【連載】関東大学リーグ戦開幕前特集『変革』 第1回 外池大亮監督

ア式蹴球男子

 8年間チームを率いた古賀聡前監督(平4教卒=現名古屋グランパスU18監督)からのバトンを受け取り、今季から母校の監督に就任した外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)。現役引退以降、企業人として10年間を過ごし、今回の監督業もスカパーJSAT株式会社との兼務という異色の新指揮官は、チームにどんな変化をもたらしているのだろうか。その決意をうかがうとともに、新体制始動からの2カ月間を振り返っていただいた。

※この取材は3月20日に行われたものです

2月に行われた総会・納会で就任のあいさつをする外池監督

――監督就任に至った経緯を教えてください
一昨年に(関東大学リーグ戦で)2部に降格した中で、恐らくOB会としては何かを変えていかなくちゃいけないというのがあって、1年かけて次はどういう監督がやるべきなのかという話があったんだと思います。選手を目指さなくても、大学でサッカーをやる意味はいっぱいあるし、Jクラブができない大学ならではの取り組みをすることで、よりいろいろな学生たちを巻き込んで、ワセダにあるいろんなエネルギーを集約して人材を輩出していくということが必要なんじゃないかなと。それは僕も思っていたし、世の中的にも求められてきていることだと思います。今までは(早大の監督は)サッカーのエキスパートの人たちがやってきたと思うんですけど、僕みたいに、選手をやってそのあと社会人経験を積んで、かつサッカーの業界を広く分かっている人がやる方がいいんじゃないかということで、声がかかったのではないかと思っています。

――もともと監督業に興味はお持ちだったのですか
僕はもともと大学生の頃から指導者的なことはずっとやっていました。ほとんどの子にはサッカーでトップを目指すことを諦めるタイミングが来る中で、指導者はどうあるべきかなとずっと考えていたんですけど、結局サッカー選手だった人が指導者になっても、それは(サッカーで)生き残る術を伝えることはできるかもしれないけど、その先どう生きるかみたいなことは伝えられないんじゃないかなと。サッカーと社会をどう結び付けるかということへの知見はサッカー選手に足りていないなと思っていたので、まずは世の中にサッカーがどうあるのかを知っていかないと、育成に関わることは難しいんじゃないかと思っていました。だいたいサッカーで成功したといわれる選手たちはサッカー界に残るんですけど、(プロ生活を)11年やらせてもらった僕みたいな人間が外に出ていくことがサッカー界にとってプラスになると思ったので、まずはそういう世界に足を踏み入れて、自分を磨くということが必要だなと思っていました。もともとそういう(サッカー界とは違う)世界に興味があったということもあるんですけど、全く違う世界に行こうと思っていたわけではなくて、サッカーの周りでいろんな業界が、いかにサッカーというコンテンツを扱うかということでサッカー界が大きくなってきたと思うので、その広がりに身を置くことがサッカー界を見渡すうえで非常にいいポジションだなとは思いましたね。

――早大の監督就任のオファーを受けた際に迷いはなかったですか
(株式会社)電通で5年、スカパー(JSAT株式会社)で5年が経って、(企業人として)ちょうど10年だったので、「すごく良いタイミングだな」と思いました。自分としてもマネジメントというところに非常に興味があって、現場でプレーヤーとしていろいろ動くことはずっとやってきたし、その楽しさもわかっていたんですけど、それをどう束ねていくかとか、そういうことに早めにチャレンジしたいなという思いがありました。その中で、大学の監督という話は非常に魅力的でした。

――監督として選手たちを指導する上で、大事にしていきたい部分はどういうところでしょうか
人間性なんですけど、どちらかというと社会性という感じですね。サッカー界的に、大学がJリーグに上がれなかった選手の受け皿みたいな、4年間の猶予みたいな感じになってしまっていて、だから僕らの時と比べて、大学のサッカー部に専門学校のような感じが少しあると思うんです。大学に行くほうが楽しいし、自分の人生を考えた上で有益で、社会との接合をよりイメージして体感できるみたいなポジションであるべきなのに、学生という枠組みにとらわれているなとすごく思っていました。なので、より社会性を持った学生たちをつくる、それはイコールJリーグですぐに通用する選手をつくるなのかもしれないし、ワセダというくくりだけではなくて、大学サッカーという業界がもっといろんな発信をもって世の中と接点をつくっていくことが結構重要だなと思っていたし、それをけん引するのはワセダだったりケイオーなんじゃないかなと思っています。

