新体制対談 第8回 外池大亮監督

ア式蹴球男子

 今シーズンで、就任5年目を迎える外池大亮監督。早大での5年間から大学サッカーにかける思いまで熱く語っていただいた。

※この取材は3月30日に行われたものです。

「一つの世界観が着実に構築されてきている」

ピッチを見つめる外池監督

――まず監督として4年間を終えられて、今どのように振り返っていますか

外池  気付けばあっという間に4年が経ったなという感じです。ただ4年間しっかり積み上げるというか、その時間分のものすごい濃密な濃さがありました。もちろんその年その年の結果があると思うんですけど、学生たちと一緒に社会の中で、大学サッカーであり学生スポーツでありの中で、一つの社会課題みたいなものに対して向き合って挑戦をし続けてきたことは、一つの世界観が着実に構築されてきているなとは思います。

――今お話にあった通り、外池監督は学生主体や社会性、発信力を大切にされていますけど、4年間で積み上がってきたものが具体的にどういった成果につながっているなと感じていらっしゃいますか

外池  一つは自分たちが何でサッカーをやっているのか、何で大学に来て何で早稲田でという自分たちの存在意義を自問自答して、そのことがどういうものなのかということに対してしっかり発信して、要はアウトプットすることでいろんなインプットが返ってきたり、いろんなつながりが生まれたりする中でもう一度アップデートしていったり、自分たちの中でブラッシュアップしていったり、そういうことをずっとやってきました。それによって早稲田の中の他競技の方々や応援部などもそうですし、ア式蹴球部《村》だけで終わらないという、サッカー自体の可能性やサッカー自体を追究・探究が我々の一つの使命であり、そういうものの成果は、新たな繋がりとして、早稲田大学の広がり、サークルの人たちだったり留学生の方々だったり、他部の人や一般の学生だったり、があります。それが更に大学を跨いで、いろんな大学の人たちとの試合を通じた交流だけではなくて、自分たちの活動全体のところに対して、交歓という、ア式の《ア》のアソシエーションは交歓というふうに位置付けているんですけど、共に喜びを分かち合うというか、そういうサッカーの豊かさを交歓し合って、その価値をまず自分たちで認識する、自分たちで明らかにしています。そのこと自体が世の中に影響力を持てるのであれば、その挑戦自体が評価を得ているとか、評価を得たとしたらそれは社会の一つの課題だから評価を得ているんだろうし、そういったところに結びつけていって、それがサッカーという活動を通じて、競技だけではなくて組織としていろんな活動を生み出すことが、すでに世の中にはあふれているサッカーの可能性だったりつながりだったり価値を自分たちで実感して体感することにもなるし、それを自分たちらしく、なぜア式なのか早稲田なのかというところにまでつなげていくというところは、これっていうものは正直ないような気がするんですけど、皆の頭の中にあるア式蹴球部としての世界観は、僕は結構感じるようになりましたけど、外側の人たちから教えてくれるような環境になったということがすごい成果なんじゃないかなと思います。

――外側の人というのは具体的には

外池  具体的には対戦相手のチームや応援してくれている人たち、OBとかが「ア式今すごい面白いことやってるよね」とか、だからこそ「もっと頑張ってね」とかもあります。この前も中京大学の子だったり、そういう外側から来てくれる人だったり。今新入部員の子たちが来て、「なんで早稲田選んだの」って聞くと、元々なんの接点も無かった人たちが早稲田大学に入学して早稲田大学に何があるんだろうと。私でもやれるんじゃないかと思って入ってくるマネジャーの子たちも増えていますし、その中で自分はこういうことをやってみたいと言ってくれる人が増えたりしたことが、リアルにはそこが一番実感しますね。

――その中で競技である以上、結果というものが常についてきます。この4年間を振り返ると、関東では優勝から始まって、8位、2位、5位という結果についてはどのように捉えていますか

外池  いろんな要因はありますけど、まず今の大学サッカーというカテゴリーはかなりレベルが上がってきて、僕が来てからの4年間の中でも相当レベルアップしていると思いますし、かなりの多くのJリーガーが大学サッカーから出ていったと思いますけど、そういったところにおいて1部リーグに位置付けているというのは我々としては非常に大きな結果なんじゃないかなと思っています。構造上からひも解くと我々はずっと脈々と続く伝統と歴史の中で、かなりフラットに一般の大学生から付属校、浪人生とかも含めてサッカーの競技歴に関わらず入部の制度を設けて、それを一つの部のパワーとして脈々とやってきています。もちろんJリーグが始まって30年という意味では、サッカーの専門的な組織がかなり増えてきた中でそういう位置づけを継承しながらやってきているという面では、1部に居続けて優勝を狙えるポジションに常にいれるような取り組みをすることはとても大きな価値がある事だと思っているし、そこで優勝できるのか準優勝なのか何位なのかというのはもちろんあると思いますけど、まずはそういうベースの部分を作り続けているという意味では、結果としては僕は良かったんじゃないかなと思っています。

