【連載】Jリーガー特集2016 J2ザスパクサツ群馬・八角大智

ア式蹴球男子

 ワセダが誇る『侍』・八角大智(社=千葉・流通経大柏)がJ2の舞台に出陣だ!豊富な運動量で上下動を繰り返し、攻守にわたって試合の起点となる八角。その新天地がザスパクサツ群馬に決定した。悲願のJ1昇格へ向け、プレーオフ圏内進出を目指すクラブの力となれるか――。新たな戦いに挑む八角の心境に迫る。

※この取材は2月19日に行われたものです。

「自分は侍です」

――ザスパクサツ群馬はチーム発祥の地が名湯で有名な草津町ですが、草津に初めて来たのはいつですか

 草津には高校のときに遠征で行ったのが、多分初めてですね。

――印象はいかがですか

 TVで見る湯畑とかがそのままで、温泉街だなっていう印象でしたね。

――温泉にはもう入りましたか

 まだこっちに来てから草津には行っていません。自分も最初ザスパクサツ群馬という名前で知っていて、活動が草津だなって普通に思っていたのですが、ほとんど前橋で一度も草津には行っていないので、自分も草津には行きたいなと思っていますね(笑)。

――では、この辺りにお住まいなのですね

 そうですね。この辺です。寮ですね。新人の選手がよくいます。

――そこでの暮らしはいかがですか

 ずっと東京で生まれて育ったので、すごい新鮮で、やはり東京よりも土地が広くて電車とかも少ないので移動手段っていうので、車が必要になってくるところですね。生活自体は、ごはんも食堂があるので何不自由なくっていう感じですね。

――生活にはもう慣れましたか

 1ケ月経ってもう慣れたと思います。東京がめちゃくちゃ恋しいっていうわけではないので。思ったよりも田舎なんですよ(笑)。前橋って聞くともうちょい何かあるのかなっていう勝手な先入観があったんですけど、全然ですね。

――娯楽はありますか

 ここ(※取材場所の温泉施設)はほぼ毎日来てて、練習の疲れを癒したりしています。あとはほとんど部屋にいて、最近はずっと書道をやってます。やることないんで。本を読むか書道をします。

――どのような字を書くのですか

 ずっと僕『武士道』とか言っているじゃないですか(笑)。だから、それっぽい『武士道』とか、武士道の本に書いてある言葉をそれっぽく書いています。

――お気に入りの言葉はありますか

 最近は「至誠を尽くす」の「至誠」を書いています。ことしのテーマというか、意識したいなっていう思うことなので。

――書道道具も持ってきたのですか

 持っています。友達に誕生日プレゼントでもらいました。

――ワセダでも侍として有名でしたが、ここでも侍を貫いているのですね

 そうですね。侍キャラでいくしかなと思っているので(笑)。チームでも「武士、武士」って言われたり、「お前それ武士道じゃねぇだろ」みたいなツッコミをいろんな方向からされています(笑)。

――最初の周りの反応はいかがでしたか

 最初はまだ隠していたというか、聞かれないと自分で言うタイプではないので。「お前どういう人間なの」とか聞かれたときに、「自分は侍です」って。「それ何言ってんの」みたいな感じになって、いろいろ侍エピソードとか、スマホカバーとか見せたりとかしてます。まあ、もう今は侍キャラは定着しています。

――この町は、東京とは違ってのどかなところだと思うのですが、侍的にはいかがですか

 やっぱり自然というか、川や山が近くに見えて、一番印象にあったのは、「こちらは空が広いなぁ」ということです。東京だとビルが多くて前橋は県庁ぐらいしか高い建物がなくて。空気もおいしくてすっきりしますね。

――すでにチームメイトから『ハチ』と呼ばれていましたが、もうチームには馴染みましたか

 多分馴染んだと自分の中では思っていますね。ベテランの方々も、侍とか自分が言っていれば「こいつ変だ」と思って多分可愛がってくれているので(笑)。そこからコミュニケーションは上手く取れて、すごい仲良くさせてもらっています。

