第30回全日本大学女子選手権 決勝 | ||||
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早大 | 1 | 0-0 1―0 |
0 | 静岡産業大 |
【得点】 (早大)52分 後藤若葉 (静産大)なし |
一面銀世界のピッチで第30代主将・DF加藤希(スポ4=アンジュヴィオレ広島)は、女王の証である優勝トロフィーを高々と掲げた。近年稀にみる大雪に見舞われた第30回全日本大学女子選手権(インカレ)決勝。対戦相手の静岡産業大は、昨季インカレ準優勝の強敵である。4年間で一度も顔を合わせたことのないチームに、ア式蹴球部女子(ア女)は今シーズン積み上げてきたサッカーで真っ向から挑んだ。前半から好機をものにできずにいた52分、DF後藤若葉(スポ2=日テレ・メニーナ)の強烈なミドルシュートで先制。この1点を守り切ったア女は1-0で勝利し、4年ぶり7度目の栄冠を手にした。
優勝トロフィーを掲げるア女
「いままで通り」。加藤は決戦前日、この言葉を強調した。宣言そのままに、ア女サッカーの特徴である幅を使った攻撃に加え、洗練された即時奪回で序盤から相手を圧倒した。まずは5分、左サイドでボールを受けたFW廣澤真穂(スポ3=ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ)が放ったシュートは、弧を描いてゴールの右隅に向かいバーに直撃。7分にはFW吉野真央(スポ3=宮城・聖和学園)が、12分には再び廣澤がそれぞれ左右のクロスに合わせた。どちらもネットは揺らせなかったが、立て続けに静岡ゴールに襲いかかり、極寒の会場に熱気をもたらす。徐々に積雪が多くなる難しいコンディションの中でも「今までやってきたことを徹底できた」(加藤)と、セカンドボールの回収などで相手を上回り、思うようにはさせない。すると40分、右サイドから再三チャンスを演出していたMF蔵田あかり(スポ4=東京・十文字)のクロスに反応した吉野が枠内にダイレクトシュート。ここは相手GKのスーパーセーブに阻まれ、0-0のまま試合を折り返した。
「相手陣内に押し込もうと話した」(後藤史コーチ、平21教卒=宮城・常盤木学園)という後半は、前線からのプレスと速攻で相手を凌駕する。そして52分、ついに試合が動いた。FKのこぼれ球に反応した後藤若が、ペナルティエリア外から「何も考えず振り抜いた」と弾丸シュートをゴールに突き刺す。待望の先制点に西が丘は熱狂の渦に包まれた。その後はGK近澤澪菜(スポ3=JFAアカデミー福島)、DF夏目歩実(スポ2=宮城・聖和学園)、後藤若を中心とする堅守で相手の追撃を抑え込む。しかし雪の勢いが増した終盤、必死の相手に攻め込まれる場面が増える。ここで何とか流れを断ち切りたいア女に救世主が現れる。除雪の中断だ。ラインも見えないほどの状況のために応急処置がとられた。「戦い方を確認できた」(近澤)と、約6分間の中断を力に変えたア女は息を吹き返す。カウンターから裏に抜け出したMF三谷和華奈(スポ2=東京・十文字)がバー直撃のシュートを放つなど、アディショナルタイムにも手を緩めず、最後まで会場の空気を支配した。
得点した後藤(中央)を囲む選手たち
試合終了の長いホイッスルは、ア女が創部30周年にして日本一という『冠』を手にしたことを告げていた。昨季のインカレ初戦敗退から始まり、絶好調の前期が嘘かのように後期では勝負どころで勝てずに苦しんだ今季。最後はサッカーの女神がア女に微笑んだ。いや、ひとりひとりの日本一にかける思いとたゆまぬ努力がインカレのタイトルを手繰り寄せたのだろう。すべてが報われた瞬間に、ベンチやスタンドで声援を送り続けた部員、そして過酷な環境の中最後まで全力を尽くした選手たちは歓喜に湧いた。
雪景色の中、臙脂(えんじ)に染まったトロフィーが掲げられた今大会で注目すべきは、ア女史上初のインカレ無失点優勝を成し遂げたことだ。大会前から無失点優勝を目標に掲げていた近澤は「本当に誇りに思う」と、快挙達成の喜びを噛み締めた。また、守備の要として貢献し、決勝ゴールで大会MVPに輝いた2年生の後藤若はすでに次を見据えていた。「残り2回も優勝して強い『早稲田』をみせたい」。この思いは3年生の近澤も同じである。「来年も優勝したい」と力強く語った。
4年生と掴み取った日本一は下級生にとって通過点に過ぎない。インカレ連覇、そして今季達成できなかった『四冠』を獲るべく、4年生が去ったア女の『挑越』はこれからも続く。
(記事 前田篤宏、写真 橋口遼太郎、手代木慶)
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スターティングイレブン(ア式蹴球部女子提供)
早大メンバー | ||||
