GK小島亨介がU−20W杯に向けた意気込みを語る

ア式蹴球男子
 

 5月5日、強い日差しが照りつける早大東伏見グラウンド。チームメイトたちがゲーム形式の練習に取り組む中、GK小島亨介(スポ3=名古屋グランパスU−18)は黙々とランニングを続けていた。FIFA・U-20ワールドカップ2017韓国大会(U-20W杯)をおよそ2週間後に控え、小島は左足首捻挫からの復帰を目指すさなかにあった。世界に挑むエンジの守護神は、どのような心境で大会に向けた準備を進めているのか。この日の練習後、大会に向けた意気込みはもちろん、ア式蹴球部を選んだ理由や日々意識して取り組んでいることについても語ってくれた。なお、記事後半には15日に静岡・エコパスタジアムにて行われた強化試合(対U−20ホンジュラス代表)後の小島選手のコメントも掲載しています。

 

※この取材は5月5日と15日に行われたものです。

「ワクワクしかない」

先発した15日の強化試合では久々の公式戦出場となった

――代表選出おめでとうございます

小島 ありがとうございます。

――メンバーに選ばれたのを知ったのはいつですか

小島 公式発表(5月2日)の2時間前くらいに監督(内山篤監督)に会って、そのときに言われて知りました。

――そのときの気持ちを教えてください

小島 率直にうれしい気持ちでした。あとは、自分自身まだ世界大会に出た経験がないというのがあって、U−17代表のときもW杯はあったんですけど、自分はメンバーに入れずに悔しい思いをしたので、今回は世界の舞台でやってやろうという気持ちが強いです。

 

――ご自身初のW杯まで残り2週間ほどとなっていますが、現在の心境はいかがですか

小島 ワクワクしかないですね。自分の力が世界を相手に、しかもあれだけ緊張感のある試合の中でどれだけ通用するのか楽しみです。

――グループリーグでは南アフリカ、ウルグアイ、イタリアと対戦します。この3チームに対する印象はいかがですか

小島 全く違うスタイルの3チームだなと感じていて、南アフリカはフィジカルが一人ひとり強くて、スピードもある選手が揃っていると思います。ウルグアイは南米特有の個の力があると思うので、どういったかたちで守ってその個の差を縮められるかが重要だと思います。イタリアは間違いなく守備の堅いチームで、どうやって攻めてそれを崩していくかが重要ですし、そういったことがチームとしてどれくらいできるかというのは楽しみな部分でもあります。

 

――すでにセリエA(イタリア1部リーグ)などで活躍している選手とも対戦することになります

小島 そういった選手たちと直接対戦することで、ヨーロッパのトップレベルがどういったものなのかを知れると思いますし、自分が今どのレベルにあるのかを把握できる大会でもあると思うので、世界のレベルをしっかり体感してきたいと思います。

 

――昨年10月のAFC・U-19選手権(アジア選手権)では全試合を無失点で抑え、日本サッカー史上初の大会制覇を果たしました。小島選手は6試合中5試合に先発出場しましたが、改めてあの大会を振り返っていかがですか

小島 自分自身の中では大会を通じて大きな緊張感がありました。特に初戦(対イエメン:◯3−0)は自分も含め全員が固くなった状態で試合に入ってしまって、前半が終わった時点で「これからチームとしてうまく流れに乗っていけるのかな」と、みんながそう感じていたと思います。ただ、後半1点入ったことでみんな力が抜けてリラックスできたというか、いつも通りのプレーができるようになりましたし、そこから優勝までチームとして流れに乗ることができたなと感じています。無失点で終えられたことに関しては、実際みんなそんなに意識していることではなくて、自分たちが掲げている守備のコンセプトをしっかり共有できたことが結果として無失点につながったと思っています。

――その守備コンセプトについて具体的に教えてください

小島 (4−4−2の)スリーラインをコンパクトに保つというのはすごく大事にしていることで、FW、MF、DFそれぞれのラインの距離感を縮めることで相手にスペースと時間を与えないというのを一人ひとりが意識してプレーするように、チームとして心がけています。

 