――就任後、まず部の理念を見直したとのことですが、詳しく教えてください
僕がワセダに入った理由が、ラグビーで1987年(昭62)にワセダが東芝府中(東芝府中ブレイブルーパス/※当時)に勝って、日本選手権で優勝したという試合を見て、めちゃくちゃかっこいいなと思ったことなんです。大学生が社会人をリードしてトップにいるということで、どんなマインドを持ったらそういうエネルギーを持つことができるのかなと思って、情緒的にすごくいいなと思いました。その時から時代は重ねているけど、少なくともそういう意識で学生たちにはいてほしいなとは思っていて、今のア式蹴球部のメンバーはどうなのと新4年生と話しました。「『ワセダ・ザ・ファースト』みたいなことは僕らの頃からも言い続けているけど、本当にそれでいいのか、サッカー界で1番になるというのは天皇杯で優勝するということなのでちょっと非現実的だし、人間として1番と言っても、学生の枠にとらわれていて、目の前に社会が迫ってきているのに、学生として1番ってなんか小さくないか」と。そもそもみんな腹落ちしてないんじゃないかなとずっと思っていて、言ってる方にも責任があると思っていたし、受け入れてる方にも問題があるなと思ったから、ちょっと考え直さないかという話をしたんです。で、4年生が出してきたのが、『日本をリードする存在になりたい』でした。「俺もそういうことだと思う」という話をして、そうしたんです。修正する必要がなかったことはすごくうれしかったし、「本当はそう思ってるんじゃん」と思いました。

――チーム始動から約2カ月が経ちますが、振り返っていかがですか
意外とうまくいっているかなという感じはします。ある程度サッカーで落とし込むというか、ビジョンとか自分たちの心構えみたいなものを整理したことで、個性を出しやすい環境になったと思うんです。全員と面談して、「何をやりたいの」とか「何を目指したいの」とか、そういうことを話す機会もつくったので、それぞれの良さをピッチ上に落とし込むというかたちにしています。コンディションが上がってくるとともにそれが見えてきて、チームとしての方向性にもなってきているので、良い意味で自分に対しての責任が持てるチームになってきたんじゃないかなと思いますね。

――競技におけるコンセプトに『ドライブ』という言葉を掲げていますが、どういった意味があるのですか
ドライブという言葉はラグビーの用語で、僕が提案したんです。監督とは、みたいな部分も参考にしたいなと思って、1987年の時に試合に出ていた清宮さんとたまたまお会いする機会があって話を聞いた時に、タックルして、相手の足を持って前にズルズルと進めるドライブというプレーがあるんだと。なんかもどかしいけど、それでいて堅実というような、そういうボールを少しずつ前に進めるプレーが、全体を通した時に意外と貢献度が高いプレーなんだという話があって、それすごく良い言葉だなと思ったんです。サッカー用語でドライブと言うと、ディフェンスラインが持ち上がってボールを前に進めることを言うんです。そことかけあわせた『ドライブ』だよという話は、みんなにゼロから説明しました。泥くさく謙虚に最後まで戦い抜くというマインドで、苦しいときこそ相手に陣地に侵入していくという『前へ』ということと、個をしっかり磨いて伸ばしていくことでチームを推進していくという意味の『前へ』ということで、『前』という要素をプレーとか姿勢に落とし込もうということです。簡単にボールを戻したりやり直したりということは当然あるんですけど、そんな中でも必ずいつも前を狙っていくとか、前に運べるようなポジションをとっていくとか、今サッカー界でいろいろ(戦い方などが)均一化されていく中で、いかに自分たちは前というのを意識していくかということが勝利とかゴールに近付くということに結びつくんじゃないかなということで、そういう言葉を使いました。