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ポジション | 背番号 | 名前 | 学部学年 | 前所属 |
GK | 1 | 近澤澪菜 | スポ3 | JFAアカデミー福島 |
DF | 2 | 船木和夏 | スポ3 | 日テレ・メニーナ |
DF | 5 | 後藤若葉 | スポ2 | 日テレ・メニーナ |
DF | 22 | 夏目歩実 | スポ2 | 宮城・聖和学園 |
MF | 6 | ブラフ・シャーン | スポ3 | スフィーダ世田谷FCユース |
MF | 7 | 蔵田あかり | スポ4 | 東京・十文字 |
→63分 | 18 | 三谷和華奈 | スポ2 | 東京・十文字 |
MF | 8 | 並木千夏 | スポ4 | 静岡・藤枝順心 |
→76分 | 30 | 築地育 | スポ1 | 静岡・常葉大橘 |
MF | ◎10 | 加藤希 | スポ4 | アンジュヴィオレ広島 |
FW | 9 | 廣澤真穂 | スポ3 | ノジマステラ神奈川相模原ドゥーエ |
FW | 11 | 髙橋雛 | 社3 | 兵庫・日ノ本学園 |
FW | 15 | 吉野真央 | スポ3 | 宮城・聖和学園 |
◎=ゲームキャプテン |
後藤史コーチ(平21教卒=宮城・常盤木学園)
――優勝が決まった時の率直な気持ちを教えてください
このシーズンはチームとして色々なことがありましたが、4年生を中心に選手たちが前を向いてしっかり乗り越えてくれた上でつかんだ優勝なので、本当にうれしかったです。
――色々なことは、どのようなことが思い浮かびますか
連敗が続いたこともそうですし、途中で私が指揮を取ることになったこともそうですし、想定してなかったようなことを乗り越えてくれた選手たちにまず感謝ですね。
――想定以上の雪というコンディションでしたが、どのような指示を出されたのですか
雪が降るということは事前に分かっていたのですが、ここまで積もるとは思っていなかったです。あまり取り替え式のスパイクを持っている子もいなかったので、(試合に)入ってみてどんなプレーがやりづらいかというのを、ハームタイムに話をしながら修正したという感じですね。
――相手にはどのような印象をもっていましたか
しっかりつないでくる相手というふうにスカウティングしていました。その中で相手がというよりもどちらかというと自分たちのサッカーをしようと思っていました。特に3バックなので、私たちの両ワイドがより活きてくるかなというところで、自分たちのサッカーを軸にしようということを考えました。試合では、ハッキリしたプレーをするということとディフェンスの時にどうしても滑ってしまうので前線のメンバーにもう少しハードワークをしてという話をしていたので、少し後半は守備にも時間をかけることになりました。また、雪が積もってきた後はしっかり跳ね返して相手陣内に押し込もうという話をしました。
――決勝ゴールはセットプレーからのゴールでしたが試合前から準備していたのでしょうか
雪というよりもトーナメントなのでセットプレーというのが必ずキーになるねという話はインカレに入る前からしていました。皇后杯もトーナメントだったので、その時期から準備をしてきたというのはあります。
――先制点を取った時の気持ちを教えてください
もう少し早く決めてくれるとありがたかったかなとは思います(笑)。準決勝での自分たちの課題を中1日ではあったんですけど、しっかり修正して臨んだ中でいい形で狙い通りに攻撃できていました。決勝戦ということもありますし、あともう一歩こじ開けることができませんでしたが、その中で今大会ずっと無失点で体を張って守り続けてくれていた若葉(後藤、スポ2=日テレ・メニーナ)が点をとってくれたというのはチームとしてもすごく大きかったなと思いました。若葉が(シュートしに)行った瞬間、「入るな」という感じしましたよね(笑)。すごく大事なところを抑えてくれる選手だと改めて思いました。
――この優勝はア女にとっては通過点にしなければならないと思います。今後に向けて一言お願いします
こういう雪の状態で大会を運営してくださった皆様に感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。また、「雪のサッカー」になってしまったので来年もう一度必ず戻ってきて、「早稲田らしいサッカー」をして優勝したいです。それから、WEリーグができた今年、皇后杯でメニーナとセレッソが勝ち抜いて行きました。自分たちと同じ関東代表のメニーナでしたり、年齢も私たちより若い選手たちがそのような結果を出したということは、改めて自分たちももっと上を目指して戦っていかなければいけないです。優勝と共にみんなで気を引き締めて頑張っていきたいと思えたシーズンでした。
