対談の最終回にはノルディック複合競技の山本涼太主将(スポ4=長野・飯山)が登場する。去年のインカレでは見事優勝を果たした山本。今年は全日本メンバーとして合宿は遠征などで世界を転々とする日々が続いている。日本にいることが少ない中で、どのようにしてノルディック複合競技を、そして早大スキー部を引っ張ってきたのだろうか。その知られざる苦悩に迫る。
※この取材は11月1日に行われたものです。また、当時は未定でしたが、山本選手はW杯に出場するためインカレには出場しません。ご了承ください。
「みんなが納得して練習を」
昨季のインカレでは悲願の初優勝を果たした
――今年のチームはどのようなカラーを持ったチームですか
テーマ的な感じですか?
――テーマでも大丈夫です
早稲田大学スキー部の目標として(インカレでの)男女アベック総合優勝というのがあります。そこに向けてどうやって目標を立てていくかって考えた時に、僕らのスキー部がアルペンと複合とクロスカントリーとあったのですが、フリースタイル部門というのを今年新たに設けました。フリースタイル部門というのがモーグルとかエアリアルとかなのですが、昨年も2名ほどいたのですが、今年は4人か3人入ってきていて。それ(フリースタイル部門)がインカレ種目にないので、早稲田大学スキー部のスローガンをどうするかっていうのを4年生と話し合って決めた時に、団体戦はありますけどチームスポーツではない競技で、『トップを獲る』というのが(4年生の中で)一致していました。その目標に対して、じゃあスキー部の全体のスローガンとして何が適切かと考えて。僕らのスキー部の目標であるインカレでの男女アベック優勝と、フリースタイル部門で言えば個々の目標が、チーム一丸となって達成されるようなスローガンになるんじゃないかということで、今年は『頂』というスローガンにしました。今まではインカレに向けてスローガンを掲げていて、個々の目標達成のスローガンではなかったかなと思っていたので、今年フリースタイル部門というのができて、変えられたというか、周りから見たら変わっただけなのかもしれないですけど、僕らからみたら大きな一歩だと思います。
――スローガンの『頂』は山本さんが考えたのでしょうか
僕ではないです。スローガンっていうのは決めなきゃいけないという部分と、なくてはならないという部分があって、決める部分に関しては色々な案が出てくると思うのですが、その中で何が適切かというのを考えた時に、それになったので。誰がっていうのは覚えていないですね。
――主将に選ばれた理由をご自身ではどのように捉えていますか
どうなんですかね。昨年の卒業生と監督さんが選出して、それがほぼ確定で決まっていくようなかたちなので、言われた通りの役職が次の代(の役職)となっていくのですが。まとめるのはあまり得意ではないのですが、みんながいい方向に向けたらいいんじゃないかなという考えは元からありました。まとめる力が主将としては必要なんだろうけど、競技がいっぱいあるので難しいとは思います。適任かと言われたらそうではないのですが、その中で選ばれたというのは何か意味があるのかなと思ったんですけど、あまり深くは考えていないですね(笑)
――実際に主将になってみて難しいところはありますか
やはりまとめるのが1番難しかったと思っています。責任という言葉が適切だと思うんですけど、責任を誰がとるかというのが、多分主将が1番上にいるので僕がとらなきゃいけない。今はいろいろな問題がすぐ浮き彫りになってくる時代なので、そういうところも制御しなきゃいけない。競技成績も上げていかなきゃいけない。僕の下に副主将がいて、さらに下に各部門のチーフがいるんですけど、そこにどうやって情報を下ろしていって、どうやって競技成績に繋げていくかというのが1番難しかったと思います。
――練習面でもそのような上意下達制を導入しているのですか
僕が決めてる訳ではないんですけど。例えば僕らのノルディック複合競技は僕らが決めています。アルペンの種目であればチーフが決めていますし、クロカンであれば藤田コーチ(善也助監督、平成19スポ卒=北海道・旭川大高)がいるので、その方が決めています。フリースタイル部門は今年はアルペンと一緒にやっています。
――去年の対談では「自分達の代になったら合宿を減らしたい」との話がありましたが、今年の練習メニューはどうされていますか
お金が掛かる競技なので、もちろん(合宿に)行ける時には必ず行くようにしたのですが、それが全てじゃないというか。合宿をしているから強くなるかというと、絶対にそうではないと思っています。僕らのコンバインドチームが全日本指定選手が全員(3人)で、トップレベルの知識はあるので、その知識の中で必要(な練習)か必要じゃないかを分けています。合宿もその中に入ってくるのですが、そういうのを傳田(英郁、スポ4=長野・飯山)と2人で話し合った上で決めてた感じです。
――つまり、合宿は減ったということですか
方針は変えてるんですけど、結果的に増えてるかもしれないです。
