望んでいた結果ではなかった。年に1度の全国学生選手権(インカレ)。2日目に行われる団体戦では、各校がしのぎを削る熱戦が展開される。選抜宇佐大会や東日本選手権でベスト8に入るなど成長を見せていた早大は、インカレでの「Aクラス(1部)優勝」という高い目標を掲げてきた。しかし、Aクラス予選で、早大は0勝4点に終わり、13位。ベスト8の決勝トーナメントには残れず、さらに来年の宇和島・宇佐の両選抜大会への出場権も逃してしまう厳しい結果となった。Bクラス(2部)に甘んじていたチームを押し上げた立役者である4年生はこの日で引退。後輩たちに夢を託すことになった。
早大の初戦の相手は、Bクラストーナメントを勝ち上がってきた法大だった。早大にとっては、よく稽古をしている相手だ。しかし、先鋒の長谷川聖記(スポ1=愛知・愛工大名電)は、左差し右上手で寄ったものの、土俵際で逆転され敗れてしまう。続く鬼谷智之主将(スポ4=愛知・愛工大名電)は、低い攻めで相手の上体を浮かせ、難なく勝利。ところが、中堅戦で谷本将也(スポ4=鳥取城北)が敗れ、早大は劣勢に立たされた。副将戦では、本田煕誉志(社4=大分・楊志館)が気迫の突きを見せ、はたき込みで勝利し、勝負は大将戦へ。橋本侑京(スポ2=東京・足立新田)が塩をまき、土俵へ上がった。立ち合いは互角だった。直後、橋本が土俵際まで攻め立てる。しかし、相手が右からあてがうと、体勢が逆転。橋本は東土俵へ突き倒されてしまった。法大から勝ち点が奪えなかった早大。続く2回戦、日体大戦では、谷本に代わって出場した若林魁(スポ3=岐阜農林)が、個人戦ベスト4のデルゲルバヤル(1年)を相手に鋭い踏み込みから激しい突きを見せたが、惜しくも及ばず。他の4人も勝てず、1点も奪えずに終わり、決勝トーナメント進出は大きく遠のいてしまった。
1年間、主将の重責を全うした鬼谷
東農大戦も2ー3で敗れ、予選敗退が決定。さらに、2年続いた宇和島・宇佐の選抜大会への出場権も途絶えてしまった。この結果には、室伏渉監督(人卒=東京・明大中野)も「本当に、残念というところしかない」、鬼谷主将も「きょう負けたことが何より悔しい」と、それぞれ悔しさを滲ませた。とはいえ、3戦目の東農大戦での2勝は、長谷川と橋本だった。若い世代の勝利に、鬼谷主将も「みんなたくましくなって、頼れる存在になった」と、その成長を認めた。来年以降に向けて、新チームへの希望も見えた一戦だったと言えるだろう。創部100周年のことし、快進撃を続けていた早大。最後の舞台は決して良い結果ではなかったが、高い目標を掲げて進む姿は胸を打つものがあった。室伏監督は試合後、「選手を褒めてあげたい」とも語った。
気迫の相撲を取り続けた本田
前日の個人戦が最後の土俵になった市川拓弥(社4=長野・更級農)、堀越豊輝(スポ4=東京・足立新田)に加え、鬼谷主将、谷本、本田という、早大相撲部を支えてきた5人が、引退を迎えた。監督も5人への思い入れが強く、「まだいてくれるんじゃないか」という正直な思いを語ってくれた。インカレの結果を見ても、5人の入部前、さらに入部1年目の2014年も2部で敗退していた早大。そのチームを、東日本選手権でベスト8に入るまで成長させたのは、5人の活躍によるところが大きい。谷本は「全体的には、少しずつステップアップできた」と言い、悔しさを滲ませながらも誇りものぞかせた。本田は「結果は出ないことの方が多かったが、自分に嘘をつかずに努力してやってきたので、達成感の方が今は強い」と、相撲人生を振り返り語った。「100周年の主将」という重責を担った鬼谷も「荷は重かったが、自分なりにチームを引っ張れたと思う」と語ってくれた。室伏監督は鬼谷のことを「ずっと我慢するやつで、何も言わなくて、背中で引っ張るタイプ。彼には負担をかけてしまった」と気遣い、試合後には「正々堂々と、胸を張ってくれ」と、直接言葉をかけたという。一時代を築いた5人の引退。来年以降の、新たな早大相撲部への期待も高まるが、まずは4年生の最後の土俵の余韻に浸り、その努力を讃えたい。
(記事 元田蒼 写真 吉岡拓哉、元田蒼)
※掲載が遅れたことをお詫び申し上げます
法大戦の直前、土俵下に控える団体戦メンバー
結果
1回戦 対法大 2勝3敗
先鋒 ●長谷川参段(寄り倒し)雑賀弐段
二陣 ○鬼谷参段(押し出し)宇野初段
中堅 ●谷本参段(押し出し)松浦参段
副将 ○本田参段(はたき込み)上平弐段
大将 ●橋本弐段(突き倒し)五十嵐参段
