役割を徹底し、文字通り、打『線』として機能させる――。そんなビジョンを描くチームにおいて、好機の演出という役割を担うのが、萩野谷知大(人4=茨城・水戸一)と増形俊輔(社4=千葉敬愛)の二人だ。集大成となる戦い・全日本大学選手権(インカレ)を前に、2人のチャンスメーカーに話をうかがった。
※この取材は8月19日に行われたものです。
「やってきたことを出し切って戦いたい」(萩野谷)
東日本ではここぞの場面での萩野谷の打棒がチームの好調を支えた
――昨秋に最上級生となってから、ここまでを振り返っていかがですか
萩野谷 去年の主力の先輩たちは、試合をする中で起点となってゲームメイクすることがかなり多かったんですけど、ことしはその人達がこぞって抜けたので、僕らが自分自身でやっていかなきゃいけないんだという自覚が芽生えて始まった1年だったなという風に思います。
増形 僕も、3年生の時は先輩たちが引っ張っていてくれたから、プレーを自由にやらせてもらっていたので、インカレとかでもプレーに集中して結果を出すことができたということがあったんですけど、新チームになって自分たちが一番上の代になって、幹部として学連という仕事をやったりだとか、就職活動が始まったりして、ソフトボールのプレー以外に両立しなければならないことが増えて、ソフトボール中心の生活から移行していかなければいけないということがあって、プレーに集中できずに結果も出ないっていうことが続いて、プレー面では苦しかったなと思います。でもそういう時にグラウンドに行って、ソフトボールの話をしたり、励まされたりしながらプレーすることで、ソフトボールへの熱意というものも上がってきたかなと思います。
――この1年間のご自身のプレーについてはどうですか
萩野谷 僕と増形で1・2番を組んでいくことがことしの春からは多くて、最低でもどちらかが出塁してというところを目指してやってきていました。それが初回とかに達成できた時には、かなりチームとしても勢いづいて、良い試合展開になっていくんですけど、それができないと厳しい試合が続いたので、そのへんは反省点というか、難しかったところだなと思います。いかに出塁して、先攻でも後攻でも自分たちの戦い方をして、流れを持ってくるかというところが難しかったですけど、最近の大会で言えば東日本では、集大成に近付いていく中である程度良いかたちが出てきてたという感じですかね。
――その難しさは最上級生であることから来ていた部分もあったんでしょうか
萩野谷 確実に結果を残さなければいけないというか、そういうプレッシャーも含めてですね。前までは先輩もいたので、その先輩が中心となってやっていただけていたんですけど、それに乗っかって自分たちがつなぎであったりをやっていくというのが主なプレースタイルだったんですけど、ことしになって自分たちが切り開いていかなければならない、試合の状況を打破していかなければいけないというところが難しいところだったかなと思っています。
増形 やっぱり1番、2番のコンビということでやっていて、コンビとは何かみたいなことで悩んで、二人で4時間も5時間も二人で話し合ったような時もあって、このチームで勝つために二人でどういうことをすればいいのかということを考えて、悩み続けてやってきたからこそ、東日本大会で勝つことができたりだとか、良い結果を残すことができたんだと思っています。そういう意味では僕一人で戦っているというわけではなくて、萩野谷の存在というのは、僕にとって大きなものだったのかなと思います。
――昨年もレギュラーメンバーとして戦ってきたお二人ですが、起用法にも変化があった印象があります。今のポジション争いは激しいのですか
萩野谷 僕の立場で言うと、外野では打てる人や守れる人が下級生に多かったりして、たとえば最近では石井だったり、織部だったり、金子太だったりというところが出てきて、もともと鳥岡、飯泉、僕で守っていたところにその人たちが加わることによって、東日本大会もそうでしたけど、かなり刺激になって、下級生に負けられないなという気持ちが強くなっているというところはあります。
――内野手にも結構変化がありましたよね
