今シーズンからア式蹴球部の監督に就任した兵藤慎剛監督(平20スポ卒=長崎・国見)。始動から2カ月がたった今、ここまでの手応えや監督1年目となる今季にかける思いを伺いました。
※この取材は3月27日にZoomにて行われたものです。
「もっともっと全員で高め合える集団に」
ベンチから指示を出す兵藤監督
――始動されてから2カ月が経ちましたが、ここまでの新体制の雰囲気はどのように感じられていますか
兵藤 ポジティブなエネルギーを部内にすごく感じます。学生たちが本気で取り組んでくれているなという印象もありますが、まだまだ自分たちが目標としているところにはたどり着けないというところでもあるので、今良い部分を残しつつも、もっともっと全員で高め合える集団にしていかないといけないと思います。
――去年の秋ごろからコーチに就かれていた中で、今年から監督に就任されました。コーチから監督になったことで具体的にどのような変化がありましたか
兵藤 やはりコーチだと監督の意向であったり、その時の状況を踏まえて発言しないといけなかったりしたので、なかなか自分が思っていることを直接言うという機会は少なかったのかなと思います。監督になるとそういったところも全て伝えていかないといけないわけですし、スタッフには共有しないといけないという。どういう思いがあるのかや、どういうサッカーをしないといけないのかというのを全て伝えた上で、共通認識がある中での指導になってくるので、その辺りが大きく違うのかなと思います。
――話せる範囲で、現在兵藤監督がア式で取り組んでいることを教えてください
兵藤 これをやったらサッカーが確実にうまくなることは僕はないと思っています。なので、いかに個人、チームのベースを高めていけるかというトレーニングでは、限りなく基本に忠実で、基本をどれだけ高いクオリティでできるかをこだわっています。同時に今年の早稲田のサッカーというのはこうだよというのを全員が描けるように、またそれをプレーで表現できるようにというところでやっている段階です。
――選手の口から練習の強度が上がったという話が伺えます。その点についてはいかがですか
兵藤 そうですね。皆が掲げている2部を優勝しての1部昇格や、日本一を獲れるような集団になるというところでは、この強度じゃ達成できないよねというのはあります。今は最低限のベースにも届いたか届いていないかくらいの状況なので、そこの部分はしっかりこだわりたいです。後は皆がサッカーを狭くとらえすぎていた。例えば技術だけを磨けば解決できると思っていたところを、その下に土台となる体力だったり筋力だったり強度がないと、結局技術って積み重ねられないというところではあるので、そういった基本的なところにしっかりと立ち返りながら、強度も上がるし、そこから技術も上がっていくんだよというところで、今そういうところに取り組んでいます。
――今の段階での完成度や手応えはどういったものですか
兵藤 まだまだだなと思います。前期に関してはずっとトレーニングをしてきたメンバーで積み重ねつつ、耐える戦いになるかなと思います。それでも僕は今いるメンバーで十分戦えると思っているので、その中で前期は全員で試行錯誤を続けながらも結果にこだわるというところで、耐えながらもしっかり勝ち点を稼いでいけるようなチームにしていきながら、秋口くらいに加えてクオリティなどを出せるようなチームづくりをしています。
――練習試合などではいろいろな組み合わせを試しているようにうかがえますが
兵藤 1年間のシーズンを戦う上で、11人いればいいというわけではなく、20人、30人の大枠で戦うというところでは、ある意味良いプレシーズンになったのではと思いますし、さらに高め合っていかないといけないと思います。僕はカテゴリーに関わらず全ての人にチャンスはあると思っていますし、与えるつもりです。しかし、しっかりピッチ上でもピッチ外でもいろいろなことを表現してもらったうえで、メンバー選考をして使うことになります。だからこそ、プレーヤーで頑張ってくれている学生に関しては全てしっかり見て、成長のための何か気付きを与えたいですし、全員がリーグ戦に出ても遜色のないというレベルまで持っていきたいというのが僕の理想なので、そこに対して学生は今、すごくポジティブに取り組んでくれているなと思います。
