まさに有終の美だった。相撲の聖地・両国国技館で行われた全日本選手権(全日本)は選ばれし70名の力人(ちからびと)のみが出場を許されるアマチュア相撲最高峰の舞台である。3年連続の出場となった橋本侑京主将(スポ4=東京・足立新田)は見事ベスト16入り。早大勢として30年ぶりの快挙で学生相撲最後の土俵に花を添えた。
予選で3番相撲を取り、2勝以上の者が決勝トーナメントへ進出できる今大会。予選2回戦、3回戦で対戦経験が乏しい社会人との対戦を控えていた橋本は、初戦で確実に勝利を収めたいところだった。しかし、初戦でまさかの敗北。「内心、終わったって思いました」(橋本)と振り返る。だが、気持ちを切らさずに予選2回戦を勝ち切ると、次戦に望みをつないだ。予選3回戦で立ちはだかったのは平成29年度の『アマ横綱』・西郷智博(鳥取県庁)。強敵にもひるむことなく、鋭く踏み込んだ橋本は攻め手を休めなかった。右のハズ押しで相手の上体を起こすと、175キロの巨漢を土俵下へ。殊勲の金星で決勝トーナメントへ駒を進めた。
西郷智博(鳥取県庁)を押し出す橋本
「取組を重ねるごとに良くなっていった」と室伏渉監督(平成7人卒=東京・明大中野)が振り返ったように橋本は徐々にギアを上げていく。決勝トーナメント1回戦でも立ち合いで当たり勝ち。二本差して寄りたてた。土俵際で干場伸介(東洋大)に右からすくわれ残されたが、相手が前に出ようとしたところで回り込む。下がりながら首投げを打つと、相手は土俵上でひっくり返った。その瞬間、両国国技館に歓喜の声が響いた。早大勢が全日本でベスト16入りを果たすのは井上太氏以来となる30年ぶりだ。早大相撲部の歴史を塗り替え続けてきた男は、大学最後の舞台でまたしても偉業を成し遂げた。決勝トーナメント2回戦でも自身の相撲を貫いたが、一歩及ばず。脇の甘さがあだとなって、惜しくもベスト8入りを逃した。敗れた直後には両手で顔を覆い、悔しさをあらわにしたが、大会終了後には「負け方も僕らしいかな。負け方も含めて集大成でした(笑)」とコメント。最後は橋本らしい明るい表情で土俵に別れを告げた。
今大会は橋本にとって大学最後の土俵となった
初めて今大会への出場を果たした長谷川聖記(スポ3=愛知・愛工大名電)は初戦から2連敗。決勝トーナメント進出は叶わなかったが、予選3回戦ではもろ差しからの盤石な攻めを見せ、白星で1年を締めくくった。この1勝は来年につながる大きな1勝となっただろう。「来年も全日本に出場できるように」(長谷川)。経験を糧に、さらなる飛躍を誓った。
白星で1年を締めくくった長谷川
橋本はこれまで先頭に立って道を切り開いてきた。全国学生個人体重別選手権優勝、全国学生選手権ベスト8…。その戦績はどれも輝かしいものだ。そして、その道に今、「同志」である長谷川が続こうとしている。「侑京さん(橋本)みたいな活躍ができれば」(長谷川)。熱き系譜は長谷川へと受け継がれた。長い冬を超えたその先に、新たな時代の幕開けが待っている。
(記事 望月清香、写真 吉岡拓哉、大貫潤太)
結果
橋本侑京参段(スポ4=東京・足立新田) 予選 一回戦 ●中村参段(中大)送り出し 二回戦 ◯龍山四段(鹿児島県)押し出し 三回戦 ◯西郷四段(鳥取県庁)押し出し 決勝トーナメント進出 一回戦 ◯干場参段(東洋大) 首投げ 二回戦 ●榎波四段(日大)寄り倒し ※ベスト16敗退 長谷川聖記参段(スポ3=愛知・愛工大名電) 予選 一回戦 ●荒木関四段(東洋大職員)押し出し 二回戦 ●神山四段(アイシン精金)上手投げ 三回戦 ◯石田参段(日大)寄り切り ※予選敗退
コメント
室伏渉監督(平7人卒=東京・明大中野)
――早大から2人も出場を果たしましたね
そうですね。これは初めてのことなので、2人とも予選を通れば良かったとは思うんですが、そこは少し残念でしたね。でも良かったです。
――橋本主将がベスト16入りの快挙でしたね
私の先輩以来30年ぶりなんです。
――橋本主将の取組を振り返っていかがですか
前半はどうかなと思ったんですが、取組を重ねるごとに良くなっていったので、そこは良かったと思います。
――予選では2年前の王者である西郷智博選手(鳥取県庁)を敗りました
あれはギリギリの状態の中で戦ったのですが、本当にいい相撲だったと思います。本人も気合が入っていて相撲の内容も良くなっていたので、「ここまで来たら勝たないといけない」という気持ちが出た一番だったと思います。
――橋本主将はきょうの大会で引退でしたが、4年間の活躍を振り返っていかがですか
彼は早稲田の全てを変えたというか、歴史を塗り替えてきたので、それはとても良かったと思います。ここまで強くなるとは入学当初を考えると誰も思っていなかったですし、これは本人が努力した結果だと思います。
――長谷川選手は予選敗退も最後に1勝しましたが、取組を振り返っていかがですか
あそこは勝ちにいきなさいと話をしましたし、1勝したい気持ちはとてもあったと思うので、良かったと思います。
――最後に、来年度に向けての抱負をお願いします
来年は新人も入ってきますし、また一から新しいチームをつくらなければいけないと思っているので、とにかく頑張ります。
