、もっとこうしておけば、っていうのはあったんですけど、このレースに自分自身が納得してたので、なので他の人に「もっとこうすればよかったね」とか「金メダル惜しかったね」って言われるのはあるんですけど、僕自身が納得してるぶん、特にそんな、銅メダルを獲れたっていうのはまず一つ良かった点だと思ってますし、銅メダル獲れたっていうのは上に二人いるっていう、これからの目標にもなると思っているので。チュプコフが2人目の2分6秒台を出したので、たぶん世界新記録もすぐまたタイムを抜かれるんじゃないかなっていう気持ちがあるので、チームメイトもそうですし、奥野監督からも「お前はまだ次があるからどんどんどんどん世界新記録を更新して、東京オリンピックの時には」っていう言葉はかけられました。

――海外(高地)との練習に比べて、日本の練習はどう違いますか?

 高地トレーニングは酸素も薄いですし、体もすごいだるくなるんですよね。やっぱり今までと環境の違うところに行くので。しかもまあ高地トレーニングとかは、年間に数人なんですけど亡くなったりする選手もいるので、それだけそういうことをしないと勝てないレベルの高さにもなってきていると思うので。僕自身高地トレーニングは自分自身に合ってると思っているので、これからも高地トレーニングには行くんだろうなっていう気持ちはあるんですけど、一応今回世界水泳が終わって茨城のほうに合宿に行ったりもしたんですけど、そういう高地トレーニングとかになると少数になるじゃないですか、やっぱり、代表選手2人とか3人になっちゃうんですけど、今回ワセダみんなで練習をしてみんなで声出したりだとか切磋琢磨して楽しく練習するほうが練習タイムはやっぱりすごく速いっていうのが僕自身もわかったので、まずその練習自身を楽しむっていうのがすごい大事かなっていうのは思いました。

――インカレでのそれぞれの競技の目標は?

 インカレは100メートル、200メートル平泳ぎはもちろん昨年もどっちも獲っている種目ではあるので、今回も2冠っていうのを目標にレースに臨みたいと思っているんですけど、インカレはやっぱりタフな試合になるので、初日でいうと100メートル平泳ぎを泳いで20分後くらいにもう400メートルフリーリレーがあるので、僕はそれにも出場するので、そういう個人のレースよりかはチームのために貢献したいという気持ちがあるので、もちろん個人で優勝するっていうのはもう大前提の話ではあるんですけど、チームで僕がリレー全体を引っ張っていけるような泳ぎをしたいっていう気持ちはあるので、リレーで、例えばメドレーリレーでいうと、昨年も瀬戸さんがひっぱってくれて優勝することができているので、今回も坂井さん(聖人、スポ4=福岡・柳川)と一緒に僕たちが引っ張って、メドレーリレーで今年も優勝していきたいなという気持ちはあります。

――今後最上級生になると思いますが、パンパシや東京オリンピックなどの今後の目標は?

 後期から3年生で最上級生という形になるんですけど、今もう最上級生としてミーティングとかも行って、チームをこれからどうしていくかっていう話もしてますし、そういう中で来年は4年の夏にパンパシ水泳が東京で行われるということで、来年の夏は早稲田大学現役の選手として最後に行われる国際大会があるので、そういうところでしっかりと優勝してワセダに貢献することができれば、チーム全体も盛り上がっていくと思うので頑張っていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 池田春花、石田耕大)

『克己』を目標に掲げてくださいました

◆渡辺一平(わたなべ・いっぺい)

1997年(平9)3月18日生まれ。身長193センチ、体重76キロ。大分・佐伯鶴城高出身。スポーツ科学部3年。対談中や色紙に書く言葉を考える際にも坂井選手との親密さをのぞかせた渡辺選手。インカレでも2人の活躍が楽しみですね。