――先日の天皇杯予選の法大戦(●3-4)を振り返ってみていかがですか
兵藤 やはり前半に3失点したのは、チームとしての課題が思い切り出てしまったのかなというところです。失点するとチームが弱気になってしまったり、守備の強度として課題の残るクロス対応のところから失点につながってしまった前半でした。それでハーフタイムの時にすごく悲壮感が漂っていたので、「これもう試合終わったの?」というところを伝えさせてもらいました。まだ残り45分あって、相手が3点取れたんだったら、早稲田が3点取れないことはないよねと。相手ができて早稲田ができないことはないよねというところで、絶対3点、4点と取れるよ、自信持っていこうよと。0-3で負けている状況だったので、勝ちに行くために少しリスクを取ろうと攻撃的にいくようにも伝えたら、学生たちがすごくポジティブに受け取ってくれて、結果として証明できるというところで3点は取ってくれました。それでもやっぱり(後半の)1失点を防げなかったところで、もう少し外からの促しがあっても良かったのかなと思いました。(失点が)1点を取った後だったので、少し攻撃的になる状況で理解もできました。こういう時は危ないなというのは僕も何回も経験もあるので、そういった時にポロっと失点してしまったのは、外からそれを促せば良かったのかなとも思います。けど自分たちでやってみて気付くことも大事なのかなというところで、少し難しかったなと。勝たせにいったんですけど、今後の成長とかを見た時にどうなんだろうな、やっぱり伝えるべきだったのかなというのが自分の課題としても残ります。これがしっかりシーズンに生きてくればいいのかなとポジティブに捉えるしかないのかなと思いますし、自分たちはやれるんだよというのを証明してくれたので、今後は常に3点を獲れるチームを僕は目指していますし、この失点というところにチームとしてどう向き合っていくのかなというところだと思います。
「(カギは)信じること」
ピッチに選手を送り出す兵藤監督
――実際に2カ月程、監督として現場に立たれていますが、その際に一番気にしているところはどの辺りでしょうか
兵藤 学生には、ピッチ上で常に100%を出せる状態で100%を出すというところを求めています。トレーニング時間も基本的には90分以内で終わるというところでやってきているので、その90分をいかに良い90分にできるかというところを常に追求しながら、外からも働きかけるし自分たちからも働きかけるということができるかというところを意識しています。
――昨年まで監督を務められていた外池大亮氏(平9社卒=東京・早実)の色は、少なからずチームに残っていると思います。そこに対してはどのようにアプローチをしようと考えていますか
兵藤 前監督の外池さんもア式を良くしたいという取り組みを行ってきたと思うので、その前の監督の古賀さん(古賀聡氏、平4教卒=東京・早実)もそうなんですけど、そういったいろんな監督がア式を良くするために行ってきた活動を含め、今の学生たちに一番合うものを模索しながら僕はやるのがベストだと思っています。良い部分はしっかりと引き継ぎますし、もっと良くできる部分は変えていくしというところで、融合させていきたいと思っています。ただ、そこに対して強制力を発動させるというのは、僕もあまり好きじゃないですし、学生自体もいきなり変わるということに対しての抵抗感は少なからずあると思います。なので、そこはしっかりと話し合った上で、いろいろことを試していきながら1年間かけて、組織づくりに完成はないと思ってはいますけど、限りなく完成に近いところをみんなで追求していく集団にしたいと思います。
――今のア式にいる学生はどのような学生だと感じていますか
兵藤 4年生はすごく真面目だなと感じます。昨年2部に降格してしまったので、すごい責任感を持って取り組んでくれているなと思います。3年生もそういった4年生を見ながら2カ月やっているというところでは、すごく真面目だなと。全体的に真面目だなという印象がすごくありますし、ア式に対する思いがすごいなというところはポジティブな思いが全体的にはあります。
――2部での戦いはどのような戦いになると予想されていますか