――構造上のお話がありましたが、学生サッカーはプロのように移籍などがない中で、戦力をどのように使うかという難しさはどのように感じていらっしゃいますか

外池  難しさというのはなくて、サッカーは純粋に能力がベースにあるので、サッカー界のピラミッドってかなりはっきりしてきて、高校年代で言えばユースがあって高体連がいて、そのなかでもカテゴライズされていて、プレミアがあってプリンスがあって。そういう状況の中で選手の能力の集約というか区分けがされていて。そういう意味ではなぜ早稲田大学でサッカーをやるのかという意味で言うと、ここに来てプロになりたいですという人はいるかもしれないですけど、少なくとも高校年代でプロになれなかった人しかここには来ていないので。さらにそこから4年間でプロになってやるという意味で言うと、構造上の部分だけで捉えると、プロを輩出するための機関ではないというのは明らかです。そういう意味では競技だけに特化するというサッカー依存度は低いと思います。ただ僕はサッカーにおける、特にこれからの時代は《競技に閉ざさないサッカーの本質的可能性への感度》が必要になってくる選手資質だと思います。そこで高校生まででやってこなかった部分を身に付けて、確変して、Jリーグしかり、どう企業や社会に出ていくのかというところがテーマなので。強化という軸だけでチーム作りをしているわけではないので。学生自体のマインドというのは重要になってくるし、そのマインドをマーケティングする中でこのチーム作りは必然なんじゃないかなと思ってやってきているし、それは早稲田大学全体、また早稲田スポーツとしてのあり方みたいなところからも軸を持ってきています。そういう意味では多少サッカー寄りになっている選手たちをしっかりマインドリセットしていく部分の難しさは毎年感じます。ただ4年間の取り組みの中でだいぶ浸透して認知されてきているので、サッカーやろうと思って来たのに《これはサッカーじゃない》みたいな声はあまり聞かないですね。

「4年生たちが非常に力強くなってきた、成熟してきた」

インタビューに答える外池監督

――新シーズンを迎えるにあたって、今季の戦力はどのように捉えていますか

外池  当然新4年生たちを中心にチーム作りをするんですけど、その4年生たちが非常に力強くなってきた、成熟してきたなというのは感じています。新4年生たちはある意味サッカー競技軸の色が強すぎて、チームのやり方にフィットできない学生もいたなかで、4年自体がチーム作りをしっかりやっていこうと、そのプロセスを通じて選手としてのレベルアップというか、成熟度がすごく上がってきたなととても実感しているので、まずは4年生たちの新4年生としての姿には上積みを感じますね。

――具体的に最も上澄みを感じた選手はいますか

外池  何人かいるんですけど。山下(雄大、スポ4=柏レイソルU18)、丹羽(匠、スポ4=ガンバ大阪ユース)、西尾(颯大、スポ4=千葉・流通経大柏)、あとは最近急に出てきた生方(聖己、スポ4=高崎経大付)とか、この辺は今までも試合に関わっていたかもしれないですけど、4年生としてこれまでと関わり方とは違う成長や強さ、たくましさを感じるので非常に期待してはいますね。

