『上形華劇団』、次の舞台へ――。ことしの3月で創立10周年を迎えるJ2・V・ファーレン長崎への入団を決めたFW上形洋介(スポ4=東京・早実)。ワセダが誇るストライカーは、プロに進んでなにを思うのか。リーグ戦開幕を目前に控え、自身の心境や新たな環境についてお話を伺った。
※この取材は2月27日に行われたものです。
大学との違い
笑顔で取材に応じる上形
――長崎に初めて来たのはいつですか
11月に練習に参加したんですけど、その時が初めてでした。
――長崎に来られてどんな印象を受けましたか
以外と住みやすい町だなと(笑)。料理もおいしくて温かい人が多いですね。
――どんな料理がおすすめですか
お肉とか、ちゃんぽんとかいっぱいあります(笑)。
――オフの日はまだあまりないのでしょうか
そうですね。キャンプとキャンプの間にオフがあったんですけど新人研修があって無くなって、つい最近やっとオフがありました。
――新人研修はどちらでどんなことをされたのですか
研修は静岡の嬬恋であって、マスコミへの対応とかSNSの使い方とか、プロとしての心構えを学びました。
――テストもあったそうですが
ルールテストとかもありました。さすがに大丈夫でした(笑)。
――先ほどキャンプの話がありましたが、沖縄と宮崎であったそうですがこちらには参加されたのですか
はい。どちらにも参加しました。
――参加してみていかがでしたか
沖縄キャンプはフィジカルメインのキャンプでかなりきつかったです。宮崎は試合中心でした。
――宮崎キャンプでは高木琢也監督から直接指示を受けることもあったと聞きましたが
そうですね。FWは3人いてワントップとツーシャドーなんですけど、そのシャドーにボールが入った時のフリックのポジション取りに一度反応できなくて、そういった話とか、1人だけでなく周りと合わせた動き出しの話とか、FWの動きについて指導されました。それと、シュートを打つ前のボールの置きどころについても話がありました。
――キャンプでは同部屋の選手はいらっしゃいましたか
沖縄が2人部屋で、宮崎は6人部屋でした。
――選手同士、距離は縮まったと感じましたか
やっぱり若手同士は仲良くなれたかなと。宮崎キャンプの部屋も年下が3人、同期が自分合わせて2人、先輩が1人だったんですけど、この部屋も仲良くなれました。
――大学とプロの違いっていうのは実感しましたか
ワセダは常にガンガン積極的に行くタイプなんですけど、こっちは臨機応変に対応していきますし、コンビネーションプレーが長崎には多いので、いまはそういったところに苦労しています。頭を使うことが多いですね。
――V・ファーレン長崎のサッカーはどういったスタイルですか
守備のときは前からプレッシャーを掛けて、奪ったら縦に早く。やっていることはワセダと似ているんですけど、その中でも攻撃のバリエーションっていうのが豊富でそこでも頭をつかうことが多いです。
――練習面でも、ワセダにはなかったタッチ制限の練習に苦労していると聞きましたが
ワセダでは練習はフルタッチだったんですけど、こっちは1タッチ2タッチの練習が多いので苦労しています。自分がやりたいプレーをやりたいときにできない制限があるので、いままでやってきたトレーニングとは全く違って大変です。
――そういった場面でもやはり頭をつかうことが多いということでしょうか
そういう判断力っていうのはこれから付いていくと思うんですけど、いまは全然足りていないです。
「喜びよりも苦しみのほうが多かった」
ケガを乗り越えチームに欠かせないストライカーへと成長した
――やはりみなさん上形選手に対して『早慶戦』のイメージを持っていると思うのですが、上形選手にとって早慶戦とはどういったものでしたか
まだプロで試合していないから分からないんですけど、あれだけ同じ大学生が1つになって応援してくれるっていうのは日本のどこにもない試合だと思うので、あのピッチで戦えたっていうのは幸せです。
――ア式蹴球部を卒業して数ヵ月経ちましたが、いまのお気持ちはいかがですか
ア式で学んだピッチ外での人間性の部分は社会に出てからも大事だなと改めて感じました。ピッチ内では、球際戦うだったり切り替えの部分だったりはプロの世界でも通用する部分があるので、ア式でやっていたことは間違っていないなとは思います。
――入部を決めたのはいつごろですか
高校に入学した時からずっとア式を視野に入れていました
――早実へ入学を決めた時点でア式蹴球部を意識していたということでしょうか
そうですね。やっぱり意識はしていました。
――プロ入りを強く意識したのはいつごろからでしょうか
中学校でFC東京の下部組織に入って、週末にチームで味スタに試合を見に行くことが多かったんですけど、それを見に行くたびに毎回「自分もここでやりたいな」という気持ちにさせられていました。
――4年間で成長できたと思う点はどういったところでしょうか
最後までファイトするハングリーさっていうのは付いたし、自分の売りにしている動き出しの部分も大学に入って自分なりに考えながらやって成長したところだと思うので、その2つですね。
――以前ワセダで行われた会見の際に、古賀聡監督(平4教卒=東京・早実)が上形選手はフィニッシュを決め切る力が4年間で格段に伸びたとお話されていましたが、この点についてはいかがですか
ゴール前での落ち着きであったりは昔からあったんですけど、大学に進んでからスピード感も増して自分のプレースピードだと通用しないこともありました。そんな中シュートのタイミングをずらしてみたりと試行錯誤した結果、そうやって伸びたっていうのもありますし、練習後にシュート練習を毎日欠かさずやっていたのでその成果が出たのかなとも思います。
――試行錯誤していたということですが、4年間で一番悩んでいた時期やカベにぶつかった時期はありましたか
