【連載】『令和2年度卒業記念特集』第54回 堀奈々美/女子ソフトボール

女子ソフトボール

諦めずひたむきに

 複数のポジションでの守備を器用にこなし、チャンスに強い打撃で存在感を放った堀奈々美(スポ=千葉経大付)。そんな堀のプレーは、泥臭くひたむきな努力の結果であった。真摯(しんし)にソフトボールと向きあい、最後の1年は主将としてコロナ禍のチームを束ねてきた堀の競技人生を振り返る。

  小学校1年生の頃に3歳年上の兄の影響で野球を始めた。中学、高校はソフトボールに打ち込み、「勉強も部活も両方ちゃんとやりたい」という思いから早稲田への入学を決めた。高校時代や大学1年生、2年生は基本的に控え選手。3年生の春リーグからけがで離脱した選手に代わり、外野手としてのレギュラーをつかんだ。それまではずっと内野手をしていた堀は、慣れない外野手をすることに「本当に焦りしかなかった」と振り返る。それでも色々なポジションをこなすことができたのは、高校時代から「どこでもいいから試合に出たい」、「せっかく与えられたチャンスはモノにしたい」という一心で練習してきた結果であるという。

 その思いは打撃面でも変わらない。打撃はもともと苦手で、高校の時は走者三塁での代打というワンパターンでの起用をされていた。試合に出られるのがそうした限られた場面であったことで、「自分がチャンスで打てば必然的にチームの勝ちにつながるし、逆に結果を残さなければ試合に出られなくなる」と人一倍高い集中力を発揮できたという。打撃を本格的に始めた大学では、内野の間を抜いてどんな形でも塁に出る、走者を返すというシンプルな考え方で打席に臨んだ。パワーヒッターでも器用なバッターでもないからこそ、「高望みせずに自分にできることを」と考えた結果だ。それがチャンスでの気持ちの強さや粘り強い打撃につながり、多くの場面でチームに貢献した。

 自分にできることを、精一杯やる。そんな堀のプレースタイルは主将としての指針にも通じる。前主将である増子奈保氏(令2スポ卒)は「圧倒的に能力が高く誰が見てもついていきたくなるタイプ」であったというが、堀は「私はずっとほとんど控え選手だったしそういう点では増子さんのようにはなれない」と思っていた。その分、全員がやりやすい環境を作ることに力を注いだ。特に重視したのは、試合に出る面や意見を言う面での先輩に対する後輩の遠慮をできるだけなくすということ。ミーティングでは4年生の意見を先に言うのではなくまずは後輩の意見を聞くようにした。また、後輩と1対1でしっかりコミュニケーションをとり、時には後輩自身がチームの中で果たすべき役割に気が付けるようにヒントを与えることもあった。

  早稲田のソフトボールは「学生主体」が大きな特徴だ。一番上の立場で引っ張る監督は基本的に不在であり、選手自身が考え、チーム内で考えを合わせながら部活動を進めていく。そんな「学生主体」のチームの主将は、自分の練習だけでなく常にチーム全体のことを考える必要がある、負荷の大きい役職だ。個々の意見をチーム全体で共有し、皆が納得して前に進めるように導くことは容易ではない。特に今年は新型コロナウイルスの影響で、全体練習は約5か月間中止され、全日本大学選手権(インカレ)は延期になり、インカレ優勝を目標としてきたチームの結束を保つのが難しかった。自身のモチベーションが下がることもある中、「主将としてちゃんとしなくては」という重圧が自らを追い詰め、つらい日々を送った。それでも、堀は「つらい分それ以上に感じられる楽しさや充実感は大きかった」と最後の1年を振り返る。「居心地が良く心を救われる」という同期の存在や、「能力の差に関わらずチームとして戦える」ソフトボールという競技の楽しさが心の支えとなった。

 

 

インカレで2点適時打を打ち、塁上で笑顔を見せる堀

 およそ2か月遅れでようやく迎えた最後のインカレ。初戦の相手は大会開催地の愛知県にある強豪・中京大。初回から失点を許して中京大ペースで試合は進み、3点ビハインドの最終回、無死一、二塁で堀に打席が回る。「私の仕事はここで打つことだ」と打席に入った堀の打球は、ショートを強襲する2点適時打となった。最後まで諦めず、チャンスはモノにするという堀の気持ちの強さが感じられた一打だった。試合は1点差で敗北し、初戦敗退となったことで「やっぱり悔しさは残る」と語った堀。しかし、今大会で優勝した中京大に対し善戦した経験は、きっと後輩たちが来年に生かしてくれるだろう。

 堀は大学でソフトボール人生に区切りをつける。社会人になっても、16年間本気で野球やソフトボールに向き合う中で身に付けた「諦めずひたむきに」物事に取り組む姿勢は、「他の人にも負けないと言えるように頑張りたい」と胸を張った。グラウンドの上で積み上げてきた努力は、決して揺るがない人生の礎(いしずえ)となるはずだ。

(記事 新井 万里奈、写真 小山亜美)