DF加藤希主将(スポ4=アンジュヴィオレ広島)
――今日の試合を振り返ってください
予報ではありましたが、ここまで雪が降るとは想定していなくて、ここまで酷くなるとは思ってなかったので、そのなかで自分たちが今までやってきた切り替えだったりセカンド(ボールをとること)だったり、マイボールの意識でというところを徹底できたことは良かったと思いますし、前半はサイド攻撃で何度か惜しいシーンがあったので、そういう自分たちが今までやってきたことを出せたことが一番良かったと思います。
――1-0という結果でしたが、どのような試合運びを想定されていましたか
何対何で勝つという想定はしていなかったのですが、自分たちはチャレンジャーであったので、1点でも多く(取る)、最後粘り強くいく、そういった戦い方なので、勝って当たり前ではないというのは去年痛感しているので、1-0でも勝ちは勝ちというのを改めて感じたというか、正直1-0ならもっといけたなというのはあると思うのですが、でもこれが今の実力なのではと思います。
――去年のインカレや今年の中盤戦以降などなかなか勝てない時期もありましたが、そういったなかでチームの総力をどのようにしてあげてきましたか
1回関カレで勝てなくなった時だったり、皇后杯予選で負けしまったりした時も、みんながなんでサッカーをやっているのかというところを、楽しいからやっているんだよねという根本に戻れたところはすごく大きいかなと思っていて、ただ楽しむだけではなくて楽しむためには一定の強度が必要だし、そういうところを互いに求めあったり特に下級生を中心に「やろうよ」みたいな声が下級生からも出始めたというのはチームがひとつになるきっかけになったかなと思います。
――創部30周年でタイトルを奪還することができましたね
ア女が30周年という記念の年にインカレ優勝という名を残すことができたというのは大変嬉しく思いますし、今まで先輩方が紡いできたア女の強さをここでまた新たに体現することができ、自分だけの力ではなくてチームみんなもそうですし、スタッフだったり支えてくださっている地域の方や保護者の方だったり、本当に多くの方の支えがあって優勝することができたので、ありがとうございますと伝えたいです。
DF後藤若葉(スポ2=日テレ・メニーナ)
――決勝戦を終えて率直な感想を教えてください
自分としては去年のインカレの初戦で敗退したことを本当に後悔していましたし、当時の4年生にとっては最後の大会だったので本当に申し訳ない気持ちでした。今年こそは、という気持ちでやってきた中で優勝というかたちで終われたことはとてもうれしいですし、2年生である自分は残りの2回も優勝して「強い早稲田」を見せていきたいと思っています。
――静岡産業大という相手に、どのように戦おうと考えていましたか
ここまでの悪天候は想定外でしたが、自分たちが積み上げてきたサッカーができれば勝利できる、と信じて戦いました。特に前半は自分たちのかたちからチャンス作ることができていたので、そこで決め切ることができれば尚良かったですが、最後は全員の力で勝ち切ることができて良かったです。
――コンディションが悪くなる中で変えたところや変えなかったところ、何かありますか
大きく何かを変えることは無かったですが、はっきりとプレーしようということは最終ラインの間で話していました。そこでピンチを作ってはいけないし、相手もそこを狙ってくるので、自分もはっきりとしたプレーを心がけました。ピッチが滑りやすいということは理解していたので、ゴール前ではどんどんシュートを打っていくことや逆に守備では(プレー)が切れるまでやり切るということは徹底していました。
――ご自身の決勝点、振り返ってください
セットプレーの際に相手が全員戻って守備をすることはスカウティングで分かっていたことで、こぼれ球は常に狙っていました。実際こぼれてきた時は何も考えずに振り抜いたという感じです。(ボールが)当たった瞬間に「きた!」と思いました。
――MVPも受賞されました
一番最後の良いところを持っていかせてもらったというかたちですが、優勝という結果が無ければこの賞も頂けていなかったと思います。自分はDFで、前線の選手が点を取ってきてくれなければここまで来れなかったと思いますし、今シーズンは苦しい時期もあった中で4年生がいつも引っ張ってきてくれました。自分だけの賞ではなく、皆がくれた賞だと思っています。
――無失点勝利をチームとして掲げてきた中で、それを達成できたことに対してご自身の評価を聞かせてください
大会を通して、まず大きなピンチを作らないということが大事だと考えていたので、リスク管理を徹底していました。パス一本一本を通させないような声掛けから、最後の体を張る部分までしっかりとこだわることができたことが、無失点勝利という結果につながったかなと思います。