『サッカーは何が起きるか分からない』——。サッカーファンなら誰もが耳にしたことがある、ともすれば陳腐な表現と見なされてしまうこの言葉以外に、この試合を形容できるものがあるだろうか。関東大学リーグ戦(リーグ戦)第6節、前期リーグ戦も折り返し地点に到達したこの日は、2連勝中と波に乗る東京国際大と対戦した。前節の駒大戦(●0-2)での敗戦で、開幕からの連勝が4で止まった早大。首位争いから後退しないためにも、連敗だけは絶対に避けたい正念場だったが、後半開始早々に立て続けに失点し2点のビハインドを背負ってしまう。刻一刻と時計の針は進み、迎えたアディショナルタイム。セットプレーからFW武田太一(スポ3=ガンバ大阪ユース)が反撃ののろしを上げる追撃弾を決めると、その直後には途中出場のMF藤沢和也(商3=東京・早実)が起死回生の同点弾をたたき込む。ラスト2分で起こした奇跡の同点劇で勝ち点1を拾い、他会場の結果を受けて首位に再浮上した。
外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)はこの試合で、今季初めて3バックを採用。推進力のあるFW町田ブライト(4年)を抑えると同時に、カウンターのチャンスをうかがう布陣で試合に臨んだ。開始早々の5分、早大が最初のチャンスをつくる。この日がデビュー戦となったMF田中雄大(スポ1=神奈川・桐光学園)が、MF相馬勇紀(スポ4=三菱養和SCユース)から左サイドでパスを受けると、中へ切れ込みクロス。惜しくも中には合わなかったものの、ルーキーが高い能力を見せつけた。その後も田中が卓越したパスセンスでチャンスを演出するも、シュートがポストに嫌われるなどしてゴールを奪えない。また、相馬がこれまでの5試合と異なり低い位置でのプレーを強いられたため、前半は普段のような鋭いドリブル突破が鳴りを潜めた。東京国際大も町田が囮となって、FW浅利航大(4年)を中心にミドルシュートで早大ゴールを攻め立てるが、いずれも枠を捉えきれず。結局互いに得点を奪えないままスコアレスで試合を折り返した。
公式戦初出場を果たし、中盤で効果的な配球をした田中
「後半最初の10分間は我慢して、ゲームをコントロールしよう」(外池監督)と指示を出されてピッチに送り出されたエンジイレブン。しかしその目論見とは裏腹に、後半開始早々東京国際大に先制点を奪われてしまう。49分、セカンドボールを相手に拾われ、中央の浅利にボールが渡ると、倒れこみながら左足でシュート。GK小島亨介(スポ4=名古屋グランパスU18)の手をかすめ、ボールはゴールネットを揺らした。さらにその2分後には、MF石田勇大(4年)にミドルシュートを打たれ、ディフレクトしたボールが転々とゴールマウスに転がっていく。不運なかたちで失点し、あっという間に2点差をつけられてしまった。重苦しい状況を打破すべく、外池監督は55分に2枚替えを敢行。DF冨田康平(スポ4=埼玉・市浦和)と藤沢をピッチに送り込み、フォーメーションを今季のベースのひとつである4-1-4-1に戻した。これにより、低い位置でのプレーを強いられていた相馬が高い位置を保てるようになる。左サイドを幾度となく突破し、攻撃が活性化。ようやく早大が息を吹き返し、主導権を握り始めた。78分、左サイドをえぐった相馬がマイナス気味のグラウンダークロスを供給。中央のFW岡田優希主将(スポ4=川崎フロンターレU18)が合わせたが、ミートしきれずGKに阻まれた。82分にはアーリークロスを武田が落とし、岡田がシュートを狙うも枠の上へ。89分にも岡田にビッグチャンスが生まれたが、またもやGKに阻まれてしまう。得点が奪えないまま時計の針は90分を指し、第4の審判員が掲げたアディショナルタイムは4分。2点差を追い付くには十分とは言えず、敗色が濃厚となったが、ピッチに立つエンジイレブンは誰一人として諦めていなかった。90+4分、左サイドのCKを得ると、相馬が精度の高いボールをゴール前に供給。これに武田が合わせ、ついにゴールネットを揺らす。同点ゴールへの期待が一気に高まり、色めき立つ早大ベンチとスタンド。そして90+5分、奇跡の瞬間が訪れる。相馬が左サイドからクロスを上げると、待ち構えていたのは途中出場の藤沢。高い打点で合わせ、ゴールにたたき込んだ。値千金、起死回生の同点弾に喜びを爆発させるエンジイレブンたち。最後の2分間で2点を取り返し、価値のある勝ち点1を手に入れた。
