熱闘繰り広げるも…。伝統の一戦は13年ぶりのドロー決着

ア式蹴球男子
JR東日本カップ2020 第94回関東大学リーグ戦 第20節・早慶定期戦
早大 0-0
1-1
慶大
【得点】
(早大)63’西堂 久俊
(慶大)55’酒井 綜一郎

 試合終了後、ピッチに両チームの選手が崩れ落ちた。互いにとって絶対に負けられない、そして勝利以外では満足ができない伝統の一戦は、今季に限り関東大学リーグ戦(リーグ戦)の一節として行われた。リーグ戦暫定首位を走る早大は、2年ぶりのリーグ戦優勝に向けても是が非でも勝ち点3が必要な試合。55分にセットプレーの流れから先制点を献上してしまうが、63分にMF西堂久俊(スポ2=千葉・市立船橋)のゴールで試合を振り出しに戻す。逆転を期し西堂らの途中交代でピッチに投入された選手が猛攻を仕掛け、好機を演出するもゴールネットを揺らせず。早慶定期戦として2007年以来、実に13年ぶりの引き分けでの決着となった。

ピッチに倒れ込む鍬先と加藤

 DF西田翔央(商2=東福岡)、FW奥田陽琉(スポ1=柏レイソルU18)と2名の選手が今季リーグ戦初先発となった早大。本来DFの西田は右サイドに配置し、3年生ながら既にJ2での試合出場経験のあるMF橋本健人(慶大)に対してマンマーク気味で守備を行う。奥田も最前線から積極的にプレッシングを敢行し、慶大のビルドアップを規制。「プラン通り」と外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)が語ったように、前半はある程度慶大にボールを持たせた中で、「相手の良さを出させないまま前半をやりきる」(外池監督)ことを意図して試合を進める。

 その中でも28分、MF阿部隼人(社4=横浜F・マリノスユース)の放ったFKをニアサイドで逸らすと、こぼれ球を押し込み、ゴールネットを揺らす。一時スタンドは歓声に包まれるも、これは惜しくもオフサイドの判定。さらには44分、ロブパスを受けたMF鍬先祐弥(スポ4=東福岡)のポストプレーから、奥田がシュートを放つもこれはゴール左へ外れる。守備を念頭に置きながらも、一定のチャンスをつくり出し前半を折り返す。

得点を奪い歓喜の輪を広げる選手たち

 後半、西田に変えMF倉持快(人3=神奈川・桐光学園)を投入し、前線への圧力を強める。しかし、先制点をあげたのは慶大であった。55分、コーナーキックのこぼれ球をDF酒井綜一郎(慶大)にオーバーヘッドキックでゴールに流し込まれる。一点を追いかける展開となった早大は西堂、FW加藤拓己(スポ3=山梨学院)と攻撃的な選手を次々と投入。同点、さらには逆転ゴールを狙う。すると63分、阿部の放ったコーナーキックをニアサイドでDF大西翔也(スポ3=浦和レッズユース)が逸らすと、このシュートはゴールポストに嫌われるも、跳ね返りをゴール中央で待ち構える西堂が豪快に蹴り込み、貴重な同点ゴールを奪う。

 その後は終始、早大ペースで試合が進んだ。75分に阿部がピッチ中央に侵入。加藤へのスルーパスを供給し、シュートシーンをつくりだす。90+2分には加藤のポストプレーから倉持がなんとかボールを収め、最後はMF田中雄大(スポ3=神奈川・桐光学園)がシュートを放つもゴール上へ。さらには90+3分、西堂が左サイドを独走すると、逆サイドから走り込んだMF鍬先祐弥(スポ4=東福岡)へクロスを届ける。シュートは相手DFのブロックに阻まれるも、再び西堂が低く速いクロスを供給。ニアへと走り込んだ鍬先がフリックでゴールを脅かすもゴール右へ外れ、この瞬間に試合終了のホイッスルが鳴り響いた。最終盤には幾度となく慶大ゴールへと迫るもゴールネットを揺らせず。早慶戦としても、リーグ戦としても悔やまれる勝ち点1となった

