ア女死闘制す! 6年ぶり皇后杯ベスト16入りで悲願達成まであと一つ! 「やっとここから」

ア式蹴球女子
第44回全日本女子サッカー選手権大会 皇后杯3回戦
早大 0-0
0-0
延長前半0-0
延長後半0-0
PK5-4
オルカ鴨川FC
【得点】
(早大)なし
(オルカ鴨川FC)なし

 ア女が死闘を制しプロへの挑戦権をつかんだ!悲願の皇后杯ベスト8まであと一つだ!

 ア式蹴球部女子(ア女)は10日、『第44回全日本女子サッカー選手権大会』(皇后杯)の3回戦に勝利し6年ぶりに皇后杯ベスト16入りを果たした。対戦相手はなでしこリーグ1部のオルカ鴨川FC(オルカ)。ア女は格上のチームを相手に大激戦を広げる。一進一退の攻防は90分では決着がつかず。延長戦にもつれるも0-0で120分が経過し、勝負はPK戦にゆだねられた。先攻オルカ、後攻ア女で行われたPK戦は5本目を終えて互いに1本づつ外す展開。そして迎えた6本目、GK近澤澪菜副将(スポ4=JFAアカデミー福島)が『技アリ』心理戦で相手の失敗を誘導すると、DF浦部美月(スポ3=スフィーダ世田谷FCユース)がその後を冷静に決め切り軍配はア女に上がった。皇后杯で3勝するのは2017年以来2度目となる快挙だった。

勝利が決した後のア女。もちろんヒーローはGK近澤(写真左)と勝利に導く最後のPKを決めた浦部だ

 

 勝てば悲願のベスト8まであと一つという今節はこれまで以上に苦戦を強いられた。序盤は相手MF河野への対応に苦戦し、ピンチも招いたが粘り強い守備で失点を許さない。一方で攻撃では終始決定機を量産。17分のMF築地育(スポ2=静岡・常葉大橘)のシュートに始まり、直後のCKでFW吉野真央(スポ4=宮城・聖和学園)のヘディングシュートがポストを叩くと、26分にはMF宗形みなみ(スポ1=マイナビ仙台レディースユース)のFKがバーを直撃し先制には及ばない。64分にビルドアップから決定機を作れば、83分にはFW髙橋雛(社4=兵庫・日ノ本学園)の50メートル独走からシュートまで持ち込むなど後半は攻撃の多彩なレパートリーも見せる。

 激闘から『死闘』へと変わっていった30分間の延長でもア女が優勢に立った。110分、119分には宗形のクロスから築地のヘディングというホットラインで相手のゴールを脅かすもネットを揺らすにあと一歩足りず。終了間際のMF三谷和華奈(スポ3=東京・十文字)のバー直撃のシュートなど、終始運に嫌われ続ける形で延長戦もスコアレスドローに終わった。

前半からフィジカルの強さを見せつけた吉野。2人に囲まれてもボールを失わないキープ力にはなでしこ1部の相手もお手上げ状態だった

 

 ここまでの120分間、絶え間なく鳴り響いていたオルカ応援団の太鼓も嘘のように鳴りを潜め、収容人数約1万5000人を誇るスタジアムが静寂と緊張感に包まれる中PK戦は始まる。先攻はオルカ、後攻がア女。大事な1人目を任された吉野は迷わず右足を振り抜きネットを揺らす。続く2本目の髙橋は20日の練習試合と皇后杯1回戦でPKを外していた。それでも「不安もあったが周りの支えがあって思い切り自信をもってやれた」と冷静に決め切る。その後両者一本ずつ失敗して迎えた6本目。「あれはわざとやった。どうプレッシャーをかけるのかを考えていた」と、近澤があえてフライングして相手の心理を揺さぶると、蹴り直しのPKが枠を外れた。言わば『奇襲』に成功した後、浦部が冷静に決め『死闘』は見事にア女の勝利で決着がついた。

 

