等々力での激闘から9日、くしくも静岡の地で伝統の一戦が再び行われた。アミノバイタルカップ関東大学トーナメント(アミノ杯)の2回戦が行われ、格下相手に逆転して1回戦を突破してきた早大は、関東大学リーグ戦1部所属のチームを破って勢いに乗る慶大と対戦。この日はMFとして起用されたDF冨田康平(スポ4=埼玉・市浦和)の2得点で先行すると、その後の慶大の猛攻を1失点に抑えて逃げ切った。好敵手を下し、3回戦進出を決めた早大は、総理大臣杯全日本大学トーナメント(総理大臣杯)出場をかけて18日に明学大と対戦する。
この日の早大は、4-4-2の布陣を採用。立ち上がりから劣勢に回ってしまった早慶定期戦とは変わって主導権をとり、最初の10分間はアーリークロスなども交えながら手堅く試合を進めた。しかし、程なくして早大が試合を動かした。12分に右サイドの深い位置に抜け出したFW武田太一(スポ3=ガンバ大阪ユース)が、鋭いグラウンダークロスを折り返す。ゴール前にFW梁賢柱(スポ2=東京朝鮮高)が走り込むと、慶大GK上田朝都(3年)は手で弾いて逃げるが、少し遅れてゴール前に入ってきた冨田がこれを詰めた。リードを奪ってからも、冨田の突破から梁、MF藤沢和也(商3=東京・早実)のクロスから冨田に決定機が訪れるなど変わらず攻め立てると、28分に追加点。右サイドのゴールライン際で梁がボールをキープし、相手DFをかわしてゴール前に送る。密集に当たってこぼれたボールは、またしてもフリーの冨田のもとに転がり、冷静にゴールに蹴り込んだ。しかし、その後は相手を引き込んでから速攻を狙う早大に対し、プレスをかいくぐってボールを回し始めた慶大が主導権を奪い返す。何度かゴールを脅かされて迎えた42分、MF増田皓夫(4年)のスルーパスからボックス内に抜け出したFWピーダーセン世穏(3年)に1対1を決められてしまう。理想的な試合運びをしながらも終盤を締められず、競った展開のまま残りの45分を戦うことになった。
先制点を決める冨田。大学での公式戦初得点となった
FW岡田優希主将(スポ4=川崎フロンターレU18)を後半開始と同時に投入し、立て直しを図る早大。しかし、慶大が積極的な入りを見せたことや、「(チームとして)ミスがあって前に行けなかった」(岡田)ことで、流れを変えるどころか防戦一方になった。49分には早大の右サイドを崩され、MF松木駿之介(4年)にボックス内に入られて決定的なシュートを許すが、わずかに枠を外れて事なきを得る。中盤でプレッシャーが掛からずに押し込まれる状況が続き、54分には、右クロスをピーダーセンがノートラップでボレーシュート。これはGK小島亨介(スポ4=名古屋グランパスU18)が好セーブでしのいだ。60分頃から試合展開は落ち着き始めるが、ボールを奪うことはできても思うようにパスをつなぐことができない。攻め手をなかなか見出せなかったが、それでも守備では人数をかけ、体を張って慶大の攻撃を跳ね返し続けた。76分の選手交代で布陣を4-1-4-1に変更して前線からのプレスの意識を加えると、攻撃時に武田にボールが収まるようになり、ついに守勢を脱却。最終盤の慶大は手数をかけずにロングボールを放り込んできたが、6分間を超えるアディショナルタイムも集中力を高く保って逃げ切り、今回も2-1で早慶戦を制した。
小島らを中心に最後まで集中力を高く保ち、リードを守り抜いた
7日の早慶定期戦では『ドライブ』の意識を最優先して封印したが、この日は相手を引き込んで速攻を仕掛ける得意の形が機能した。決定機を生かしきれず、中盤以降の我慢の展開を招いてしまったことに課題は残るが、『負ければ大会終了、総理大臣杯出場の可能性が消える』という1回戦と同様のプレッシャーの存在に加え、早慶戦という特殊な状況下にあっても強かさは健在。慶大に「とどめを刺す」(岡田)というミッションを完遂してみせた。3回戦では、再び東京都リーグ所属のチーム、明学大と対戦する。「関東の前期のチャンピオンとして『受けて立つ』という心構えでやっていこうという中で、とてもいい相手」(外池大亮監督、平9社卒=東京・早実)。1部の筑波大、東洋大を倒して勝ち進んできており、勝てば総理大臣杯出場が決まるという状況も相まって、この7月に掲げる『新しい挑戦』の成果を示す場としてはこれ以上ない試合となる。「次が本当の勝負」(DF牧野潤、スポ3=JFAアカデミー福島)。厳しい試合を戦う中で培った経験と自信を携え、全国行きを決める戦いに挑む。
スターティングイレブン
(記事、写真 守屋郁宏)
