【連載】早慶クラシコ特集 第10回 平田陸人主務

ア式蹴球男子

 学生が主体となって作り上げる早慶定期戦(早慶戦)。毎年熱い闘いを繰り広げ、観客を熱狂の渦に巻き込む伝統の一戦を裏から支える男がいる。主務としてア式蹴球部の先頭に立ってきた平田陸人(商4=東京・早大本庄)は、最後の早慶戦を前に何を思うのか。

※この取材は8月18日に行われたものです。

「大学サッカーにおいて、早慶戦の持つ価値は非常に大きい」

試合前にキャプテンマークを巻く平田主務

ーー主務の普段の業務内容は

平田 ざっくり言うと、ピッチ外のチームマネジメントの統率が主な役割です。具体的なところでは、試合で言うとバスの手配だったりホテルの予約もそうですし、あとはOBとの連絡も主務が行っています。外部との連絡も主務を通して全部自分が把握した上でいろいろ連携するという感じです。

ーー選手と兼任されていますがそこに対する忙しさは

平田 昨年1年間自分はサッカーを全くやっていなかったのであんまり感じなかったんですけど、今年は本当に忙しいは忙しいですね。

ーー主務の役割は選手が兼任することが多いのですか

平田 そこは決まっていなくて、昨年で言えば羽田拓矢さん(令4・人卒)がマネジャー兼主務をやっていました。ただ、歴代で言えば選手がやっていたことが多いのかなと思います。

ーー平田さんが主務となった経緯は

平田 早慶サッカー定期戦を見に行った時に、学生主体で作ってるっていうのを自分で見て、感じて、自分で作って出たらめっちゃカッコいいやんっていうその憧れでこのア式蹴球部に入ってきたっていうのもあって。とは言え最初は結構主務の大変さだったりっていうところとか重要さもア式蹴球部1年目は感じつつも、そういった憧れもありましたし同期からも何人かからやってほしいという思いもあったのでそういったところで最後はやりたいなと思いました。

ーー早慶戦の準備は具体的にいつ頃から始めているのですか

平田 1番最初で言うと会場探しからやらないといけないので、そういったところは昨年の12月とか1月から会場どうするかっていうのを自分含めた慶大の主務と話し合ってスタートしました。

ーー運営は全て学生主体で行っているのですか

平田 そうですね。学生主体でこういった社会情勢の中でどういったものができるかっていうのを考えて、そのOBの方々もいらっしゃるので確認をとりながらっていうところでやらせてもらってます。

ーー特にしんどいと感じることは

平田 特段これがしんどいというのはないです。たぶん早慶戦って外から見ると華やかなイメージがあると思うんですけど、運営って泥臭いというか地道な作業が多くてそれが積み重なると大変なところはあります。でも、あんまり感じないですかね。

ーーしんどいというよりは楽しい気持ちの方が大きいですか

平田 いや、楽しくはないです!(笑)。めちゃしんどいんですけど、そこは使命感というか待ち侘びている方もたくさんいらっしゃいますし、自分がやらなければ早慶サッカー定期戦は開催されないので、そこの責任感だけで動いてます。

ーー慶大との共同運営になると思うのですが、意見がぶつかることもありますか

平田 今年はおそらく昨年と比べてはないと思うんですけど、チームの方向性みたいなところも慶大と早大で違いますし、企画とかアーティストライブもそうですけど、そういったところで方向性のズレが起こっている部分もあるんですけど、しっかりとそこは連携をとりながらやれていると思います。

ーー早稲田が目指す早慶戦の方向性とは

平田 早慶両校の運営陣にも伝えたことなんですけど、まず一つ目が今年コロナが収束している中で本来の早慶サッカー定期戦の規模感に戻したいというか、そういったつなげる年にしたいっていう思いがあります。自分は1年目の時に等々力陸上競技場で1万5千人ぐらいの方が来ていただいたのを見ているので、そういったところを会場も含めて早慶サッカー定期戦をもっと大きな舞台でやるためにも今年は運営も含めてしっかりと全員が関わるという意識、数人だけでは早慶サッカー定期戦は作り上げられないので全員で作り上げる意識を持つっていうところですね。来年に向けてつなげていくっていう部分と全員で作り上げるっていうところは意識しています。また、早慶サッカー定期戦を戻すっていうのは大学サッカーの中でも1番魅力のあるコンテンツにしたいっていうところで、競技性だけではなかなか人が集まらないっていう部分がサッカー界全体にもありますし、大学サッカーもそういった課題を抱いている中で早慶サッカー定期戦が先駆者じゃないですけどしっかりと人も集めて、それこそプロモーションのところでアーティストライブだったり各大学の方々だったり、大学全体を巻き込むような部分は早慶サッカー定期戦を通して作り上げたいかなと思っています。