――そうしたコミュニケーションがプレーにも生きてくるのでしょうか

 そうですね。今までは同じ年代の中だったら20歳そこそこの人たちだったんですけど、やっぱりプロの世界だと上は30後半だったり30代の人もいる中で勝利のために戦うっていうところで、そういうコミュニケーションが大事だなと前々から思っていました。でも、そんなに苦労することは今のところなくて、自分もしっかり持ち味を出しながらサッカーできてるかなって思います。

――最近の修行の調子はいかがですか

 今は環境に慣れることの方が大事だなってこの1ケ月すごく思っていて、自分自身の色を出すことも大事だと思ったんですけど、早くチームに溶け込んでチームの考えを自分の中に落とし込んで、その中で自分のアピールをすることが大事だなってこの1ケ月は考えました。

――新しい環境に飛び込んで、ストレスが溜まることもあると思うのですが、それを癒すマイブームなどはありますか

 それこそ書道ですかね。本当にやることもないので。ひたすら書くって感じですね。

実戦形式の練習で相手オフェンスと対峙する八角

「本当に中身の濃い4年間だった」

――ア式蹴球部(ア式)での4年間を改めて振り返っていかがですか

 今まで生きてきた中で毎日が具体的に過ごせたというか、目的意識を持ちながら濃い一日を過ごすことができました。それが連続した4年間だったなと思いますね。やはり大学に入る前にサッカーをやる意味というのを整理して、また4年間はサッカーに懸けようと思って入ったので、その目標がぶれることなく目的意識を毎日持つことができたので、本当に中身の濃い4年間だったと思います。

――実際にア式に入部した当初と今現在で変わったことは

 物事を考える幅が入ってきたよりは広がったかなと思いますね。入ったばかりのころは、自分よがりの狭い視野での考えしか持つことができずに上手くいかないこともありました。今の立場になって振り返ってみると、4年生になってからは広い視野で物事を考えられるようになったと思います。

――大学に入学した当初からプロに行きたいという思いがあったのですか

 はい、それはありました。

――実際にプロに行くことが決まったときにチームメイトからなにか言葉をもらいましたか

 決まったのが部活を引退した後だったので、直接ア式の人たちからは言われることはなかったのですが、LINEなどでおめでとうという言葉はもらいました。古賀聡監督(平4教卒、東京・早実)にもシンプルにおめでとうということを言ってもらいました。

――高卒でJリーグに挑戦するのではなく大学サッカーを経験して良かったなと感じることはありますか

 高卒でプロになることよりも、今こうして大卒でJリーグの舞台に入ったことの方が、サッカーを真剣に取り組むことができているなという自信はあります。やはり高校だとそのあたりの考えを落とし込めないままサッカーを続けていたなと思うので、4年間しっかり整理をすることができたことは大きかったと思います。

――ことしは同期から奥山政幸選手(スポ=名古屋グランパスU-18※レノファ山口FC入団)や宮本拓弥選手(スポ=千葉・流通経大柏※水戸ホーリーホック入団)もJリーグに参戦するということで、対戦する可能性も高いと思いますがいかがですか

 すごく楽しみだなと思いますね。負けたくないなと思います。

――お二人とお話をされましたか

 二人とも会っていないですね。試合会場で会いたいと思います(笑)。みんな地方ですしね。

――奥山選手とはDFライン同士なのでマッチアップという感じにはならなそうですね

 そうですね。政幸がサイドバックをやってどうなるかという感じですね。

――宮本選手に関しては完全に抑える側になりますが、不思議な感じはありませんか

 高校から大学に入った時も、高校で一緒にやっていた仲間と大学に入って試合をしていたので、特にそういった特別な感情というのはないですね。でも負けたくないなと思います。

『侍』らしい真剣な表情で取材に応じる

「出ればやれる」

――ザスパクサツ群馬の第一印象はいかがでしたか

 自分を含めて新加入が20人いて、ほぼ総入れ替えということでチームの雰囲気もこれからつくるという感じでした。自分もそういうつもりで入ってきたので、これという先入観というのは持たずにフラットな状態で入ってきました。第一印象というよりは、これからという感じですね。

