【連載】『平成27年度卒業記念特集』 第21回 松川智/女子サッカー

ア式蹴球女子

日本一への道のり、その先に待つ海外挑戦

 今季のア式蹴球部女子(ア女)は、どこまでも粘り強く、泥くさく戦い抜いてきた。関東3冠だけにとどまらず、先月行われた全日本学生女子選手権(インカレ)では5大会ぶりに悲願の優勝を達成。「優勝した瞬間は今までにないくらい嬉しかったです。日本一が初めてだったので」。こう振り返るのは、この1年間主将としてア女を支えてきた松川智(スポ=大阪桐蔭)。「4年間、本当にうまくいくことばかりではなくつらいこともあった」と、二度の大ケガに苦しんだ時期。「主将としての最終学年は一番短く一番内容の濃いものであった」と、有終の美で終えたラストイヤー。松川の4年間は、一体どのようなものであったのだろうか。

 サッカー少年団のコーチをしていた父の影響で、物心がついた頃にはすでにボールを追いかけていたという松川。高校時には全日本高等学校女子サッカー選手権で準優勝を経験し、大学進学を考え始めた頃には早大を志望していた。当時の高校から早大に進学した実績がこれまでになかったために不安を抱えていたが、当時の担任に背中を押されいちかばちかで早大を受験。その結果、憧れていた早大の門を叩くことになった。入学当初はケガのために思うようなプレーができずにいたが、高校時とのギャップに苦しみながらもひた向きに練習に取り組んだ。しかし、2年目に入りようやく調子が上がり始めた矢先に待ち受けていたのは、またしても大ケガであった。2年時のインカレ前であった12月、松川は長期離脱を余儀なくされた。

最高の笑顔を浮かべながら優勝カップを手にし、両手を挙げる松川

 「悔しい思いをしたからこそ、改めてサッカーが大好きだというのを感じることができました。そのおかげでサッカーを素直に楽しみながら頑張れたのが、私にとって一番大きいです」。練習が制限された中でも、復帰後に活躍している姿を想像しポジティブに考えた。そして3年次の8月には2回目の復帰を遂げ、ようやくスタメンに定着。ユニバーシアード代表候補にも選出され、着実にステップアップをしていった。そんな中、松川を信頼して主将に推薦してくれる仲間に支えられ、ラスト1年を主将として頑張ることを決意。

 「自分はトップに立つようなタイプではないけど、チームを客観的に見て、一番にチームのことを考えて、周りに影響を与えていくのが自分の役割でした。学年関係なくピッチ内外でも話しやすい環境を築き上げることができましたね」。なかなか勝てない時期が続いても、自分たちの実力を理解し、試合ごとに分析ミーティングを欠かさない。全員で話し合って出た課題を吸収し、確実にプレーに生かすように努めた。相手が強いからこそ挑戦者という立場を忘れずに、いかにメンタルをコントロールして戦い続けることができるか。自分たちらしいサッカーができるか。とにかく勝ちにこだわり続けていたア女にとってターニングポイントとなったのが、皇后杯全日本選手権関東予選。ビハインドを負っても、逆転をされても、粘り強く勝ち進み、勝てる自信をつけることができた大会であった。

 「高校では日本一をあと一歩のところで逃して、ア女に入ってもなかなか日本一にはなれなかったので、インカレで優勝をした瞬間は自然と涙がでてきました。素直に心から嬉しかったのは今でも覚えています」。最後の最後に、インカレで仲間と共に達成することができた日本一という目標。主将としての1年間は、仲間に支えられながら大きな成長を遂げることができた。卒業後は自身のさらなる成長を追い求め、日本を越えてスペインのチームでサッカーを続けることが決まっている。「実際にスペインに行って、サッカーというスポーツを、1つのルールの中で世界共通にプレーできることがとても素晴らしいと思った」。今後はプレーにおいて言語習得も欠かせないものとなってくるが、誰とでもフランクにコミュニケーションできる海外の環境に感銘を受けたそうだ。この4年間を通したア女での経験は、必ずやスペインでのプレーにも生かされるだろう。松川が日本の誇る世界に通用する選手へと成長し、本国へと再び戻ってくる日が待ち遠しい。

(記事 新庄佳恵、写真 渡部歩美氏)