開幕戦の立大戦(◯3-1)でゴールを決め喜ぶ森
2023年4月2日、早稲田大学ア式蹴球部(ア式)の今季リーグ開幕戦。前半34分、最後方から供給されたロングボールに対し、ゴール前でFW駒沢直哉(スポ3=ツエーゲン金沢U18)が競り合いボールがこぼれる。ここにすかさず反応したのはDF森璃太(スポ4=川崎フロンターレU18)。相手がクリアし切れない間にボールを拾うと、巧みなステップでエリア内に侵入し最後はまた抜きシュートを決めた。この日、右サイドバックで先発していた森が相手ゴール前まで詰めていたことで生まれたア式にとって今シーズン第一号となるゴール。試合後に本人は「今年は結果、得点やアシストに個人的にこだわっていて、去年はペナルティエリアに侵入する回数が少なかった中、今年は意識して入ってやった結果、取れたゴール」と振り返った。
「結果にこだわる」。これは森が日頃からよく口にしている言葉だ。2年時からリーグ戦での出場機会もあった森だが、チームで見ると昨季は2部降格。個人としては、ここ2年間で通算4アシスト、ゴールに関しては0。出場試合数も2年時の15から、3年時は13と減少してしまい、「結果にこだわる」という言葉とはかけ離れた状況にいた。プロという目標がある中で、Jクラブへの練習参加も3年生の時点で未経験。一時期は「本当にこのままプロになれるのかという焦りも感じた」という。そんな中迎えた今季は、先述した開幕戦でのゴールに加え、リーグ戦3アシスト、アミノバイタルカップでは4アシストでアシスト王に輝くなど、まさに数字、結果にこだわる姿を見せている。そして、4年の夏にしてついに念願のJ1クラブからの契約を勝ち取った。一時はどん底とも言える時期を味わった森が、J1・アルビレックス新潟に内定するまでに何があったのか。内定に至るまでの森の成長過程に迫った。
今年の早慶クラシコ(7月7日、〇1-0)にて決勝点となるゴールをアシストする森
森が頭角を現したのは2年生の時。リーグ戦の第2節の筑波大戦で先発フル出場を果たすと、その後もコンスタントに出場機会を得るなどし、1シーズンを通して主力に定着した。攻撃的なサイドバックとして積極的にクロスを供給、セットプレーのキッカーも務めるなど、確かな存在感を発揮していた森。しかし「ただ試合に出ていただけで、何か突き抜けないとプロになれないということを、2年の時に痛感した」と本人に手応えはあまりなかったという。特に目標とするJ1の舞台に行くためには「圧倒的な何かを持たないといけない」と強く感じたそうだ。
そして迎えた3年目、森にとって苦しいシーズンが始まる。3年の時点でプロ内定を決めたいと意気込んだ中、開幕から何試合かはスタメンの座を勝ち取るが、4年生がけがから復帰したことやチームとして結果が出ない時期もあったことで、サイドバックとしての出場機会が激減してしまう。その後は攻撃センスを買われ、一列前でのウイングやサイドハーフとしての起用が増えていくが、自分自身が勝負したいと考えるサイドバックでプレーはかなわず、思うようにプレーできない日々が続き、再び出場機会も限られていく。結果的にこのシーズン、チームは2部降格、森自身はわずか1アシストという不甲斐ない結果に終わる。そして、シーズン終了後に参加した、全国の大学から選抜された選手が集まる大会であるデンソーチャレンジカップでは、「周りの選手はどこのクラブに練習参加をしているとかどこのクラブに内定しているという話がある中で、自分には何も話がなかった」と同年代の他の選手との差を突き付けられることに。さらに森が所属した関東選抜Bは大会を通して全敗の最下位。自身のプレーにもより一層迷いが見受けられるようになり、「3年の間に何も残せなかった分、デンソーでプロを決めてやるっていう覚悟で行った中で、全然アピールできなかった」と大きな悔いが残る大会となってしまった。
今年の3月に行われたデンソーカップでプレーする森