毎年ですね。1年生のときはずっとBチームにいて、2年目の春の合宿でたまたまトップチームの紅白戦に出る機会があって、そこで得点を決めたことでみんなから信頼を得られてAチームに徐々に定着し始めたんですけど、後期にはFWの競争に負けて全日本大学選手権(インカレ)のサブにも入れませんでした。3年目も前期は試合に出ていましたけど、夏の終わりにケガをしてそこから一試合も出ていないですし、4年目も後期は途中出場になってしまい、1年間を通して納得できた1年っていうのは振り返ってもなかったのかなと思います。
――そうした経験を経て、プロから声が掛かったときはどんなお気持ちでしたか
正直なところ、3年生の夏にケガして後期は全く試合に出ていなくて、3年生の後期ってスカウトの方もたくさん見に来られる時期なんですよね。だから自分の中でも(プロ入りは)無理なのかなっていう気持ちになりました。ただ、手術して入院して友達や家族がお見舞いに来てくれた時に、自分がプロに行く前提というか、プロに行くのが当たり前のように接してくれて、結局一番迷っていたのは自分なんだなと思いました。周りのおかげで自分はプロを目指すべきなんだなと気づかされました。
――では、3年生のその時期が自身を変えるきっかけになったということでしょうか
そうですね、ターニングポイントだったと思います。一回サッカーから離れて考えたことが大きかったですね。
――最後に、ア式蹴球部での4年間を振り返っていかがですか
喜びよりも苦しみのほうが多かったんじゃないかなと。振り返っても悔しい思い出しか浮かんでこなくて、一瞬の喜びを味わうためには倍以上の苦しい思いをしなくてはいけないんだと痛感させられました。
「まずは最初の1点にこだわっていきます」
シュート練習を一本一本丁寧にこなす上形
――シーズン開幕まで2週間を切って、いまのチームの雰囲気などはいかがですか
新加入選手が多くて最初はお互いに探っていた感じだったんですけど、最近はみんな仲良く雰囲気良くやれています。
――いまの自身のお気持ちはいかがですか
リーグ戦は全部で42試合あるのでその中で少しでも多くの試合に出て、最初は5分だけの出場になると思うのですが与えられた時間で少しでも結果を残して、そこで信頼を勝ち取っていくしかないのかなと思います。
――先ほど少しだけフォーメンションの話がありましたが、これからスタメン争いをするのはやはりワントップのポジションですか
そうですね、ワントップにはイ・ヨンジェ選手っていう韓国の年代別代表の選手がいるんですが、同じFWとして本当にすごいと感じています。能力が高いというか、早いし強いし巧さもあって推進力もあって、シュートもうまくて自分も同じFWとしてお手本となる選手なので、いまは背中を追う立場です。
――ではシャドーを務めることはないのでしょうか
あまりないですね、基本はトップです。
――トレーニングマッチにも出場されているということで手応えはいかがですか
まだ少し迷ってしまうところがありました。自分の強みを出せたときはやれるんですけど、それが出せない時、動き出せるポジショニングに間に合っていないことが多いですね。チームの求めていることをやりつつ自分のプレーを発揮しないといけないと思うので、まずはチームが求めていることをしっかりとつかんでいきたいと思います。
――そのチームが求めることっていうのはどう考えていますか
FW前線三枚のコンビネーションであったりが求められて、自分一人のプレーをやるだけではなく周りとの兼ね合いの中で自分の色を出さないといけないので、コンビネーションっていうのにはもっと気を遣わないといけないのかなと思います。
――そのコンビネーションという部分で、シャドーを務める佐藤洸一選手や東浩史選手などと連携していくことになると思いますが、連携面ではいかがですか
試合中や試合後に話をしたり、在籍が長い選手はこのチームをよく知っているのでそういう選手には話を聞いたりしています。MF石神直哉選手とかにもよく話を聞いたりしてますね。
――高木監督が目指すサッカーというのはどういったものですか
縦に早く、それとハードワークとトランジション、あとは人数を少しでも増やしてアドバンテージを得ること。結局はどれもハードワークにつながるので、それはプロでも大学でも一緒なのかなと思います。
――開幕戦の相手はジェフユナイテッド千葉ですが、印象はありますか
個々の能力が高くて良いチームだし強いなっていう印象ですね。
――サポーターの方と交流する機会はありましたか
練習後にサインや写真を求められることがありますね。ありがたいです。
――チームの目標と個人の目標をお願いします
チームの目標としては、勝ち点80を取ってJ1昇格です。自分自身は、まずは出場してたくさん得点を取りたいですね。明確な数字は決まっていないんですけど、まずは最初の1点にこだわっていきます。
――最後にこれからへの意気込みをお願いします
まだ1年目なので分からないことも多いんですけど、自分が夢にしていた舞台なので後悔することなく一日一日頑張って少しでも早く試合に出て得点を取って、V・ファーレン長崎の勝利に貢献できるように。そしてワセダとしてその名に恥じないようなプレーをして、ワセダを背負って戦っていきたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 佐藤凌輔)
今季の目標を色紙に書いていただきました
◆上形洋介(かみがた・ようすけ)
1992年(平4)9月25日生まれ。180センチ、76キロ。東京・早実高出身。スポーツ科学部4年。これまで実家を出たことが無かった上形選手。一人暮らしをするのは今回が初めてだそうです。ただ、意外と苦労することが無く長崎での暮らしを満喫しているようでした!