【連載】『平成29年度卒業記念特集』第68回 新井遥平/アイスホッケー

アイスホッケー

『家族』

 『家族』。新井遥平(スポ=北海道・駒大苫小牧)は、一年間を共に過ごし、戦い抜いたチームをそう表現する。主将としてプレー面でも、精神面でも、チームの中心であり続けた大黒柱の一年を振り返る。

 新井がアイスホッケーを始めたのは小学校一年生のとき。兄のプレーを見てあこがれていたのがきっかけだという。高校は全国高等学校選手権で最多30回の優勝を誇る名門・駒大苫小牧高に進学し、全国の舞台で3度の優勝を経験。そして、小学生のころからのあこがれである山田小太郎(平26社卒=現王子イーグルス)の影響もあり、早大の門を叩いた。入学後はすぐに第1セットで起用され、勝利への貢献を求められるプレッシャーの中で懸命にプレーを続ける。しかし、3年間で全日本学生選手権(インカレ)で頂点に立つことはかなわず、最終学年を迎えた。

『幸せ』な一年の最後、チームメイトに声をかける新井

  悲願のインカレ優勝を目標として始まった最後の一年。高麗大学との定期戦で5年ぶりに優勝杯を手にし、幸先のいいスタートを切る。しかし、新井が「おごりがあった」と振り返る4月の関東大学選手権では、日体大、慶大に連敗を喫し、チーム史上初めての7位転落の苦汁をなめた。大会終了後、新井は主将としての責任感から眠れない日々が続いたという。それでも、長年連勝を続けている早慶定期戦では慶大にリベンジを果たす。夏に行われた大学交流戦苫小牧大会でも4位に入るなど、本来の実力を発揮し始める。その裏には今年度からパク・グニョンコーチの加入があった。前夜には緊張から眠れないような厳しいトレーニングに加え、ウエイトコントロールを導入。体脂肪率15%を上回る選手には食事制限が課せれ、肉体強化に取り組んだ。新井はこの期間を振り返り、「4年間で一番きつい時期だった。4年間で一番変わったのは体型」と話す。ここでの取り組みが春から秋にかけての成長につながる。

 秋の関東大学リーグ戦(リーグ戦)は前年と同じ4位に終わるも8勝を挙げ、しっかりと勝ち越しを決める。最終戦では3位の東洋大を相手に完封勝利を収めるなど上位への爪あとも残した。春の悔しい経験も生き、「どのチーム相手でも油断することなく戦えた」というリーグ戦。ミーティングの回数を増やすなどの工夫も行い、インカレに向けてチームは上体を高めていった。

 インカレでは準々決勝で昨年と同じく明大に敗れ、ベスト8という結果に終わった。新井はこの明大戦が最も印象に残ったという。「ロッカールームでみんなが泣いていた。それほど本気で最後まで一緒に戦い抜いてくれたんだな、と。負けはしたけど、本当に幸せな時間でした」。もう一試合、「かけがえのない存在」である同期全員で出場した初戦の福岡大戦も新井の心に深く刻まれる思い出となった。「一瞬で終わってしまったけど、初めて味わう不思議な感覚でプレーをしていました。とても楽しい時間でした」。インカレ閉幕から約2週間、1月13日に行われた早慶定期戦で勝利し、新井のアイスホッケー人生は幕を閉じた。

 最後に新井は4年間、自分を支えてくれた人々への感謝を述べた。「親、友達、チームメイト。いままで一緒にプレーしたみんなのおかげでいまの僕があります」。親元を離れたからこそ感じる思いがたくさんあったという。そして、「ことしのチームは本当に大好きで、チームを離れるのがつらいです」とチームへの思いを語る。『家族』から巣立ち、羽ばたくまであとわずか。新井は早大の主将という「貴重な経験」を糧に、どのような運命を切り開いていくのだろうか。

(記事 佐々木一款、写真 川浪康太郎氏)