――生方選手はドイツ留学されて、まさに外部とのということですよね

外池  彼がドイツ留学したいといったときに、この後の進路を考えてサッカーを続けていきたいという思いがある中で、自分を見極めるためにドイツに行きたいという話だったので、それならいいんじゃないと。ただいろんな人に協力してもらったり、お金を出してもらったりとか、何よりいち学生がこのご時世の中で海外に行くとなると、いろんなハードルやフィルターがあると。そこに向き合うなかで、自分がどういう環境の中でやれているのかを知るんじゃないかなと。一緒に手続きとかやっていたんですけど、そのプロセスで本人は実は自分一人で海外に行くのは難しいんじゃないかと思っていたのが、一個一個丁寧に作業をしていたら大学からも部からもみんなから応援されて送り出してもらったことが、そこに意味を感じたらしくて、みんなの中でサッカーをやることとか、ドイツに行って言葉も通じないなかで、本人がウリにしていたコミュニケーションがなかなか発揮できないもどかしさとかが、日本に帰ってきてこれだけ純粋にコミュニケーションをとれるなかでサッカーをやれる喜びと楽しさを感じてるという話はしていたので、それは今見ても毎日楽しそうにやっているし気づきがあったんだなと。ここ(ア式)だけでとどまっているだけだとなかなか気づけないので。もしかしたら外に出ていっても気づかない人は気づかないかもしれないけど、僕は学生一人一人が気づくチャンスとか可能性を持たないとそのヒントは得られないと思うので、彼は自分からそれを手にしに行ったことが自分のものになって返ってきたという意味では、みんなにいい影響を及ぼしてくれているんじゃないかなと思います。

――新入生の能力も気になるんですけど、そのように見ていますか

外池  今で言うと高校選抜にも選ばれた山市(秀翔、スポ1=神奈川・桐光学園)、佐々木(奈琉、スポ1=新潟・帝京長岡)は当然能力は高いです。特に山市はすでにチーム全体の空気作りにも貢献できるくらい、元々桐光学園でもキャプテンやってたりしますけど、それを遺憾なく水を得た魚のようにここの環境でも臆することなくやってくれています。それは自分がいきる環境だと思ってきてくれたんだろうなと思います。あとは森田(大智、スポ1=熊本・大津)、増田(健昇、スポ1=横浜FCユース)なども高校年代トップレベルでやってるなかでも組織に対する適応が早いなと感じるのですごく楽しみですね。あと2年生で松尾という去年入部にチャレンジしてダメで、社会人サッカーでエリースというチームでやってたんですけど、今年もう一回チャレンジして、彼も1年間部員になれなかったけど、その時間を外に出てア式OBなどにもんでもらって。ランテスト受けに来たときに合格した後すぐ僕のところに来て「去年落としてもらって良かったです」と(笑)。「初めてそれで気付きました。いろんな人たちに協力を得てクラブチームに入ることができて、その時間のなかでいろんな成長ができたので意味のある1年間を落としてもらったことで過ごすことができたし、落としてもらって当然ショックだったけど、足りないところに気づけた」と言ってました。今はAチームで十分やっているので、そういうメンバーがいるというのもまた早稲田の強み、特徴だと思うので、そういうメンバーにも注目してほしいと思います。

――2、3年生で途中から入部する選手はどれくらいいるんですか

外池  学年に2、3人くらいいます。森山も同じように去年落ちて今年チャレンジしに来て、トレーニングマッチでもゴールしているし、去年はぐにゃぐにゃっとしている部分があって。やっぱり高校から来てすぐ適応できる子もいればそうじゃない子もいます。ピラミッドがある良さって当然次のステージがあったりカテゴライズされることで整理されていくんですけど、当然みんながみんな同じエスカレーターに乗るわけでも、乗れるわけはないので。エスカレーターだからこそ得られない逞しさとか本当の気づきみたいなものを気づけないまま行かないといけなくなっちゃうというか。そういう意味ではア式蹴球部のフィルターというのはサッカーだけじゃないよとか、組織の一員として人としてという部分を短期間ではありますけど、部員全員が4年生中心となって見直していくというプロセスがあるので、そのなかで気づけるものはかなり大きいんじゃないのかなと思います。それは1年生だけではなくて4年生の成長にもなってるんじゃないかなと思います。あと、1年生のチームはこの前上級生チームと紅白戦をやって1年生のチーム勝っちゃうんですよ。それくらい今の1年生はまとまってて、僕が4年間見てきたなかで一番1年生としてのまとまりがありますね。

――その1年生のまとまりが4年生にもつながっていく部分はありますか

外池  あんまりイメージが湧かないですけど、1年生ですでに上級生よりまとまっているのがすごいなと思います。4年生の働きかけがいいのかなとちょっと思ったりし、..て。すごく伸び伸びやっているし、先輩たちが伝えていることとかがスムーズに自分たちには入ってきている、変な違和感とかギャップになってなくて、来てすぐにでもプレーをすんなりできる環境が今あるのかなという意味ではうれしいですね。

――戦い方という面では、昨季はリーグ戦22試合で27得点です。過去の得点数と比べても少ないと思います。昨季は後半に得点も増えて、背景には守備の部分で福西さんの影響もあったと伺っています。得点力も含めて今季はどのように戦い方を進めていくのかという戦術的な部分をお聞きしたいです