ーー早慶戦の成功だけでなく、大学サッカー全体のことも考えているということですね

平田 大学サッカーの中でも早慶戦の持つ価値は非常に大きいものがありますし、早慶戦を通して大学サッカーに対しても興味を持っていただければと思っています。

ーー今の時期は非常に忙しいとは思うのですが、選手としての活動も行っているのですか

平田 そこの部分は優秀な後輩たちの存在が非常に大きいので、自分は選手兼主務としてまずはピッチ上で示すっていう部分も主務としては必要だと思いますし、それは本当に後輩にうまく役割分担をしながらやっています。

ーーそれは早慶戦の運営グループが部の中にあるということですか

平田 そうですね。慶大の主務と自分が一応リーダー的存在で、ちゃんと全体も把握しながら「ここ大丈夫かな」とか「ここやっとかないとやばいよね」っていうところをちゃんと部員と連携とりながら自分が指示出しながらやっていくっていう感じですかね。

ーー運営にはどのくらいの人数の学生が関わっているのですか

平田 50か60人くらいいるんじゃないですかね。そこは仕事を持ってない人もいると思うんですけど、関わっている人数としては早慶合わせてそのくらいいるのではないかなと思います。

ーーそれだけの人数が関わる中で全てを把握するのは難しい部分もありますか

平田 それぞれの部門でリーダーがいるので、自分そのリーダの人たちとしっかり連絡とって、そのリーダーの人たちが業務ごとにどんどん下に引き継いでいってという感じでやってます。

ーー選手として出たい思いがある一方で出られないということも考えられると思います。そこの気持ちの折り合いというのはどのようにしていらっしゃいますか

平田 昨年はそれこそ自分はケガをしていて全く自分が出られる可能性がなくて。それで当日を迎えた時に昨年は負けたんですけど、めちゃめちゃ悔しくて。たぶんサッカー人生で1番悔しいというか、自分が出てる試合含めて1番悔しかった試合で。早稲田にいる以上慶応に負けるのはめちゃめちゃ嫌ですし、たしかに自分が選手として出たい思いはありますけど、まずは早慶戦に勝つことが全てだと思っているのでそこは運営からそういったものを作り上げたいですし、結果的に自分が選手として出られればすごくうれしいですけど、そこの気持ちの折り合いはもうついてるというか。まずは本当に慶応に勝ちたい! という思いが強いのでそこに自分が必要であれば出ますし、必要でなければ他のメンバーに任せるだけです。

「苦しいこともいっぱいある」

インタビューに答える平田主務

ーー平田さんにとって早慶戦とはと聞かれたら何て答えますか

平田 難しいですね・・・早慶戦とはですか?(笑)これ他の人にも聞いてるんですか?

ーー他の人には聞いてないです(笑)

平田 一言では表しづらい部分があるんですけど、いろいろな、さっきも言ったように当日はすごい華やかで他の大学生も羨むような舞台だとは思うんですけど、その裏ではいろんな方々が関わってくれて。早慶の部員だけではなくてOBの方々であったり企業さんの方々であったりという部分があって、そういった舞台に関われるっていうのは大学生にとってなかなかないので、そういった泥臭い部分も、(華やかな部分と比べて)両極端あるのかなというところはすごく感じました。だから、早慶戦=華やかっていうイメージは自分はないというか、苦しいこともいっぱいあるけどそういったものが早慶サッカー定期戦なのかなっていうのは感じています。

ーー平田さんから見た今のチームの雰囲気は

平田 なかなか結果がうまくいってない中で、とは言えプロも何人か出て。自分たちの代はうまい選手もたくさんいて期待されていた中で戦術的な方向性のズレだったり気持ち的な方向性のズレだったりが全員で噛み合わなかったというところはあると思うんですけど、この夏場のところで徹や俊也含めてしっかり改めて4年生中心となって気持ちの整理だったり方向性のズレっていうところを修正していってる部分はあります。それこそAチームの島崎という部員が戦術の落とし込みを行っている中で気持ちの整理っていうところはできたと思いますし、この状況になったからには逆に団結しているとは思います。