――地域密着という意味で、地域の方からのサポートは感じますか

 そうですね。この間、チームを支援してくださる企業や団体の方を交えたキックオフパーティーという交流会がありました。そういった会に出たことで、アマチュアや部活とは規模が違うなと感じましたし、Jリーグの理念である地域密着というのがここだけではなくて全国にあるクラブでもあるのだなと思いました。Jリーグの魅力というか、そういった方々の支えがあって自分たちはサッカーができているのだなと感じました。

――実際にザスパの練習に参加してみて、大学とプロとで一番違うなと感じることは何ですか

 一番の違いは、プロの人たちはサッカーをしっかり分かっているということだと思います。学生の頃は勢いであったり運動量であったり、若さでカバーしている部分があったなと思っていて、今思えばもっと頭を使ってサッカーを理解した上で取り組めば、より楽にサッカーができたのではないかなと思いますね。今ベテランの方とかを見ているとどういう動き方をすればマークを外せるとか、どういうボールの持ち方をすれば奪われないかとか、すごく分かっていらっしゃるのでそういったものが経験の差なのだなということを実感します。

――これからレギュラー争いが始まっていくと思いますが、自分のストロングポイントやアピールしていきたい部分などはありますか

 運動量の多さは大学の頃から負けたくないなと思っていたので、それはどこのチームでも一番になれる自信がありますし、これを軸に自分をアピールしていきたいなと思いますね。あとDFとしてはア式でも最少失点で優勝したということもあったので、安定感であったり失点しないプレーであったり、そういうところは意識してやっていきたいなと思っています。

――逆にこれから伸ばしていきたいところなどはありますか

 このチームはサイドバックが攻撃の起点になることが多くてチャンスメイクを求められるので、そういうところは自分自身欠けている部分だなと思います。自分のところでボールを奪われてはいけないですし、自分のところから攻撃の起点となって上手く守備を崩せるプレーというのは、いま特に意識して取り組んでいるところです。

――その攻撃的な役割というのは、これから伸ばしていきたい部分ですか

 そうですね。その精度というのはまだまだ低いと思っているので、意識してやっていきたいですね。

――練習中も、ポジショニングに関しては前に出ろというような指示が出ていましたね

 そうですね。スタッフの方からも、パスを受ける場所によって相手のプレッシャーを交わすことができるか否かというのは変わってくるよという話は常に言われています。今まで自分はそういったところをあまり意識しないでやってきたので、すごく自分自身プラスになるような学びの多いトレーニングができていますね。

――やはりそういう点が『サッカーを理解する』ということにつながりますか

 そうですね。しっかりポジショニングを取れば相手のプレッシャーを交わせるという考えは、今までア式のサッカーでは無かったことなので、より理論的にサッカーを見つめ直すことでサッカーの魅力もまた増えてきたなと思いますね。

――ポジションということになると、一番任される可能性が高いのはやはり左サイドバックなのでしょうか

 いや、きょうの練習では左でしたけど、それまではずっと右をやっていました。自分はどっちもできるということが強みですし、利き足は右ですけど左足でも蹴れる自信があるので、両サイドバックが自分のポジションになるのかなと思います。

――先ほどもコミュニケーションが大事というお話がありましたが、大学時代に無かった外国人選手とのコミュニケーションに関してはいかがですか

 自分は日本人なのでそんなにまだ苦労していない方で、外国人選手を見ているとちょっと難しそうだなというのは感じます。自分もプレーしていて外国人選手との意思疎通が上手くいかずにプレーが途切れてしまうということはありますけど、自分が得るストレスよりも多分そういう外国人の選手たちの方がストレスを感じながらサッカーしているのではないかなと思いますね。

――外国人選手とコミュニケーションを取る上での工夫などはありますか

 まだ言葉が上手く通じない部分もありますけど、サッカー以外のところで積極的に話しかけることは自分の中でも意識しています。韓国人選手なんかは同じ寮にいて結構一緒に過ごしているので、サッカーの戦術的なことでコミュニケーションを取るというのはまだまだですけど、日常の中で少しずつコミュニケーションは取れているかなと思います。