――決勝のサウジアラビア戦(◯0-0:PK5-3)では、完全アウェイの中でPK戦までもつれました

小島 あのPK戦のことは今も鮮明に覚えていますね。頭が真っ白になったりとかは全然なくて、逆にすごく集中できましたし、とにかく1本止めてやろうという気持ちが強かったです。結果的に1本止めたというか、相手が外してくれたんですけど、あそこで我慢強くメンタルを保つことができたのは、今後に向けてもよかったなと思います。

――決勝は最も苦戦した試合でもあったかと思います

小島 正直あの大会でやったチームの中では一番強かったですね。内山監督も「サウジに関しては格上だった」と試合後に言っていましたし、個の力の差というのは、自分も含めみんなが痛感したことだと思うので、W杯に臨むにあたって全員がより一層『個の力』への意識を強く持つようになっていると思います。

「ア式には人間的に成長できる環境がある」

強化試合前に練習をする小島

 

――トライアングルを組むCBの中山雄太選手(柏レイソル)と冨安健洋選手(アビスパ福岡)はともにJリーグでも主力として活躍していますが、この二人とのプレーに関してはいかがですか

小島 あの二人のことは本当に信頼しています。特に自分のほうからプレーに関して心配していることはないですし、どちらかといえば3人それぞれが任せるところは任せて、その中で自分の強みを出していくことに集中するようにしています。なので試合中変に気を使ったりとかはないですし、自分のプレーをいつも通りやるというところは3人とも意識できているので、それが連携面でもいい関係性につながっていると思います。

――中山選手や冨安選手だけでなく、小島選手以外すべての選手がJリーグまたは海外のクラブでプレーしています。21人の中で大学生からの選出は小島選手のみですが、それに関してはいかがですか

小島 皆さんからも『学生』という目で見られているということは当然感じています。でも、代表チームに入った以上は自分も他の選手と同じ『代表選手』ですし、大学生とプロの違いはもちろん色々な面でありますけど、同じピッチでプレーする以上は他の選手と何も変わらないと思っています。

――自分だけが大学生だからといって気になるようなことはないということですね

小島 ないですね。監督が求めていることを常に意識して取り組んでいくのが大事なことだと思っていますし、チームメイトと同じ方向を向いて進んでいければカテゴリーの違いは関係ないと思います。

――チームメイトから学生生活に関して聞かれたりすることはありますか

小島 それはありますね。そういうときは、「普通に大学に行って、終わったらサッカーやってるよ」という感じで答えます(笑)。プロは大学に行っていない時間もありますし、当然サッカーに打ち込める時間が長いので、そこは羨ましいなと思うこともあります。でも、大学がある中で効率良く時間を使っていくというのが自分にとっては大事なことだと思っていますし、そういった意味でも充実した生活を送れていると思います。

――高校を卒業するにあたって、様々な進路が選択肢としてあったと思います。その中から早大ア式蹴球部を選んだ理由を教えてください

小島 まずはグランパスのトップチームに上がるというのが一番の目標としてあったんですけど、それが難しいというのがわかって、その瞬間から自分の中ではプロの他のチームに行くというのは選択肢としてありませんでした。それ以上に大学で4年間勝負したいという気持ちがあって、その中で色々な大学から声をかけていただきました。ア式の練習に初めて参加したときに、人間性の部分というか、ひたむきにサッカーに取り組む姿勢であったり、チームのために頑張る姿勢であったり、自分の成長だけではなくて、チームメイトにも成長を促していく、人間性を育む環境があると感じました。そういう環境は自分にとって今まで経験したことのない環境で、自分にとっても人間性は足りないものだと実感していましたし、そこを高めることによってプレーの幅も広げていける、人間的にも成長できると感じたので、ア式に決めました。

――大学で4年間勝負すると決めたときの周囲からの反応はいかがでしたか

小島 周囲からは「大学に行ったほうがいい」というアドバイスを多くもらいました。自分もそう思っていましたし、迷わず決断することができましたね。

――先ほども少し触れていただきましたが、ア式が他の大学と違う部分はどこにあると思いますか

小島 間違いなく一人ひとりの器の大きさ、人間性の部分だと思います。他大学と比べてもそこは圧倒していると思いますし、これからもそういった面をピッチ内外問わず発揮できる存在であり続けていきたいと思っています。