外池  ひとつは戦い方を徹底しようというのがあります。後ろ(監督コーチ室の壁)に書いてある通り、ゲームモデルをしっかり再構築して自分たちの形をしっかり遂行していく。そこの一つ一つの要素を切り出して強度を上げていくのが現状の向き合い方としてやっています。

――ここに書いてあるような戦い方にした理由はありますか

外池  基本的には選手のレベルだったり選手個々にこういうことがやりたいというこれまで積み上げてきたものがあるので、それをベースに島崎(元、スポ4=川崎フロンターレU18)を中心にこういった形が良いんじゃないですかという提案を4年生中心に議論したなかで彼に出してもらって、それをスタッフと共にもんで、こういう形にしていこうというのを決めたという形です。要素としてはこれまでの経験と反省が大きいんじゃないかなと思います。切り取り方で言うと鈴木隆二というフットサルでやってて、特に攻撃の戦術や切り取ったところの守備の仕方に長けているので、ゲームモデルの中にどうやってトレーニングで落とし込んでいるのかとか、完成させていくのかとかのアプローチは鈴木隆二と小澤雄希が来たので。彼らはそういうマネジメントの部分も含めて強みを持っているなと思いました。それと、先ほどの話じゃないですけど、彼ら2人は外側からア式を見ていてア式自体の組織の作り方に共感してくれていて、このなかで自分の強さを発揮させて欲しいと、向こう側からそういう働きかけを頂いて。2人ともア式のOBではないんですけど、そういう力がこれまでの4年間の取り組みのなかで、自分たちの中だけで完結してても導き出せないし、逆に外側の人が来たときにア式の良さを伝える側になってもらいたい、そしてその人自体も成長していく、そういう循環を生み出すというのはいいのかなと思っています。そのなかでもう一度ゲームモデルを再構築したという感じですね。

「みんながウィンウィンになるのはスポーツの良さ」

得点にガッツポーズをする外池監督

――外側からというと、もちろん外池監督も5年前は外側からア式を見てらっしゃったと思いますが、監督就任前までのア式にはどのような印象を持っていましたか

外池  僕はどちらかというとメディアとして7、8年前からア式を見ていたんですけど、どうしてもサッカー界の潮流に流されちゃっていて、サッカー色が強くなっちゃってサッカー専門学校化しているなと。もちろんベースで大事にしているものはありましたけど。どうしてもうまい奴が一番みたいになってて組織全体が社会と結びついてないなとはすごく感じていました。僕が学生時代も当然そのやり方だったんですけど、それでいい時代だったんですよね。でもやっぱりサッカー自体がJリーグと共に成熟してきて、求められる選手像とか大学サッカーのあり方とかがだいぶ変わってきていると。その中で早稲田って何なのというものはもう一回考えないと、いけないなと。当時も学生たちが練習とかもどちらかというと殺伐としていて、いい意味でも悪い意味でもピリピリしているというか。でも実はみんなが意外とそういうことを求めていないというか、そういうものだからそうしてます、それは触れちゃいけないところですよね、みたいな感覚でやっていたので。自分たちが意図してそういう組織を作っているんだったらいいですけど、そこ自体が主体的じゃなくて大人がそういうものだとずっと伝え続けたりとか、そういうことだけで組織が意思決定されてること自体が健全ではないなとは思っていました。やっていることは全然間違っていないし、僕らもそういう時代でそういうことをやってきたので。ただそこは変えないといけないし、組織の構造上のところから挑戦していくのが僕の一つの使命であり、取り組みの軸にしないと大学という場での僕自身の挑戦にはならないなと思っていたので、そこが今の形になっている大きなポイントなんじゃないかなと思います。