 「4年生への感謝などの思いを表現できる絶好の機会だと思って臨んだ」と西堂。この思いを抱いていたのは、西堂だけにはとどまらないだろう。チームをけん引したDF杉山耕二主将(スポ4=三菱養和SCユース)の姿があり、常にチーム鼓舞する姿勢を見せたGK山田晃士(社4=浦和レッズユース)の姿があった。ピッチに立つことこそ叶わなかったが、チームで存在感を放ち続けたMF小野寺拓海(政経4=岩手・専大北上)やDF小山修世(商4=早実)の姿があり、早慶戦の開催に尽力をしたDF西前一輝(スポ4=F C町田ゼルビアユース)主務の姿があった。すべての4年生の色が今季の早大をつくり、今季の早大の好調の要因であった。

 今季の4年生とア式蹴球部が歩む時間は少しずつ限られてゆく。しかし、リーグ戦としては残り2試合、さらには全国大会が待ち構える。リーグ戦制覇の可能性が残る限り、早大は走り続ける。そして4年生を筆頭としたア式蹴球部は、『日本をリードする存在』として、見る者の『明日への活力となる』ために、ゴールへと向かう。次の試合には、どんなア式の姿を見せてくれるだろうか。

スターティングイレブン

(記事 橋口遼太郎 写真 初見香菜子、新井万里奈、手代木慶、山崎航平)

早大メンバー
ポジション 背番号 名前 学部学年 前所属
GK 山田 晃士 社4 浦和レッズユース
DF ◎5 杉山 耕二 スポ4 三菱養和SCユース
DF 40 西田 翔央 スポ3 浦和レッズユース
→HT 19 倉持 快 人3 神奈川・桐光学園
DF 17 工藤 泰平 スポ4 神奈川・日大藤沢
MF 25 小倉 陽太 スポ1 横浜FCユース
→52分 28 丹羽 匠 スポ2 ガンバ大阪ユース
MF 鍬先 祐弥 スポ4 東福岡
MF 阿部 隼人 商4 横浜F・マリノスユース
→85分 柴田 徹 スポ2 湘南ベルマーレU18
DF 大西 翔也 スポ3 浦和レッズユース
MF 11 水野 雄太 スポ2 熊本・大津
→60分 38 西堂 久俊 スポ2 千葉・市立船橋
MF 田中 雄大 スポ3 神奈川・桐光学園
FW 50 奥田 陽琉 スポ1 柏レイソルU18
→55分 10 加藤 拓己 スポ3 山梨学院
◎=キャプテン
監督:外池大亮(平9社卒=東京・早実)
関東大学リーグ戦1部 順位表
順位 大学名 勝点 試合数 得点 失点 得失差
早大 41 20 13 45 18 28
明大 37 17 12 33 16 17
順大 35 19 11 34 30
桐蔭横浜大 30 18 28 23
駒大 29 16 36 28
国士舘大 26 19 29 31 −2
慶大 23 20 21 28 -7
筑波大 22 18 23 32 -9
立正大 21 17 27 29 −2
10 法大 17 13 21 19
11 専大 10 17 12 25 52 −27
12 中大 18 13 23 39 −16
※2020年12月5日現在
コメント

外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)

――厳しい試合となりましたが、率直な感想をお願いします

何よりもまずこの早慶戦、リーグ戦の1試合ではありましたが、連盟の方々のご協力、一緒にひとつのイベントを尊重してもらってこういう特別な試合をやらせて頂いたということに関しては感謝しています。学生たちを中心に、この試合を無事に開催し、終えられたことに関しては非常に良かったなと、素晴らしいことだなと思います。

