強靭な体格を生かしたパワフルな攻め上がり、両足から放たれる威力満点のシュート。宮本拓弥(スポ=千葉・流通経大柏)は自らの得点だけでなく、仲間を生かすチャンスメイクで多くのゴールをもたらしてきた。そんなワセダの『怪物』が次なる舞台・J2へと足を踏み入れる。上位進出を目指す水戸ホーリーホックの新たな武器となれるか――。宮本の覚悟を伺ってきた。
※この取材は3月3日に行われたものです。
「自分自身を高められる良いチーム」
――水戸に来たことはありましたか
サッカー以外ではなかったですね。サッカーでは小学生の時に遠征で何度か来たことはあります。プライベートではないですね。
――水戸ホーリーホックへの入団が決まり、水戸に来てみての印象はいかがですか
チームとしての雰囲気はとても良いと思います。ベテランの選手もがんばりますし、若手も真面目にやっています。上下関係もあんまりないですし、良い意味で明るいチームだと思います。
――水戸という土地の雰囲気はいかがでしょうか
オフでもあまり外には出ないですし、町並みとかに関して、何があるとかはまだあまりわかっていないですね。
――練習を見ていても、チームの雰囲気の良さが伝わってきました
ベテランの選手がああやって声を出してチームを盛り上げてくれる、引っ張ってくれるというのは、僕たち若手にとってはすごく良いことだと思います。だからこそ僕たち若手も下からの突き上げっていうのをやっていかなくちゃいけないとも思いますね。そこに関してはもっとできるんじゃないかなと思う部分もあるので、これからさらにがんばっていきたいですね。
――今は一人暮らしなのでしょうか、寮暮らしなのでしょうか
寮です。ワセダでも高校でも寮だったので、僕は寮に関しては特に違和感はないですね。逆に寮で良かったと思います。ワセダでは二人部屋だったんですけどこっちでは一人部屋なので、住みやすいというか、プライベートな時間もある程度できましたし、環境としては良いんじゃないかと思います。
――一人部屋になって過ごし方などは変わりましたか
ゆっくり休めるというのはありますね(笑)。いろんな意味で。
――寂しさなどはないのでしょうか
寂しいとかはないです(笑)。
――環境の変化としては良い方向にいっているということですね
そうですね。水戸ホーリーホックというチームとしても、自分自身を高められる良いチームに入れたなと思いますし、そこに関しては本当に良かったと思いますね。
――先ほども話にありましたが、オフの日は部屋で過ごすことが多いのでしょうか
そうですね。仲間と食事しに外へ行くくらいですかね。
――水戸といえば納豆が有名ですね
納豆ですか(笑)。こっちに来てからも特に意識して食べていないですかね(笑)。夕食時とかにあれば食べるという感じです。
――寮での食事は自炊なのでしょうか
いや、違います。(寮に)作りに来てくれる方がいて、朝と夜に作ってもらっています。食べるか食べないかは選べるんですけど、僕は毎日食べているので、(栄養面などは)しっかりしているんじゃないかと思います。
――入団までの経緯はどのようなものだったのでしょうか
いろいろあったんですけど、最終的には水戸ホーリーホックの強化部長の方に声をかけていただいて、ですね。ちょっと遅れてしまったんですけど、沖縄のキャンプくらいから正式に練習に参加させてもらって、そこでまずは認めてもらえたので入団できたという感じです。
――チームに誘われた時には強化部長の方からなにかお話はありましたか
今はとりあえずこっちでコンディションを上げていくから、そんなにアピールしようとしなくていいよ、と言われました。僕自身としては、そうは言われてもアピールしなくちゃなと思っていたんですけど。
――強化部長に声をかけられた時期はいつ頃だったのでしょうか
話自体はきょねんの11月くらいにありました。でも、僕自身ちょっといろいろあったので、水戸の練習に初めて参加したのは1月31日くらいの沖縄キャンプからですね。今思うと、もっと早くから水戸に来ていればというのはあるんですけど、最終的に入ることができて良かったです。
――西ヶ谷隆之監督から入団に際して何かお話はありましたか
僕が練習生の時も戦術的というか、個人的な攻撃をしたほうが良いよとか、試合中に厳しいことを言われたこともあるので、僕のためになることをすごく言ってくれる監督だなと常日頃から思っています。大学生の時とは真逆の監督なので、僕自身は刺激をまた受けられています。古賀監督(古賀聡監督、平4教卒=東京・早実)は個人に対しては何も言わないスタンスだったので。
