後藤若葉#3『もう一度なでしこのユニフォームを着るために』

ア式蹴球女子

 「もう一回日の丸を付けて世界で戦いたい」―――。
 自身のキャリアにおける最終目標について語るDF後藤若葉主将(スポ4=東京日テレ・ヴェルディメニーナ)の目つきは夢追い人のそれではない。幾度も袖を通したなでしこのユニフォームも、育成年代を通り過ぎた後藤にとって、日本代表に選ばれない限り身に付けることができないシャツになった。これまで世界大会とはつくづく相性が悪かった。スタメンとして活躍を見せたU―17W杯ではベスト8敗退。日本がターンオーバーしてメンバーを入れ替えた準々決勝のピッチに後藤はいなかった。3年後のU―20W杯、順調にヤングなでしこでの地位を確立させていたが、大会はコロナ禍に見舞われ中止に。2年遅れて開催された同大会では、21歳の後藤に出場権はなかった。

 

2019年にはU―19日本代表としてU―19アジア選手権を制覇した。写真は出場時のユニフォーム(本人提供)

 

 後藤史監督(平21教卒=宮城・常盤木学園)からも「将来なでしこを担える」と高い評価を得ている後藤だが、高校卒業時にトップチームに上がる選択肢もあった中でなぜ大学サッカーを選んだのだろうか。「あの時のベレーザは黄金期で、正直そこでやる勇気もなかった。6年間お世話になったチームだから感謝はしてるけど、違う環境でサッカーをしてみたかった。中学からずっといたらそのクラブのサッカーしか知らないけど、そうじゃない世界も見てみたかった。ア女(ア式蹴球部女子)にはいろんな所から来た人がいるし、いろんなところで気付きがあって、人として成長できてるなと思う」。

 

昨季インカレ準々決勝でPKを決めた後藤

 

 2019年のW杯、なでしこジャパンに大学サッカー出身者の選出はなかった。今年開催されるW杯にもメンバー入りをかけた選考レースに絡む大学出身者は極めて少ない。大学女子サッカーが日の目を浴びる機会は確実に減少してきている。そういった面でも後藤が日の丸をつけてW杯や五輪を戦うことの意味は大きいだろう。「直接トップチームに上がれたけど大学を選んだ一人として、こういう道が遠回りでも間違いでもないんだよと示していきたい。なでしこジャパンを目指すことを考えれば高いレベルでサッカーをやってる方が近い。今も選ばれてる中に大学生はいないって考えると直結するのはそっちかもしれない。でもその先を見た中で大学サッカーを選んだからと言って『あの4年間遠回りだったな』って思うような雰囲気じゃだめだと思う。これからの子たちへの道を作る意味でも自分が背負っているものはあるのかなと思う」。後藤は2011年、W杯優勝を成し遂げたなでしこジャパンを見て本格的にサッカーにのめり込んだ。あの時のなでしこジャパンが後藤に女子サッカーという道を開いたように、後藤が今の中高生に大学サッカーという選択肢を示すことができれば、日本の女子サッカー界はまた一歩前に進むはずだ。

 

全日本大学選抜での後藤

 

 なでしこジャパンへの道の中で最初にクリアすべき到達点はWEリーガーとなり、WEリーグで活躍することだ。「戦える部分はあるなというのは感じている。このレベルでやるのを基準にしていかないといけないんだなと」。ア女での練習試合や選抜活動などでWEクラブと戦いそのレベルを体感する中で、確かな手応えを得ていると同時に、プロの舞台で戦う上での覚悟も芽生え始めている。少なくとも公の舞台でWEクラブと対戦した2試合を見た人ならば、トップレベルでも十分に通用する選手であることは分かるはず。そしてその次が代表に選ばれることだ。「今の代表監督はU-19の時に見てくれていた太さん(池田太監督)だから、自分のことを知ってくれているという意味でチャンスはあると思う」。先日の大学選抜活動中に池田太監督と会話したことに触れながら話す。確かに他の監督が率いるより可能性は高い。そして付け加える。「ただ、大学サッカーでどんだけできていてもそのレベルでWEに対応できるかと思うと、そうじゃないんだろうなと思うところもあるから、現状に満足したらダメだなと思う」。まずはWEリーグで活躍するために、そして代表入りをかなえるために、向上させるべき部分が多いと後藤の目には映っているのだろう。

 

今年2月の浦和レッズレディース戦

 

 「今年のア女の日本一と皇后杯ベスト8が一番上にある」。もちろん自身のキャリアも重要事項ではあるが、現在はア女でのラストシーズンを後悔なく終えたいという思いが後藤の心の過半を占めている。それはやはり臙脂(えんじ)への思いや「ア女で4年間を戦う」と決めた早大入学時の決意を忘れていないのだろう。そしてそのためには後藤の経験や成長も不可欠な要素となる。向上心が高いゆえに、主将としてもいち選手としてもすべきことは山ほどあるという。「去年サッカーできていなかった中でのこの忙しさはうれしい悲鳴」。サッカーに没頭できる日々への幸せと自身の成長への希望からか、後藤の目は輝きを放っていた。ア女での悲願を達成するために、夢のなでしこ入りをかなえるために、密度の濃い1年が後藤若葉を待ち構えている。「ケガにだけは気を付けて」、我々はそう願いながら応援するほかない。

(記事 前田篤宏、写真 本人提供、大幡拓登、前田篤宏)

 

#1、#2はこちらから

『後藤若葉#1 離脱期間は8カ月、出場時間は65分』

『後藤若葉#2 主将・後藤若葉はア女に何をもたらすか』