――メディアでというお話が出ましたが、先日は駒澤大学サッカー部の取材をされていました。ライバル大学の監督が取材しようとして受け入れることってなかなかないですよね

外池  ないでしょうね(笑)。そもそも初年度に同じように大学サッカーの応援番組を作って、監督をやりながらいろんな大学の取材に行ってたんですよね。僕は現場には行かないですけど、企画を立てて課題とか取り組み方とかこっちから見たらこういうふうに見えますし。僕自身が早稲田大学を強くすることも大事なんですけど、そのためには大学サッカー全体が盛り上がってこないとそもそも価値が上がらないというか。極端な話ですが、全体のベースが弱いのに早稲田だけが一人勝ちしてても誰も何も楽しくないというか、そのこと自体に価値は無いと思うので。スタンスとしてはそもそも早稲田って何かの上に立ってということも大事ですけど、いかに環境づくりをしていくか、そこをリードしているかというのが、僕は早稲田としての面白さというか寛容さ、使命だと思うので。そういう空気感を自分のキャリアとして持っているし、そのこと自体は監督としていかせるんじゃないかなと思ったので、あえて仕事も継続しながらそういったところにチャレンジしています。4年生とどういうチームにしていこうかと喧々諤々とやってたんですけど、ひとつ基準は駒澤大学に勝てるチームじゃないとだめだよねと。駒澤って全然違うサッカーしてるとか、パワープレーじゃんみたいなことで逃げているのは事実で、そこに勝っていないよねと。インカレチャンピオンだよってなったときにそこの現実と向き合うには、僕ができることは駒澤大学さんのそれって何なの?という部分を僕らだけが知るんじゃなくてみんなに知ってもらうことで価値があると思いました。メディアもそうなんですけど、伝える側と伝えられる側という関係じゃなくて、一緒にコンテンツを良くしていくとか、業界を広げ逞しくしていくパートナーだと思うので、周りにあるのリソースを使ってそういったところに貢献していくのが、まさにメディアコンテンツ事業そもそもの形なんじゃないかなと思います。それが僕の生業なので、あの番組を作させていただいたことは僕としては非常に意味があったと思います。

――そういう意味では今も含めて、大学サッカーを外側から見られていますけど、監督業にいきた取材やコンテンツ制作はありましたか

外池  活きているからやるし、監督やっててこれやるべきと思うから、駒大さんの番組はまさにそうですし。駒澤サッカー部員たちがあれだけ正直に「このサッカーに衝撃を受けました」みたいなところからちゃんと話してくれたり。あれは純粋に駒澤大学さんの魅力がめちゃくちゃ伝わったと思っているんですよね。悔しいですけど(笑)。当然そこに映し出されるものがあるんですけど、ある意味、みんながウィンウィンになるのはスポーツの良さだなと。負けたからダメなんじゃなくて、グッドルーザーになっていかなきゃいけないし、そういうことがスポーツ全体が求められているスポーツの価値だと思うので。そこを置いていて何かをするというのはないので、どんなにレベルアップしたとしてもそこは絶対忘れちゃいけないから、ひとつの番組作りで学生たちにそういう思いが伝わることは、やっててすごい良かったなと。監督として立っていると監督として見ちゃうので、監督だから言いたくないみたいな話って出てきちゃうんですよ。監督がこうじゃなきゃいけないみたいなのを作りすぎること自体が色んなチャンスを阻害することにもなります。日本のスポーツ界の指導者像が変わっていかないといけないタイミングにはきてますから、選手がどうじゃなくてまず指導者だったりマネジメントのところ、構造が変わらないと難しいよねと言われている中で、そこに挑戦できるというのはこの立ち位置があるからだと思うので、分かっていましたけどすごく有効だなと思いますね。

「大学サッカー全体のチャンスであり、起爆剤になる」

声援に応える外池監督

――大学サッカー全体のレベルアップで言うと、注目度として今季のインカレ決勝が元日に新国立競技場で開催予定で、おそらくテレビでも放送されると思います。インカレ決勝への思いはどういったものがありますか

外池  言葉では言いたくないですけど、並々ならぬものが自分の中であると思っていて、まさに大学サッカー全体のチャンスであり、起爆剤になるんだろうなと。その当事者に早稲田大学が名乗りを上げたいです。運営と競技の両面でそこに大きく関われるような絶好の機会だと思うので、そこに向かってこの1年間どう積み上げていくかというのは、明確な頂がそこだと思うのですごくそれに対しては覚悟を持って向かっていきたいと思います。

――そしてもう一つビッグイベントで言うと早慶定期戦があって、昨季は10年ぶりに負けて相当悔しい思いを持ってらっしゃると思いますけど、早慶戦に向けた思いはどういうものがありますか