――必要か必要じゃないかを考えたらそうなったということでしょうか
全員が納得した上で必要な合宿を組んだという感じなので、上の人たちが決めて、『あとはこうしましょう』みたいなのを下ろすだけじゃなくて、『こうするけどどうする?』という風にしたので、方針は変えましたね。ただ、(合宿の数は)結果的に多かったかもしれないですね。
――全員が全日本のメンバーだったことや、ノルディックコンバインド部門の人数が3人だったことも意思疎通を簡単にした要因でしょうか
僕はそうは考えてなくて。個人的にはみんなが納得して練習するっていうのがすごく重要だと思っています。やはり授業とかがあるので社会人の選手とかと比べると圧倒的にトレーニング量が少ないので、質の高い練習をしなくてはいけないと思うのですが、その中で例えば『合宿が多くてやだ』と考え始めたらその合宿の意味がなくなってしまうと思っていて。僕らは3人ですけど、10人だろうと20人だろうと、みんなが納得していないのであれば、納得していない選手を残すとか、そういう方針をしていきたいと思っていたので、結果3人(が納得していた状況)だったから(合宿に全員で)いけたという感じですね。
――具体的な練習はどのようなことを行っていますか
ノルディックは基本的に個人練習なので。個人的に考えてた部分はありますけど、それがチームとして反映されているかは分からないです。
――個人的に考えていた練習とは
クロスカントリーに関してはまだ正解がよくわかってないので、全日本で言われた通りのメニューでやっています。今年はとにかく量を増やす。速いスピードに慣れさせるために、長い時間に耐えられる身体を作っています。いつもだとインターバルみたいなトレーニングがあるのですが、それが例えば5分×3回のトレーニングだとすると、(今年は)それを全部1個にまとめて15分を4回やるようにしています。そしたら60分じゃないですか。(練習が)60分でも試合は30分なので、練習よりも速いスピードが出せるという。そういう方針だったので、(正解がよくわからない現状)だったらそれをやっていくべきなんじゃないかと思っています。ジャンプに関しては結構(練習方針が)分かれていて。本数を多くとる方と少なくとる方というのがあるんですけど。僕はあまり集中できる方ではないので、今年は本当に本数を少なくしています。大体(通常は)6~8本くらい飛ぶんですけど、例えばですけど3本とか4本とかにしています。試合は2本なので、練習でも極力2本くらいにしようとはしています。それがいいかどうかはわからないのですが。8月にサマーグランプリに出たのですが、その前後もずっとジャンプが10番以内に入っていて、ほぼトップを狙えるような状態になったので、それは収穫かなと思います。集中できるところでやるっていうのが、さっきも言った質の高い練習に繋がっているんじゃないかなと思います。
――練習で飛ぶ本数を限りなく少なくしたのは、少ない本数で結果を残すためでしょうか
いや、そういうことではなくて。結局大会って、『こうしよう、ああしよう』って考えてたらダメだと思うんですよ。僕らの競技のジャンプは10秒で終わっちゃうような競技で、1番重要な部分が5秒~6秒くらいで終わってしまいます。その中で考えるって、結構難しいことだと思っていて。クロスカントリーもそうですけど、僕は何も考えずに勝手に身体が動くような体づくりをしています。例えば夕飯のことを考えながらいいジャンプが出る、っていうのが僕はベストだと考えていて。そうした時に本数を重ねていくと『こうしよう』『ああしよう』が増えていくと思うんですよ。それをなくすために本数を減らしているという感じです。どうしたって緊張はすると思うんですよ。その緊張っていうのが練習と全く違うと思っていて。でも、練習の時に何も考えていない状態で試合に臨むと、緊張はしてますけど、競技的な、技術的なことは何も考えてないので、ベストは出せると思います。僕は昔から考えるタイプだったんですよね。考えて考えて飛んできて、最後わからなくなる。それが緊張のせいだったんですよ。緊張があっても、試合の雰囲気によっても、変わらないジャンプができる。これが僕の理想ですね。
――去年のインカレを振り返ってみていかがですか
あんまりジャンプがうまくいかなかったので、後半ちょっと苦しくなるかなと思っていました。僕は体重が軽い方で、筋力的には他の選手よりも劣っている方なのですが、グシャグシャだったじゃないですか。雪が。埋まるような。あのような雪って、体重軽くて筋力が少ない選手がすごい不利なんですよ。だからすごく考えてはいたんですけど、まあそうなるだろうなという展開になったので(笑)。でも4週目くらいで(傳田が)追いついてくれたので、あと1周頑張ればなんとかなるかなと思ってました。狙ったレースと言えば狙ったレースでしたね。理想を言えば、もっと筋力があって自分で1人でゴールできるのがベストだったなと思っています。
――昨シーズンはどのようなシーズンでしたか