近澤は6本目について淡々と振り返った。まさかそんな心理戦を仕掛けていたとは、その冷静さと実行力にあっぱれだ

 試合後、選手たちは口を揃えて「ホッとした」と安堵の表情を浮かべた。参加チームが少なかった過去にベスト16入りを何度も達成しているア女だが、皇后杯3勝はINAC神戸に勝利した2017年以来2度目の出来事。試合後、後藤史監督(平21教卒=宮城・常盤木学園)はオルカのア女OG・山田あみ(平31スポ卒)に「ア女らしい戦いでしたね」と声をかけられたそうだ。山田はメンバー入りはしなかったがあのINAC神戸戦を現役部員として経験している。そして今節ではオルカのスタメンとしてア女と対戦し、あの時と同じようにPK戦を経て勝ち進んだ後輩たちの姿に当時と重なる部分があったのだろう。『泥臭さ』は早稲田スポーツのフィロソフィーだ。しかしそれはプレーごとに、試合ごとにわざわざ意識することで体現されるものではない。日々の積み重ねがオルカ鴨川との一戦で泥臭く死闘を制する形として現れたのだろう。そして近澤は「全然ここで満足してないですし、シーズン最初に掲げた目標のベスト8、WE撃破というところの挑戦権を得ただけなので、ここからやってやろうという気持ちが大きい」と、今年2月に立てた目標の達成に目を向けている。次節はついにWEリーグ・大宮アルディージャVENTUSとの4回戦。勝てば皇后杯ベスト8&WE撃破という『歴史的快挙』達成だ。学生チームはア女以外もういない。プロ相手に『泥臭い』ア女で立ち向かっていって欲しい。

 

 さぁ、ア女スタイルをぶつけるときだ。2月から積み上げてきたものを、ア女での4年間を、これまでのサッカー人生を、そして創部31年で培ってきたア女を、全てぶつけろ。

 ーーー。いや、そんなに特別な思いを持つ必要はないのかもしれない。浦部も「一戦一戦、目の前の試合を戦い抜くだけ」話す。いつも通り、大宮アルディージャVENTUSという『オレンジのユニフォームを着た目の前の相手と戦う』試合。いつもの姿を見せることこそが17日の快挙達成につながるはずだ。

(記事 前田篤宏、写真 大幡拓登、渡辺詩乃)

 

早大メンバー
ポジション 背番号 名前 学部学年 前所属
GK ◎1 近澤澪菜 スポ4 JFAアカデミー福島
DF 夏目歩実 スポ3 宮城・聖和学園
DF 13 浦部美月 スポ3 スフィーダ世田谷FCユース
DF 15 田頭花菜 スポ2 東京・十文字
MF 三谷和華奈 スポ3 東京・十文字
→120分 27 生田七彩 スポ1 岡山・作陽
MF 井上萌 スポ4 東京・十文字
MF 14 笠原綺乃 スポ3 横須賀シーガルズJOY
→84分 18 白井美羽 スポ2 ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ
MF 19 築地育 スポ2 静岡・常葉大橘
MF 26 宗形みなみ スポ1 マイナビ仙台レディースユース
FW 10 髙橋雛 社4 兵庫・日ノ本学園
FW 11 吉野真央 スポ4 宮城・聖和学園
◎=ゲームキャプテン

 

後藤史監督(平21教卒=宮城・常盤木学園)

――今試合を終えて率直に

選手たちが一番疲れたと思うんですけど、私たちも疲れました。でも何が一番彼女たちが素晴らしいなと思うかというと、1試合目より2試合目、2試合目より3試合目、と自分たちのサッカーを積み重ねていけているところ、その上で結果がついてきているというのが何より一番じゃないかなと思っています。

――120分を終えた時の感情は

ラスト2分くらいからスコアは変わらないかなと思ったんで、PKを5人、誰が蹴るかを決めておかなきゃな、という感じで準備していました。

――そこは森保監督とは違いますね

(笑)。一応みんなにも聞きましたけど、何となくア女のキャラクターというか、蹴る5人は決めておいた方がいいかなと思って。順番はその5人の中で決めてって言って。

――PKでいうとニッパツや1回戦からあまりいい印象はなかったと思うがPK戦の前の雰囲気は

交代は2枚しか切ってないですし、とにかくよく守ったよく攻撃しに走りに行った、という。最後三谷がクロスバーに当てたり、惜しいところもありましたけど、とにかくよく頑張ったという雰囲気でしたね。あとPKは近澤が「私が止めるから」って言ってくれたので。やっぱり彼女がそう言ってくれたら、みんなは心置きなく蹴るだけですよね。そういう意味では近澤の存在は非常に大きいなと改めて思いましたね。

