【連載】『令和2年度卒業記念特集』第21回 谷口智洋/男子サッカー

ア式蹴球男子

自分がやりたいこと

 2月1日、GK谷口智洋(商=近大和歌山)を乗せたフードトラックが、東京都内を走りだした。「スイーツを通して、より多くの人を幸せにしたり笑顔にしたりというのが自分の中で実現したいビジョン」。大学生活をアスリートとして駆け抜けた谷口が、そのようなビジョンを持つようになった理由とは。また、谷口はア式で過ごした4年間で何を経験し、何を学んだのか。

 谷口のスイーツ作りとの出会いは、料理好きな親の手伝いから。元々食べるのが好きだった谷口は、手伝ううちに1人でも作るようになったという。高校時代も、部活で忙しい合間を縫って友達の誕生日の時に作るなど、スイーツはいつも谷口のそばにあった。一方の競技面は、高校3年の夏に全国を経験するものの、冬は県予選の決勝で敗退。「失点のところで自分のミスも絡んでいたので、そこでサッカーとは離れようと思った」という谷口だったが、監督からの勧めもあり、早大に入学することを決意。大学サッカーの道を歩み始めた。

 ア式に入部し待っていたのは、強烈なチームメートたち。当時はGK小島亨介(平31スポ卒=現アルビレックス新潟)が、絶対的な守護神として君臨。同期の同じポジションでは山田晃士(社=浦和レッズユース)や千田奎斗(スポ=横浜F・マリノスユース)など、全国トップレベルの選手たちと出会い、「今までにない環境だったので、成長意欲がかき立てられた」と振り返る。ゴールキーパーは、途中交代で試すということがあまりないポジションであるためなかなか出場機会には恵まれなかったが、「サッカーが好きだったし、サッカーを通して出会う人も好きだった」。自分より上手な選手がいることに対して悲観的になるのではなく、どうすれば技術を盗めるかを意識して練習に臨み、プレイヤーとしてのモチベーションを維持。4年間自分の技術を磨き続けた。大学3年時には、関東大学リーグ戦(リーグ戦)でベンチ入りを経験。ピッチに立つことはかなわなかったが、チームを代表してピッチに立つということがいかにプレッシャーの大きなことであるかを身に染みて感じたという。

常に高い意識を持ち練習に取り組んだ谷口

 谷口がア式での4年間で学んだことは、『他人と比べないこと』。「他人と比べて自分はどう、と考えてしまうと自分が見えなくなってくるというか、自分の良いところまで悲観的になってそれがさらに負の連鎖を起こす」。選手としてうまくいかなかった時期は多くあり、自分の序列を気にしてやっていた時期もあったと顧みる谷口。ただそれでは状況は変わらないと感じ、序列を気にせず自分の成長のために何ができるかを考えることで、区切りができたという。また、谷口はチーム内での投票や話し合いを受け、大学2年の後半から学連を務めることに。仕事が忙しいために練習や試合に出ることができず難しい部分もあったが、『学連としての自分』と『選手としての自分』をうまく分けて考えることで、両方の役割を理解し、負の感情は無くなっていった。「自分の性格上、表ではなく裏の部分で支えるというのが自分の特徴を一番生かせると思う」。メンバーに入ることができなくてもチームの勝利を願い、見えないところで確実にチームを支えた。

 この学びは、スイーツの道にも生かされた。谷口は、高校を卒業する段階で製菓学校に進学する選択肢もあったというが、「自分の周りにパティシエになりたいという人があまりいなかったので、そっちに振り切る勇気がなかった」。そんな当時の自分を「未熟だった」と語る谷口は、就活において、「自分が本当にやりたいことがあるのに、それを抑えて周りの目を気にして周りと同じように進もうとしてるという風に感じて、すごいモヤモヤしたというかもったいない」と感じたそう。早大に入学し、さまざまな人、世界と出会い、視野が広がったことで他人と比較せず、スイーツ作りという『自分がやりたいこと』を追い求めることができるようになった。「スイーツを通して、より多くの人を幸せに」というビジョンは、選手としてだけでなく学連の一員としてア式を過ごし、自分が一番能力を発揮できるところで働くことの重要性に気づいた谷口だからたどり着いたものだった。

小山修世(商=東京・早実)とともに店頭に立つ谷口

 「選手として大学でサッカーをやると決めたので、その中でレギュラーを取れなかったのは悔しい」。ア式で味わった『苦い』経験を『甘い』スイーツに込めて――。「自分は話すことがそんなに得意な方ではないので、人とつながる1つのツールとしてスイーツがある」。谷口お手製のスイーツを乗せたフードトラックは、今日も誰かの笑顔のために走り続ける。

(記事 長村光 写真 早稲田大学ア式蹴球部提供)

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