どうですかね。
――去年の対談で『W杯に残り続ける』という目標を語っていましたが
目標は達成しました。目標は達成したのですが、ちょっと(力の差に)歴然としたというか、焦ったというか。というのも、W杯に上がって、自分の力が、まあ100パーセントは出せないとしても8割くらいは出せた時に、自分の順位が21番とかそういった順位で終わってしまって。自分は結構戦えると思っていて、10番以内には入れると思っていたんですよ。それが全然違って。W杯のクロスカントリーにおける速さを感じました。コンチネンタルカップっていうW杯の1個下のグループがあるんですけど、そこの速さとは全く別のもので、さらに言うとそのコンチネンタルカップと日本のレベルっていうのも全然違うって感じで。それぞれ走り方が違うんですよね。自分が戦って行かなきゃいけない舞台は、そんなに甘いものじゃないんだなというのは感じました。シーズン的なものを見ると、まだまだ足りなかったなと思います。
――ジャンプで1位を出したこともありましたが、それでも満足はしていないのでしょうか
そうですね。あの日は自分が思った通りに体が動かなかったので。『もっと行けただろ』って感じです。でも僕の性格的なものがそのような感じなので、悪いときは『このくらいでいいんじゃないか』って思うし、いいときは『もっと行けたんじゃないか』って思っちゃうんで。皆さんが『すごいだろ』って思っているのを認めたくないというか、もっと行けるんじゃないかと思ってしまう場面があるんですけど。ただ、あの日に関してはあまりいいジャンプではなかったですね。ただ単純に運がよかったっていう風に受け止めています。
――やはり課題はクロカンなのでしょうか
クロスカントリーに関しては本当に、去年そんな1年じゃ変わらないと思い知らされた部分があって。持久力っていうのは変わらないと思うので、技術的なもので何とかしようとしてましたけど。やっぱり単純に速いなと思います。時間はかかるかなと。
――世界との違いは技術力というよりも持久力にあるということでしょうか
何が足りないのかっていうのがちょっとまだわかってないのが現状です。何が正しいのかもわからないですし。ただその中でも、全日本の1番トップのチームで活動していて、メダリストのいるようなチームにいるので、まあいろいろ聞いたりはしていますけど…。まあ何言ってるかわからないじゃないですか(笑)。トップの人たちなので。わかる範囲で自分なりに解釈していくっていうのが今やっていることですね。1年で速くなるっていうのは考えづらいと思うんですよ。数年後に向けて、今何をしなければならないのかっていうのを考えながらやっている段階なので。今すぐ速くなろうとは思ってはないですね。
「オリンピックで金メダルを取りたい」
インカレの注目選手を語る山本
――これまでの調子はいかがですか
全体的に通してみれば、悪くはないと思います。ただ、良いとも言い切れなくて。今年に限って言うと、グランプリに関してはいいジャンプが1本も出ていなくて。それの前後、例えば練習のジャンプとかは良いジャンプが出ているので、緊張の弱さというか、そういうのが浮き彫りになっていると思います。まだちょっと考えながら飛んでいんじゃないかというのも感じています。ジャンプに関してはそんな感じです。クロスカントリーに関しては、勉強中です(笑)。トップでスタートできるってことは、僕を抜いた人の中から優勝者が出るということじゃないですか。レベルの高い選手に抜かれていく訳なのですが、それについていくというのがすべて勉強なので、まずはジャンプでいい位置につける。で、そこからクロスカントリーで学ぶ、っていうのを今やっている途中です。
――今年一番標準を置いている大会はありますか
この答え方がいいかどうかわからないですけど、今年僕(どの大会にも)標準を置いていないです。すべてにおいてベストを尽くすというのが大事だと思うんですよね。何に賭けるかっていうのは、たとえオリンピックだろうと、賭けてしまったら力が入ってしまうと思っているので。標準は置いていないというのが僕の答えになりますね。
――早稲田で過ごした四年間を振り返ってみていかがですか
そうですね。どうですかね。
――早稲田にはいって良かったと思う点はありますか
大学生になって、自分で自分の授業を選択するわけじゃないですか。もちろん取りたくない授業もあるじゃないですか(笑)。その中で、高校生では習わないような全然よくわからない授業をとっていくわけじゃないですか。新たな分野に足を踏み入れた時に、自分の考えが少しずつ変わっていく、という実感があったので、高校に上がるときに早稲田大学に入るっていう段階をもっと前戻しして、スキーで就職をするか、大学でスキーをするかというような選択もあったと思うのですが、僕は大学を選んでよかったなと思っていて。というのがその社会に出た時の基盤づくりをここでできているなという実感があったので。いろんな先生、いろんな生徒、同期とか、スキー部とかに話を聞くと、やっぱりいろいろな思考があって、いろいろな考え方があって、自分にも取り入れられるものがあって。っていうのは社会に出たらあまりできないのかなと思っているので、すごい勉強になったというか『そういう生き方もあるのだな』というのが学べたので、大学に入ってよかったと思います。