――西田選手、奥田選手をスタメン起用しましたが、その意図はどのようなところだったのでしょうか

相手MFの橋本健人選手を止めようというところで、少し手堅くはなってしまいましたが、相手の良さを出させないまま前半をやりきるというところです。奥田の起用も、しっかりプレッシャーをかけて、相手のリズムと自分たちの展開をそういう状況に持っていくことで、その後のギア、後半からスイッチを入れられるような、そういう準備ではありました。

――前半は押し込まれる時間が長かったと思いますが、ハーフタイムではどのような言葉をかけましたか

ある意味プラン通りというか、慶応に少しボールを持たせる、自分たちがボールを持って、攻めあぐねるような状況にならないということが狙いだったので、そういう意味では後半ここから勝負をかけるよというところで、そういうスイッチをみんなで共有したというところです。

――監督の中では想定内ということでしょうか

そうですね。ただ、西田は高さもあったので、FKやセットプレーでチャンスを作り出せればなというところはありました。できればリード、手堅さの中でも、いい状況が作ることが出来ればな、という感じです。

――後半、1点先制された後はかなり攻勢に出て、同点に追いつきました。しかしその後攻め続けましたが逆転はできず、引き分けに終わりました

セットプレーからの失点かつ、やられたというより入ってしまったゴールだったので少しみんなのメンタルが心配でしたが、途中から入った西堂がパワーを示したことを含めて、途中から出場した選手がこの試合のスイッチを改めて入れて、それをしっかり体現できていたという部分は大きかったので、我々としては最後仕留めきるというところだけだったかなと思います。

――引き分けという結果に対しては一言でどう感じていますか

当然100%勝ちにいっていたので、それに対しては不本意であり残念だなというのはあります。ただ、時間の経過も早かったですし、後半送り出す時に言ったのが、「あっという間に過ぎていく時間だから、その時間を濃くしていく、自分たちから意図的にプレーを繰り出してアクションを起こさないと、時間だけが過ぎていく。そこに関しては自分たちが主体的にプレーを作り出そう。後半はそういう時だよ」ということで、後半スタートの部分もいい状況を作れていたので、あのセットプレーでどうなるかと思いましたが、出ていく選手に対してそこの部分を体現して追いついて、もう1点、という状況は生み出せたので、我々が掲げる「DRIVE」という、苦しい厳しい中でも前に進む、チャレンジし続けるという姿勢は十分この状況の中で来ていただいた応援部だったり早稲田に関わる、早慶戦に関わる人の心には刻まれたんじゃないかなとは思います。

――引き分けは残念に思うということですが、追いついたことに対しては評価できますか

そうですね。やっぱりセットプレーから失点というのはダメージがありますし、少し時間がかかるかなという状況でしたが、本当に後半に入ってからはギアを上げて、セットプレーで追いつき、そこで落ち着かずに当然もう1点取るという姿勢はかなり作れていたので、そこに関してはやっぱりあと1点欲しかったなというところです。

DF杉山耕二主将(スポ4=三菱養和S Cユース)

――試合を終えた率直な感想を教えてください

本当に悔しいです。

――この試合にどのような思いを持って臨まれましたか

リーグ戦の1試合でもありましたし、早慶戦という学生が作り上げる素晴らしい舞台という位置づけもありました。この早慶戦を作り上げるために、主務の西前(西前一輝、スポ4=FC町田ゼルビアユース)や副務の羽田(羽田拓矢、人3=東京・駒場)、マネージャーを中心に、本当に長い時間と労力をかけて作り上げてくれたのを僕自身は知っていたので。そういったメンバーのためにも、今日勝って、その仲間の頑張りに報いたいという思いは強くありましたね。

――雨の中での試合となりました。ピッチの状況はいかがでしたか

ピッチはスリッピーでしたし、下もちょっとゆるかったというのもあったので、前半の入りは少し苦しんだなという感じはあります。

――慶大に先制点を奪われても、チームとしてアグレッシブに戦い続けたことが印象的でした。振り返っていかがですか

ゲームプランとしては後半で勝負というような考えがありました。それでも、セットプレーから失点をしてしまって。そうなった以上は攻めに出て、攻め続けるしかない、前を向くしかないと思っていたので。1点入ったことによって、みんなの攻撃のスイッチが入るようになって良いかたちができたのかなと思います。