アミノバイタルカップ2018 第7回関東大学トーナメント大会兼総理大臣杯全日本大学トーナメント関東予選 2回戦 | ||||
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早大 | 2 | 2-1 0-0 |
1 | 慶大 |
【得点】 (早大)12’,28’冨田 康平 (慶大)42’ピーダーセン 世穏 |
早大メンバー | ||||
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ポジション | 背番号 | 名前 | 学部学年 | 前所属 |
GK | ◎1 | 小島 亨介 | スポ4 | 名古屋グランパスU18 |
DF | 4 | 鍬先 祐弥 | スポ2 | 東福岡 |
DF | 17 | 工藤 泰平 | スポ2 | 神奈川・日大藤沢 |
DF | 32 | 井上 純平 | 商4 | 東京・早実 |
→54分 | 3 | 大桃 海斗 | スポ3 | 新潟・帝京長岡 |
DF | 2 | 牧野 潤 | スポ3 | JFAアカデミー福島 |
MF | 14 | 藤沢 和也 | 商3 | 東京・早実 |
MF | 7 | 金田 拓海 | 社3 | ヴィッセル神戸U18 |
→77分 | 12 | 小笠原 学 | 社4 | 青森山田 |
MF | 8 | 栗島 健太 | 社3 | 千葉・流通経大柏 |
→90+5分 | 13 | 高岡 大翼 | 社4 | 広島皆実 |
MF | 6 | 冨田 康平 | スポ4 | 埼玉・市浦和 |
→83分 | 22 | 神山 皓亮 | 商3 | 栃木・真岡 |
FW | 20 | 梁 賢柱 | スポ2 | 東京朝鮮高 |
→HT | 29 | 岡田 優希 | スポ4 | 川崎フロンターレU18 |
FW | 9 | 武田 太一 | スポ3 | ガンバ大阪ユース |
◎=ゲームキャプテン 監督:外池大亮(平9社卒=東京・早実) |
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コメント
外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)
――1週間前に激闘を演じた慶大と再戦でした。どんなプランで臨みましたか
ポイントはゲームの入りだと思っていて、前半をどう戦えるかだと思っていました。なので、(守備では)4-4-2という形で4枚と4枚をより意識して、2枚の真ん中で起点をつくったところから両ワイドを使う。(両ワイドが)出ている時も残りの4枚と2枚でしっかりバランスをとってやろうと話しました。そこは非常によく出ていました。それで、ベルギー対イングランド(ロシアW杯3位決定戦)のベルギーの1点目で、真ん中で(ロメル・)ルカクが持って、左にスルーパスを出して、クロスに逆サイドの(トーマス・)ムニエが入ってくるというのがあって、「明日はこれだな」と見ていました。その中で、右から左と展開は逆でしたけど、逆サイドのMFがあそこに入ってくるということでゲームを動かせました。冨田がああいう形で(得点を)取ったというのは非常に意味があったし、イメージが共有できていたなと思います。
――試合運びとしてはいかがでしたか
前半は3-0、4-0にできた場面があったので、(決め切れずに)まさに早慶戦という感じにしてしまったのは非常にもったいなかったです。でもこの大会は、こういう試合が続く中でどう乗り越えるかが重要かなと思っていたので、中身も大事なんですけど勝たないと次に進めないので、こういう試合が続く中でどう乗り越えるかが重要かなと思っていました。勝つためにやれることをどこまで考えられるか、そこに関しては最後は苦しかったですけど、「失点したとしても同点だから」という考え方は伝えていたし、こっち(ベンチ)から見ていても慌てている感じはなかったと思います。
――かなり押し込まれた時間帯もありましたが、あれは不本意なものだったのですか
いや、そういう部分は致し方ないという話をしていて、無理に自分たちから取りに行ってバランスを崩してしまうと、その後の修正ができないと思っていました。2-0、あるいは2-1という状況の中でどう時間を進めるかという意味で、あのやり方はありだなと思ってはいました。
――今日の試合で良かった点、次につながる点はありましたか