同点弾をたたき出し喜ぶ藤沢(奥)とアシストの相馬
「勝ち点を取った実感はないです」(外池監督)。後半開始早々に2点のビハインドを負い、アディショナルタイムに突入するまで無得点。連敗を覚悟せざるを得ない、非常に苦しい展開であったことは間違いない。機能不全に陥りかけた中、後半途中の修正が奏功して負け試合をなんとか引き分けに持ち込んだ。しかし勝ち点0を1にしたことで、再び順位表の一番上に躍り出ることに成功。流れが悪い中しっかり修正し、最低限の結果を持ち帰ることができたのは大いに評価できることだ。指揮官は「長いリーグ戦を考えた時に、追い付いたことよりもたくましさを出してくれたことが大きい」と語った。課題も収穫も多く得られた東京国際大戦。この奇跡的な同点劇を無駄にしないためにも、次戦の法大戦で、さらにスケールアップしたエンジイレブンの姿を見せることが求められる。
スターティングイレブン
(記事 森迫雄介、写真 大山遼佳、守屋郁宏)
JR東日本カップ2018 第92回関東大学リーグ戦 第6節 | ||||
---|---|---|---|---|
早大 | 2 | 0-0 2-2 |
2 | 東京国際大 |
【得点】 (早大)90+4’武田 太一、90+5’藤沢 和也 (東京国際大)49’浅利 航大、51’石田 勇大 |
早大メンバー | ||||
---|---|---|---|---|
ポジション | 背番号 | 名前 | 学部学年 | 前所属 |
GK | 1 | 小島 亨介 | スポ4 | 名古屋グランパスU18 |
DF | 5 | 杉山 耕二 | スポ2 | 三菱養和SCユース |
DF | 3 | 大桃 海斗 | スポ3 | 新潟・帝京長岡 |
DF | 22 | 坂本 寛之 | スポ2 | 横浜F・マリノスユース |
→55分 | 6 | 冨田 康平 | スポ4 | 埼玉・市浦和 |
MF | 4 | 鍬先 祐弥 | スポ2 | 東福岡 |
MF | 20 | 牧野 潤 | スポ3 | JFAアカデミー福島 |
MF | 38 | 田中 雄大 | スポ1 | 神奈川・桐光学園 |
→55分 | 14 | 藤沢 和也 | 商3 | 東京・早実 |
MF | 11 | 相馬 勇紀 | スポ4 | 三菱養和SCユース |
FW | 7 | 金田 拓海 | 社3 | ヴィッセル神戸U18 |
→68分 | 8 | 栗島 健太 | 社3 | 千葉・流通経大柏 |
FW | 9 | 武田 太一 | スポ3 | ガンバ大阪ユース |
FW | ◎29 | 岡田 優希 | スポ4 | 川崎フロンターレU18 |
◎=ゲームキャプテン 監督:外池大亮(平9社卒=東京・早実) |
関東大学リーグ戦1部 順位表 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
順位 | 大学名 | 勝点 | 試合数 | 勝 | 分 | 負 | 得点 | 失点 | 得失差 |
1 | 早大 | 13 | 6 | 4 | 1 | 1 | 10 | 8 | +2 |
2 | 順大 | 12 | 6 | 4 | 0 | 2 | 16 | 7 | +9 |
3 | 駒大 | 12 | 6 | 4 | 0 | 2 | 14 | 7 | +7 |
4 | 明大 | 12 | 6 | 4 | 0 | 2 | 10 | 5 | +5 |
5 | 法大 | 10 | 6 | 3 | 1 | 2 | 9 | 8 | +1 |