外池  去年は4年生たちが身を粉にしてやっていたので、勝たしてあげたかったなと思いますし、運営は早稲田が幹事校としても中心でやっていたので。運営を握れないとサッカーの魅力は伝えられないよという話を常々していて、運営力がめちゃくちゃ上がってきたなかで勝負で負けたというのはすごく残念でしたけど、試合として熱量は作れました。慶応さんは競技者としてだけじゃなくて我々自体を証明してくれる存在と思うので、慶応さんとああいう場が作れたというのは、負けはしましたけどすごく誇りには思えました。今年に関しては定期戦だからこそ絶対負けられないと、運営面から含めて本当に圧倒して去年の4年生の分まで勝つというのは絶対目標かなと思います。

――去年はコロナの中で日程面での難しさがありましたけど、今年はW杯関連のJリーグ前倒しによってビッグスタジアム確保の面で難しさが出てくると思います

外池  夏のナイターで開催できることを優先して検討しています。なんとか隙間を見つけて、何よりも早稲田と慶応の学生がサッカーを通じて互いの存在意義を確認しあえる場というか。我々がこの2年コロナ禍で失ってしまっているもの、気づかないうちに諦めてしまっているものがあると思っていて。サッカーを通じて《生きてる》ってことを表現しなくてはならないというか。我々はマスク無しでピッチで表現させてもらっているわけで、我々の責任は重いし、もっとそれを謳歌するというパワーをピッチ上で出さないと、見ている人には届かないし、そこの部分を担えるからこそもっとやっていこうと。そういう話は今日もしました。

「ハングリーじゃなくたってサッカーは美しい」

指示を出す外池監督

――ここまで4年間積み上げてきたものがありますけど、外池監督が就任時に思い描いていた像が今どのくらい実現していますか

外池  難しいなぁ―――。ぶっちゃけて、僕が大学4年の時にリーグで20年ぶりに優勝したんですけどその翌年2部に落ちて、その後19年間優勝していなくて、19年ぶりに優勝してその翌年に2部に落ちて、僕が就任した時に優勝して。だからちょうど3年前に歴史的残留って書かれたんですけど(笑)。卒業した後だったので関係ないって思ってたんですけど、トラウマがありました。歴史的に(見ると)、早稲田って何?ア式って何?となったときに、そういう文化があるんですよ。今、100周年プロジェクトをやっていて、ア式100人にインタビューしてOBたちに話を聞いて、100年の歴史を紐解いていくというのをやってるんですよ。一気通貫してア式にあるマインドって何かを今探しているんですけど、まとめようとするとあまりいい言葉にならないんですよね。意外とそれぞれがバラバラだったり、プライド高いからダメになるときは脆いとか、結構ネガティブなところが出てくるんですよ。でもそれがリアルだなと思って。ネガティブだったり弱いところをさらけ出す場があることが、社会に出て意外といきてきたりとか、リバウンドメンタリティになってたり、そのことを社会に出て克服していこうと思っている人が意外と活躍していたるんですよね。そこら辺は僕は大事にしたいと思います。でもそこにある「勝てなかった」、「頂点になれなかった」みたいな悔しさがある事はマイナスではないというか。何をどう突き詰めていくのかというものが結構明確になってきました。スポーツにある美しさとか、ピュアであり続けられるかとか、そういうところへの挑戦だったりするし、広げることとか可能性を探し求め続けるスタンスはだいぶ出てきていると思うので、そういう意味では7、8割ぐらいが形になってきているんじゃないかなと思います。あと3年で100周年で、今年で引退しちゃうメンバーもいますけど、我々としてもこれだけ今の学生たちがそういったものをマインドセットの中に入れて活動できるかということも、これからの100年を作っていくうえでのとても大事なプロセスなんじゃないかなと思います。完成しないものに向けていかに完成させていくかという工程は生まれているので、そこは悪くないなと思います。

――その工程のなかの未完成の部分を除いたときに、まだ足りてなくて求めていきたいことってありますか

外池  シンプルにサッカーで勝つということに対してもっと強いこだわりやその強さみたいなことです。一番足りないのは、やっぱりハングリーさなんですよね。どうしても早稲田に来る子って、セーフティーネットで来ている子が、正直なところ多いんです。どこでもいいんだったら早稲田に行きなさいと言われてくる子たちが多いし、そのこと自体は早稲田が培ってきた伝統と歴史であることに変わりないから、矛盾してしまうんですけど、どっちかというと守られているという。大学サッカー自体が守られているんですけど、さらに守られている環境だったりすることで、本当の意味でのサッカーの追求におけるハングリーさをどう自分たちで作りだせるのかと。そういう意味で言うと僕はピュアさだったりするんですよね。サッカーをどれだけ美しい形で完成させていくかと。ハングリーじゃなくたってサッカーは美しいものだからそこに向かっていくみたいなことができれば、相手を蹴落とさないといけないとか結果がすべてだとではなくて、ゴールだったり守備だったりプレー一個一個のこだわりの極みたいなことになってくると思うので、そういうところに転換できたら我々のウィークは克服できるんじゃないかなと思います。

