ア式の副将・MF成定真生也 早慶クラシコを前に抱く思い

ア式蹴球男子

 今週末に控える第75回早慶サッカー定期戦。通称早慶クラシコ。今年はア式蹴球部(ア式)が創部100周年を迎え、大会自体も11年ぶりに国立競技場で開催される節目の年となる。そんな一戦に向け、一人静かに闘志を燃やす男がいた。今季、ア式の副将を務めるMF成定真生也(スポ4=神奈川・日大藤沢)だ。1年時から運営に携わっており、学生主体でつくり上げる早慶クラシコの素晴らしさを知っている成定。一方で、昨年はベンチ入りをしながらも出場ができず、ピッチレベルから見る光景とピッチに立てない悔しさも味わった。選手、運営という両面から早慶クラシコを見てきたからこそ、大学最終年の大一番に向け熱い思いを抱く成定に迫った。

今年のアミノバイタルカップの明大戦でゴールを決め喜ぶ成定

 シーズン開始前、MF伊勢航主将(社4=ガンバ大阪ユース)を支える存在として、FW駒沢直哉(スポ4=ツエーゲン金沢U18)と共に、伝統あるア式の副将となった成定。「プレーで引っ張っていく駒沢に対する、もう一人の副将の役割で自分の性格や特徴が適しているなと思った」と、背中で語る駒沢、言葉や人となりでチームを支える成定という関係性からの副将就任だった。加えて、副将として成定が自分自身の強みと語るのが、チームのバランスを見た発言ができるところ。「大きな声を出すというよりは、チームに対して必要な声を出すこと。厳しい基準で求める声が増えていく時は、プレーしづらくなる部分もあると思うので、プラスの面を見ることなどバランスを取るところを意識している」と、チームを客観視しすることで、その時に応じた声かけを心掛け、成定なりの副将を全うしているのだ。

2年時のリーグ戦最終節拓大戦でプレーする成定

 そんな成定は、2年時の部員ブログであることをつづっている。タイトルは『二兎を追う』。「ア式ではピッチ外の取り組みにも力を入れている」という書き出しから始まるブログには、成定なりの葛藤が記されていた。1年時から縁あって早慶クラシコに協賛してくださる企業の対応を任されるようになり、運営に深く参画するようになった成定。それ以外にも、サッカー以外の多くの雑務も積極的に行っていた。「最初は自分自身がサッカーで活躍できなかったからこそ、チームのために何かできないかと思って、ピッチ外の活動に力を入れるようになった。それから自分はこういう役割だと思ってしまった部分があった」と、ピッチ外の活動に自分の役割、存在意義を見出すようになっていた。

 しかし、そんな考えも徐々に一転していく。2年時の7月、MF植村洋斗(令6スポ卒=現ジュビロ磐田)のプロ内定が発表された。1年の浪人を経てア式に入部した成定にとって、ア式で1学年上の植村は日大藤沢高時代の同期。入部後は寮の同部屋でもあった仲間が、プロという上のステージに進んだことで、サッカー面でア式に入ってから何も残せていない自分に猛烈な劣等感を抱いたのだ。ピッチ外の活動がア式の強みであることは間違いない。そこに自分自身が力を入れるのも重要なことである。ただ、そこには選手として結果を残すことが先立ってくるのではないのか。「自分がもっと一人の選手として、ピッチ内で活躍することにもフォーカスしたい」と考えるようになったのだ。加えて、2年時のリーグ戦最終節。成定にとってア式での公式戦デビューとなった試合前に、当時の外池大亮監督(平9社卒)から「ピッチ外に取り組んでいるお前がピッチで表すものは光るものがある」という言葉をかけられた。サッカーで結果を出せないことから逃げてはいけない。プレーでも自分が貢献していく。ピッチ内外どちらにも打ち込み相乗効果を起こす。ピッチ内のプレーと、ピッチ外の活動の「二兎を追う」ことを決意したのだ。

3年時のアミノバイタルカップ日大戦でプレーする成定

   すると成定は、3年時の6月からトップチームでコンスタントに試合の出場機会を得始める。リーグ戦では初ゴールを決め、アミノバイタルカップや総理大臣杯といったトーナメントでもチームの主力としてピッチに立っていた。「トップチームのスピード感に順応できたことがまず一番最初の変化で、自分の中でできることもあるんだと、少しずつ自信もついてきた」。トップ下として起用されることが多い中、自身の強みである運動量や献身性、ポジショニングのうまさを発揮し、味方を楽にできる自分の特徴を最大限に生かした成定にしかできないトップ下を確立していた。そしてピッチ外では、今までの取り組みに加え、3年時からア式蹴球部創部100周年記念プロジェクトの一員にもなった成定。昨年誕生したア式蹴球部公式アプリの運営に携わり、その活躍の域を広げる。まさにピッチ内、ピッチ外の二兎を追う者としての姿を見せていた。

   来たる早慶クラシコ。1年時から協賛企業の方との窓口となるなど、学生主体で行われる早慶クラシコの運営面を知る成定だからこそ、「本当に多くの部員が関わって、細かいやり取りや準備を提案してつくり上げています。全部に学生が何かしら関わってやっているんだと、大きな出し物から小さい出し物まで全てを見ていただきたい」と語る。でもそれだけではない。「早稲田が勝って終わるために、選手として貢献をしたい」と、自身のプレーを、ピッチで躍動する姿を大舞台で見せたいという熱い思いも秘めている。「早慶クラシコは一部その運営に関わらせてもらいながら出場できる可能性がある。人生という意味でも貴重な経験ができる場だと思います。早稲田の一部員として、歴史に名を残すは少し言い過ぎかもしれないけど、自分の大学生活の中でも宝になるような大会にしたい」。ピッチ内外の両方を追い求めてきた成定が、大学最後の早慶クラシコ、決戦の地・国立にその名を轟かせてくれるだろう。

(記事   髙田凜太郎)

早慶クラシコへの意気込みを書いていただきました!

◆成定真生也(なりさだ・まきや) 
2001(平13)年12月26日生まれ。170センチ。58キロ。神奈川・日大藤沢高出身。スポーツ科学部4年。成定選手の早慶クラシコの注目選手は駒沢直哉選手(スポ4=ツエーゲン金沢U18)。ア式のエースストライカーとしてゴールを決める姿に加え、日頃からチームのために熱い思いをぶつける駒沢選手が大舞台で輝く姿を見たいそうです!