橋本侑京主将(スポ4=東京・足立新田)
――きょうの大会に向けてどのような準備をしましたか
インカレ(全国学生選手権)が終わって、一回荷が下りた感じがしていました。インカレ終わりに部内での用事がいろいろあってあんまり稽古ができていない状態だったんですが、最後の2週間くらいでしっかり仕上げて、個人戦だったので、そんなに気負わずにいこうと思っていました。
――インカレでのけがの影響はありましたか
痛めて稽古もできなくて病院に通ったりしていたんですが、今はだいぶ相撲を取れるようになったので、そんなに心配しなくて大丈夫かなと思っています。
――大学最後の土俵にどのような思いで臨みましたか
最後だったので、小中高大といろいろな方から指導していただいたことを少しでも全部出したいと思っていました。地元の東京で皆さん見に来てくれているので、いろいろな人に今までの感謝を表すみたいな感じで、習ったことを全て出そうと思っていました。
――結果を振り返っていかがですか
たらればで言ったらあれなんですが、やっぱりあと一つ(勝ちたかったです)。結構際どいというか、自分ではいったかなって一瞬思ったんですが、残されてしまいました。でも前に向かったことは大事だったかなと。あと一つ勝っていれば表彰状ももらえたので悔しいんですが、自分の今持っている全ては出し尽くせたんじゃないかなと思っています。
――初戦では敗れましたが、そこからの切り替えはできましたか
内心終わったって思いましたね(笑)。ヤッベーなって。稽古不足感が否めなかったんですが、切り替えて2戦目は勝たないといけなかったので、勝って、3戦目はやるだけなので無心で取り組みました。
――予選3回戦では2年前のアマ横綱から白星を挙げました
やっぱりうれしいです。決勝トーナメントとかだったら向こうももう少し残すのかなとは思いつつ、勝ったことは自信になったし、学生最後の試合で一ついい思いができたかなと思っています。
――決勝トーナメント1回戦を振り返っていかがですか
首投げは(予選の)初戦は不発でした(笑)。(決勝トーナメント1回戦は)相手は学年は下なんですが、強いですし、途中ヤバイと思ったんですが、体がとっさに反応してくれたので良かったかなと思います。
――学生最後の相撲に悔いはありませんか
悔しいは悔しいんですが、立ち合いしっかり当たって攻め込めました。最後脇が甘くて負けたんですが、それも僕らしいかなと(笑)。僕がよく言われる弱点の一つだったので、負け方も僕らしいかなと。負け方も含めて集大成でした(笑)。
――改めて、早大相撲部での四年間を振り返っていかがですか
育ててもらったという気持ちがすごく強いです。僕はたまたま競技実績がすごく伸びたんですが、競技実績が伸びなかったとしても、人間的に成長できる環境だったかなと。大学選びの時に、周りからは「早大に行って強くなれるのか」という意見があったんですが、僕は早大に来て良かったなって思うし、高校生に戻ってもまた早大に行きたいなと思います。
――来年度からは仕事の傍ら、早大相撲部でコーチをやると伺いましたが、どのようなことを教えていきたいですか
仕事がどれくらいかもまだ読めなくて、実際どのくらい部と関われるかはまだ分からないんですが、やっぱり来年の子たちは僕が主将として共にしてきた同士であり仲間なので、いい思いをしてほしいなと。僕は早大に来てすごく良かったし、結果も出せてダブルでうれしかったので、ある程度見返せたのかなという気持ちがあります。そういうハングリー精神を磨いて、チーム力を上げていってほしいと思います。
長谷川聖記(スポ3=愛知・愛工大名電)
――初めて出場された全日本選手権でしたが、どのような心境で大会に臨まれましたか
緊張もなく、楽しんで、自分の相撲が取れればいいかなと思ってやっていました。
――きょうのご自身の取り組みをどのように振り返りますか
立ち合いは悪くはなかったですが、自分の形になれなかったのは駄目だったので、そこは反省しなければいけないと思います。
――連敗スタートとなったあと、監督やチームメイトとは何かお話しをされましたか
監督からはとにかく一番に集中して最後はしっかり勝つように、と言われたので最後まで気持ちを切らさないように気を付けました。
――立ち合いでもろ差しを決めると、完勝に近い形で3試合目を終えられました。最後の試合を勝って終われたことに対してはどのように思われますか。
それは来年につながると思いますし、自分の形で勝って終われたのは良かったと思います。
――橋本主将と臨まれる大会はこれが最後になりました。感慨深いものがあったのではないですか
一緒に練習することも多かったので、寂しいという気持ちもあるんですけど、これからは自分が侑京さん(橋本)みたいな活躍ができれば、と思います。
――今後に向けての意気込みと、改善していきたいところがあれば教えてください
来年も全日本(選手権)に出場できるように、団体ではさらに上位を目指していきたいです。課題としては、今大会、受ける相撲が多かったので、これからはもっと前に出て自分の形になれるように練習していきたいと思います。