2回戦 対日体大 5敗
先鋒 ●長谷川参段(肩透かし)佐藤参段
二陣 ●鬼谷参段(寄り倒し)西弐段
中堅 ●若林参段(そくび落とし)デルゲルバヤル
副将 ●本田参段(押し出し)西澤参段
大将 ●橋本弐段(突き落とし)松永参段
3回戦 対東農大 2勝3敗
先鋒 ○長谷川参段(送り出し)齋藤参段
二陣 ●鬼谷参段(小手投げ)佐藤弐段
中堅 ●若林参段(送り出し)山内敬参段
副将 ●本田参段(押し出し)松原参段
大将 ○橋本弐段(寄り倒し)冨栄参段
※早大は予選13位、決勝トーナメント進出ならず
コメント
室伏渉監督(人卒=東京・明大中野)
――13位という結果になりましたが
残念ですよね。正直、本当に、残念というところしかないです。ただ、この100周年のプレッシャーの中で、勝たなきゃいけない、優勝しようという気持ちでやってきたので、それは本当に、選手を褒めてあげたいなと思っています。
――試合を振り返ると、法大にはあと一歩というところで敗れてしまいました
そうですね。法政は、いつも稽古しているので、わかっているはずなのですが。最初の一番で、長谷川が微妙な一番で負けましたが、そこは言い訳になってしまいます。負けは負けなので。これは、しょうがないなと思いました。
――第3戦も、東農大にあと一歩のところまで迫りました
本当にあと一歩だったと思います。ただ、負けたら言い訳になってしまうので、それはしょうがないです。良かったのが、1年生(長谷川)が勝ってくれたことですね。来年につながるんじゃないかなと思います。
――2年生の橋本選手も勝ちましたね
そうですね。あの2人が勝ったというのが本当に大きいので、来年につなげてもらえたらなと思っています。
――4年生がきょうで引退になりますが
あの5人は、僕が監督になって1年目に声をかけ始めたので、思い入れがあります。まだ、正直、実感があまり湧いていなくて、「終わっちゃったのかな」というか。まだフワフワしているような感じで。「まだいてくれるんじゃないか」って、そんなふうに思っています。
――特に、主将の鬼谷選手については
あいつは、ずっと我慢するやつで、何も言わなくて、背中で引っ張るタイプで、練習もひたすら真面目にやるしね。いろんな意味で、彼には負担をかけてしまったのではないかなと思っています。「100周年だから勝とう」という、全く関係のない、別のプレッシャーを彼に与えてしまったのではないかなと。きょう見ていても、彼の本来の動きではなかったなと思います。まだまだ勝てるのに、彼自身が相当プレッシャーを感じて、言葉では「プレッシャーは感じなくていいよ」と言っていたけれど、やっぱり感じてたんじゃないかなと。そこはね、運命のめぐり合わせというかね。試合後は、彼に「正々堂々と、胸を張ってくれ」ということは言いました。
――最後に、来年への期待をいただければと思います
やっぱり、このままじゃ終われないです。本当に悔しい思いをしたので。部員は少なくなりますが、ワセダはもともと少数精鋭だったので、そこを有効に使っていきたいです。今のメンバーで勝てなかったというのは大きいですが、勝てなかったことを踏まえて、今度は何をしなければいけないか。若林をはじめ下級生には言ったんですが、どうするかを自分たちで考えて、もっと努力しなければいけない。僕自身も、気持ち的にどうなるかなと思っていたんですが、すごい悔しいという思いが強いので。頑張ります。
鬼谷智之主将(スポ4=愛知・愛工大名電)
――13位という結果でしたが
主将の自分がうまく引っ張れなくて、こういう成績を招いたので、本当に申し訳なく思っています。
――ご自身は、法大戦ではらしい相撲が出たかと思います
そうですね、小さい相手だったので、よく見て相撲が取れました。
――後輩たちが、たくましい相撲を取っていたかと思います
この1年で、みんなたくましくなって、みんな頼れる存在になったと思います。逆に、最後は4年生が(点を)取れなくて、4月5月の(宇和島・宇佐)選抜大会のチケットを取れなかったので、本当に申し訳ないですね。
――ご自身の相撲人生も、一つの区切りになると思います
そうだったんですが、きょう負けたことが何より悔しくて、後輩たちに選抜大会に行かせてあげられなかったことが本当に悔しいです。それだけですね。
――主将としての1年間はどうでしたか
本当にいろいろ、荷は重かったですが、自分なりにできたと、チームを引っ張れたと思います。