それでも、この経験が森にとっての一つのきっかけとなる。ハイレベルな周りの環境を味わったことで、「もっとやらなきゃいけないという意識が芽生えた」という。そして、「自分の中で何をしなきゃいけないか、評価されるためにどうすればいいかというのを常に考えている中で、デンソーを通じてこういうことをしたら評価されるのではないかということに気づき始めた」と少ないながらも得た手応えから、今自分がすべきことを再確認することができた。
加えて、この1年間を経て森は一つの答えにたどり着く。1年間を通して結果を残せない。それ以前に試合に出場することすらかなわない。本当にうまくいかない、時にはサッカーから離れた方が良いのではと考えたこともあった中、それでも「結局、自分はサッカーに時間を費やしている時が一番成長している。やり続けるしかなくて、曲げることができなかった」とサッカーに打ち込みつつづけることを決意。落ち込む時は誰かに相談するのではなく、自分なりに記録しているサッカーノートと向き合い、我慢強く自分の良い時と悪い時の差を見つめ直してきた。そして行きついた答えは「スピードなど自分の長所を出していくこと」。前向きな内容がノートに書かれている時は、自分自身が前向きにプレーすることができている。3年生の苦しい1年間を経て、自分の武器を再確認し、それを惜しみなく発揮していくことが大事だと改めて感じられたのだ。そしてその意識の変化は、「試合前、自分が今日どういうプレーをしたらいいんだろうと考えた時、自分の長所を出すという一つの軸があると、他のプレーに迷いがなくなったり、自分の武器を出すためにどういうプレーをしなきゃいけないかというのが整理されたりするので、迷いやミスをしたらどうしようみたいなマインドを持たずに長所を出すということが4年になってできてきた」とメンタル面で自らの弱さや迷いを断ち切ることにつながったのだ。
インタビューに答える森
冒頭で述べたように自らのゴールから始まるという最高のスタートを切った森。以前見られたような迷いあるプレーは完全になくなり、ピッチには生き生きとした姿が現れている。今季は現代のサイドバックに求められることの多い内側でのビルドアップなどの組み立てに参加するなど、ゴール前にも絡んでいくプレーにも挑戦し、プレーヤーとしての新境地をまさに開拓中。また今季から監督に就任した兵藤慎剛監督(平20スポ卒=長崎・国見)からのアドバイスを受け、ランニングのタイミングや持ち味であるスピードの生かし方が良くなったことで、クロスの供給回数も増加し、今季はアシスト数も飛躍的に伸びている。
そんな森が目指すのはまさに「サイドバックっぽいサイドバック」。最近はゲームの組み立てや内側でのプレーが要求されることの多いポジションではあるが、あくまでもそれはプラスアルファとしてこなし、オーバーラップしてクロスを上げるという、スピードを売りにするいかにも森らしいプレースタイルを志す。森が内定したアルビレックス新潟は、最終ラインから小刻みにパスをつなぎ、ビルドアップをしていくスタイルを標榜する。サイドバックは内側でのプレーが要求されることが多いこのチームで、森が目指すスタイルを表現することは一筋縄ではいかないだろう。それでも、「自分が他の新潟の選手たちにないものを持っていることも獲得してくれた理由の一つだと思う」と、チームにいないプレースタイルを表現できるからこそ、やれることが多くあると認識している。今後、プロの世界に入ったら、プレースタイルの壁など今まで以上の困難に出会うことはあるだろう。そんな時も、「自分らしく自らの長所を生かしたプレー」を忘れずに、サイドバック「森璃太」の名をサッカー界に轟かせてくれることに期待したい。
(記事 髙田凜太郎 写真 大幡拓登)
加入内定に際して色紙に自由なテーマで一言を書いていただきました!
◆森璃太(もり・りいた)
2001(平13)年8月19日生まれ。170センチ65キロ。川崎フロンターレU18出身。スポーツ科学部4年。関東大学サッカーリーグ1部通算28試合出場。2部通算12試合出場、1得点。
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