ゲームの入り方、自分たちでどうゲームを動かしに行くかという意味での試合のつくり方はすごくよかったと思います。あとは、この2試合はターンオーバーという形でやって、いろんな選手も試せたし、それをみんなが受け入れてやったことに意味があったと思います。たとえば相馬がいなくて、彼によるストロング(ポイント)は当然無くなってしまいますけど、そこに対してみんながどうするのかとか、ゲームを通じて学ぶことができたし、今後もそういう部分をどれだけ意識してやれるかというのは大事かなと思っています。
――次も中1日での試合になりますが、またカテゴリーが下のチームとの対戦です
当然向こうは超楽しみにしていると思います。でも、この7月シリーズは関東の前期のチャンピオンとして試合をやれるということで、もともとは(2部から)上がってきたというチームが『受けて立つ』という心構えをあえて受け入れてやっていこうという中で、とてもいい相手だなと思います。傍から見ると「楽なんじゃないか」とか思われるかもしれないですけど、全く楽ではないと思っています。今度はア式のOB(鈴木修人氏、平20スポ卒)が監督をやっているチームという縁もあるし、(明治学院大は)勢いもあって、ジャイアントキリングとしては一番注目されるゲームになると思うので、いい準備をしてみんなで試合に臨んでいければと思います。
FW岡田優希主将(スポ4=川崎フロンターレU18)
――トーナメントでの早慶戦ということで、何を共有して試合に入りましたか
まずは日大戦でセットプレーでやられたというのがあるので、自分たちが成長した姿を示すという意味でも、そこは確実にやられないようにということでした。あとはうちに『Drive』という言葉があるように、ケイオーには『FlyHigh』という言葉があって、早慶戦はスローガンの部分の戦いになると思っていたので、その『Drive』という部分は強調して、前に行こうというのは心がけて入りました。
――前半の戦況はベンチから見ていていかがでしたか
立ち上がりは本当にいい戦いをして、ミーティングで準備していた両サイドハーフが飛び込む動きで点を取れたというのはすごくよかったなと思います。ただ、前半30分以降はゲームを自分たちの手で難しくしてしまって、前に行く選手と後ろに行く選手がいて、意思の疎通ができずチームとしてまとまりきれずに、そこの穴を通されて失点したと思います。(前半は)僕だったり、今日はモモ(DF大桃海斗、スポ3=新潟・帝京長岡)もいなかったと思うんですけど、そういう中でリーダーを誰がやるのかというのは、このチームが大きくなっていく上でも大事なことなのかなと思います。そういう状況で、守備での課題もわかっていたので、まずはそこを自分が押さえに行くというのと、あとは点を取れるチャンスをつくれたらそこで行こうと思っていました。
――ただ、後半も押し込まれる時間が続いてしまいました
最初の段階で(チームとして)ボールが足につかずにミスがあって、前に行けなかったことでより自分たちが後ろ向きになってしまったのはあったと思っています。実際僕にボールが帰ってくる場面も少なかったですし、立ち上がりでうまく入れなかったかなと思います。ただ、勝っているというのは変わらなかったので、そこまで焦らずにまずはしっかり守ることにウエイトを置けたし、立ち帰ることができたので、そこはポジティブに捉えています。
――慶大に勝利して次に進めるというのは、やはり特別な意味もありますか
ケイオーはこの夏に勝たなければインカレもなくて、早慶でやる試合も今後なくなるわけで、「ケイオーにとどめを刺す」というのは外池さんも言っていたことで、その通りだなと思っていました。他の大学とはまた違う、素晴らしいライバルであるケイオーを倒すことで、自分たちの価値を証明できると思ったので、1週間しかなくて難しい中でも勝てたということはよかったなと思います。
――次の試合は大阪行きがかかることやカテゴリーが下のチームが相手ということもあり、また難しい試合になると思いますが
アミノバイタルというのはそれぞれの試合に難しいものがありますけど、それぞれに対して冷静に分析して、どういうマインドを持っていくかを整理することが大事かなと思っています。昨日、自分たちが勝った場合と負けた場合のスケジュールを確認して、本当に次の試合は自分たちの未来が決まる大事な試合で、プレッシャーがかかる中だからこそ今までやってきたことを出すとか、自分がどうできるかというのは本当に成長のチャンスだと思うし、楽しめるかどうかというのはサッカー選手として大きなチャンスだと思います。そういう意味で、目の前にすごく良い機会があるので、まずは楽しみたいと思います。
DF冨田康平(スポ4=埼玉・市浦和)