――今までのワセダも前への意識は高く持った戦い方を志向していたように思いますが、どういう部分に変化があるのですか
今まではダイレクトプレー的な、ゴールに直結したプレーみたいな話だと思うんですけど、前に蹴っておけばいいとかそういうことではなくて、たとえば対面の相手にぶつかってでも、いかに自分たちの持っているものを最大限に発揮しながら前に進めるかということです。プレッシャーがあって苦しい時にただ蹴ってしまうのではなくて、そういう時でも前に進めていけるような心意気を持っていこうと。蹴るサッカーで優勝することができたとしても、それは大学生の中でしか優勝できないと思うんです。そこで下げたり逃げて蹴ったりする選手というのは、少なくともサッカーで日本をリードする存在になれないんじゃないかなということです。『日本をリードする存在になる』という上位概念の中に『ドライブ』があるので、学生たちには常々そういう話はしていきたいなと思っています。

――今後メンバーを選ぶ作業が出てくると思いますが、どういったことを選手に求めますか
基準は特に無いんですけど、情報をしっかり管理しようという話をしています。これはサッカー以外の話も含めてなんですけど、情報を何の目的でどう扱っていくのかということは必要な能力であり技術だと思うんです。たとえば、僕らスタッフとの会話の中から得る情報もあるし、世の中的にサッカーってこうだよねっていう情報もあるし、きょうのこの試合はこうだよねという情報もあるし、試合中のある瞬間に、あいつがここにいるとか、ボールがここにあるとか、そういう情報もあると思います。そういう情報を自分たちで取り扱って共有しあえるという関係が、チームとして一番良い状態だと思うので、そういったところを高めていこうねと。それはコミュニケーションの質も関わってくると思うんですけど、言われた選手に行動変容がなければ、ただ言ったというだけで終わってしまうので、行動を促す、行動に変えられる、さらに行動としてつながれる、フォローできるというような関係をつくろうという話をして、そこまでコミュニケーションをつくれるかというのも一つの能力だと思うし、遠くにボールが蹴れるとか、すごいシュートを打てるとか、ドリブルができるとか、そういう能力も当然見ますけど、考え方を整理できていれば誰もができることをひとつの評価軸には示しているかなと思います。そこくらいしか無いです。

――チーム内競争をどのように見ていますか
当然、どの学年みたいなことは全然ないです。4年生は頼りにされるべく、そういうプレーとか姿勢を見せてくれていて、ありがたいなと思いますし、そのぶん3年生とか2年生とか1年生は非常にのびのびとやってくれているなと思います。かつ、自分たちもそうなっていきたいという思いも感じるので、そこはすごく良い循環ができているなと思います。どの選手が出てどの強みをどのくらい引き出せるかということこそがチーム力だと思うので、そういったことをより突き詰めていくという部分になってくると思います。当然今持っている能力の差はそれぞれありますけど、その差は競争で、お互いをリスペクトしながら磨いていくようなそういう関係にはしたいなと思うので、そういった働きかけをしていくということです。メンバーを決めるとかは特別なことではなくて、毎日練習を見ていればわかってくるものだと思っているので、あまりそこに関してはこだわりがあるわけではないです。

早関定期戦の試合後、声援に応える外池監督

――監督自身も初挑戦のシーズンですし、多くの選手にとっても1部リーグの舞台は初挑戦です。どんなシーズンになると思いますか
きょう(※3月20日)も、ミーティングでキャプテンの岡田が「危機感を持たなきゃダメだ」と言っていましたけど、未知なるところへチャレンジしていくということで、僕もそういう緊張感はすごく大事なことだと思います。ただ、そこで縮こまらないようにしていくことも大事かなと思うので、そのためには自分たちの良さをどんどん築いていって、そういう場でチャレンジしたいというような状況に持っていくということです。そのバランスが非常に重要だと思いますし、そういったものを共存させた時に一番いいパフォーマンスが待っているんじゃないかと思います。