6 | 専大 | 9 | 6 | 3 | 0 | 3 | 6 | 11 | -5 |
7 | 筑波大 | 8 | 6 | 2 | 2 | 2 | 9 | 10 | -1 |
8 | 東京国際大 | 8 | 6 | 2 | 2 | 2 | 7 | 10 | -3 |
9 | 流通経大 | 7 | 6 | 2 | 1 | 3 | 9 | 10 | -1 |
桐蔭横浜大 | 7 | 6 | 2 | 1 | 3 | 9 | 10 | -1 | |
11 | 東洋大 | 3 | 6 | 0 | 3 | 3 | 4 | 12 | -8 |
12 | 国士舘大 | 1 | 6 | 0 | 1 | 5 | 5 | 10 | -5 |
※第6節終了時点 |
関連記事
コメント
外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)
――今季初めて3バックでのスタートを選択した意図を教えてください
冨田(DF冨田康平、スポ4=埼玉・市浦和)がケガ明けだったり、栗島(MF栗島健太、社3=千葉・流通経大柏)が1週間練習できていなかったということがあったので、全体のバランスを考えてということと、できるだけ相手のサイドバックあたりの高い位置で相馬(MF相馬勇紀、スポ4=三菱養和SCユース)にボールを持たせるような状況をいっぱい作りたかったので、3バックにして、坂本(DF坂本寛之、スポ2=横浜F・マリノスユース)からのフィードにも期待をして、ああいうかたちにしました。
――3バックの並びは選手主導の発想だったんですか
相手の4-1-4-1に対してこういうかたちがいいんじゃないかということで、僕がちょっと提案をしました。町田くん(東京国際大FW町田ブライト、4年)はパワーがあって、向こうの攻撃があそこをベースにスタートするので、そこに対するチャレンジアンドカバーというところを厚めに考えました。まず3枚+アンカーでしっかり止めることができれば、相手の攻撃の初動は防げると思いましたし、そこで帰陣していけば(自分たちの速攻という)良さも生かしつつやれるかなということがありました。
――3バックで戦った後半途中までをどう評価しますか
前半は初出場した坂本が、町田くんの圧力もあって、なかなか良い部分を出せていなかったと思います。それでも少しずつ流れの中で修正してきていましたし、少しずつ相馬も高い位置を取れるようになってきていました。前半はどちらかというと堅い試合になってくるんだろうなと思っていましたし、少し攻撃の枚数が足りないというのは感じていましたけど、ハーフタイムには「まずは(後半の入りの)10分間は我慢して、ゲームをコントロールできれば、後はこちらから仕掛けられるよ」という話をして送り出しました。その中であの2失点だったので、少しアクシデント的な失点もありましたけど、駒澤戦と似たような連続失点でしたし、繰り返してしまったということで大きな課題だなと思います。
――失点後、悪いムードを払拭するように4バックに並びを戻しましたが
本当は勝負に出る時に4-1-4-1にしようと思っていました。『時すでに遅し』みたいな感じではありましたけど、もう一度立ち返ることがチームを起こすために必要かなと思ったので、初めて出た二人を代えました。本当はそこで栗島も含めて3人入れようとも思ったんですけど、まだ35分くらいあったので、栗島だけに関しては少し我慢しようかなと思いました。交代で出たメンバーは非常によくやってくれたと思います。
――連敗は逃れましたし、この勝ち点1がチームにもたらすものも大きいのでは
