88分の悪夢。連覇の夢、ついえる。

ア式蹴球男子

 悪夢はまさに一瞬の出来事だった――。ボックス内に侵入を許すと狙い澄まされたシュートが枠へ飛ぶ。懸命に伸ばしたGK後藤雅明(スポ4=東京・国学院久我山)の腕は、届かない。ネットが揺れ、悲痛な叫びがピッチに空虚な音を残す。手元の時計が指し示した時間は88分。わずかな希望を胸に、敵陣へと襲い掛かるエンジの波。しかし、逆境を跳ね返すだけの力はもうそこにはなかった。1-2、無念の敗戦。40年ぶりの関東大学リーグ戦(リーグ戦)連覇を目指す早大の挑戦は道半ばにして終焉を迎えることとなった。

夢、破れる

 前節、首位をひた走る明大との直接対決に敗れ(●0-1)、早くも瀬戸際へと追い込まれてしまった早大。名門、筑波大との対戦となった今節、是が非でも勝ち点3が欲しい早大は今季初めてFW山内寛史副将(商4=東京・国学院久我山)を先発起用した。この日最初のチャンスが訪れたのは7分。左サイドでのスローインからFW中山雄希(スポ4=大宮アルディージャユース)がうまく入れ替わると、マイナス方向へクロス。これに飛び込んだMF相馬勇紀(スポ2=三菱養和SCユース)がシュートを放つが、ここはDFに当ててしまい、先制点獲得とはならない。対する筑波大は持ち味のパスワークでリズムをつかんでいく。11分、筑波大は右サイドからクロスを上げるとボックス内でフリーとなったFWがヘディングシュート。18分にも同じようなかたちから決定機をつくり、早大ゴールを脅かす。早大はシーズンを通しての課題であるクロスへの対応のまずさをこの日も露呈。守備から後手に回ると、攻撃でもサイドを封じられてしまい、活路を見出すことができない。迎えた42分、またしてもクロスからシュートを撃たれると、こぼれ球に寄せ切ることができず、ついに失点。修正を施すことができないまま、ビハインドで前半が終了した。

 ハーフタイムを挟むと試合の形勢は大きく逆転した。まずは46分、MF今来俊介(商3=神奈川・桐光学園)が中盤でカットすると、ボールを受けた山内副将が相手DF陣のチェックをものともせずドリブルからミドルシュート。これに負けじと、相棒の中山も立て続けにシュートを放ち、ツートップが反撃の口火を切っていく。68分、前線に更なるアクションをもたらしたい早大はFW飯泉涼矢(スポ3=三菱養和SCユース)を投入。精力的な動き出しから幾度となくボールを引き出す飯泉を起点に、早大は敵陣のより深い位置へと侵入することに成功する。同点ゴールが生まれたのはその直後だった。74分、セカンドボールを山内副将が回収し、DF木下諒(社3=JFAアカデミー福島)に託すとファーサイドへのクロスに相馬が反応。ボールを足下に収めると巧みなドリブルから相手DFを抜き去り、最後は左足でのシュートをネットに突き刺した。試合を振り出しに戻し、更に勢いを増す早大オフェンス陣。水を得たかのように前線に活力が戻ると、連動したプレスから相手のミスを誘発していく。逆転弾は時間の問題か、そう思われた矢先の88分、一瞬の隙を突かれ、まさかの失点。結局これが決勝点となり、1-2で試合は終了のホイッスル。この瞬間、早大のリーグ優勝の可能性が消滅。目指してきた2年連続の『1st』は夢のまま儚く散ることとなった。

先発起用となった山内副将

 「部員全員にとってこれは逃げられない事実」(DF新井純平主将、スポ4=浦和レッズユース)。この結果に選手は何を思うのか。リーグ戦・総理大臣杯全日本大学トーナメント・全日本大学選手権(インカレ)の三冠を誓いに掲げ、臨んだ今季。夏の大阪でその野心は絶たれ、そしてきょう、その中でも特に重要だったリーグ戦連覇をも成し遂げることはできなくなった。果たして、誓いに見合うだけの覚悟をもって戦うことはできていたのだろうか。前期での悔しさはなんだったのか。試合後、古賀聡監督(平4教卒=東京・早実)は鬼気迫る表情でうなだれる部員全員を叱咤した。今、部員一人一人にエンジに袖を通して戦うことの重み、『WASEDA THE 1st』の意味が問われている。次節、流通経大戦はホームの東伏見での一戦。慣れ親しんだピッチでもう一度原点に立ち返り、勝ち点3をつかみ取らなければならない。「もう1位を取ることはできなくなったとしても、『1st』を目指した責任として少しでもそこに近い位置に立つことが今の自分たちが成し遂げなきゃいけないこと」(新井主将)。リーグ戦はまだ終わったわけではない。一つでも上に、一つでも『1st』に近づくことが残る6試合に課された使命なのだ。もうこの屈辱を繰り返してはならない。エンジの覚悟を見せてくれ。

(記事 桝田大暉、写真 新庄佳恵)