増形 そうですね。僕もインカレに2年生の時はショートで出て、3年生の時はセカンドやって、今はファーストやサードをやっているという状況で、いろいろ点々としているユーティリティープレイヤーのようなことをやっているんですけど、それも下級生からの突き上げというか、ボトムアップというものを感じるからこそ、上級生もポジションをどんどん動いていくということになっているんだと思っているので、そういう点ではたとえばセカンドの川上卓也だとか、ショートの丹野太郎だとか、後輩の頑張りというのは4年生としても感じているし、チームを支え、引っ張っていく身としてはすごく心強い存在だなと思っています。
――チームの話題に移りたいと思いますが、やはり国士舘大や日体大に苦労してきた1年だったと思いますが、その2チームについてはいかがですか
萩野谷 特に国士舘は、去年のインカレで準優勝したメンバーがほとんど残っているというところで、ことしは去年よりもより仕上がってくるだろうという1年だったので、どうやって勝とうかというところはかなり悩まされたところでした。日体に関しては秋リーグでコールド(勝ち)していたので、そんなに苦手意識があるというわけではなかったんですけど、国士舘に関しては秋リーグも負けてますし、もともとの強いというイメージから、正直試合をするにあたっての苦手意識というものはあって、やりづらかったというところがありますね。
増形 国士舘や日体というのは、優勝するためにはどうしても勝たなきゃいけない存在なので、もちろん意識していますし、それは1年生の時から、4年生になった今でも、国士舘や日体と戦う前というのはすごく燃えるというか、他のチームと試合するよりも特別に思いを持って臨む試合でもあるので、インカレでは両方と当たって、両方とも倒したいという風に思っています。特に僕は、両チームに高校の同級生とかもいて、そういう仲間にも負けたくないという思いもあってやってきたので、最後は仲間に成長したところを見せつけて、ワセダに来てソフトボールをやってきてよかったと、そう思えるような試合をできたらなと思っています。
――そんな中で、東日本では良い内容の試合をこの2校と演じることができましたが
萩野谷 東日本は良いところばかりが出たという試合だったので…。僕自身も長打が2つ出て、あまりそういうタイプではないんで、良いところが出たという感じだったんですけど、僕とか増形はつなぎだったり小技という部分が強みで、それは出し切ったとは思ってないので、そのへんを100%出して勝ちたいという思いもあります。そうしなければ次のインカレでは勝てないと思うし、またうまく長打が出たり、はまるということはそうそう無いことだと思うので、だからこそやってきたことを出し切って戦いたいという思いが強くなりました。
増形 僕もチームとしては1年間目指してきたチーム像に近付いてきたのかなということは、プレーしていて感じました。ただ、決勝で勝ち切れなかったというのは、やっぱり最後の最後でやりたかったことができなかったということが敗因だったと思っていて、僕自身も萩野谷が出てからつなぐことができなかったとか、同じような状況が続いたりしてしまったので、そういうところをここから詰めて、東日本では優勝できなかったですけど、インカレではそれをすることによって優勝できると思うので。まだまだ完成形のチームではないと思うので、あと少しの間で理想のチームになれるように、インカレ決勝戦の日まで詰めていきたいと思っています。
――少し話題を変えます。お互いのプレーの印象についてはどうですか
萩野谷 小技という面で見ると、僕が出ればバントであったり、逆方向へのバッティングであったりというところで、確実に進めてくれるので、かなり信頼しています。練習でも小技を引っ張る身として、かなり意識高くバント練習などに取り組んでいるところを見ているので。守備のところでは内野に4年生があまり多くない中で、声で引っ張るというか、ベンチを含めて雰囲気を良くしてくれるという印象があります。
増形 お祭り男のような雰囲気を持っているなと思っていて、大一番の先頭バッターだとか、絶対緊張して硬くなってしまうような場面でも、打席に入る前から自分を奮い立たせて、追い込まれても泥くさく出塁してくれるような選手だなと思っていて、プレーの技術面もそうだけど、メンタルがすごく強いなと思っていて、それは尊敬するところだなと思っています。遠征で1日目に(萩野谷が)来なかったことがあって、僕が1番で出たけどなかなかうまくいかなくて、2日目になって戻ってきて、1番で出たらいきなり出塁してということがあって、やっぱり違うなと(笑)。
萩野谷 それはたまたま(笑)。