――来年以降に向けて、後輩たちにメッセージをお願いします
4年生になる若林を中心に、今よりもっと良いチームを作ってくれたらと思いますし、それを自分たちがサポートできるように、頑張っていけたらと思います。
谷本将也(スポ4=鳥取城北)
――最後の相撲になりましたが、いかがでしたか
この大会が、このメンバーでやる最後の試合だったので、自分を含め、勝って、Aクラス優勝を目標にやってきていたので、やっぱり悔しいですね。自分が1回戦で負けてしまったので、チームに流れを持ってこれなくて、交代という形になったのですが、そこで勝ちきれなかったのが非常に悔しいです。
――チームとして予選13位という結果はどう受け止めていますか
自分たちではもっといけると思っていたのですが、勝負は厳しい面もあるので。僕たちが高い目標を持ってやってきたことは変わらないので、そこには自信を持っています。ただ、勝てなかった、負けてしまったというのは、悪かったところがあるので、それを後輩たちが見つめ直して、次の101周年、次の100年に向けて頑張って欲しいなという気持ちがあります。
――後輩たちの相撲は、ご覧になっていかがでしたか
稽古場でもそうですが、力をつけていて、侑京(橋本)は個人でもタイトルを取りましたし、聖記(長谷川)にしても、魁(若林)にしても、佐藤(太一、社2=大分・楊志館)にしても、浅田(大介、社1=石川・金沢学院)にしても、みんなが稽古場で僕らとしっかりやってきたので、自信を持って、今までやってきた分、もっと頑張って、新しいチームで、僕らよりもっと良いチームを作って、来年の東日本(選手権)やインカレに向かっていってほしいと思います。
――ワセダでの4年間、振り返っていかがですか
最後はこういう形になってしまったのですが、2部で苦しい時期もあって。僕が1年生の時は2部で負けていて、A(クラス)のリーグ戦にも出られないような状況だったのですが、選抜大会に出場したりとか、Aで東日本でベスト8に入って1部に昇格したりとか、全体的には、少しずつステップアップできました。先輩方も含めて、僕たちも努力を積み重ねてきた結果だと思うので、自信を持って良いところだと思います。
――相撲への思いをお願いします
まわし一つで全てをぶつけ合うという、魅力的な競技だと思います。相撲を通して、ワセダに入れて、このメンバーとスタッフ陣と、トレーナーの方々と、応援してくださる皆さんと、一つのチームの「ワセダ」として、このチームで頑張れたことは、僕にとって大きな財産です。相撲をやっていて良かったなと思います。
本田煕誉志(社4=大分・楊志館)
――最後の相撲になりましたが、思いはどうですか
14年間、いろんな人に支えられながら相撲をやってきたので、この引退という現実を迎えて、いろんな思いがあります。きょうの試合は、みんなで優勝を目指してきて、予選落ちという結果で、4年生として点を取れなかった申し訳なさや悔しさがあるのですが、自分たちはできる限り準備はしてきたつもりだったので、すがすがしい気持ちもあり、いろんな複雑な思いでいっぱいですね。
――後輩たちの力強い相撲は、ご覧になっていかがでしたか
彼らの成長には僕たちも驚いています。特に橋本は、彼が入学してきたときは僕たちは3年生でしたが、その時は全く僕たちの相手にならなかったですし、長谷川も入学当初は本当に稽古にならなくて。でも、この1年や2年で力をつけてくれて、橋本は体重別で個人優勝しましたし、長谷川も、対等に稽古をやれるまで力をつけてくれたので、インカレで頑張れたと思います。僕たち5人が抜けても、来年や再来年につながっていくような成長を見せてくれていると思っています。
――4年間を振り返って、最初は2部で負けてしまうこともあったと思います。いま振り返ってどんな思いがありますか
当初は1部昇格を目指して、100周年に向けてやってきたのですが、僕たちが1部に上がれて、振り返った時に、人間は貪欲なもので(笑)、目標を果たせば次の目標が設定されて、インカレ団体優勝を目標にしてやってきました。できなかったというところでは、悔しい気持ちがあります。入学当初から言っていた1部昇格は達成できたのですが、まだまだ上があるので、僕たちはこれで終わってしまうんですが、まだまだ来年、強くなって、新体制を作ってもらって。101年目、新しいスタートになると思うので、僕たちよりも上の成績を目指して、彼らには頑張ってほしいと思います。
