【後編】「夢はJクラブのホペイロ」。ア式蹴球部マネジャー髙見真史が描く夢への道筋とは

ア式蹴球男子

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交代した選手に水を渡す髙見

 「質の高い準備をしっかり時間をかけて行うこと」。「取り返しのつかないミスが出た段階で僕の仕事は終わり」。これは髙見にア式での活動の上で重視していることを尋ねた際に、返ってきた言葉だ。ア式に入部してから、Jの2クラブに足を運び、実際にホペイロの業務を体験した髙見。その中で一人一人の「プロフェッショナルさ」を肌で感じてきた。「洗濯物のたたみ方一つ取っても、グチャっとするのかきちっと置くのかで全然違いますし、タオルとかも、チームに提供しているメーカーのロゴの線がきれいに並んで見えるようにする。業務量が多い中でも、いかに効率的に確実に質の高い作業をこなしていくのかをすごく感じた」とホペイロで働く最前線の基準を目の当たりにし、自分の中の意識をさらに高めていく必要性を実感した。何か欠けたら試合が成立しなくなるかもしれないという責任感を持ち、質の高い準備を当たり前のように行うのは、プロのホペイロになるために必要な素質であり、髙見が最も意識していることなのだ。

髙見が準備をする用具類(ご本人提供)

 そして、ホペイロとして髙見が重視するもう一つの要素。それは「人柄と気遣い」だ。これは髙見が直接言葉にしていたわけではなく、取材時や日頃の髙見との会話を通じて、あくまでも筆者自身が感じ取ったものである。ホペイロというのは、実際に選手の商売道具を預かる必要がある以上、「この人になら預けても大丈夫だ」という印象を抱かれなければならない。つまりは、そこには信頼関係が必要不可欠なのだ。実際にプロの現場で髙見は、プロのホペイロの方々が当たり前のように気遣いができる姿も目の当たりにしていた。そんな中、髙見は常日頃から選手を気に掛け、練習中、試合前後関係なく、笑顔で明るく接し、選手も髙見の声掛けに対して、笑顔で応じている。また、選手だけではなく、試合会場に足を運んでくれた観客の一人一人にも笑顔であいさつをし、取材に来た我々にも必ず飲み物の差し入れをくれる。選手が今何をして欲しいのかいち早く察知するプロのホペイロの方と比べるとまだまだ全然及ばないという髙見だが、こうした何気ない人柄や気遣いが、選手や周囲との信頼関係を生み、自然と「選手から信頼されるホペイロ」になるための髙見の活動を後押ししているのだ。

 そんな髙見がア式に入部し、大学サッカー界に足を踏み入れたことで、抱くようになった野望が一つある。それは、一昨年の髙見の部員ブログのテーマでもあった「大学サッカー界の選手に対するサポートのカルチャーを変えたい」というものだ。「もちろんプロではなく育成年代なので、全部が正しいことではないですし、全部をやってあげることがいいわけではないけど、その中でも質を上げることはできると思っています。自分がプロフェッショナルな仕事をして結果を残すことで、もっと大学サッカー全体で現場のマネージャーの価値を高めていけると思います」。高校まではマネジャーという立場で部活動に所属していても、大学の体育会系の部活に所属する選択を取る人は限られており、やはり大学サッカー界全体でスタッフの人手不足という現状は否めない。昨年も、審判員ではあるが、スタッフの不足のため勝ち点を没収されるという重い処分が下されたケースもあった。そんな中で、一つは大学サッカーへの接点を持ってもらうため、また、一つは他校との情報交換を増やし少しでも有益な情報が共有されやすくするため、そしてさらには、将来Jクラブで働きたい人の選択肢として、大学サッカーに携わるという道を生み出していくため、大学サッカー全体の選手をサポートする体制を拡充していきたいと考えるのが今の髙見なのだ。そのためにも、髙見自身がア式の部員ブログに影響されア式に入部したように、自分自身から様々な媒体を用いて発信することを心掛けている。発信が滞るなどまだまだ至らない点もあるというが、大学の残り2年間でサポート体制を拡充するために何ができるのか日々模索している最中だ。

髙見が磨いたスパイク(ご本人提供)

 自身の将来に対し、「もし今後、Jクラブで働かせてもらえることになったら、そのクラブでずっと長く、死ぬまで働いていきたい。それまでやれるってことは、毎年チームに必要とされるということだから、そこを目指していきたいです」と考えている髙見。たまたま観戦したサッカーの試合で「ホペイロ」という職業に運命的に出会い、そのために人生の全てを捧げてきた。その中で「プロのホペイロになる」。この決意は今まで一度も揺らいだことはない。そして、その根底には「自分が本当にサッカーに夢を与えてもらってきたし、サッカーにいろんなことを教えてもらってきた。だからこそ、子供たちに夢や希望を与えてくれる場所で輝く選手たちを支えられたら」という思いもまた存在する。大学生活も残り2年。プロのホペイロになるための最後の準備期間として、まずはア式の選手たちが輝けるよう、一つ一つの作業に自分の魂を込めながら、髙見は今日もスパイクを磨き続けていく。

(記事・写真 髙田凜太郎 写真 ご本人提供)

◆髙見真史(たかみ・まさふみ)

2003(平15)年8月5日生まれ。埼玉・栄東高出身。人間科学部3年。ア式蹴球部マネジャー。

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