増形 まあ、練習も下級生の頃からバント練習とかを一緒にやることが多くて、お互い一緒に成長してやって来れたんじゃないかなと思います。
――タイプは似ているというお二人ですが、ソフトボールの競技歴はだいぶ違うと思うのですが
萩野谷 僕は大学1年生の2月です。ここに入ったのがその時期で、だいたい2年生になる頃ですね。
増形 中学校1年の頃です。クラブの野球チームに入っていたんですが、中学校で部活に入らなければいけなかったので、何部に入ろうかなという時に、たまたまソフトボール部があったので、入部したことがきっかけでした。
――まずは増形選手にお聞きします。競技経験が長いことが役に立っていることなどはありますか
増形 技術的に言うとあんまりないかなと。中学と高校はゴムソフトボールで、大学は革ソフトボールという違いがあって、革ソフトボールになって全然違うなと、ゴムソフトボールよりも野球に近いなということを思いました。なので、あんまり生きたというか、長所になったなということは無く、大学で切り替えて取り組んできました。生きたことと言えば、大学で試合する時の交友関係の広さかなと思います。どのチームとやっても知り合いだとか、高校や中学時代に戦った相手とか仲間がいるので、そういう点では相手のことを知ることもできるし、逆に自分のことも知られているので、その中でどうしたら結果を残すことができるかということを考えて、それをもとにヒットを打ったりだとか、守備位置変えて良いプレーをしたりだとか、そういうことはできたので、そういう点ではソフトボールをやってきたことが生きたなと思います。
――萩野谷選手はもともとは野球をやっていたということですが
萩野谷 そうですね。小中高と野球です。
――かたちは似ているとはいえ、競技の違いに戸惑いとかはなかったですか
萩野谷 そうですね。一番はピッチャーとバッターの距離が近くて、球が速いし、最初に2個上の溝口さんの代でいろんな投手と対戦させてもらったり、マシンのバッティングに混ぜてもらったりしたんですけど、全然当たらないなと。速すぎでしょ、どうやって打つの、みたいな(笑)。最初の頃はそういう日々がかなり続きましたね。
――野球時代も1、2番タイプのバッターだったのですか
萩野谷 野球だとソフトボールほど小技が生きないので、打つ中心にたまにバント、みたいな。でも、ソフトボールになって増形だったり他の先輩たちだったりを見ている時に、こういう風に足を使ってプレーしていけば、自分の強みが生かされるなと思って。野球の時は全然打てなかったんですけど、考え方次第でその時よりも打率が残っていったので、去年の金子さんの代の時に(試合に)出始めた頃から、なんか楽しいなと思い始めたという感じですね。
――試合前でも試合中でも良いんですが、ルーティンとかありますか
萩野谷 僕はそんなにこだわってることはないんですけど、気合いを入れたい時は打席に入る時に思いっきり声を上げるというか。あんまり相手にも害がないような感じの、自分を奮いたたせる感じに、「よっしゃー」と。自分が緊張しているのを一旦解き放つというか、大きな声を出すことによって、ぱっと冷静になれるので、そういったことをやってます。
――その声出しは、増形選手も東日本の決勝でやっている場面がありましたよね
増形 最後の試合だけは萩野谷の真似をしました(笑)。
萩野谷 (笑)
増形 萩野谷に続いていきたいなと思って、萩野谷の真似を結構していたんで、萩野谷と同じバットを使ったりだとか、なんとかあやかろうと(笑)。
――増形選手は何かありますか
増形 大したことではないんですけど、前日になるべくカルシウムを多くとっているということですかね。あとは、宿舎とかで荷物の整理整頓をしっかりしておくっていうのがルーティンですかね。カルシウムは自然の精神安定剤って言われていて、なるべく試合で心を落ち着けて、少しでも普段と同じプレーができるようにしたいなと思っているので。あとは最後の最後で慌てないように、心をしっかり整理して試合に望むことが大切かなと考えているので、凡事徹底を特に試合期間中とかはするようにしています。
萩野谷 すごい。
増形 高校の時はもっとやってたけどね。バットを布団に入れて寝てたりとか。
「日本一を取って夢の舞台を終わりたい」(増形)
エンジのユニフォームをまとってのプレーは特別なものだという増形
――改めてインカレへの思いを聞かせてください