 

――古賀聡監督(平4教卒=東京・早実)はどのような存在ですか

小島 自分たちからしたら、もうほんとに偉大の一言ですよね。常にチームをよくするための色々なアドバイスをくれますし、逆に自分たちからも監督に色々提案するようにしています。特にことしは監督と自分たちの意見交換が今まで以上にできていると思いますし、チームとしての考えもうまくまとまってきていると感じています。

――小島選手も様々な指導者のもとでプレーしてきたかと思いますが、古賀監督のようなタイプの指揮官に会った経験はありますか

小島 会ったことないですね。自分が今までに教わってきた監督は、選手たちにとって身近な存在といった感じの方が多かったんですけど、古賀監督の場合はそれ以上に本当に偉大な存在という感じで、例えば練習中もボールを拾いに行ったりだとか、Aチームだけではなくて、BチームやCチームの練習も見に来てくれたりだとか、そういう人間的な部分を自分たちも見習っていく必要が有ると思っていますし、本当に監督あってこそのア式蹴球部だと思っています。そこが自分たちア式の良さでもあると思いますし、もっともっと監督と選手が一体になっていいチームに成長していきたいです。

――監督からは代表選出が決まって何か言葉をかけられましたか

小島 「おめでとう」ぐらいですかね。それに関してはあんまり話してないですね(笑)。

――チームメイトの皆さんからは

小島 発表があってからすぐにLINEとかでも「おめでとう」と言ってもらいました。

 

――4年生にGKがいないということもあり、小島選手がチームのGK陣を引っ張っていく存在にあるかと思います

小島 そうですね。役職としても『GKグラウンドマネージャー』というのに就いていますし、自分の成長だけではなくて他のGKの成長も促していくというのが自分の役割になっています。例えば今はけがをしてBチームで練習していますけど、Bの選手たちにも自分が教えたりすることで、本人たちの意識が変わって、GK全体として良くなってきている部分もあると思うので、そういうことは継続して自分がやっていかなければならないと感じています。やっぱりそれを続けることで、チームの中でのGKの基準も上がってきますし、基準が上がれば今出ている笠原(駿之介、法2=埼玉・早大本庄)たちのレベルアップ、下からの底上げというところにつながってくると思うので、もっとGK同士で競争意識を持ってやっていけるようにしたいです。

――グラウンドマネージャーといった役割があるのも部活ならではと言えるかもしれませんね

小島 そうですね。今までのユースとかでもそういった役割は経験していないですし、チームメイトの成長に働きかけるというようなこともなかなかできなかったことなので。ア式に来てから役職の重要性や責任の重さは実感していますね。

「恩返しできるよう頑張りたい」

強化試合時の集合写真

 

――現在のけがの状態について教えてください

小島 けがに関しては結構よくなってきていて、あとは練習の中でどんどんコンディションを上げていくしかないという感じですね。もちろん、試合勘に関しては難しい部分もありますけど、そこも練習の中で補えるように意識してやっていきたいと思います。

 

――5月11日から始まる強化合宿ではどういった取り組みをしていきたいですか

小島 自分自身のコンディションを上げるのもそうですけど、ピッチ内外で他の選手とのコミュニケーションをもっと深めていく必要があると思っていて、そこは大会までに意識して取り組んでいきたいです。

――ご自身の持ち味に関してはどういったところにあると思っていますか

小島 やっぱりシュートストップですね。一対一とか、そういう決定的なシュートを止められるのが自分の強みであり長所でもあると思っています。

――日本のチームと海外のチームとではどういった部分に違いを感じますか

小島 プレースピードが違うなっていうのはずっと感じていて、フィジカル的なスピードももちろんそうですけど、ボールを展開するスピードもすごく速いなと。判断も含めてボールに関わるスピードも速いですし、ワンプレーに関わってくる人数も多くて、とにかく相手の隙をどんどん突いてくる印象はありますね。

――GKという視点から見て、シュート技術にも違いはありますか

小島 海外の選手は振りが速くてパンチ力もあるという印象があります。だからこそポジショニング、予測、構え、といった細かい準備を90分間とにかく集中してやるように心がけています。