――外池監督の中でそのピュアさは今どれぐらいですか

外池  それは僕だけがピュアではいけないので。例えば、今安斎(颯馬、社2=青森山田)が掃除してるじゃないですか。例えばあいつがあれを「俺何やってんだろ。あと10分くらいやらないといけないのかな」と思ってやってたら全然ピュアじゃないじゃないですか(笑)。でもすごい「きれいにしてみんなに気持ちよく使ってもらえるようにしたい」とか、本当に何の疑いもなく(笑)、やっているメンバーが増えて全員になったら、めちゃくちゃピュアな超美しいチームになるんですよ。そこと、去年も言ってた早稲田のバンカラさ、社会課題に挑戦していくという意味での部分がもっと研ぎ澄まされていくと、美しさに行くのかなという気もします。その辺がみんながどう捉えられるのかというところがポイントかなと思いますね。人間的に成熟するというよりかは、みんながサッカーを広く深く捉えて、高くて深いレベルで追求し続ける状態にあるかという、そこの完成度にかかっていると思います。だから相当難しいし、また入ってくる子たちがどうかというところもあります。難しいんですけど、さっきも言った通り今年の1年生たちの姿を見るとそういう流れは生まれてきているなと感じるので、そこら辺は楽しみです。「4年生がいなくなったからできません」みたいなことには当然してはいけないので、そういう流れが生まれているのは社会に少しづつ広まっていることにもつながっています。卒業生たちの進路を見てもそういうところに影響を受けて進んでいる子たちも多くて、社会人サッカーで続ける子たちもすごく増えました。サッカーをピュアで捉えるって、生涯スポーツだと思うんですよね。ただプロを目指してダメだったから辞めました、みたいな人は今まで多かったので。じゃなくてサッカーをどこかで続けていくという環境づくりをしていくことが、スポーツの両面を捉えられることが一番の深みだと思っています。プロ目指す人とそうじゃない人、じゃなくてどっちにもいて「僕はたまたまここにいます」というのがいいんだと思います。そうしないと競技者が減ってたりとかスポーツの価値が問われている中で、スポーツ自体が繁栄していかないです。早稲田に来てサッカーして辞めました、だったらやる意味がないなと思いました。僕が現役の時は一切考えてなかったですけど、こうして20年経って社会のなかで生きてきて、プロやメディアなどで生かしてもらってきて、これからはそういう人たちがスポーツ界を担ってほしいなと思うし、そういうところに自分がどう関われるか、成長できるかというところはやっていきたいです。

「伝統の継承と革新への挑戦」

インタビューに答える外池監督

――今季の主将である柴田選手(徹、スポ4=湘南ベルマーレU18)ですが、去年の悔しさもあると思いますしプロに行きたいと思っていると思います。新主将・柴田徹に期待することはありますか

外池  ここに来る前の湘南ベルマーレU―18時代からサッカーへの真摯な向き合い方は何も変わっていないですし、3年間いろいろな難しい局面もあったと思いますけど、キャプテンになってすごく整理されているなと感じますし、まさにサッカーに対するピュアな向上心と大学サッカー全体への情熱みたいなものをしっかり持ち合わせているので、非常にキャプテンらしいし、それをピッチでも体現できる早稲田のキャプテンにふさわしい状態にはあると思います。ただここから選手としてのパフォーマンスだったり結果と向き合っていくと思うし、現実としてぶち当たってくるので、そのなかでピュアさを磨いていけるかどうかというのはまだ分からないですけどとても期待してるし、この1年を通して彼が大きくなっていって欲しいなと思います。

――先ほどもお話にありましたけど、ア式が3年後に100周年を迎えますけど、その時の4年生である新2年生への期待はどのようなものがありますか

外池  歴史の中に自分たちが存在しているということの体現者だと思うので、まずはその意識をみんなに持って欲しいなと思います。100年って急にその年に訪れるんじゃなくて、今年の98年目、99年目、そして100年目があって101年目と続いていくものだし、あくまでもプロセスの一つでしかないので、常に伝統の継承と革新への挑戦をしていける象徴となるような姿になって欲しいなと。当然結果も求められるので、プレッシャーもたっぷりね(笑)、いい意味で背負うことになると思うので、そういうなかで勝利を呼び込める、結果を導き出せるようなことを意識して今からやっていくことは彼らにとって何もマイナスにはならないので、そういうチャンスをいかして欲しいなと思います。