――大宮戦はどう戦っていきますか

実は並木以外にもう一人OGがいて、山田あみ(平31スポ卒)と会って、「史さん、ア女変わらないですね」みたいなことを言ってたんですけど、相当前の先輩だと思うんですけど、ああいう泥臭さみたいなものをこのメンバーはこの皇后杯で体現してくれているなと。大宮はさらに格上ですけど、自分たちがこの3戦で、今シーズンで積み重ねてきたものを、全員で体現してくれると思うのでしっかり準備して、何とかベスト8へ行きたいと思います。

 

GK近澤澪菜副将(スポ4=JFAアカデミー福島)

――率直に試合を終えて

いやぁもう、ホッとしてます。ただただホッとしています。

――PKについて

延長まで行った中でPKのことは頭に入れないとなと思っていて、その中でみんな120分すごく走ってすごく戦ってくれたし、みんなには自信を持っててもらって後は自分が止めるからとみんなにも伝えて。緊張した雰囲気ではあったと思いますけど、全員で和やかな感じでリラックスした状態でPK戦に臨めたので。それもあって自分もリラックスした状態で入れたのでみんなのおかげだなと思います。

――6本目は蹴り直しがありました

あれはみんなに聞かれるんですけど、あれはわざとやって。一回くらいだったら警告なるかなくらいで。そこも駆け引きかなと思ってたので。どういうふうにプレッシャーをかけるかというのを考えてたので。見事いい感じに、やり直しで外れたので良かったです。

――ベスト16に入ったことに関して

すごいうれしいのが半分、やっとここからというのが半分で。全然ここで満足してないですし、シーズン最初に掲げた目標のベスト8、WE撃破というところの挑戦権を得ただけなので、ここからやってやろうという気持ちがすごい大きいです。

 

FW髙橋雛(社4=兵庫・日ノ本学園)

――率直に試合を終えて

いやぁもう、本当にうれしいです。

――PKはニッパツ戦と1回戦で決められてなかったがPK戦の時の感情は

少し不安もあったんですけど、みんなすごい声をかけてくれて、麗奈もすごい頼もしくて。そういう周りの支えがあって思い切り自信をもってやれたので。本当に周りに支えられたという感じです。

――やっぱり延長戦はしんどかったですか

自分的には全然走れたので、アドレナリンか何か分からないですけど、やれる自信も相手より走れる自信もあったので、そこに関しては負ける気はしなかったです。

――大宮戦に向けては

経験豊富な選手が多いので、そう簡単ではないし、でも自分たちはベスト8というのを掲げているのでチャレンジする気持ちで、全員で勝ちに行きたいと思います。

 

DF浦部美月(スポ3=スフィーダ世田谷FCユース)

――まず試合を終えて率直に

PK決められて良かったなって(笑)。

――どういう面持ちでペナルティスポットに入って行きましたか

元々練習でやってたのが、綾乃が6番目で自分が7番目だったんですよ。でもPKの時に綾乃いないじゃんって思って、ヤバいって思ったんですけど。でも自分の番が近づいてくるうちにだんだん落ち着いてきて、最後蹴る前の人が外してたから、言い方悪いですけど「外しても大丈夫かな」って思ったから、逆にここ最近で一番落ち着いて蹴れました。

――決まった瞬間の気持ちは

正直決められる気しかしてなくて、普通によっしゃーって感じなんですけど。後はみんなありがとうしかないですね。

――次大宮と戦えるということも含めて今どのような感情でいるか

今年の一個の目標として皇后杯ベスト8と、インカレ連覇があるので。まずそのチャンスを得ることができたというのにホッとしてます。今回も6年ぶりとか、2回戦突破が5年ぶりとか、自分の中ではそういうのじゃなくて一戦一戦目の前の試合を戦い抜くだけだなというのは思っているので、次もWEですけど変に気負わずいつも通りやっていきたいなと思います。