――卒業後はどのような進路を考えていますか
まだ決まっていないのですが、スキーを続けたいと思っていますね。僕はがオリンピックでメダルを取りたい、金メダルを取りたいという目標があるので、そこに向けてスキーで就職ができる場所を探しているというような感じです。
――インカレには出れないことが濃厚ですが
出れなそうな雰囲気があります。というのもW杯チームが今6人確定で出れてて、コンチネンタルカップで総合3位に入ると1枠増えるんですよ。その期間が今年の12月数日までの期間、1人プラスで、7人で行けるんですけど。その次の遠征が6人なんですよ。だから漏れてしまえば(W杯に出られないため)インカレには出れます。ただ、漏れるということは、僕の競技成績が悪いということなので…。
――インカレに『出ないように頑張る』と
そうですね。あとは一戸さん(剛監督、平11人卒=青森・弘前工)がインカレの日程をずらすとか(笑)。そんな権力があるのかわからないですけど(笑)。もしそんなことがあるんだとしたら、出ます。
――インカレでの注目選手、いわゆるキーパーソンなどはいらっしゃいますか
インカレですか。難しい質問ですねそれ。また最後に難しい質問するじゃないですか(笑)(※筆者が昨年のインカレの試合の後にインタビューに伺った際、最後に『何か言いたいことはありますか?』という質問をして、山本選手を困らせたことを踏まえた発言)。だってあれですよ。注目選手がいないんですよ。世界大会に出ちゃって。その中でって言うと、女子で言えばアルペンの石島瑶子(スポ4=群馬・尾瀬)、おととし入賞している松本なのは(スポ3=北海道・札幌第一)。クロスカントリーで言うと酒井結衣(スポ4=北海道・富良野)。でも女子に関しては、他人ごとではあるのですが総合優勝できて当たり前かなと思っているので。ただ、このチームは人任せではないのですが、人任せっぽくなってしまう部分があるので『誰かが点を取ればいいや』って考えていると、絶対に総合優勝はできないとは思うんですけど。個々の目標を達成しようとしていけば、必ず女子の総合優勝はできると思います。男子に関しては、ほぼ主力メンバーがいないので(注目選手を挙げるのが難しい)。でも人数はそんなにいないわけじゃなくて、例えば東海(大学)とかであれば、コンバインド選手が数名いる中で、それほどポイントをとっていない状態で優勝したりもしているので。他が強ければいいっていう話じゃないですけど。早稲田大学に入るっていう部分ではいい選手がそろっている、と僕は勝手に思っているので、個々に(力を)出してもらえば、総合優勝は…。ぶっちゃけた話をすると、できないとは思います。ただ、食いついていくことはできると思うので。もしかしたらということにかけてやってもらわないと、次に生かせないかなと。
――そうすると、男子の注目選手は誰になってくるのでしょうか
いないです(笑)。
――いないで…。
ダメですね。注目選手だれか上げなきゃ。アルペンで言うと、副主将の中平(賢郷、スポ4=青森・東奥義塾)と。去年入賞した人誰でしたっけ?
――今颯人選手(スポ2=北海道・旭川明成)や中川慎選手(スポ3=北海道・札幌第一)などがいますね
慎。中川慎がトップです。で、中平、今。そして今年入賞すると言っている押切くん(凌、スポ4=北海道・札幌第一)。クロスカントリーは宮崎くん(遼周、スポ2=新潟・小出)と岡村くん(スポ3=長野・白馬)。ただ、リレーが組めないので個人競技で頑張ってもらう。
――インカレの目標順位はいくつでしょうか
極論は男女アベック総合優勝です。現実的な話をすると、女子は総合優勝。男子はせめて2番には入ってほしいなと思います。日大がやっぱり人数が多くてちょっと持ってかれそうな部分があって、そこにどうやって食いついていくかですね。男子は。あとはベストを尽くさないと勝てないと思うので、みんながベストを尽くしてくれればいけるかなとは思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 山田流之介)
インカレで戦うチームメイトを『信じ』ます
◆山本 涼太(やまもと・りょうた)
1997(平9)年5月13日生まれ。169センチ。長野・飯山高出身。スポーツ科学部4年。最近はトランプのマジックにハマっているという山本選手。人を驚かせることよりも「トリックを知るのが好き」ということで、技術を習得しても誰にも披露していないそうです。今季はW杯の出場を続けており、昨年の12月1日にフィンランドのルカで行われた個人第3戦では、自己最高となる9位と結果を残しました。世界を舞台に『アッと言わせる』活躍を見せています!