――チームとしてのW杯での目標を教えてください

小島 「まずはグループステージ突破」という目標を掲げています。やっぱりそこを突破しない限りは次の試合にいくことはできないですし、「最初の3試合でしっかり勝ち点を取ってグループリーグを突破する。そこから先は優勝だけを目指してやっていく」という共通意識を全員が持ってやっていけるようにしたいです。

――個人としての目標を教えてください

小島 やっぱり目に見える結果を残したいという思いがすごくあって、自分がゴールを割らせなければチームが負けることはないですし、その気持ちはアジア選手権のとき以上に持ってプレーしたいです。

――出場したときは緊張すると思いますか

小島 間違いなくするでしょうね(笑)。ぼくは結構緊張するタイプですし、大学のリーグ戦とかでもいつも緊張するので。緊張しない試合はないですね。でも、したほうが集中力も保てると思っていますし、もちろん緊張し過ぎるのはよくないですけど、程よい緊張感と自信を持って試合に入れればと思っています。

――最後に改めて大会に向けた意気込みをお願いします

小島 代表メンバーに選んでいただくということは決して当たり前のことではないですし、自分に携わってくださる方々のサポートや支えがあったからこそ今の自分があると思っています。応援してくださる皆さんの期待を裏切らないように、チームとしてもいい結果を必ず残したいですし、自分自身も試合に出て、いいパフォーマンスをしてチームの勝利に貢献することで、皆さんに恩返しできるよう頑張りたいと思います。応援よろしくお願いします。

 

(記事・写真=栗村智弘)

 

強化試合(5/15)後のコメント

※囲み取材より抜粋

――久しぶりの実戦となりましたが振り返っていかがですか

相手のシュートのタイミングとかも含めて、日本の選手を相手にするときには味わえない部分を経験できたことをポジティブに捉えたいと思います。

――きょうの試合は本番に向けたテストの意味合いもあったかと思います

ここまで試合を重ねることができなかったことは、間違いなく問題だとは思いますけど、どれだけ自信を持って臨めるかが重要だと思っていますし、本番でも今ある自分の力を全て出し切りたいです。

――けがの状態に関してはいかがですか

正直言うときのうもキックをするときに痛みがあったんですけど、きょうの試合中は痛みを感じなかったので、特に問題はないと思います。

――守護神争いは横一列という印象ですが、その中で抜け出すために何が必要だと思いますか

自分の力を出し切るというのはもちろんですけど、チームを引っ張るリーダーシップを試合の中でも、ピッチの外でも発揮していくことが重要だと思います。

――けがをする前ときょうではプレーの感触に違いはありましたか

けがをしているときからキャッチングは常に練習できていたのでそこは問題なかったです。キックに関してはなかなかできていなかったんですけど、きょうの試合の中でうまく調整できたかなと思います。

――きょうは2失点でしたが、それに関しては

やっぱり一発目ですよね。あの1失点目は自分たちのCKからのカウンターでしたけど、自分があそこで止め切ることができれば、チームとしても優位に立つことができたと思うので。本番では未然にピンチを防ぐ回数を増やしていかなければいけないですし、アジア選手権のときよりもどのチームも攻撃力は高くて、(GKとの)一対一になる場面も間違いなく増えると思うので、そこは自分の力で守り切って、ピンチをチャンスに変えるぐらいのプレーができればと思います。

――波多野豪選手(FC東京)も実戦に出る機会を増やしています。危機感はありますか

豪はU−23でJ3の試合にも出ていますし、自分より一つ上のステージを経験できていると思います。そこはお互い刺激し合えていますし、練習の中でも競争できています。

◆小島亨介(こじま・りょうすけ)

1997(平9)年1月30日生まれ。183センチ/73キロ。名古屋グランパスU−18(東海学園高)出身。スポーツ科学部3年

 

◆U−20日本代表グループステージ日時

5月21日(日)17:00〜 対U−20南アフリカ代表
5月24日(水)20:00〜 対U−20ウルグアイ代表
5月27日(土)20:00〜 対U−20イタリア代表