兵藤 昨年1部から3チームが落ちてきていますし、現状を考えると2部でも3位の力しかないです。それに2部の(1部に)上がれなかった4位、5位のチームもいる分、そう簡単じゃないなと僕はすごく捉えていて、関東リーグ自体が1部も2部もレベルが上がっていて、どの学校も力が入ってきている中では、簡単に勝てる試合というのはないと思っています。厳しい戦いになるからこそ、厳しい状況に置かれた時に自分たちがどういう考えを持つかがすごく大事になってくると思うので、そういう厳しい中でも「自分たちはできるんだ」という強い思考を持ちながらそれをしっかりプレーで表現できるようにやることが大事だなと思います。やはり、トレーニングでできないことが試合にできるはずないと思っているので、そこを常に追求し続けて、僕らにもチームにも個人にもしっかりとしたフィードバックを与えていきたいなとも思いますし、学生自体も常に自分のプレーってどうなんだであったり、自分が組織にどういう影響を与えられているのかというところにつながっていければ、自分たちが達成したい目標に近づけるのかなと思っています。
――今年は1部昇格、2部優勝はもちろん、その先の日本一というところも目標として掲げられています。日本一を目指す上では、アミノ杯や総理大臣杯、インカレといった短期決戦を勝ち抜く必要がありますが、そのためにはどのようなことが必要だと考えられていますか
兵藤 短期決戦やトーナメントはどちらかと言うと守備に重きを置かないといけないというか、負けない戦いをすることがすごく大事になるのかなと思っています。そういう部分では、今回(天皇杯予選で)4失点というのは、勝ち進めないよねというところで、守備も攻守が表裏一体なので、攻撃のトレーニングをしている中でも対する守備側はどうするのかを常に考えながらやることが大事かなと思います。けど、今年の早稲田はやっぱり攻撃的にいくというのは僕は変わりないので、2点取られるなら3点取ればいいし、5点取られるなら6点取ればいいというのは僕の中にはあります。ただやはり、守備者側からすると5点も6点も取られているチームってどうなのというところにつながってくると思うので、そこはチームでもしっかりと考えながらですけど、ボールを持っているチームが失点することってないよねというところだったり、そういうところを突き抜ける存在になるためにはどうするのかというところにしっかりとフォーカスしながら、今年はやっていきたいと思います。
――そういった目標に向けての一番のカギはどのようなところになってくると思いますか
兵藤 信じることです。やはりチームを信じることだったり、自分を信じることだし、そういった信じる気持ち、自分たちがやっていることって間違いないんだって1年間通して信じられるようなチームづくり、組織づくりをしたいなと僕は思います。そこがブレなければチームは大崩れしないと思いますし、信じられるに値するような組織づくりを整えていくことが大事だなと思うので、信じることが大事なのかなと思います。
――最後に兵藤監督にとって監督1年目となり、ア式にとっても必ず1年で1部の座へと戻るという今シーズンに向けての抱負をお願いします
兵藤 来年はア式が創部100周年になりますし、1部に昇格するというミッションを自分たちで達成していきたいなと思います。やはりトレーニングでどれだけのものを追求できるかが僕は試合に直接関わってくることだと思いますし、その中でサッカーだけじゃない組織も強くないと結果は出ないよねというところにつながってくると思うので、競技力だけではなく組織も日本一でありたいという思いは常に忘れずにいたいです。加えて常に僕らはチャレンジするところにいるんだというのを、みんなで共通認識として持ちながら、失敗を恐れないし変わることを恐れない集団にしていきたいなと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 髙田凜太郎)
◆ 兵藤慎剛(ひょうどう・しんご)
2008(平20)年スポーツ科学部卒業。早大卒業後は横浜F・マリノスに入団し、9年間にわたりプレー。その後北海道コンサドーレ札幌、ベガルタ仙台、SC相模原など、計4クラブを渡り歩いた。2023シーズンより母校である早稲田大学ア式蹴球部監督を務める。J通算345試合出場、36得点。