【連載】『平成29年度卒業記念特集』第67回 中村みづき/女子サッカー

ア式蹴球女子

サッカーを楽しむ

 「サッカーを楽しむ」。これは中村みづき(スポ=浦和レッズレディース)が常に意識してきた言葉である。2年生からア式蹴球部女子(ア女)に加入した中村は夏頃からスタメンに定着。3年生からは中心選手としてチームをけん引し、数多くのタイトル獲得に貢献してきた。中村にとってア女はどんな場所であったのだろうか。中村のア女で過ごした三年間を振り返る。

 中村がサッカーを始めたのは小学校1年生のとき。周りの男友達がサッカーをしていたことがきっかけだ。男子の中でプレーすることをあまり苦とせず、地元のクラブチームに入部。中学生からは浦和レッズレディースユースに加入し、レベルの高い環境で練習に励んだ。中村は「中学、高校時代は楽しかった」と当時を振り返る。着実に実力をつけた中村は、見事トップチームへと昇格。そして「ワセダの魅力は小学生のときから感じていた」と憧れの早大への進学を決めた。

プレーでチームをリードし続けた中村

 順風満帆なサッカー人生を歩んできた中村であったが、浦和レッズレディースで大きな壁にぶつかることになる。「(浦和)レッズレディースでは試合に出れず、ベンチにすら入れなかった」。トップチームに昇格したものの、全く試合に絡むことができないもどかしい日々。当時は「サッカーを楽しめなかった」という。そこで中村は思い切って浦和レッズレディースを退団しア女に加入することを決断。なでしこリーグから大学サッカーへと移る事例は少なく、時には「大学サッカーを甘く見ている」といった厳しい声も耳にした。しかし中村は「サッカーを楽しむということを軸に自分ができることをやろう」と決して気持ちをぶらさなかった。こうして中村はユースを含め七年間在籍した浦和レッズレディースに別れを告げ、ア女で再スタートを切る。加入当初は決まった戦術があまりないア女のスタイルに苦戦するも、「だからこそコミュニケーションを大切にした」と試合中だけでなく練習でもワンプレーごとに味方と積極的にコミュニケーションをとった。その努力が実を結び夏頃からスタメンに定着すると、関東女子リーグ(関東リーグ)の7連覇や関東大学女子リーグ戦(関カレ)の優勝に貢献。さらに全日本大学女子選手権(インカレ)では5年ぶりの優勝に輝いた。加入一年目から多くの試合に出場した中村であったが、「もっと自分を出したい」と努力を続けた。すると3年生ではゲームキャプテンを任されるほどチームの主力に成長。インカレ決勝では劇的な勝ち越しゴールを決め、2連覇を果たした。

 主将に就任した松原有沙(スポ=大阪・大商学園)から指名され、副将として迎えた4年生。副将としての立場を考え、ネガティブな発言をしないなど試合中での言動には気をつけた。関東リーグは「個人的にはプレーで満足できなかった」と振り返るが、9連覇を達成。関カレは優勝を逃したものの、皇后杯全日本女子選手権大会では強豪INAC神戸レオネッサからPK戦の末に大金星を挙げるなどベスト8入りを果たした。そして挑んだ最後のインカレ。中村はまたしても決勝でゴールを決め、チームを悲願のインカレ3連覇へと導き、見事MVPに輝く。「これに満足せず頑張ろうと逆に思った」と中村は振り返るが、中村にとって三年間の努力が全て報われた瞬間であった。

 中村にとってア女はまさに「成長の場」であった。練習環境に関しては浦和レッズレディースの方が整っていたかもしれない。しかし、中村はこの三年間で自己管理能力を身につけた。「ア女は拘束時間が少ない。その中で自分に足りないことを見つけないと成長はない」と常に自分と向き合い、プレーを磨いてきた。「ア女に来て本当によかった」。仲間に恵まれ、サッカーを楽しむことができたア女での三年間は、中村にとって大きな財産となったはずだ。卒業後も平國瑞希(スポ=宮城・常盤木学園)と共に、ニッパツ横浜FCシーガルズ(ニッパツ)の一員としてサッカーを続ける。「一部昇格に少しでも貢献できるプレーをする」と中村は闘志を燃やす。目標の選手はア女のOGである大滝麻未(平23スポ卒)だ。「人間として魅力的なので、いろんなことを学びたい」。サッカーを楽しむ気持ちを忘れない――。ア女での経験を糧に、中村はプロの世界でより一層輝きを放つ。

(記事 永池隼人、写真 下長根沙羅)