――練習の雰囲気もワセダとは対照的だったりするのでしょうか
そうですね。練習の雰囲気も対照的です。どっちが良いとか悪いとかはないと思うんですけど。ワセダはワセダで良いチームですし、水戸は水戸で良いチームだと思います。ただ、練習のやり方であったり、雰囲気であったり、一人一人の練習中のチームのつくり方というのは全く違うなと思います。良いプレーはしっかり褒めます。あと、オンとオフの切り替えもしっかりしているなと思います。やるときはやりますし、ゲーム感覚でやるようなときはみんな笑顔で、雰囲気を明るくつくってやりますし、そういう部分は本当にしっかりしているな、と思います。
――入団前のチームに対する印象はいかがでしたか
水戸ホーリーホックについては、J2ではありましたけど昔から知っていましたし、水戸といえば水戸ホーリーホックだということは知っていましたし、僕個人としては本当に有名なチームでしたね。
――29番という背番号はどうやって決まったのでしょうか
強化部長の方と話をした時に、29番と31番以降が空いているよ、と言われて、29番をおすすめされたので、じゃあ29番でお願いしますという感じです。強化部長いわく、29番は今まで出世した選手がつけることが多かったからということだったので。
――期待を受けての入団だったのですね
まあ、たまたまそこ(29番)が空いていただけなんですけどね。
――高校、大学と赤色系のユニフォームでしたが、水戸ホーリーホックの青色のユニフォームはいかがでしょうか
僕、青好きなんで。赤も好きだったんですけど、日本代表は青なので、青も良いんじゃないかな、と思います。まあ、周りから見たら雰囲気変わるのかなと思いますけど、僕自身はそんなに違和感ないですかね。
オフェンスの練習でシュートを放つ宮本
「一生懸命真面目にやり続ければ報われる」
――ア式蹴球部を引退されてから少し時間が経ちましたが今の心境はいかがですか
僕たちの学年は金澤拓真(スポ=横浜F・マリノスユース)を筆頭に真面目で、4年間僕自身すごく成長をさせてもらったなと思います。みんな本当に真面目ですし単純に頭も良いので、そういった人たちと関わって寮生活をしていく中で人として成長できたと思います。
――最後の試合となった全日本学生選手権の国士館大戦(●1-4)を振り返っていかがでしょうか
率直に情けないなというか、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
――試合後、後輩にはどのような声掛けをされましたか
「自分の納得のいかないことがあってもそこでやめてはいけないよ」ということは伝えました。僕自身教訓として、1年生のときはそういったところがあったので、そういうことをしていたら自分のためにもならないですし、プロになりたい人もいるんだったら尚更してはいけないので。そういったことを後輩には伝えました。
――先ほど人間性の面で成長できたというお話もありましたが、4年間を通して学んだことはなんでしょうか
ひたむきに真面目にといいますか、何事も一生懸命真面目にやり続ければ報われるということですね。結果が出ないときもありますが、何かしら自分にとっての財産になるということを学びました。
――ア式蹴球部は人間性を高めるといった理念を掲げていますがその点はいかがでしょうか
その点は僕自身、毎日成長できたのではないかなと思います。サッカーだけではなくて学生生活においても、スポーツ科学部の授業ではトップレベルの選手と一緒に受けることもありましたし、こういう環境って普通ではないなと思いますし、そこに関しても良い大学だなと思います。
――そういった面はプロでの生活にどう生きていくでしょうか
プロは個人ですし、プロに入ったら一個人としてどこにいっても周りからプロ選手として見られるわけで、これからは自分の言動というのは周りの人に影響を与えると思います。そういったところでは、ワセダでの生活というのは生きてくると思います。
――2年時の途中から主力として活躍されましたが、一人の選手として技術面ではどのようなところが成長しましたか
ヘディングが強くなりましたね。ワセダはFWにめがけて蹴ってくるので、そこで競る力というのは強くなったと思います。
――プロに入ってもそのヘディングというのは通用するなという印象はありますか