――定期戦でスタメン落ちし「悔しい」と話していたのが印象的です。今日の出場にあたっては期するものもあったのではないですか
そうですね。自分としても定期戦でスタメンから外れたのは悔しい経験でしたし、今回たまたまではありますけど早慶戦が実現したということもあって、その中で自分がスタメンで、しかもいつものポジションではなくて相馬がいない中で一個前で起用されたということもあって、間違いなく自分のプレーぶりがチームの結果になるという自覚はありました。相馬の分まで、ではないですけど、自分なりにチームを勝たせるためのプレーしようという気持ちで入りました。
――触れていただいた通り、今日はサイドハーフでの出場でした。試合前はどんなことを伝えられましたか
外池さんからも「良さはガンガン行くことだから、後ろを考える必要はいつも以上にないしやりたいように前に行け」という指示だったので、自分も推進力を持って相手を押し込むということを考えて入れたかなと思います。
――その結果として序盤の2得点がありました。振り返っていかがですか
得点自体のかたちはとてもラッキーというか、こぼれ球が2回転がってきて押し込んだという感じではありました。チームの狙いとしても、おとといのW杯のベルギー対イングランドから、ベルギーの1点目のカウンターを外池さんがミーティングで取り上げていて、あれもウイングバックが上がって、逆(サイド)のウイングバックが中に入ってくるというかたちで、「サイドが中まで入り切って点を取るのが理想だから、前線の4枚(FWとサイドハーフ)で攻めよう」と意識付けされていたので、自分が中に入り切れたから得点が生まれたかなと思います。
――2点を取ってからは苦しい戦いを強いられる時間も長かったと思います。何か変化は感じていましたか
それまで自分にとって来てほしいボールが来ていて、その中で自分の良さが出せていたという状況がありました。でも、相手に押し込まれてマイボールの時間も続かなくて、苦しまぎれのクリアで相手ボールになってしまったりという状況がありました。実際苦しい時間でしたし、特に4年生が中心となって何かを変えなければいけなかったかなと思います。
――2-1で慶大に勝利という結果については率直にどうですか
試合前に「勝つことが大事だ、定期戦以上に勝たないといけないし、勝たないと前に進めない」という話がありましたし、1点を返されながらもしっかり守り切って勝てたことは大きなことだと思います。チームの成長にもつながったのかなと思います。
――中1日で3回戦がやってきます
1回戦も2回戦も本当に難しい試合で、苦しい状況が長かったです。でも間違いなくチームの財産にはなっていると思うので、そういう経験も生かしつつ、今までの試合以上に90分間自分たちの良さをしっかり出して、勝利をつかんで、全国への切符を取れたらいいなと思います。
DF牧野潤(スポ3=JFAアカデミー福島)
――1週間ぶりの早慶戦ということでしたが、どういう思いで試合に臨みましたか
早慶戦とは全く違う試合になるということを全体で再確認していました。トーナメントなのでとにかく勝ち切るということをチーム全体で意識して試合に臨みました。
――前半はうまく試合に入れていたように感じました。主導権を握れなかった定期戦の反省を生かした部分もあったのでしょうか
いや、特に早慶戦のことは意識せず、立ち上がりは前から勢いを持っていこうということと、早慶戦のときにはなかったんですけど、引いた守備からのカウンターを少し狙っていました。その戦術から2得点できたということは狙い通りだったなと思っています。
――30分頃に慶大の交代があってから流れが相手に傾いたと思います。何かピッチ上で変化はありましたか
僕の方(サイド)は特に感じなかったです。ケイオーがボールを持つ時間が増えて、自分たちは(早大陣内にボールを)入れさせて取るというのを狙っていたんですけどそれができなくて、ボールを動かし始めた相手のペースになってしまったのかなと思います。
――その後は押される時間が続きましたが、振り返っていかがですか
なかなか自分たちにいい流れが来なかったので、相当苦しい時間でした。GKのコジくんだったり、途中から入ってきたモモとかを中心に最後まで守れたということは大きかったです。何回かカウンターで少ないチャンスができていたんですけど、そういうところで点を取り切らないといけなかったなと思います。
――次戦明治学院大戦に向け、一言お願いします
次勝って全国大会(出場)を決めたいと思いますし、次が本当の勝負だと思うので、また頑張りたいと思います。