――「後半勝負と考えていた」とおっしゃっていたように、後半は押し込む場面が見られました。前半とはどのような違いを出せましたか

単純にポジショニングとメンバーのところで違いを出しました。前半は、相手の橋本健人(慶大)選手をリスペクトした上で、そこに西田(DF西田翔央、商2=東福岡)をマンツーマンで当てるようなかたちでした。守備から攻撃にということを意識して臨んでいたのですが、攻撃のところまでなかなかうまく繋げられませんでした。そんな中、後半メンバー、ポジショニングともに変わって、ポジショニングは4-4-1といつも通りのかたちになって。自分たちの良さ、自分たちがこれまで積み上げてきたことが出せました。

――今試合は早慶定期戦でもあり、リーグ戦の1つでもあるという位置づけでした。リーグ戦の1つとしてはどのように考えられますか

順大に5−0で負けてもう後がない状況で、残りあと4試合全部勝とうという話をしていました。その意味でも、今日の引き分けはリーグ戦として見ても非常に痛い試合だなと思います。

――水曜日にまた試合があります。意気込みを教えてください

本当に今日の試合は悔しいですし、かなり厳しい(状況)ですが、それでも優勝の可能性を信じています。優勝を信じて前を向いて、胸を張って戦うだけだと思います。必ず次勝てるように、勝つためにできることは全部やって臨みたいと思います。

MF西堂久俊(スポ2=千葉・市立船橋)

――どういった思いで早慶戦に臨みましたか

今年一年を通して僕自身「4年生のために」という思いが強くて、今年の早慶戦は(コロナで開催が)難しい状況でしたが、多くの方の尽力で成り立ったと思うのですが、特に4年生あっての早慶戦だし、チームだという気持ちがありました。これまでの4年生への感謝などの思いを表現できる絶好の機会だと思って臨みました。

――ご自身の得点を振り返ってください

僕が途中から出る意味というのはチームに勢いをつけること、結果を残すということを求められているということでした。入ってからそれほど時間が経っていなくて、そういった期待に応えられたというのは良かったかなと思いますね。

――ゴールした瞬間、とても喜んでいました

そこでゴールできたのはとても嬉しかったですね。ピッチに入る前も4年生のためにやってやろうという思いで臨んだので、それが結果となって現れたのかなと思います。大西(翔也、スポ3=浦和レッズユース)選手のヘディングがポストにあたって目の前にきて、なりふり構わず足を振ったという感じですね。左利きなのですが、右足が出ました(笑)。

――終盤、力を振り絞ってクロスを供給されていました

ロスタイムはもう出ていて時間がないというのは分かっていたので、ラストチャンスかもしれないという思いで上げていたという感じです。

――終盤は押し込む時間帯が続いたのも関わらず、引き分けに終わりました

終盤ホイッスルの直前まで押し込んでいて、決定的な場面もあったにも関わらず試合が終わってしまいました。ある種の喪失感みたいなものがありましたし、もっとチャンスを演出できなかった自分自身に力不足を感じます。ゴールよりも、4年生を勝たせられなかったことに、不甲斐ない、情けないです。

――4年生のためにと何度もおっしゃっていましたが、早慶戦9連覇の夢も阻まれてしまいました

今日は多くの早稲田の学生やOBOG、日ごろ支援してくださっている方々が来てく出さって、そういった方々は9連覇を見届けたいという思いで来てくださっていたと思うのですが、勝利というかたちで報いることが出来なかったというのは非常に残念です。

――リーグ戦優勝に向けてはどんな思いがありますか

まだ何も決まっていないので、次は中3日で筑波戦がありますし、ここで終わりではないのでまた絶対に勝てるように、切らさないでブラさないでやるべきことをやっていきたいです。