そうですね。ありますね。
――宮本選手にボールを合わせた練習もされていましたが、そこを強みにしたいという思いもあるのでしょうか
僕は別にそこに関しては思っているわけではないのですが、FWとして負けてはいけないところだとは感じています。
――プロ入りが決まった後、古賀監督とはお話されましたか
決まる前と決まった時はメールをして、おめでとうということを言っていただきました。
――具体的なアドバイスなどはありましたか
「一プロサッカー選手として、結果を残してください。応援しています」ということを言っていただきました。プロに入ってからは僕自身の問題ですし、僕がこれからどれだけがんばるかだと思います。そういったことをわかった上で、こういった長くない言葉を言ってくださったと思うので、そこは僕としてはありがたかったですね。
――プロを意識した時期というのはいつ頃でしょうか
プロはサッカーを始めた頃からずっと憧れていました。
――実際にプロチームから声が掛かった時はどのような思いでしたか
水戸は練習参加からだったのですが、まずは入らなければ先に進めないということで、正式に内定が決まったときは正直ほっとはしました。ですが、安心感よりは危機感の方が大きかったです。
――ご家族とはどのようなお話をされましたか
決まったときは両親が喜んでくれました。ただ今後はプロとして勝負をしていかなければいけないので、「ここからだね」という感じでしたね。
――プロに進むにあたって高卒選手やユース上がりの選手もいますが、大学サッカーから上がったことに関してはどのようにお考えですか
プロサッカー選手として本当にやりたければ、僕自身の考えとしては高校サッカーから上がった方が成長はできるとは思うのですが、大学に入って人間としての基礎を高いレベルにしてからプロに入ることで、プロとしての言葉遣いや言動などの面では良い意味で生きてくると思います。
――これからプロとして活躍される中で、後輩たちにどのような姿を見せていきたいでしょうか
まずはテレビで活躍している姿ですね。結果を出して、「宮本先輩活躍しているな」と感じてくれたら後輩たちにとっても刺激にもなると思います。
プロとしての自覚を語る宮本
「この1年間を死ぬ気で」
――シーズンが開幕して1週間が経ちましたが、今の心境はいかがですか
「早いな」って、率直にシーズンは始まったら早いなと思っていますね。ここから41試合あるわけですけど、ここからどれだけ試合に絡めてどれだけ結果を残せるか、まず試合のメンバーに入ることを意識して今やっています。
――今のチームの雰囲気はいかがでしょうか
前節(京都サンガFC戦、△1-1)は追い付いて、アウェイで引き分けて勝ち点1を取れたのは良かったと思います。僕自身、このチームは雰囲気が悪くなることはないんじゃないかと思っていて、良いチームだなと。それは選手自身で敏感に感じ取っていて促していると思うので、スタッフの方もそうですし、特に悪くなることはないんじゃないんですか。
――次節はホーム開幕戦(対セレッソ大阪)であることも雰囲気の良さにつながっているのでしょうか
そうですね。相手はJ2で強豪とされるセレッソですし、この相手に勝てば間違いなくチームは波に乗るので、個人個人が良いコンディションと気持ちでやっているんじゃないかと思います。
――強豪を負かしてやりたいという勢いがあるのですね
そうですね、勢いあります。
――ことしはチームのかたちを熟成させていく重要なシーズンになるかと思いますが
西ヶ谷監督のサッカースタイルにおいてワセダで学んだ前線からの守備は変わらないなと思っていて、僕自身、攻撃のコミュニケーション面ではまだ課題はありますが、ワセダでやってきたことは生きてくると思います。
――パスをつなぎ人数を掛ける攻撃スタイルはいかがですか
水戸の攻撃はバリエーションが豊かで、特にFWの攻撃への関わり方は重要だと思います。僕自身はまだまだですし、レギュラーで出ている選手を見て勉強になるなと思っています。
――コンビネーションに関して、チームメイトとの連携はいかがですか
きょうみたいな連携面の練習をいっぱいやるので、ああいう練習をすることで自然とコンビネーションは生まれると思います。できなかったら選手同士で話し合いますし、良いと思います。
――FWとして、動き方に多くのことが求められるかと思いますが、新たに意識することはなんですか