――ちなみに100周年の代だということは伝え続けたりしているんですか

外池  去年から「4年の時だよ」というのは伝えていて、結構口々にそういう事を気にするようにはなっていますし、それって何って考えることが今だと思いますし、そこに向かうことに対する価値をどうやって意識するかというところは選手個々に分かってくることでもあるし、そのヒントを得られるようなプロジェクトはしていくつもりなので、そのことがア式蹴球部のレガシーにつながっていくことにもなると思うので、そういうチーム作りを純粋にしていきたいなと思います。駒沢(直哉、スポ2=ツエーゲン金沢U18)、安斎、光田(脩人、スポ2=名古屋グランパスU18)、袈依廉(ヒル袈依廉、スポ2=鹿児島城西)、伊勢(航、社2=ガンバ大阪ユース)とか、いいメンバーがいるので、みんなそこを意識してやって欲しいなと。ただ今の4年生が3年から4年になるときに変化したように、ひと学年上がるだけで本当にガラっと変わるので、「どうした?」と(笑)。そこは読めないので、あまり先を考えすぎずにひとつひとつやっていきたいなと思います。

――学年が変わるときに雰囲気が変わるというのは学年ごとに変わるのか、チームとして変わるのかで言うとどっちですか

外池  僕も現役時代そうだったんですけど、4年間って面白くて1年生は1年という括りのなかにいるんですけど、急に仕事から解放されたり余裕が出てくると生活環境が激変するんですよね。そこで失敗していく人もいるんですけど、伸びてくる人とかもいます。僕は最後の4年生が大学サッカーだと思っているので。就活とか、サッカーだけではなくて社会と触れる機会があったりすることも含めて4年生になった時に確変率が強くなるので、最後の最後までその1年がどうだったかは意外と分からないところではあります。すでに今年の新4年生はだいぶ変わったので、このあと元日にどうなっているのかというのは楽しみです。西堂(久俊、スポ4=千葉・市立船橋)とか俊也(鈴木俊也副将、商4=東京・早実)とかすでにプロに内定してる人もいますし。平瀬(大、スポ4=サガン鳥栖U18)とか監物(拓歩、スポ4=清水エスパルスユース)とかも頑張っているので、そういうポテンシャルはめちゃくちゃあるんですよ。だからそのメンバーたちが最後すごいものを見せてくれるんじゃないかなと。担い手として、彼らこそがすごいものを見せてくれるためのサポートをしているだけでしかないです。そういう歴史を作って欲しいなと、100年(新2年生)にプレッシャーをかけて欲しいですね。

「元日優勝」

インカレで掲げられる応援旗

――では最後に5年目の覚悟ということで、今シーズンの意気込みをお願いします

外池  鈴木隆二と小沢雄希という新しいコーチが入ってきてくれて、ア式蹴球部に新しい風を吹き込んでくれていてこれまでいないチャレンジを、積み上げているもののなかに革新が作り出されている空気はあります。それに対して4年生中心にすごくいい化学反応も起きていますし、それによる変化・成長がすでにあるので、そういったものをしっかり形に、結果にむずびつけていけるようにやっていきたいなと思います。もちろんうまくいかないとか、結果が出ない流れの時もあるとは思うので、そういったときにどう這い上がっていくか、というプロセスも僕は大好きなので(笑)。ずっと上手くいきすぎると「何だったんだろうこの1年」ってなっちゃうので。そういうことも許容できて、みんなで向き合えるような準備をして、元日優勝したいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 前田篤宏 写真 前田篤宏、水島梨花、内海日和氏、橋口遼太郎氏)

※学年は来年度のものを使用しています

5年目となる今シーズンの意気込みを書いていただきました!

◆ 外池大亮(とのいけ・だいすけ)

1997(平9)年社会科学部卒業。1997年にベルマーレ平塚(当時、現湘南ベルマーレ)に入団。その後横浜F・マリノス、大宮アルディージャ、ヴァンフォーレ甲府など、計6クラブを渡り歩いた。現役引退後は電通に入社。その後スカパーに転職し、現在もスカパーに所属しながらア式蹴球部監督を務める。J通算345試合出場、36得点。