関東大学リーグ戦第16節
早大 0-1
1-1
筑波大
【得点者】(早)74相馬(筑)42戸嶋,88中野
早大メンバー
ポジション 背番号 名前 学部学年 前所属
GK 後藤雅明 スポ4 東京・国学院久我山
DF ◎新井純平 スポ4 浦和レッズユース
DF 熊本雄太 スポ3 東福岡
DF 鈴木準弥 スポ3 清水エスパルスユース
DF 12 木下諒 社3 JFAアカデミー福島
MF 13 今来俊介 商3 神奈川・桐光学園
MF →90分 小林大地 スポ4 千葉・流通経大柏
MF 14 鈴木裕也 スポ3 埼玉・武南
MF 相馬勇紀 スポ2 三菱養和SCユース
MF →84分 蓮川雄大 スポ2 FC東京U-18
MF 秋山陽介 スポ3 千葉・流通経大柏
FW 中山雄希 スポ4 大宮アルディージャユース
FW →68分 飯泉涼矢 スポ3 三菱養和SCユース
FW 10 山内寛史 商4 東京・国学院久我山
◎はゲームキャプテン
監督 古賀聡(平4教卒=東京・早実)
関東大学リーグ戦1部リーグ順位表
順位 校名 勝点 試合数 得点 失点 得失差
明大 39 16 12 38 13 +25
法大 27 16 22 15 +7
日体大 27 16 23 25 -2
筑波大 26 16 25 16 +9
慶大 22 16 27 30 -3
駒大 21 16 23 25 -2
順大 20 16 28 25 +3
早大 20 16 18 18
桐蔭横浜大 17 16 21 25 -4
10 流通経大 16 16 18 25 -7
11 国士舘大 16 16 10 18 36 -18
12 専大 15 16 20 28 -8
※第16節終了時点※下位2チームは2部自動降格
コメント

DF新井純平主将(スポ4=浦和レッズユース)

――この敗戦で連覇の夢が絶たれました。今のお気持ちをお聞かせください

今節で勝ち点を取ることができなければ優勝はなくなるという状況の中でこういう結果になって、今シーズン掲げた連覇を達成することができなかったことに自分自身責任を感じています。

――苦しい戦いが続いていますね

そうですね・・・。試合のワンプレー、ワンプレーを振り返ると、やっぱり今までのワセダの強み、徹底する部分が明らかに一人一人体現できていない状況です。それが今のチーム状況であって、だからこそこのような勝ち点を取り切れない部分につながっていると思います。何て言えばいいんだろう・・・。もう過去を振り返ってる暇はないし、もう1位を取ることはできなくなったとしても、やっぱり『1st』を目指した責任として少しでもそこに近い位置に立つことが今の自分たちが成し遂げなきゃいけないことだと思います。下位が見えてくる危機感を持ちながらも、高めていくだけです。

――試合後、古賀聡監督(平4教卒=東京・早実)がチーム全体に思いをぶつけられていました。どのような思いで受け止められていましたか

自分も試合の中で同じようなことを感じていました。部員全員にとってこれは逃げられない事実だと思います。そこに向き合わなきゃいけないですし、全体で同じ方向を向くようにしていくのが自分の役目だと思うので、自分が誰よりも逃げずにやるだけだという気持ちで聞いていました。

――失点はどちらとも課題であるクロス対応の甘さ、ボックス内での粘り強さの欠如が招いたものでした

ゴール前の守備で体に当てることができない、ボールとゴールを結ぶ線に立つことができていないというのはシーズンを通した課題で、それが修正できていないのはトレーニングでの意識が薄い、それが全てです。向き合い続けてトレーニングからやるしかないです。

――次節の流通経大戦はホーム、東伏見での試合となります。原点に立ち返る意味でも、必ず勝たなければいけないですね

この試合が終わった後、戦っているのは自分たちだけではないと伝えました。次は東伏見で戦えるということで、普段よりも多くの方、地域の方々が駆けつけてくれるのではと思います。その中で自分たちは何が何でも、勝利という結果で恩返しをしないといけないです。自分たちがやらなければいけないことは勝つことなので、それだけを目指して1週間高め続けていきたいです。

FW中山雄希(スポ4=大宮アルディージャユース)

――今節も白星を挙げることができませんでした。敗戦をどう受け止めていますか

これで優勝がなくなったということで、本当に悔しいですし、何とも言えないというか、悔しい気持ちでいっぱいです。

――試合を振り返っていかがですか

相手に支配される時間が多い中、隙があればチャンスを狙おうと共有していたので、自分自身チャンスをつくれないまま試合が終わってしまったという印象が強いです。

――逆に、後半の終盤に隙を狙われて失点をしてしまいました

まだまだチームとして隙があるからこその敗戦だと思いますし、もっと突き詰めていかないと勝利をつかむことはできません。トレーニングや小さなところから、細かいところまで突き詰めていきたいと思います。

――今季初先発となった山内寛史副将と連携面で話し合われていたことは何でしょうか

山内と一緒にFWをするのは楽しみでしたし、2人ともやることははっきりしていたので、結果を残そうという話をしていました。山内とは連携をしやすいという面もあるのですが、結果を残せなかったのは悔しいです。

――最後の古賀聡監督からのお話を聞いて何か感じたことや考えたことはありますか

リーグ戦はまだ終わっていないですし、『1st』を掲げている以上、1つでもそこに近い位置を取らなければいけない責任はあると思うので、本当に一人一人が勝つために何ができるか行動していきたいと思います。

――次節に向けて意気込みをお願いします

次は東伏見での開催ということで、日頃から支えてくれている方々に勇気や活力を与えられるようなプレーをして、何が何でも勝てるようにいい準備をしていきたいと思います。