前を向いたら積極的にシュートを撃って、ドリブルを仕掛けてということですね。ワセダではあまりやれなかったので、プロの世界ではそういうところをやっていかないと僕自身の良さはでないと思っています。そこを意識してやっていますね。
――西ヶ谷監督から具体的な指示があるのでしょうか
アドバイスをして細かく指導してくれますね。すごい良い監督だと思います。
――大学サッカーとプロのプレー面の質の違いに関してはいかがでしょうか
一人一人の個人の力も違いますが、明らかに違うのはやるときとやらないときの使い分けですね。もちろん大学生は真面目にやりますし、がむしゃらにやると思うんですけど、プロの方がサッカーを知っているなというのを一番の違いに感じています。
――先ほど前線からの守備はワセダのサッカーとつながるというお話でしたが、ほかにワセダでの経験が生きてくる点はありますか
ヘディングだと思います。競り合い、球際。ワセダでも球際では負けちゃいけないということを言われてきましたが、水戸はもっと要求されますね。そういう1対1の練習もするので、僕にとっては良い練習だと思います。
――沖縄キャンプはいかがでしたか
プロは練習に100%で臨める環境ができていて、ちゃんとしたサポートもあるので、「プロなんだな」と自覚しましたね。
――プレー面で手応えはありましたか
FWとして練習やトレーニングマッチでも点を取ることができたので、そういうところではアピールできたんじゃないかと思います。
――チームに合流して1カ月というところですか、どのような持ち味を出していきたいですか
シュートやドリブル突破をもっと見せていきたいですね。
――J2に多くいるア式OBとの対戦はいかがでしょうか
ほんとにJ2にはたくさんいて、特にファジアーノ岡山の島田譲選手(平25スポ卒)や片山瑛一選手(平26スポ卒)、同期だった奥山(奥山政幸、スポ=名古屋グランパスU-18※レノファ山口FCに入団)や八角さん(八角大智、社=千葉・流通経大柏※ザスパクサツ群馬に入団)とプロの舞台でやれるのは感慨深くて楽しみですね。
――特に対戦してみたい選手はどなたでしょうか
僕は政幸とやってみたいですね。チームとしてはファジアーノかな。譲くんは僕が1年生のときの4年生ですごい印象的な先輩だったので、プロになってからどんな感じなのか見てみたいですし、やってみたいです。
――プロに進むにあたって先輩方と何か話されましたか
畑尾さん(畑尾大翔、平25スポ卒=現J1・ヴァンフォーレ甲府)はLINEで相談している時にはアドバイスをくれましたね。すごい良い先輩で、そういう相談ができるのは良い関係じゃないかと思います。
――先日奥山選手に取材に行った際、「走って、走って、痩せろ」という伝言をお預かりしたのですが、いかがでしょうか
3年間同じ寮で過ごしたので、そういうことも言える仲ですね(笑)。ポジティブに受け止めたいと思います(笑)。
――「体格があって嫌なタイプだ」と話されていましたが
そう思ってくれているのはうれしいですね。僕らの代で(関東大学リーグ戦を)優勝しましたが、政幸と拓真(金澤)がいなかったら守備は崩壊していたので、彼らの貢献度の方が高いですよ。
――ぜひ奥山選手から点を決めてやりたいところですね
まあやった時は止めさせません(笑)。
――上位進出が一つの目標かと思いますが、チームとしてどのように戦っていきたいですか
まずは自分たちがやりたいことをぶらさずにやることだと思います。相手によって戦い方は変わると思うんですけど、どの試合でもチームのために一人一人が動き続けてやっていかないと勝てないと思います。
――1年目のシーズンをどのようにしていきたいですか
この1年で試合に出て結果を残して、なおかつサポーターに認められる選手になっていきたいですね。
――これから始まるプロ生活、どのような選手になっていきたいですか。
がんばって水戸から上に行った選手は多いですし、塩谷司選手(サンフレッチェ広島所属)のようになりたいです。
――最後に今後の意気込みをお聞かせください
プロとしての自覚を持って、この1年間を死ぬ気でがんばっていきたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 大森葵、進藤翔太、桝田大暉)
サインと共に今季の意気込みを書いてくれました!
◆宮本拓弥(みやもと・たくや)
1993年(平5)5月21日生まれ。身長183センチ、体重85キロ。千葉・流通経大柏高出身。スポーツ科学部。