試合後のみんなの表情を見てもらえれば分かる(注・明るい空気ではなかった)と思いますし、僕自身も勝ち点を取ったという実感はあまりないです。でも今日は、いま大学スポーツがいろいろな意味であり方を問われている中で、「フェアプレーで真摯に最後まで戦おう。そういうものを最後まで見せるということを、大学でスポーツをやっている人間としては突き詰めていかないといけない。絶対に今日はそれをやり抜こう」という話を試合前にしていました。そういうところをみんながしっかりやり切って、(終盤も)パワープレーのようにかたちを崩すことなく、自分たちのサッカーをやりきったという意味では、出ていた選手たちのひたむきな姿がゴールに結びついたのかなというところはありますし、今日の試合で、関東1部でやれるなという良い意味での手応えをすごく感じました。選手を見極めていかないといけない中で、ベースになるたくましさという部分を、ビハインドの中でみんなが能動的に出したというのは、一つの基準になったと思います。長いリーグ戦を考えた時に、追いついたということよりも、たくましさを感じたという意味での手応えがあるので、これをこの後の法政、順天との連戦につなげていきたいなと思います。
MF藤沢和也(商3=東京・早実)
――同点ゴールおめでとうございます。振り返っていかがでしたか
やっと関東リーグで得点することができたことと、チームが負けているときに同点ゴールを決めることができたことがうれしかったです。
――途中出場の際、監督から何か指示などはありましたか
もともと4-1-4-1の右で出るから準備をしておくように言われていて、出たら流れを変えられるように意識してプレーしました。
――リーグ戦ではなかなか決め切れない試合も多かったと思いますが
相馬くんや色々な人からいいパスをもらっていたのに決め切れていなかったので、今日はやっと決めることができて、自分でもホッとしています。
――同点ゴール直前に惜しい場面もありましたが
後からも確認したんですけど、ああいうシーンはよくあるので、しっかり振り返って次は決められるようにしたいです。
FW武田太一(スポ3=ガンバ大阪ユース)
――スタートの布陣がいつもとかなり異なっていましたが、センターフォワードとして何か指示はありましたか
相手の攻撃が町田ブライト選手に当てて速いショートカウンターというかたちだったので、その対策としてのポジショニングでした。なので自分的にはいつもと同じ1トップとして、シャドーの人数が多い分攻撃に厚みを持たせられるかなという感じで。いつも通りのプレー以外は特に意識してませんでした。
――それでも3バックの布陣の間は攻撃がうまく回りませんでしたが、最前線から見ていて何か感じたりはしましたか
サイドに相馬くん(勇紀、スポ4=三菱養和SCユース)と牧野(潤、スポ3=JFAアカデミー福島)がいたんですけど、3バックだとどちらか1人が落ちるかたちになるので、相馬くんがあまり前に出れない状況が続いていたから攻撃に厚みがなかったですね。後半はポジションを変えて、攻撃が機能し始めたかなと思います。
――今お話しされたように、4バックに戻してから攻撃のかたちができるようになりましたが、相馬選手などが高い位置を保てるようになったのが要因になりますか
そうですね。高い位置を保ってくれたのがよかったです。ハーフタイムにもみんなでどうするかを話し合って、最初の10分は3バックでやってみて、途中から外池監督をはじめとするみんなでポジションを変えてプレーしました。
――反撃ののろしを上げたあのゴールを振り返ってください
あれはもう、中に放り込んでくると思ったので、GKに競らせない位置に入って自分のポジションを取って、(DFに)挟まれましたけど先に触れるなと。まあクロスが良かったので触るだけかなと思っていました。
――後半は多くの攻撃の起点になっていましたが、なにか変えたことはありますか
いつもやらなければダメなんですけど、声を出す部分とか、やっぱり2点を先に取られて全体的に気持ちが落ちてるかなと思ったんで、自分からどんどん声出してチームの流れを変えようと意識しました。
――10日ほど空いて法大戦を迎えます。きょう出たチームの課題をどのように修正していきたいですか
相手の攻撃に合わせたポジショニングが機能しない時に、いかに自分たちの中で修正できるかが大事になってくると思うので、試合の中で全員で声かけてやっていきたいと思います。