ーー4年生の名前が何名か出てきましたが、4年生の存在というのはやはり大きいですか

平田 今自分たちが4年生なので後輩からどんなふうに見られているかは分からないですけど、1年からこのア式蹴球部にいて他の組織よりこの4年生の重要さというか4年生が持つ力っていうのは大切だというふうに感じているので、そこは4年生が早稲田は一番大事なのでそこは自分も含めて責任感をしっかり持ってやらないとなという思いはあります。

ーー早慶戦のキーマンは

平田 じゃあ島崎で。今Aで活躍している選手には期待をしているんですけど、早慶サッカー定期戦って最後は思いというか、技術だけじゃなくて勝ちたいという思いでどれだけ上回れるかっていうので結果が左右されると思っていて。島崎はATという役割で前期チームが苦しい中でも戦術とかを考えながらやっていて、苦しい時間を過ごしていましたし、本人ケガをしていてすごく苦しかったとは思うんですけどやっと復帰して今Aにもいてっていうところで、当日出るかは分からないんですけど彼がこのチームに対する思いはこの1年間を通して強くなっていると思いますし、そういった思いをピッチ上で示してくれたらなって思っているので。っていうのとちゃんと慶応をスカウティングして(笑)、ちゃんと持ち込んでもらいたいです。

ーーリーグ戦との兼ね合いなどでなかなか慶応の対策に時間を使うことは難しいのではと思うのですが

平田 自分たちは自分たちのできることをするだけだと思うので、相手に合わせるというよりかは自分たちがこれまで積み上げてきたものをそのまま慶応にぶつけるだけだと思います。その反面、早慶サッカー定期戦てほんっとうに渋い試合になるので最後どれだけ走れるかとか、そういった部分が重要になるのかなと思います。

ーーコロナによる活動停止期間はチームにどのような影響がありましたか

平田 難しい部分はあると思うんですけど、まずは活動停止した中でコンディションでいうと0になった部分をもう一回100に戻すのは大変な作業だと思うし、そこはマイナスだと思います。一方でその4日間で戦術の整理を選手間でできたと思うので、そういった部分ではプラスに働いたのかなと思います。

ーー選手としての早慶戦に対する意気込みをお願いします

平田 最初にも言ったように自分の目標は自分が先頭に立って運営を作り上げて、その舞台で自分が点を取ってっていうのが一番自分の憧れなので、感謝じゃないですけど運営に関わってくださった方々に最後自分がピッチ上でそういった姿を示せたらいいなと思っています。

ーーでは、運営としての早慶戦に対する意気込みをお願いします 

平田 早慶サッカー定期戦って早稲田と慶応がしっかりと協力しあって作り上げるものだと思いますし、早稲田は早稲田、慶応は慶応じゃなくてそこはしっかりと早慶両校で方向性だったりっていうところをまとめあげてできればなと思っています。早慶サッカー定期戦っていうのは雰囲気が会場全体で作り上げるものだと思っていて、自分たちだけじゃなくて応援部の方々であったり早稲田で言えばULTRASさんであったり当日来てくださるお客さんの方々であったり、全員が作り上げるものだと思っているので、そういったものを作り上げられるように自分たちは最善の準備をしたいなと思います。

ーー最後に早慶戦を見てくださる方々へメッセージをお願いします

平田 難しいですね(笑)。そんな上からは言えないんですけど、早慶戦の良さってやっぱりプライドのぶつかり合いだと思っていて。一つ一つの球際の質も全然違いますし、そういった部分は早慶戦でしか見られないようなものというか、一つ一つのプレーに対してほんとに思いのこもったプレーを見せてくれると思います。めちゃめちゃ選手は前向きというか、おもしろいサッカーしてくれると思うのでそういった部分は期待してほしいですし、サッカーだけじゃない企画もあるのでそういったものを含めて全体を楽しんでいただければと思います!

ーーありがとうございました!

(取材・編集 栗田優大、写真 髙田凜太郎、ア式蹴球部提供)

早慶戦への意気込みを書いていただきました!

◆平田陸人(ひらた・りくと)

2000(平12)年5月11日生まれ。180センチ。早大本庄高出身。商学部4年。早慶戦ではサッカーだけでなく企画も楽しんでほしいという平田選手。今年は3年ぶりにハーフタイムライブが開催されます。どんな企画を用意してくれているのか楽しみです!