――1部リーグのライバルチームに関してはどう見ていますか
当然分析はしていくんですけど、関西のチームと練習試合だったり、遠征をやってきていても、今のところそんなに差はないかなと思っているし、勝算は全然あるなと思っています。ただ、そのためには分析も含めて自分たちがやりたいことを突き詰めていけるかということにかかっていると思うので、やっぱり危機感や飢餓感が共存してくれば、良い精神状態でシーズンに入っていけるのかなと思いますけどね。

――改めて目標を教えてください
目標はタイトル奪還です。関東大学リーグ1部は大学サッカー界の中で最高峰のリーグと呼ばれている中で、今までの歴史伝統はありつつも、もう一度チャレンジャーとして、いかにタイトルを奪い返しに行くかということだと思います。あとは、ア式蹴球部として注目度を高めていくということで、自分たちが強いとか勝っただけではなくて、その業界を見渡して、それを少しでも良くしていったり、価値を自分たちがつくっていっている実感を持つことはすごく大事だと思っています。そのためには、ワセダが大学サッカーをけん引していく、かつもっと知ってもらったり、注目を浴びたりするような発信を絶やさないということを意識することで、それは自分たちのモチベーションにもなっていくだろうし、まずは取り組んでいることに存在意義をしっかり持って、それを伝えたり共感されるようにしていくことだと思います。僕はそれが日本のサッカーにあるちょっとした閉塞感みたいなものを取り壊していくんじゃないかという気がしていて、すごく楽しみですけどね。

――監督からは「わくわくしている」「楽しい」などポジティブな言葉が印象的です
それがなかったらやる意味ないし、(学生たちも)もっと楽しくやればいいのになと思います。島原遠征でも、最後の2日間(4試合)で勝ち点10とったら2日間オフねみたいな約束をしていて。で、結構みんなネガティブから入っていたんですけど、最後の1試合は引き分けでもOKという状況になって、その時に0-0から1点とったらすごくみんなで喜んでいたんです。その姿を見て、「みんなそういうふうにやりたかったんじゃん」と改めて感じました。たかだか2日間オフというだけでそんなにできるんだったら、もっと自分たちが喜びを持てる場面はいくらでもあると思うし、そういう自分たちのやっていることに楽しんでる姿は、僕らが見ても楽しませてもらっていますね。

――理想の監督像はありますか
まずは楽しみたいし、一緒に成長していきたいですね。理想像は学生と一緒に成長できる監督だと思います。僕はあまり指導者という自覚がないぶん、他のサッカーにおける指導者の人たちを見ていて思うのは、何か伝えている側になってしまっていると思うんです。新しいスタッフの人たちにも言ったんですけど、自分たちも(選手に)見られていますよと。それは自分たちが何を目指しているかとか、どう生きているかとかが結構重要なんじゃないかなと思っていて、僕もスカパーという会社と兼務で監督業をやらせてもらっていますけど、あえてそういうかたちをとったのは、今の学生たちがそういうものを必要としていると思うからです。そういう生き方の提案という意味でも、スカパーでの仕事をしながらやっていくということに意味があるし、それが自分らしいチャレンジだと思っています。

――ア式蹴球部を応援している皆さんに向け、メッセージをお願いします
早関定期戦や島原でもそうだったんですけど、ULTRAS WASEDAの皆さんをはじめとした、ア式蹴球部とともに戦ってくれるメンバーがいることに感謝しているし、そういう人たちとともに成長していくという形が取れるのはすごくありがたいなと思います。大学スポーツがもっと元気とパワーを発信できるようにしていきたいし、そういう取り組みをやっていきたいと思っているので、ぜひその活動や試合を見てもらって、一緒になって楽しんでもらいたいなと思います。

――ありがとうございました!


◆外池大亮(とのいけ・だいすけ)

1975年(昭50)1月29日生まれ。東京・早実高出身。1997年(平9)社会科学部卒。大学時代は、4年時に関東大学リーグ戦で優勝を経験。卒業後、ベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)に入団。Jリーグでは11年間プレーをし、計6クラブで活躍した。2018年(平30)より、早大ア式蹴球部監督。


(取材 守屋郁宏)