萩野谷 自分自身、もともと競技スポーツを部活に入ってやるというのは高校までで終わりにしようと思っていて、浪人もしてその気持ちも増していたんですけど、所沢キャンパスに通う中でソフトボール部の活動を見る中でもう一回スポーツやりたいなと思って始めたのがこのソフトボールだったので、高校時代はチームとしても個人としても奮わなかったので、その悔しい思いがある中で決意した入部だったので、最初の思いというものを大切にしてやってきました。インカレで必ず結果を残して、悔いない結果というのは優勝だと思うんですけど、そこに対するこだわりというのはかなり強いかなと思います。
増形 僕は中学校の頃からワセダに来たいと思っていて、かつワセダでソフトボールをやりたいとも思っていて、それをずっと一番の目標というか、夢にしてきたので、実際に憧れの早稲田大学に入ることができて、(ここでのプレーは)夢の舞台というか、そういう3年半でした。好きで続けてきて、ずっと日本一を目指してやってきたソフトボールなので、最後に日本一を取って、夢の舞台を終わりたいなという風に僕は思っているので、最後は中学時代からずっと聞いてきた『紺碧の空』をたくさん歌って、そして勝って校歌で締めくくりたいなと思っています。
――インカレの組み合わせについてはどうですか
萩野谷 国士舘とかなり早い段階で当たるなという印象はあるんですけど、1回戦の立命館大から力があるチームなので、僕たちは先を見て戦うような選手層や実力を兼ね備えているわけではないので、一戦必勝をより意識していかなければいけないなと思います。決勝まで行くにしても、抜ける試合というのは一つも無いと思うので。
増形 僕の高校のソフトボール部の先生が立命館大学のOBということで、高校時代からいろいろと立命館大学の話は聞いていて、僕にとっては特別な思いのある1回戦になるなと思っています。立命館大学に勝ったらまた強豪の国士舘大学と当たる可能性もあるので、この2つの強豪を倒すことができたら、そのまま勢いに乗ってきっと突き進んでいくことができるんじゃないかと思うので、まずは1回戦の立命館大学戦に、4年間で培ってきたものをぶつけていきたいなと思います。
――今のチームの雰囲気はどうですか
増形 ハッピーな雰囲気だと思います。練習とか試合でもプレーしていて、守備とバッティングのどっちを取っても雰囲気が楽しいなという風に思っていて、ピリピリしすぎた雰囲気というわけでもないですし、かと言ってのんきな雰囲気というわけでもなく、締まりのある中でもみんな笑顔になるような、声を出すことができるような、そういうメンバーが揃っていると思うので、盛り上がりはここ数年では一番あるチームなんじゃないかなと思います。
――ご自身の状態はどうですか
萩野谷 普通に、順調に来ていると思います。
増形 僕はちょっと4年生になって苦しんだ時期が長かったのですが、それでもソフトボールにかける思いは強いと思っているので、最後の最後でおいしいところを持っていきたいと思っています。
――インカレに向け、意気込みをお願いします
萩野谷 目標はインカレ優勝というところで、そこに対してなんとかしてやろうと自分自身を追い込んで、プレッシャーをかけてやっていきたいと思っています!
増形 優勝が目標なので、そのためには全打席出塁してやるんだくらいの強い気持ちで臨んでいこうという風に思っています。僕たちは初回に打順が回ってくることが多いので、 ヒットを打って塁に出れば、雰囲気も爆発しますし、紺碧隊も乗ってくると思うので、そういう雰囲気をつくり出すことがポイントだと思うので、とにかくたくさん塁に出て優勝したいと思います!
――ありがとうございました!
(取材・編集 守屋郁宏)
◆萩野谷知大(はぎのや・ともひろ)(※写真左)
1994(平6)年8月19日生まれのA型。171センチ。茨城・水戸一高出身。人間科学部4年。外野手。劣勢もなんのその、ヒット一本でムードを一変させてしまう萩野谷選手。インカレでも、その技術と持ち前の明るさでワセダに流れを引き寄せてくれるはずです!
◆増形俊輔(ますがた・しゅんすけ)(※写真右)
1996(平8)年1月4日生まれのB型。173センチ。千葉敬愛高出身。社会科学部4年。内野手。その受け答えからも、真摯に競技に向かい合ってきたことが存分に伝わってきました。ワセダへの思いのように、ソフトボールへの思いもインカレ優勝というかたちで実らせてくれるはずです!