――同期入団の中には、大学時代しのぎを削った瀬川祐輔選手(明大)もいらっしゃいますが、それに関してはいかがですか

 瀬川はスピードもあって、自分も大学時代にてこずった選手なので、同じチームにいることはすごく心強いですね。自分や彼のような若い選手が、チームの実力を底上げしていければ勝利につながると思いますし、若い力でチームを変えていきたいです。

――日々の練習の中で、監督からはどのようなことを要求されているのでしょうか

 新しいチームになってから失点を減らして得点を増やそうという話をされていて、くだらない失点はするなと言われています。自分自身DFとして、奪ったボールをまた奪われてしまうことが最初の方は多かったので、そういったくだらないミスから失点することが無いように心がけています。

――戦術に関して、ア式のサッカーと比べてここが違うなと感じる部分はありますか

 自分たちがボールを持ちながら相手を崩していくっていうのが今のチームの考えで、ア式のときは奪われても奪い返して相手の嫌な位置にボールを運び、そこから攻撃を仕掛けていくというサッカーだったので、今のチームではボールを大事に運んで攻めていくというのが一番の違いですね。

――逆にア式のサッカーと通じているような部分はありますか

 ボールを奪われた瞬間に全員で奪い返そうっていう切り替えの早さがあるという意味では、ア式でやっていたことがそのまま応用できるのかなと思います。

――きょうも練習でロングスローをやられていましたが、それもひとつのストロングポイントとして出していきたいところなのですか

 そうですね。ロングスローも遠くに投げれば投げるほど相手DFにとっては嫌ですし、うちには長身のFWもいるのでそうした選手にめがけて投げることができれば得点チャンスも増えてくると思います。なのでそこは自分の強みとしてこれからも磨いていきたいです。

――チームとしても武器にしていこうという共通認識もあるのですか

 ロングスローでも得点のチャンスを増やせるというコーチ陣の意図もあるので、そこは自分の強みが試されているところなのかなと思います。

――ア式の頃よりも攻撃面や守備面でも多くのことを求められているようになった印象を受けますが

 求められることが多くなったというよりは、自分たちがやるサッカーの違いがそうさせているのかなと思っています。最初はチームの考えよりも自分の強みを出そうと思い過ぎてしまってなかなか上手くいかないこともあったのですが、キャンプを経てチームの考えや戦術を理解した上で自分の強みを出そうという思考に徐々になっていきました。そういったことを自分でも意識的にできるようになってきて手応えも感じているので、しっかり落とし込んでトレーニングができているかなと思います。

――自信はありますか

 自分の中で、出ればやれるという自信はありますし、その自信は持ち続けていきたいと思います。

――すでにJリーグではたくさんの先輩方がプレーされていますが、やはりそういった方々と対戦する場面は特別な意識をすることになりそうですか

 楽しみという思いは強いですね。自分が下級生だった頃に見ていた先輩方と、Jリーグの舞台で戦えるというのはすごく感慨深いですし、ア式の同期からも、ア式出身の選手が色々なクラブにいることで、見に行きやすいし楽しみが増えたと言ってもらえたので、自分たちも盛り上げていけるように頑張りたいと思います。

――新たな背番号である33という数字に関してはいかがですか

 3をひとつひっくり返してくっつければ「8」にもなるので、悪くはないのかなと(笑)。

――ではチームとしての目標をお聞かせください

 チームとしてはリーグ戦で6位以内(J1昇格プレーオフ圏内)に入ることが目標です。あとは前半戦を一桁順位で折り返すこと。自分自身もこの目標達成を目指して、チームの為に戦い続けていきたいと思っています。

――最後に八角選手ご自身の抱負をお願いします

 開幕から試合に出て、チームの勝利に貢献することですね。プロとしてぶれてはいけない考え方だと思いますし、本当にそこはこだわってやっていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 大森葵、橘高安津子、栗村智弘、佐藤諒)

得意の書道で今季の意気込みを書いてくれました!

◆八角大智(はっかく・だいち)

1992年(平4)4月15日生まれ。身長173センチ、体重71キロ。千葉・流通経大柏高出身。社会科学部。