――4年間過ごした同期への思いは
本当に、感謝しかないですね。本当に4年間いろんな思いがあって、調子がいい時もあれば、悪い時もあって、けがもあって、5人で支え合って、頑張ってこられたなと思います。同期への思いはどうですかと言われれば、感謝しかないですね。
――特に、主将を務めた鬼谷選手に関しては
鬼谷に関しては、創部100周年ということで、かなりプレッシャーもあったと思います。きょうも最後の東農大戦で、鬼谷が負けた時にすごく悔しがっていたのが印象的で、僕たちには見せないんですが、彼は彼なりに背負っていたものがあったんだなと思いましたね。僕たちも一人で抱え込まないようにサポートしていければいいなと思っていたんですが、やっぱりどうしても、あいつも一人で抱え込むタイプというか、「俺が引っ張ってやる」と背中で見せてくれるタイプなので、この1年間、悩むこともあったと思うんですが、本当に主将としてよくやってくれたと思います。
――最後に、相撲への思いをお願いします
これまで14年間振り返って、良い時もあれば悪い時もあって、いろんなことがありました。でも、僕としてはすごく今、すがすがしい気持ちです。今まで、やるだけやって、試合に臨んで、結果は出ないことの方が多かったんですが、自分に嘘をつかずに努力してやってきたので、達成感の方が今は強いですね。
橋本侑京(スポ2=東京・足立新田)
――今大会にはどんな気持ちで臨まれましたか
臨むときは本当に勝つということしか考えていなかったですね。この大会に関しては結果が全てだと思っているので、すごく勝ちたいという思いで臨みましたね。
――きょうのご自身の相撲を振り返っていかがですか
自分的には体はすごく動いていたんですけど、それが勝ちにつながらなかったですね。初戦の法大戦は2対2で回ってきて、あそこで自分が勝たないといけなかったのに負けてしまって、4年生の思いを託されて自分が出て、出られなかった4年生もいるなかで自分が甘さが出て負けてしまったんで、本当に反省しかないですね。
――13位という結果についてはいかがですか
ここ最近は宇佐大会、宇和島大会に出ていたんですけど、今回は出られなくて、いつもは宇佐、宇和島で腕試しをして東日本の大きな大会に出ていたんですけど、それがなくなっちゃうんで、逆に言えば冬の時期に鍛えて総力を上げるときだと思うんで、全体としては次の東日本(学生相撲選手権)までに4年生に頼ってきた分も新しいチームを作り上げていく期間かなと思います。
――きょうで引退する4年生への思いを聞かせてください
これは本当に感謝しかないですね。自分がワセダに来るきっかけになったのも4年生に関係するし、チームとしても引っ張ってくれて、自分がことし全国大会で優勝できたのも4年生の強い先輩方と練習したからできたことだと思うので、本当に感謝ですね。
――次は12月に全日本相撲選手権が控えますが、意気込みをお願いします
そうですね。今回は不甲斐ない結果に終わってしまって、あと1ヶ月くらいなんで劇的に変われることはないんですけど、この負けた気持ちを切り替えて、ワセダからは自分しか出ないんですけど、ワセダを背負う気持ちで入賞目指して頑張りたいと思います。
長谷川聖記(スポ1=愛知・愛工大名電)
――今大会にはどんな気持ちで臨まれましたか
最後の大会でしたがあまり考えすぎず、4年生を気持ちよく送り出せるように頑張ろうと思いました。
――きょうのご自身の相撲内容を振り返っていかがでしたか
自分的には悪くなかったと思うんですけど、あと少しのところで勝ち切れないことが多かったですし、勝った相撲でも良い相撲ではなかったので、これから一から修正していきたいと思います。
――13位という結果を受けていかがですか
本当だったらもっと上にいけるチームだと思ったんですけど、やっぱりこういう結果になってしまったので、自分たちがまた一からしっかりやらないといけないなという気持ちです。
――きょうで引退する4年生への思いを聞かせてください
自分は1年間という短い間だったんですけど、本当に相撲の面から私生活までいろいろしていただいて感謝の気持ちでいっぱいです。今回は気持ちよく送り出せたか分からないんですけど、申し訳ない気持ちです。
――最後に、来年に向けての抱負をお願いします
きょうは不甲斐ない結果に終わってしまったので、この悔しさを忘れずまた一から稽古して、人数は少ないですけどみんなで一丸となってやっていきたいと思います。